相続・手続き 2026-10-01

葬儀費用と香典は相続でどう扱うか ― 誰が払うのか、相続税で引けるもの・引けないもの、埋葬料5万円

葬儀費用を誰が払うかは法律に決まりがなく、相続人の話し合いで決めます。香典は遺産ではなく喪主が受け取るもの。相続税では、通夜・告別式・火葬・お寺へのお礼は遺産から引けますが、香典返しや四十九日の法要は引けません。領収書の束の仕分けで、相続税の申告が要るかどうかが変わった家の数字で整理します。

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この記事の位置: 亡くなる前にできること → [亡くなってすぐ(3か月まで)] → 相続人と財産を確定する → 分け方を決める → 名義を変える・税金(10か月〜3年) → 相続した財産をどうするか → 状況別(当てはまる方だけ)

「葬儀代は、香典で払えばいいだろう」と長男が言い、「お父さんの預金から払うのが筋じゃないの」と長女が言いました。66歳で亡くなった父の四十九日が済んだ頃、母と二人の子が、葬儀社の請求書とお寺の封筒のメモ、香典帳を持って来ました。葬儀と法要にかかったお金は合わせて227万円、受け取った香典は60万円。相続人は母と子二人です。

最初に、葬儀費用を誰が負担するかは、法律に決まりがありません。相続人の話し合いで決めます。裁判になったときの考え方も分かれていて、葬儀を主宰した喪主が負担すると判断された例もあります。実際の相談では、亡くなった人の遺産から払い、残りを分けるという形に落ち着く家が多いというのが、私の見てきた範囲の感覚です。この家も、まずそこから話を始めました。

遺産から払おうとすると、銀行の口座が止まっていることがあります。遺産分割の前でも、預貯金の仮払い制度を使えば、一つの金融機関につき150万円を上限に、相続人が単独で引き出せます。くわしくは預貯金の記事に書きました。相続放棄を考えている人は、遺産から払うことが「遺産を使った」と見られないかが気になるところです。常識的な範囲の葬儀費用なら問題にならないとされることが多いものの、迷うときは相続放棄の記事を先に読んでください。

次に香典です。香典は、亡くなった人の遺産ではありません。葬儀を主宰した喪主に対する贈り物として扱われ、遺産分割の対象にもなりません。社会通念上相当な額であれば、贈与税もかからない扱いです。香典を葬儀費用に充てるのが普通ですが、それも法律で決まっているわけではなく、喪主の判断です。長男の「香典で払えばいい」は、母がそう決めれば成り立つ、という話でした。

ここからが相続税の話です。相続税では、葬式費用を遺産の額から差し引けます。国税庁の案内では、引けるのは、通夜や告別式、火葬・埋葬・納骨にかかった費用、遺体や遺骨を運ぶ費用、お寺へのお布施や読経料などのお礼です。通夜の食事のように、葬儀に通常欠かせない費用も含まれます。

引けないものもはっきりしています。香典返しの費用、墓石や墓地を買う費用、初七日や四十九日などの法事の費用です。墓石や仏壇は、相続税ではそもそも課税されない財産なので、それを買うお金を遺産から引くことはできない、という整理です。お布施は領収書が出ないことが多いので、払った日、お寺の名前、金額、何のお礼かをメモにして残しておきます。このメモが、そのまま申告の資料になります。

葬儀と法要のお金は、相続税で「引ける」と「引けない」に分かれる
葬儀と法要のお金は、相続税で「引ける」と「引けない」に分かれる左に、葬儀社・お布施・通夜の飲食・香典返し・四十九日の法要の五つの支払い。上の三つは「相続税で引ける(190万円)」の枠へ、香典返しと法要は「引けない(37万円)」の枠へ矢印が向かう。下には、香典と埋葬料は喪主(母)のもので遺産ではない、と書いてある。 葬儀社132万 お布施40万 飲食18万 香典返し22万 法要15万 相続税で引ける 190万円相続税で引ける 190万円 引けない 37万円引けない 37万円 遺産4,950万 − 190万 = 4,760万遺産4,950万 − 190万 = 4,760万 香典などから払う香典などから払う ¥ 香典 60万 ¥ 埋葬料 5万 喪主(母) 遺産ではない遺産ではない

左に、葬儀社・お布施・通夜の飲食・香典返し・四十九日の法要の五つの支払い。上の三つは「相続税で引ける(190万円)」の枠へ、香典返しと法要は「引けない(37万円)」の枠へ矢印が向かう。下には、香典と埋葬料は喪主(母)のもので遺産ではない、と書いてある。

引けるもの・引けないものの区分は、国税庁 No.4129 の例示によります。

墓石や墓地について、もう一つ知っておくとよいことがあります。墓石や墓地、仏壇は、相続税のかからない財産です。生きているうちに買って代金を払い終えておけば、その分の預金は遺産から減り、墓石は非課税のまま残ります。反対に、亡くなったときに墓石の代金が払い終わっていなければ、その未払いの代金は借金として遺産から引くことはできません。お墓を建てる予定がある家は、順番で差が出ます。

葬式費用を引くのは、実際に負担した相続人の取り分からです。母が払ったなら母の取り分から、長男が払ったなら長男の取り分から引きます。相続人でない人、たとえば内縁の妻が自分のお金で葬儀を出した場合は、相続税の計算では引けません。誰がいくら負担したかを遺産分割協議書に書いておくと、申告が要る家では、申告書の数字もそのまま決まります。

健康保険からの給付も確かめます。会社員で健康保険(協会けんぽなど)に入っていた人が亡くなると、その人に生計を維持されていた家族に、埋葬料として5万円が出ます。国民健康保険や後期高齢者医療制度の人なら、市区町村などから葬祭費が出ます。額は市区町村ごとに決まっています。どちらも申請しないと出ず、2年で時効になります。受け取るのは家族自身で、遺産には入りません。

この家の数字です。父は会社員を続けていて、協会けんぽの被保険者でした。葬儀社への支払い132万円(税込、通夜・告別式・霊柩車・火葬場の使用料を含む)、お寺へのお布施40万円、通夜と精進落としの飲食18万円、香典返し22万円、四十九日の法要15万円。合計227万円のうち、相続税で引けるのは葬儀社・お布施・飲食の190万円で、香典返しと法要の37万円は引けません。

この家の葬儀・法要の支払いと、相続税での扱い(2026年10月時点)
支払い金額(税込)相続税で引けるか
葬儀社(通夜・告別式・霊柩車・火葬場)132万円引ける
お寺へのお布施(読経・戒名)40万円引ける(日付・寺名・金額をメモ)
通夜・精進落としの飲食18万円引ける
香典返し22万円引けない
四十九日の法要15万円引けない
合計227万円引ける190万円/引けない37万円

父の遺産は、自宅の土地と建物が2,600万円、預金が2,350万円で、合計4,950万円。相続人は三人なので、基礎控除は3,000万円+600万円×3人=4,800万円です。葬式費用190万円を引くと4,760万円で、基礎控除を40万円下回り、相続税の申告は要りません。もし領収書のある葬儀社の132万円だけを引いていたら4,818万円で、基礎控除を18万円超えて申告が必要になるところでした。お布施40万円と飲食18万円のメモが、申告の要否を分けました。基礎控除の記事に書いた「10分で当たりをつける」計算に、葬式費用の行を一つ足した形です。

申告が要るかどうか ― 遺産4,950万円・相続人三人(基礎控除4,800万円)
引いた葬式費用引いたあとの額基礎控除との差申告
葬儀社の132万円だけ4,818万円18万円超える要る
お布施・飲食も入れて190万円4,760万円40万円下回る要らない

払い方は、こう決まりました。母が喪主として受け取った香典60万円と埋葬料5万円は、母のものです。葬儀費用のうち190万円は父の遺産から払うことにして、母が仮払い制度で父の口座から150万円を引き出し、残り40万円は母が立て替えて、遺産分割のときに父の預金から母に戻すことにしました。香典返しと法要の37万円は、母が香典から払いました。遺産分割協議書には、仮払いで引き出した150万円は葬儀費用に充てたので、母の取り分には数えない、と一行書きました。この一行がないと、仮払いのお金は引き出した人が遺産の一部をもらったものと扱われるので、母の取り分が150万円少なくなってしまいます。

話し合いで決まらないときに知っておきたいのは、葬儀費用は亡くなった人の遺産ではなく、亡くなったあとに生まれた支払いだということです。そのため、家庭裁判所の遺産分割の審判では、葬儀費用の精算は扱われないのが原則です。相続人全員が合意すれば、遺産分割の話し合いや調停の中で一緒に精算できます。この家が協議書に一行書いたのは、その合意を残すためでした。

葬儀が終わったら、領収書と請求書、お布施のメモ、香典帳を一つの封筒にまとめておいてください。誰が払ったかと、引けるものか引けないものかを、封筒の表に書いておくだけで十分です。「香典で払うか、預金で払うか」の言い合いは、この封筒の中身を並べた時点で、半分は終わっていました。

執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-01

この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。

参考(公式)

この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-01 確認)。

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