土地・不動産 2026-10-04

津波災害警戒区域の土地 ― 「区域内」の一行を、三つの数字に直してから買う

重要事項説明書に「津波災害警戒区域内」とあっても、それだけで家が建てられないわけではありません。警戒区域(イエロー)と特別警戒区域(オレンジ・レッド)の違い、基準水位の意味、確かめる三つの数字(基準水位・床の高さ・逃げる時間)、地震保険、売値1,480万円の中古住宅を買った夫婦の確認の手順を整理します。

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この記事の位置: まず読む:値段と書類の読み方 → 買う前に確認すること → 建てられるか・どれだけ建つか → 境界・隣地・道 → [災害と地盤] → 持っている間:税金と登記 → 売るとき → 貸す・借りる・特殊な権利

「重要事項説明書に『津波災害警戒区域内』と書いてあります。この家、買って大丈夫ですか」。60代の夫婦が、海沿いの町の中古住宅の契約前に、説明書の写しを持って来ました。土地は約200平米、木造2階建てで、売値は1,480万円。私は「大丈夫かどうか」の前に、確かめる数字が三つある、と言いました。この場所の基準水位、家の2階の床の高さ、そして高台まで歩く時間です。

津波の区域は、津波防災地域づくりに関する法律(2011年制定)にもとづいて決まります。まず都道府県が、最大クラスの津波が来たときに、どこまで、どの深さまで浸水するかを「津波浸水想定」として公表します。それを踏まえて都道府県知事が指定するのが、津波災害警戒区域(イエローゾーンと呼ばれます)と、その中で特に危険な津波災害特別警戒区域(オレンジゾーン)です。指定するかどうかは都道府県の判断で、浸水想定はあっても区域の指定がない地域もあります。

警戒区域は、建物を建てることを制限する区域ではありません。目的は、逃げる仕組みを整えることです。指定と同時に「基準水位」が公示されます。基準水位は、浸水想定の水深に、建物にぶつかって津波がせり上がる分を加えた高さで、避難する場所の高さの目安になります。市町村は区域ごとに避難場所や避難経路を地域防災計画に定め、ハザードマップで知らせます。区域内の学校や高齢者施設などは、避難の計画を作ります。住宅を建てたり買ったりすること自体に、許可は要りません。

特別警戒区域になると、制限がかかります。社会福祉施設、学校、医療施設のように、避難に配慮が要る人が使う建物を建てる場合や、そのための開発をする場合は、都道府県知事等の許可が要り、居室の床の高さを基準水位以上にするといった基準を満たす必要があります。さらに市町村は、条例で区域と用途を決めて、住宅などにも同じ制限をかけられます(レッドゾーンと呼ばれます)。住宅に制限がかかるのは、この条例がある場合だけです。

土地や建物の取引では、津波災害警戒区域や特別警戒区域に入っているかどうかは、重要事項説明で説明する事項です。説明書には「区域内」「区域外」が書かれますが、基準水位や浸水の深さまでは書かれていないこともあります。区域に入っていると分かったら、都道府県の公示や市町村のハザードマップで、その場所の浸水の深さと基準水位を自分で確かめます。国土地理院の重ねるハザードマップでは、津波の浸水想定を洪水や土砂災害と重ねて見られます。洪水の見方は、洪水ハザードマップの読み方の記事に書きました。

確かめる数字は三つです。一つ目は、その場所の浸水の深さと基準水位。二つ目は、家のどの高さまで水が来るか。基準水位と、1階と2階の床の高さを比べます。図面があれば床の高さは正確に分かり、なければ現地で測ります。三つ目は、逃げる時間です。津波の影響が出始めるまでの時間(都道府県や市町村の資料に載っていることがあります)と、指定緊急避難場所や津波避難ビルまで、実際に歩いてかかる時間。地図で測った距離ではなく、家族のうちいちばん歩くのが遅い人の足で、夜の道も想定して測ります。

お金の話も一つ。津波による建物や家財の損害は、火災保険だけでは補償されず、地震保険の対象です。地震保険は、地震・噴火・津波による火災や損壊、流失などを補償するもので、火災保険に付けて入ります。保険金額は火災保険の30〜50%の範囲で決め、建物5,000万円、家財1,000万円という上限もあります。津波で家が流された場合でも、受け取れるのは建て直す費用の全部ではなく、この範囲までです。区域内の家を買うなら、地震保険を付ける前提で、年間の保険料を家計に入れて考えます。保険料は所在地と建物の構造で決まるので、契約前に見積もりを取ります。

将来売るときのことも考えておきます。区域に入っていることは、この家を売るときの重要事項説明にも書かれ、買い手も同じ確認をします。基準水位と床の高さ、避難の経路と時間を一枚にまとめた記録は、売るときにもそのまま使えます。区域に入っていることで値段がどれだけ下がるかは、場所と需要で違い、一律の割合はありません。この夫婦には、近くで区域の外にある似た物件の売り出し価格を三つ並べて、差を見てもらいました。また、浸水想定は見直されることがあり、見直しで区域や基準水位が変わることもあります。

この家では、こうでした。県が公示した基準水位は、この土地で地面から2.6m。浸水想定の深さは2.1m。図面で見ると、1階の床は地面から0.5m、2階の床は3.1mでした。最大クラスの津波では1階は水に浸かり、2階の床は基準水位より0.5m高い。ただし、2階に上がれば助かる、とは考えません。木造の家が津波の力に耐えるかは別の話で、基準水位はあくまで避難の高さの目安です。地震のあとは高台へ逃げることを前提に、逃げる時間を測りました。市の資料では、この海岸に津波の影響が出始めるまで約20分。家から指定緊急避難場所の高台の公園まで、地図では950mで、夫の足で12分、膝を痛めている妻の足では18分でした。夜に歩いて測り直すと、街灯のない区間があり、20分かかりました。

この家の断面 ― 浸水2.1m、基準水位2.6m、2階の床3.1m。それでも逃げる先は高台
この家の断面 ― 浸水2.1m、基準水位2.6m、2階の床3.1m。それでも逃げる先は高台海沿いの土地に木造2階建て。最大クラスの津波の浸水の深さは地面から2.1m、基準水位は2.6mで、1階の床(0.5m)は水に浸かり、2階の床(3.1m)は基準水位より0.5m高い。ただし基準水位は避難の高さの目安で、家が津波に耐えるかは別。右の高台の避難場所までは妻の足で18分、夜は20分かかった。2階の床3.1m − 基準水位2.6m = 0.5m上。それでも逃げるのは高台へ2階の床3.1m − 基準水位2.6m = 0.5m上。それでも逃げるのは高台へ 地面(この土地)地面(この土地) 2階(床3.1m)2階(床3.1m) 1階(床0.5m)1階(床0.5m) 基準水位 2.6m基準水位 2.6m 浸水の深さ 2.1m浸水の深さ 2.1m 高台の避難場所 妻の足で18分(夜は20分)妻の足で18分(夜は20分)

海沿いの土地に木造2階建て。最大クラスの津波の浸水の深さは地面から2.1m、基準水位は2.6mで、1階の床(0.5m)は水に浸かり、2階の床(3.1m)は基準水位より0.5m高い。ただし基準水位は避難の高さの目安で、家が津波に耐えるかは別。右の高台の避難場所までは妻の足で18分、夜は20分かかった。

この記事の例の数字です。基準水位は県の公示、床の高さは図面によります。津波の影響が出始めるまでの時間は、市の資料で約20分でした。

20分は、影響が出始めるまでの時間と同じです。そこで、もう一つの逃げ先を探しました。市が指定する津波避難ビルが家から400mにあり、妻の足で8分。夫婦は、地震が来たら妻はビルへ、夫は妻をビルまで送ってから判断する、と決めました。懐中電灯は玄関と寝室に置き、街灯のない区間は昼のうちに二人で歩いて覚えました。地震保険は、火災保険を建物1,000万円で掛け、その50%の500万円にしました。

お金は、売値1,480万円に、仲介手数料が上限で55万4,400円(税込、1,480万円×3%+6万円に消費税)、合わせて1,535万4,400円。このほかに登記の費用や保険料がかかります。夫婦はこの家を買いました。津波災害警戒区域は「住んではいけない場所」ではなく、「逃げ方を決めてから住む場所」です。説明書の「区域内」の一行を、基準水位、床の高さ、逃げる時間の三つの数字に直してから判断する。特別警戒区域なら、建てられるものの制限を市町村の条例まで確かめる。土砂災害警戒区域の記事、擁壁とがけ条例の記事と同じく、地図と条例で分かることは、契約の前に全部分かります。

この家を買う値段(税込)
内訳金額計算
売値(土地・建物)1,480万円―
仲介手数料(上限)55万4,400円(1,480万円×3%+6万円)×1.1
合計1,535万4,400円登記費用・保険料は別

執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-04

この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。

参考(公式)

この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-04 確認)。

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