相続・手続き 2026-10-01

準確定申告 ― 亡くなった人の所得税は4か月以内。要る家・要らない家と、医療費を払った日の分かれ目

亡くなった年の1月1日から亡くなった日までの所得は、相続人が4か月以内に申告します。これが準確定申告です。ただ、年金暮らしで他の所得が少ない人なら申告が要らないことも多い。入院費は「亡くなる前に払ったか、後に払ったか」で行き先が変わります。年金と家賃収入のあった父の数字で、要否と書類の行き先を整理します。

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この記事の位置: 亡くなる前にできること → [亡くなってすぐ(3か月まで)] → 相続人と財産を確定する → 分け方を決める → 名義を変える・税金(10か月〜3年) → 相続した財産をどうするか → 状況別(当てはまる方だけ)

「税務署から何も届かないんですが、父の税金は放っておいていいんでしょうか」。4月10日に78歳の父を亡くした長女の方が、年金の振込通知と、父が一部屋だけ貸していたアパートの家賃の通帳、病院の領収書を持って来ました。領収書は、3月に払った入院費58万円と、亡くなったあとに精算した21万円の二枚。相続人は母と長女の二人です。

人が亡くなると、その年の1月1日から亡くなった日までの所得について、相続人が所得税の申告をします。これが準確定申告です。期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内。この家なら4月10日に知ったので、翌日の4月11日から数えて、8月10日が期限です。期限の日が土日・祝日に当たれば、その翌日に延びます。数え方は期間の数え方の記事にまとめました。前の年の確定申告をしないまま、1月から3月15日までの間に亡くなった場合は、前の年の分も同じ期限で申告します。

申告書は、亡くなった人の住所地を管轄する税務署に出します。相続人が二人以上なら、全員の氏名と相続分を書いた「付表」を付けて連名で出すか、各自が別々に出します。納める税額や戻ってくる税額は、相続分で分けます。税務署から個別の案内が届くとは限らないので、要るかどうかは家族が判断します。

所得税が戻ってくるときは、相続人の代表者がまとめて受け取ることもできます。その場合は、ほかの相続人からの委任状を付けます。また、相続放棄をした人は、はじめから相続人でなかったことになるので、準確定申告をする人からも外れます。相続人が全員放棄した家では、準確定申告をする人がいなくなります。

まず、要らない家の目安です。公的年金の収入が年400万円以下で、年金以外の所得が20万円以下なら、生きている人と同じく確定申告は要りません。会社員が在職中に亡くなった場合は、勤務先が亡くなった時点で年末調整をするので、給与だけなら申告は要らないのが普通です。反対に、年金以外の所得が20万円を超える、事業や不動産の収入がある、亡くなる前に土地を売った、といった家は申告が要ります。所得税が戻ってきそうなときも、申告すれば受け取れます。

控除には分かれ目があります。医療費控除、社会保険料控除、生命保険料控除の対象は、亡くなった日までに本人が払った分だけです。亡くなったあとに家族が精算した入院費は、準確定申告では引けません。そのかわり、払われていなかった医療費は亡くなった人の借金と同じ扱いになり、相続税の計算では遺産から差し引けます。配偶者控除や扶養控除が使えるかどうかは、亡くなった日の状態で判定し、月割りにはしません。

入院費は、亡くなった日の前に払ったか後に払ったかで行き先が変わる
入院費は、亡くなった日の前に払ったか後に払ったかで行き先が変わる横に時間の線があり、真ん中に亡くなった日(4月10日)。その前に払った入院費58万円は準確定申告の医療費控除へ、その後に家族が払った21万円は相続税の計算で遺産から引く側(債務)へ矢印が向かう。右端に期限、翌日から数えて4か月の8月10日。 1月1日1月1日 亡くなった日 4月10日 期限 8月10日期限 8月10日 3月 入院費58万 死後 入院費21万 準確定申告の医療費控除準確定申告の医療費控除 相続税で遺産から引く(債務)相続税で遺産から引く(債務)

横に時間の線があり、真ん中に亡くなった日(4月10日)。その前に払った入院費58万円は準確定申告の医療費控除へ、その後に家族が払った21万円は相続税の計算で遺産から引く側(債務)へ矢印が向かう。右端に期限、翌日から数えて4か月の8月10日。

社会保険料・生命保険料も、亡くなった日までに本人が払った分だけが準確定申告の控除になります。

準確定申告の税金は、相続にもつながっています。準確定申告で納めた所得税は、相続税の計算で遺産から差し引けます。逆に戻ってきた所得税は、亡くなった人の財産として遺産に入ります。住民税は1月1日に住んでいた人にかかるので、亡くなった年度の住民税の残りは相続人が納めますが、翌年度の住民税はかかりません。

期限の順番で並べると、相続放棄の3か月、準確定申告の4か月、相続税の申告の10か月です。準確定申告で決まった所得税の額は、相続税の計算に入るので、4か月目の数字が10か月目の申告の材料になります。相続税がかかりそうな家では、準確定申告と相続税の申告を、同じ税理士に続けて頼むと、数字の受け渡しが一度で済みます。

この家の数字です。父の年金は年150万円で、偶数月に2か月分ずつ振り込まれます。1月1日から4月10日までに受け取ったのは、2月と4月の25万円ずつで計50万円。65歳以上の公的年金等控除は110万円なので、年金の所得は0円です。父の死亡月の4月分の年金12万5,000円は、あとから「未支給年金」として母が受け取りました。これは父の所得ではなく、受け取った母の一時所得になり、父の準確定申告には入りません。

家賃は月6万円で、1月から4月に受け取った24万円から、管理費と固定資産税など4か月分の経費9万円を引いて、不動産所得は15万円。年金の収入は400万円以下、年金以外の所得は20万円以下なので、申告は要らない側に入ります。仮に申告しても、所得は15万円で基礎控除の範囲に収まり、税額は0円。年金の通知書を見ると所得税の天引きもなかったので、申告しても戻るお金もありません。3月に払った入院費58万円は、申告すれば医療費控除の対象になりますが、税額が0円なので効き目はありませんでした。

この家のお金の行き先(2026年10月時点の制度)
お金金額行き先
年金(2月・4月の振込)50万円準確定申告の所得。公的年金等控除110万円の範囲で所得0円
家賃24万円 − 経費9万円15万円準確定申告の不動産所得(20万円以下なので申告不要の側)
3月に払った入院費58万円準確定申告の医療費控除(申告するなら)
亡くなったあとに払った入院費21万円準確定申告では引けない/相続税で遺産から引ける
4月分の未支給年金12万5,000円受け取った母の一時所得(父の申告には入らない)
準確定申告の所得の合計15万円基礎控除の範囲で税額0円

亡くなったあとに払った入院費21万円は、相続税の計算で引ける側です。遺産は自宅と預金で合計3,100万円、相続人は二人なので、基礎控除は3,000万円+600万円×2人=4,200万円で、もともと相続税はかかりません。それでも、21万円の領収書は捨てずに、相続の書類の封筒に入れてもらいました。遺産分割で「誰が払ったお金か」を確かめるときに使うからです。

もし家賃がもう少し多く、経費を引いた所得が20万円を超えていたら、話は変わります。準確定申告が要る家になり、8月10日までに、母と長女の二人で付表を付けて出すことになります。その場合も、3月の入院費58万円は控除に使え、亡くなったあとの21万円は使えない、という分かれ目は同じです。

4か月の期限を過ぎてしまった場合も、出さなくてよくなるわけではありません。納める税金がある家は、遅れて出す期限後申告になり、延滞税や無申告加算税がかかることがあります。反対に、税金が戻ってくる家なら、還付の申告は5年のあいだ出せます。亡くなる前の医療費が多かった、年金から所得税が天引きされていた、という家は、期限を過ぎていても一度計算してみる価値があります。

もう一つ、亡くなった翌日からの家賃の行方です。4月11日以降の家賃は父の所得ではありません。遺産分割が終わるまでの家賃は、相続人が相続分に応じて受け取るものとされているので、この家では母と長女が半分ずつ受け取った扱いになります。その年の所得として、母と長女が自分の確定申告が要るかを、それぞれ確かめることになります。部屋を相続する人が決まれば、それ以降の家賃はその人の所得です。

長女に渡したのは、「年金50万円・家賃の所得15万円・入院費58万円は準確定申告の側、亡くなったあとの入院費21万円と未支給年金は別の側」と書いた一枚の表でした。税務署から何も届かなくても、要るかどうかを決めるのは家族です。申告が要りそうな家や、事業・土地の売却があった家は、4か月の期限の前に税理士に相談してください。

執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-01

この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。

参考(公式)

この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-01 確認)。

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