相続・手続き 2026-10-26
亡くなった親の年金の「最後の分」 ― 未支給年金は後払いの残り、受け取れるのは生計を同じくしていた家族、相続放棄しても請求できる
父が9月28日に亡くなり、10月15日の年金の振込が無かった。年金は偶数月に前の2か月分を後払いするので、亡くなった月までの分が「未支給年金」として残ります。請求できるのは生計を同じくしていた家族で、遺産ではないため相続放棄とも両立します。順番、添付書類、5年の期限、一時所得の計算、この家の35万円の内訳を書きます。
この記事の位置: 亡くなる前にできること → [亡くなってすぐ(3か月まで)] → 相続人と財産を確定する → 分け方を決める → 名義を変える・税金(10か月〜3年) → 相続した財産をどうするか → 状況別(当てはまる方だけ)
「父が9月の終わりに亡くなりました。84歳でした。通帳を見たら、10月15日の年金の振込がありません。年金事務所の案内には『未支給年金』と書いてあって、何のことか分からなくて」。相談に来たのは、お父さんと二人で暮らしていた50代の女性でした。お母さんは5年前に亡くなり、お兄さんは県外で家庭を持っています。もう一つの心配は、お父さんにカードローンの残りが300万円ほどあることで、相続を放棄するかどうかも考えていました。
まず、年金は後払いです。老齢年金は、偶数月の15日に、その前の2か月分がまとめて振り込まれます。10月15日に入るのは8月分と9月分、12月15日に入るのは10月分と11月分です(国民年金法18条。厚生年金も同じ仕組みです)。そして年金は、亡くなった月の分まで支給されます。9月28日に亡くなったお父さんには、9月分まで受け取る権利がありました。
ところが、8月分と9月分が振り込まれるはずの10月15日には、お父さんはもういません。このように、本人がもらうはずだったのに受け取らないまま亡くなった年金を「未支給年金」と呼びます。亡くなったあとに本人の口座へ振り込まれてしまった分も、未支給年金として扱われます(亡くなった月より後の月の分まで振り込まれたときは、もらいすぎなので返します)。
6月から11月までの6つの月の枠。6月・7月は8月15日に振り込まれて父の預金(遺産)になった。8月・9月は10月15日に支払われるはずだった分で、未支給年金35万円として、生計を同じくしていた娘が自分の名前で請求する。10月・11月は亡くなった後の月なので支給されない。
国民年金法18条(亡くなった月の分まで支給)・19条(未支給年金)。厚生年金も同じ仕組みです。
未支給年金を請求できるのは、亡くなった人と「生計を同じくしていた」家族です。順番は、配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹、それ以外の3親等内の親族(おい・めい、おじ・おばなど)で、先の順位の人がいれば、後の順位の人は受け取れません(国民年金法19条)。同じ順位の人が2人以上いれば、1人が代表して請求します。「生計を同じくしていた」は、同居して家計が一つだった場合のほか、別に住んでいても仕送りをしていた、といった事情で認められることがあります。住所が別だったときは、「生計同一関係に関する申立書」を出し、原則として第三者に証明してもらいます。
ここで大事なのは、未支給年金は遺産ではない、という点です。法律は、生計を同じくしていた家族が「自己の名で」請求できると書いています。亡くなった人の財産を相続人が引き継ぐのではなく、決められた家族が自分の権利として受け取るお金です。最高裁も1995年11月7日の判決で、未支給年金の請求権は相続の対象にならないと判断しています。だから遺産分割の話し合いで分けるものではなく、相続を放棄した人でも、生計を同じくしていた家族なら請求できます。
相続放棄を考えている人にとって、これは大きな違いです。遺産を受け取ったり使ったりすると、「単純承認」(相続を受け入れたこと)とみなされて、放棄できなくなるおそれがあります。相続放棄の記事に書いたとおりです。未支給年金は遺産ではないので、受け取っても、それだけで単純承認にはならないと考えられています。ただし、亡くなる前にお父さんの口座へ振り込まれていた年金は、もうお父さんの預金で、遺産です。そこから引き出して使うのは別の話なので、混ぜないようにします。
手続きは、年金事務所か街角の年金相談センターに「年金受給権者死亡届(報告書)兼 未支給年金・未支払給付金請求書」を出します。郵送や、e-Govからの電子申請もできます。添付するのは、亡くなった人の年金証書、続柄が分かる戸籍謄本(法定相続情報一覧図の写しでも可)、亡くなった人の住民票の除票と請求する人の世帯全員の住民票、受け取る口座の通帳の写しなどです。戸籍と住民票は、亡くなった日より後に取ったものが要ります。年金機構にマイナンバーが収録されている人は、死亡届そのものは原則として省略できますが、未支給年金の請求は別に要ります。
請求できる期間は5年です(国民年金法102条)。ただ、5年あるからと後回しにすると、戸籍を取り直したり、生計同一を証明してくれる人の記憶が薄れたりします。私は、葬儀のあと最初に役所へ行く日に、戸籍と住民票を「年金の分」も含めて多めに取っておくよう勧めています。法定相続情報一覧図を作っておけば、年金の請求にも、預金の解約にも使えます。
税金も確かめます。未支給年金は相続税の対象ではありません。受け取った人の「一時所得」として、所得税の対象になります。一時所得は、受け取った額から特別控除(最高50万円)を引き、残りの2分の1をほかの所得に足して税額を計算します。その年の一時所得がほかに無く、合計が50万円以下なら、税金はかからず、そのための確定申告も要りません。生命保険の満期金など、ほかの一時所得がある年は合算されます。一方、亡くなった人がその年に生前に受け取った年金は亡くなった人の所得なので、必要なら相続人が準確定申告をします。要るかどうかの見分け方は、準確定申告の記事に書きました。
この家の数字です。お父さんの年金は、老齢基礎年金と老齢厚生年金を合わせて年に210万円、2か月ごとに35万円でした。8月15日に振り込まれた6月分と7月分の35万円は、生きているうちに受け取ったので、口座の預金(遺産)です。8月分と9月分の35万円が、未支給年金です。請求できるのは、同居していた子である相談者です。お兄さんも子で同じ順位ですが、別に暮らしていて仕送りもしていなかったので、生計を同じくしていたとは言いにくい状態でした。相談者が自分の名前で請求し、自分の口座で受け取ります。
一時所得は、35万円−特別控除50万円で0円です。この年にほかの一時所得が無ければ、税金はかかりません。カードローンの300万円は、遺産の預金や家の価値と比べて、放棄するかどうかを決めます。放棄しても、この35万円は相談者が受け取れます。もしお父さんが10月10日に亡くなっていたら、10月分も加わって3か月分の52万5,000円です。一時所得は52万5,000円−50万円で2万5,000円、その2分の1の1万2,500円をほかの所得に足して税額を計算します。亡くなった日によって、残る額が変わります。
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 2か月ごとの年金 | 210万円÷12か月×2か月 | 35万円 |
| 未支給年金(8月分・9月分) | 17万5,000円×2か月 | 35万円 |
| 一時所得の特別控除 | 最高50万円 | −50万円 |
| 一時所得の金額 | 35万円−50万円(0円未満は0円) | 0円 |
| 参考:10月10日に亡くなった場合 | 17万5,000円×3か月 | 52万5,000円 |
| 参考:その場合の一時所得 | 52万5,000円−50万円 | 2万5,000円 |
| 参考:ほかの所得に足す額 | 2万5,000円×2分の1 | 1万2,500円 |
名前の似た遺族年金とは別のものです。遺族年金は、亡くなった人に生計を維持されていた配偶者や、18歳になった年度の末までの子などが、これから先に受け取る年金です。この家の相談者は50代の子なので、遺族年金の対象ではありません。未支給年金は「亡くなった人が受け取るはずだった最後の分」、遺族年金は「残された家族のこれからの分」です。遺族年金の基本の記事に、誰がいくら受け取るかをまとめています。
未支給年金は、後払いの年金の、最後の1回分か2回分です。受け取れるのは生計を同じくしていた家族で、遺産ではないので相続放棄とも両立します。亡くなった月を確かめ、通帳で最後の年金の振込日を見て、何か月分が残っているかを数えてみてください。それが、年金事務所の窓口で最初に話すことになります。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-26
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。
参考(公式)
この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-26 確認)。
- 日本年金機構「年金を受けている方が亡くなったとき」 ― 未支給年金は亡くなった月分までで受け取っていないもの(亡くなった後に振り込まれた分を含む)。生計を同じくしていた配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹・その他3親等内の親族の順。添付書類、マイナンバー収録時の死亡届の省略、受け取った人の一時所得
- e-Gov法令検索 国民年金法 ― 18条(亡くなった月の分まで支給、偶数月に前月までの分を支払う)、19条(未支給年金は生計を同じくしていた遺族が自己の名で請求)、102条(5年の時効)
- 国税庁 タックスアンサー No.1490「一時所得」 ― 総収入金額−支出した金額−特別控除額(最高50万円)。その2分の1をほかの所得と合計して税額を計算