相続・手続き 2026-09-10

お墓・仏壇・遺骨は誰が引き継ぐか ― 遺産分割の対象外「祭祀財産」と、墓じまいの手続き

お墓、仏壇、位牌、系図は相続財産ではなく「祭祀財産」として、一人の祭祀主宰者が引き継ぎます。誰がなるかの決まり方(指定・慣習・家庭裁判所)、相続税がかからない理由と例外、遺骨の扱い、墓地の使用権、そして増えている墓じまい(改葬許可・離檀料・永代供養)の手続きと費用の目安を整理します。

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この記事の位置: 亡くなる前にできること → 亡くなってすぐ(3か月まで) → 相続人と財産を確定する → [分け方を決める] → 名義を変える・税金(10か月〜3年) → 相続した財産をどうするか → 状況別(当てはまる方だけ)

三姉妹が揃って来ました。母が亡くなって一年。父の代からの墓は、三人の誰の家からも車で四時間かかる寺にあります。「誰が継ぐか、決まらないんです」。次女が言いました。長女は遠方、次女は転勤族、三女は夫の家の墓がある。母の遺骨は、まだ次女の家の仏壇の横に置いてあるそうです。財産の分け方は三人で決まっていました。決まらないのは、お墓と仏壇と、遺骨でした。

相続の相談で、財産の話が一段落したあとに、たいてい出てくるのが「お墓は誰が見るのか」です。お墓、仏壇、位牌、家系図。これらは民法で「祭祀財産」と呼ばれ、預貯金や不動産とは別のルールで引き継がれます。遺産分割の対象ではなく、相続分にも関係なく、一人の「祭祀主宰者」が承継します。

祭祀主宰者の決まり方は、民法897条で三段階です。第一に、亡くなった人が指定していればその人(遺言でも口頭でも、生前の指定でよい)。第二に、指定がなければその地域や家の慣習(長男が継ぐ、など)。第三に、慣習も明らかでなければ家庭裁判所が決めます。相続人である必要はなく、内縁の配偶者や、実際に墓を守っている親族が主宰者になることもあります。長男だから当然、という法律上の決まりはありません。

祭祀財産と相続財産の違い
祭祀財産(墓・仏壇・位牌・系図)相続財産(預貯金・不動産など)
誰が引き継ぐ祭祀主宰者一人(指定→慣習→家庭裁判所)相続人全員(相続分に応じて)
遺産分割対象外対象
相続税非課税(投資目的の高価な仏具などは例外)課税対象
相続放棄との関係放棄しても承継できる放棄すれば引き継がない

祭祀財産は相続税の対象になりません。仏壇や墓地は非課税財産です。ただし、純金の仏像や骨董価値のある仏具のように、祭祀の用に供するというより投資や趣味の対象と見られるものは課税対象になり得ます。「仏具なら何でも非課税」ではないことは、税理士から最初に指摘されることの多い点です。

遺骨も、祭祀財産に準じて祭祀主宰者が管理するというのが判例の考え方です。遺骨を誰が引き取るか、どこに納めるかで親族が争う事例は実際にあり、家庭裁判所が祭祀主宰者を指定して解決することになります。分骨は、火葬場や墓地管理者の証明書を得て行います。

お墓を承継するとは、具体的には墓地の使用権(永代使用権)を引き継ぐことです。多くの墓地では、使用権は承継できるが第三者に譲渡や売却はできない、と管理規約で定めています。承継の手続きは墓地の管理者(寺院、霊園、市町村)ごとに決まっていて、承継者の戸籍や、前の使用者との関係を示す書類、名義変更の手数料が要ります。管理料は承継者が払い続けます。

ここ数年で相談が急増しているのが「墓じまい」です。承継する人がいない、遠方で管理できない、子どもに負担を残したくない。墓じまいは、今の墓から遺骨を取り出して別の場所に移す「改葬」の手続きです。市町村に改葬許可申請を出し(現在の墓地の管理者の埋葬証明と、移転先の受入証明を添付)、改葬許可証を得てから遺骨を移します。移転先は、永代供養墓、納骨堂、樹木葬、あるいは散骨などです。

墓じまい(改葬)の手順

  1. 1 移転先を決める(永代供養墓・納骨堂・樹木葬など。受入証明書をもらう)
  2. 2 現在の墓地の管理者に相談(埋葬証明書。寺院なら離檀料の有無と額を確認)
  3. 3 市町村に改葬許可申請(埋葬証明+受入証明を添付。改葬許可証の交付)
  4. 4 遺骨を取り出し、墓石を撤去(石材店。閉眼供養をする場合も)
  5. 5 移転先へ納骨(改葬許可証を提出)

費用の目安を書いておきます。墓石の撤去と区画の原状回復が数十万円(区画の広さと立地で変わります)、改葬先の永代供養墓や納骨堂が数万円から数十万円、そして寺院墓地の場合は「離檀料」を求められることがあります。離檀料は法律上の義務ではなく、お布施の性格のものですが、慣行として数万円から数十万円が多く、高額を求められて揉める例もあります。事前に寺院と話し、金額を確認してから進めるのが実務の勧めです。

現場の話です。三人の希望を聞くと、全員が「自分は継げないが、放置もしたくない」でした。それなら答えは承継ではなく墓じまい、つまり改葬です。まず寺に連絡し、住職と話す日を決めました。ここで最初の壁が来ます。離檀料です。住職からは「これまでの供養の御礼として50万円」と言われました。離檀料に法律上の義務はなく、金額の決まりもありません。三人は一度持ち帰り、私が「お布施の性格のものなので、金額は相談できる」と伝えたうえで、長女が改めて住職と話し、最終的に10万円で落ち着きました。揉める寺もありますが、この寺は話せば通じる寺でした。

費用は合計でこうなりました。墓石の撤去と区画の原状回復が35万円(石材店の見積もり。区画は2平米ほど)。改葬先は、次女の家から30分の霊園の永代供養墓で、父母二人分で30万円。離檀料10万円。改葬許可申請の手数料は市町村によって無料か数百円。合わせて約75万円で、三人で均等に分けました。相続財産の分け方は決まっていたので、この費用も遺産から出す形にして、協議書に一行足しました。

手続きの順番も書いておきます。一、移転先(永代供養墓)と契約し、受入証明書をもらう。二、今の寺から埋葬証明書をもらう(これが離檀の話と同時になる)。三、今の墓のある市町村に改葬許可申請を出し、一と二の証明を添える。四、改葬許可証が出たら、石材店が墓石を撤去し、遺骨を取り出す(閉眼供養をする場合はここで住職に来てもらう)。五、遺骨を移転先に納める。この家では、申請から納骨まで約三か月でした。次女の家に一年置かれていた母の遺骨は、父の遺骨と一緒に、新しい場所に入りました。

改葬の許可は、どこの役所に出すのか。墓地埋葬法は、改葬を許可するのは「遺骨が今ある場所の市町村長」だと定めています(5条2項)。この家では、父の遺骨は車で四時間の寺の墓にあるので、申請先は寺のある町の役場です。三人が住む市でも、移転先の霊園のある市でもありません。申請書には、亡くなった人の本籍・住所・氏名、死亡の年月日、埋葬した場所と年月日、改葬の理由と改葬先、申請する人と墓地の使用者との関係を書き、墓地の管理者(この家では寺)の埋葬の証明を添えます(同法施行規則2条)。次女は様式を町のホームページから取り、郵送で申請しました。

申請者の欄で、一度止まりました。規則では、墓地の使用者でない人が申請するときは、使用者の承諾書が要ります(同規則2条2項2号)。寺の墓地の使用者は、亡くなった父の名義のままでした。亡くなった人からは承諾をもらえません。この家では、先に寺で使用者の名義を、三人で祭祀主宰者と決めた次女に移してから、次女の名前で申請しました。墓じまいをする家でも、手続きの上では一度「承継」を通る、ということです。

母の遺骨は、まだどこの墓にも入っていないので、改葬ではなく初めての納骨です。墓地や納骨堂の管理者は、改葬許可証か、火葬を終えた印のある火葬許可証(埋葬許可証)を受け取ってからでないと、遺骨を納めさせてはいけない決まりです(同法14条)。一年前の火葬のときに渡された許可証は、骨箱の中、骨壺の下に入っていました。これが見つからない家は珍しくなく、その場合は火葬をした市町村の窓口に相談することになります。永代供養墓には、父の改葬許可証と母の火葬許可証、二枚の書類を出しました。

二つの遺骨、二枚の書類。改葬の許可は「今の墓がある町」に出す
二つの遺骨、二枚の書類。改葬の許可は「今の墓がある町」に出す上の段は、寺の墓にある父の遺骨。寺のある町の役場で改葬許可をもらい、永代供養墓へ移す。下の段は、次女の家に置かれていた母の遺骨。火葬のときの火葬許可証を出して、同じ永代供養墓に初めて納める。右の永代供養墓には、改葬許可証と火葬許可証の二枚が出される。寺の墓(車で4時間)寺の墓(車で4時間) 父の遺骨 次女の家 母の遺骨(まだ納骨前) 改葬許可(寺のある町の役場)改葬許可(寺のある町の役場) 納骨(火葬許可証を出す)納骨(火葬許可証を出す) 永代供養墓永代供養墓 改葬許可証 火葬許可証

上の段は、寺の墓にある父の遺骨。寺のある町の役場で改葬許可をもらい、永代供養墓へ移す。下の段は、次女の家に置かれていた母の遺骨。火葬のときの火葬許可証を出して、同じ永代供養墓に初めて納める。右の永代供養墓には、改葬許可証と火葬許可証の二枚が出される。

墓地の使用者が亡くなった父の名義のままだと、先に名義を移すか、承諾に代わる書類を役場と相談することになります。

三人が最初に言った「放置もしたくない」についても、放置した先を書いておきます。管理料が払われなくなり、縁故者が分からなくなった墓は「無縁墳墓」として扱われ、改葬の許可を申請する前に、官報に載せ、墓の見やすい場所に立札を一年間出して、申し出る人を待つことになっています(同規則3条)。申し出がなければ、遺骨は墓地の管理者の手で改葬され、寺や霊園の合祀の墓などに移されるのが一般的です。継がない、閉じない、の先には、他人の手による改葬があります。

仏壇と位牌のほうも書いておきます。三姉妹の家では、母の家にあった仏壇は幅90センチの大きなもので、誰の家にも置けませんでした。仏壇は祭祀財産なので、承継者が処分を決めます。多くの寺や仏具店で「閉眼供養(魂抜き)」をしてから引き取る形になり、供養のお布施が1〜3万円、引取りと処分が1〜5万円が目安です。位牌は、改葬先の永代供養墓に納める、仏具店の小さな位牌に作り替えて次女が持つ、寺に預けて供養してもらう、のどれかで、この家は作り替えを選びました。仏壇の処分に「罰当たり」という感覚を持つ人は今も多いのですが、供養をしてから手放すのは、昔からある正規の手順です。

遺言との関係も一つ。祭祀主宰者を遺言で指定しておくと、争いの種を一つ減らせます。特に、子が複数いて誰も名乗り出ない、あるいは逆に複数が主張する家では、指定があるだけで話が早く進みます。財産の配分と一緒に「墓と仏壇は〇〇に承継させる」と一行入れておく。それだけの手間で、相続のあとに残る一番長い揉めごとを一つ減らせます。

帰り際に長女が言いました。「母が生きているうちに、母の口から『墓はもういい』と言ってもらえていたら、一年悩まなかった」。祭祀主宰者の指定は、遺言に一行書けば済みます。「墓と仏壇は次女に。墓じまいをして構わない」。それだけで、三人は最初の日に答えを持てました。財産の配分を遺言に書く人は増えました。墓の一行を書く人は、まだ少ないです。

執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-09-30

この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。

参考(公式)

この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-09-30 確認)。

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