相続・手続き 2026-10-21
亡くなったあとに戻ってくるお金 ― 高額療養費・高額介護サービス費・保険料の還付。相続財産になるもの、ならないもの、2年の時効
親が亡くなって数か月たつと、市役所や保険の窓口から「高額療養費の申請のご案内」「保険料の還付のお知らせ」が届きます。医療費や介護の自己負担の払いすぎ、年金から天引きされていた保険料の払いすぎが戻るお金です。どれも申請しないと出ず、2年で時効にかかります。戻るお金のうち相続財産になるものと、葬祭費・未支給年金のように相続財産にならないもの、相続放棄を考えている人の注意を、81歳の父を亡くした家の数字(相続財産になる分7万3,100円)で書きます。
この記事の位置: 亡くなる前にできること → [亡くなってすぐ(3か月まで)] → 相続人と財産を確定する → 分け方を決める → 名義を変える・税金(10か月〜3年) → 相続した財産をどうするか → 状況別(当てはまる方だけ)
「父が亡くなって3か月たったころ、市役所から封筒が何通も届きました」。50代の女性は、封筒の束を持って相談に来ました。父は81歳で、2か月の入院のあと、6月18日に亡くなりました。届いたのは、後期高齢者医療の高額療養費の申請のご案内、高額介護サービス費の申請のご案内、介護保険料と後期高齢者医療保険料の還付のお知らせ。父の口座はもう解約していて、誰が受け取ればいいのか、受け取っていいのか分からない、という相談でした。
人が亡くなったあと、役所や保険から戻ってくるお金があります。多くは申請しないと出ず、2年で時効にかかります(介護保険法200条、高齢者の医療の確保に関する法律160条など)。そして、戻ってくるお金は、相続財産になるものと、ならないものに分かれます。ここを取り違えると、遺産の分け方や相続放棄で困ることがあります。
一つ目は高額療養費です。1か月の医療費の自己負担が上限額を超えたとき、超えた分が戻る制度です。上限は年齢と所得で決まり、2026年8月の見直しで額が変わり、8月から翌年7月までの「年単位の上限」も加わりました。窓口で上限までしか払わずに済む仕組みもありますが、同じ月に別の病院や薬局にもかかったときなどは、払いすぎた分が後から戻ります。計算には時間がかかり、亡くなってから数か月後に案内が届くのは、このためです。
二つ目は高額介護サービス費です。介護保険のサービスの自己負担が1か月の上限を超えた分が戻ります(介護保険法51条)。さらに、医療と介護の自己負担を1年分合わせて上限を超えると「高額医療・高額介護合算療養費」という別の払い戻しもあり、こちらは年に一度の計算なので、もっと後になって案内が来ることがあります。
三つ目は保険料の還付です。介護保険も後期高齢者医療も、亡くなった日の翌日に資格がなくなり(介護保険法11条)、保険料は月単位でかかります。年金から天引きされていた保険料は、亡くなったあとの月の分まで先に引かれていることがあり、その分が戻ります。反対に、住民税は1月1日に住んでいた人に、固定資産税は1月1日の持ち主にかかる税金で、亡くなっても戻りません(固定資産税は、亡くなった人の固定資産税は誰が払うの記事に書きました)。
ここからが大事なところです。高額療養費、高額介護サービス費、保険料の還付金は、亡くなった人が受け取るはずだったお金なので、相続財産になります。相続人が請求し、遺産分割の対象になります。申請書には「相続人代表」として一人の名前と口座を書く形が多く、ほかの相続人の同意書や、亡くなった人との関係が分かる戸籍を求められます(窓口ごとに少しずつ違います。法定相続情報一覧図が使える窓口もあります)。
申請の窓口は、亡くなった人が入っていた保険で決まります。75歳以上なら後期高齢者医療(申請は市区町村の窓口、払うのは都道府県ごとの広域連合)、75歳未満で会社勤めなら協会けんぽや健康保険組合、自営業や退職後なら市区町村の国民健康保険です。介護保険は、65歳以上なら市区町村です。亡くなった年に保険が切り替わっていた人は、窓口が二つになることもあります。振込先は、亡くなった人の口座は凍結されたり解約されたりしていることが多いので、相続人代表の口座を書きます。
一方、相続財産にならないお金もあります。葬祭費は、後期高齢者医療なら広域連合の条例で額が決まっていて(同法86条)、葬儀を行った人(喪主)に出ます。未支給年金(亡くなった月の分まで、まだ受け取っていない年金)は、生計を同じくしていた遺族が、自分の名前で受け取るお金です。どちらも遺産分割の対象にはなりません(未支給年金は、遺族年金の基本の記事にも書きました)。
亡くなった父から、左の枠に相続財産になるお金(高額療養費、高額介護サービス費、介護保険料と後期高齢者医療保険料の還付)。相続人が請求し、遺産分割の対象になる。右の枠に相続財産にならないお金(葬祭費は葬儀を行った喪主に、未支給年金は生計を同じくしていた遺族に)。どれも申請しないと出ず、2年で時効。
2026年10月時点。相続放棄を考えている人は、相続財産になる還付金を受け取って使う前に、放棄の手続きを先に確かめてください。
相続放棄を考えている人は、ここに注意が要ります。相続財産になる還付金を受け取って使うと、相続財産を処分したとして、借金も含めて相続したこと(単純承認)になるおそれがあります。亡くなった人に借金がありそうな家では、還付金の申請は急がず、まず放棄するかどうかを3か月の期限の中で決めます。葬祭費と未支給年金は自分の権利として受け取るお金なので、放棄と両立する、というのが一般的な考え方ですが、迷うときは受け取る前に家庭裁判所の手続きを先に確かめます。
この家で届いた書類を並べました。高額療養費4万2,300円、高額介護サービス費9,800円、介護保険料の還付1万2,600円、後期高齢者医療保険料の還付8,400円。ここまでの合計7万3,100円が相続財産です。そのほかに、この地域の葬祭費5万円が喪主の女性に、亡くなった6月分の未支給年金7万3,000円が、同居していた母に出ます。母が受け取る未支給年金は、母自身のお金として扱います。
| お金 | 金額 | 誰のお金か |
|---|---|---|
| 高額療養費 | 4万2,300円 | 相続財産 |
| 高額介護サービス費 | 9,800円 | 相続財産 |
| 介護保険料の還付 | 1万2,600円 | 相続財産 |
| 後期高齢者医療保険料の還付 | 8,400円 | 相続財産 |
| 相続財産になる分の合計 | 7万3,100円 | 遺産分割で母が受け取る |
| 葬祭費 | 5万円 | 喪主の女性 |
| 未支給年金(6月分) | 7万3,000円 | 同居していた母 |
| 戻ったお金の総額 | 19万6,100円 | ― |
相続人は母と女性と弟の3人で、借金は無く、放棄はしない家でした。7万3,100円は、遺産分割協議で母が受け取ると決め、預金と一緒に協議書に書きました。協議の前に振り込まれる分は、相続人代表の女性の口座に入れ、分け方が決まるまで手を付けないことにしました。相続税の申告が要る家では、こうした還付金も財産に含めて計算するのが一般的です(申告は税理士に確かめてください)。
もう一つ、亡くなった年の所得税の申告(準確定申告)で医療費控除を使う家は、戻ってきた高額療養費の分を、払った医療費から差し引いて計算します。戻ったお金は、医療費を穴埋めしたお金として扱われるからです。準確定申告は、亡くなったことを知った日の翌日から4か月以内です。高額療養費の額が決まる前に申告の期限が来るときは、見込みの額で差し引いておきます。
手続きの順番もまとめておきます。案内が来たものから順に、申請書に相続人代表の口座を書いて出す。案内が来ていなくても、入院や介護サービスが長かった人は、市区町村の窓口(後期高齢者医療と介護保険の担当)に「戻るお金は無いか」と一度聞く。どれも、診療や支払いの月から2年たつと請求できなくなります。
「封筒が届くたびに、何か払うものかと思っていました」。女性はそう言いました。亡くなったあとの役所の封筒には、払うものの知らせと、戻るお金の知らせが混ざっています。戻るお金は、誰のお金か(相続財産か、自分の権利か)、相続放棄とぶつからないか、2年の時効、の三つを確かめてから受け取ります。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-21
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。
参考(公式)
この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-21 確認)。
- 厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」 ― 医療費の自己負担が月の上限額を超えたら超えた分を支給。上限は年齢と所得で決まり、2026年8月から年単位(8月〜翌年7月)の上限も設けられた
- e-Gov法令検索「介護保険法」 ― 11条(住所を有しなくなった日の翌日に資格を失う)、51条(高額介護サービス費)、200条(保険料の還付と保険給付を受ける権利は2年で時効)
- e-Gov法令検索「高齢者の医療の確保に関する法律」 ― 84条(後期高齢者医療の高額療養費)、86条(葬祭費は広域連合の条例で定める)、160条(保険料の還付と給付を受ける権利は2年で時効)