土地・不動産 2026-09-09
ハザードマップの読み方(洪水・浸水) ― 色の意味、想定最大規模、重要事項説明での扱い
2020年8月から、不動産の売買と賃貸の重要事項説明で、水害ハザードマップ上の物件の位置を示すことが義務になりました。洪水浸水想定区域の色は浸水の深さ、「想定最大規模」は千年に一度級の雨、「家屋倒壊等氾濫想定区域」は流されるおそれ。内水と高潮の別、避難の目安、水災の保険料との関係、相続した土地や購入前の見方を整理します。
この記事の位置: まず読む:値段と書類の読み方 → 買う前に確認すること → 建てられるか・どれだけ建つか → 境界・隣地・道 → [災害と地盤] → 持っている間:税金と登記 → 売るとき → 貸す・借りる・特殊な権利
重要事項説明の席で、宅建士がハザードマップの写しを広げました。「こちらの物件は、洪水浸水想定区域で、浸水深3〜5メートルの区域に入っています」。買主の夫婦は顔を見合わせて、夫が聞きました。「それは、どのくらいの雨で、ですか」。宅建士は一瞬止まって、「想定最大規模です」と答えました。夫はさらに聞きました。「計画規模だと、どうなりますか」。宅建士は、その地図を持っていませんでした。この記事は、その二つ目の質問の話です。
土砂災害警戒区域の記事で、崖と谷の危険を書きました。この記事は、川と雨の危険です。2020年8月、宅地建物取引業法の改正で、売買と賃貸の重要事項説明において、市町村が作る水害ハザードマップで物件の位置を示して説明することが義務になりました。それまでは任意だった説明が、必須になった。マップの読み方を知っていれば、その説明を「聞く」から「確かめる」に変えられます。
水害ハザードマップは、市町村が作る地図で、洪水、内水、高潮の三種類があります。洪水は、川の堤防が決壊したり越水したりして水が広がる浸水。内水は、川に関係なく、下水道や排水路の能力を超える雨で街の中が浸水するもの。高潮は、台風などで海面が上がって沿岸が浸水するもの。物件によって、どのマップが関係するかが違います。川から離れた低地は内水、河口や海沿いは高潮、大きな川の近くは洪水、という具合です。
洪水浸水想定区域の色は、浸水の深さを表します。色分けは市町村で少し違いますが、国の指針に沿って、0.5m未満、0.5〜3m、3〜5m、5〜10m、10〜20m、といった区分で、深いほど濃い色です。0.5mは大人の膝、3mは2階の床、5mは2階の天井。「3m以上」の地域は、2階に避難しても足りない可能性がある、と読みます。
「想定最大規模」と「計画規模」という二つの前提があることも、知っておいてください。計画規模は、堤防などの整備の目標にしている雨(数十年から百数十年に一度)で、想定最大規模は、想定しうる最大の雨(千年に一度級)です。2015年の水防法改正で、想定最大規模での浸水想定を作ることになり、多くのマップが想定最大規模を表示しています。最大規模の地図は広い範囲が色で塗られるので、「どこも浸水する」ように見えますが、それは「千年に一度の雨なら」という前提です。計画規模の地図と見比べると、頻度の高い浸水の範囲が分かります。両方を公開している自治体は、両方を見てください。
色以外に、二つの表示を見ます。一つ、「家屋倒壊等氾濫想定区域」。堤防の決壊のときの水の勢いで家が流されたり、河岸が削られたりするおそれがある区域で、斜線などで示されます。ここは「浸水の深さ」ではなく「家が壊れるか」の話で、避難は建物の上階ではなく区域の外へ、が原則です。二つ、「浸水継続時間」。水が引くまでの時間で、数日以上と示された地域は、上階に避難しても孤立する可能性がある、と読みます。
| 表示 | 意味 | 読み方 |
|---|---|---|
| 色の濃さ | 浸水の深さ(0.5m未満/0.5〜3m/3〜5m/5m以上など) | 3m以上は2階でも足りない可能性 |
| 想定最大規模 | 千年に一度級の雨での浸水 | 広く塗られる。頻度は低い |
| 計画規模 | 堤防整備の目標の雨(数十〜百数十年に一度) | 頻度の高い浸水の範囲 |
| 家屋倒壊等氾濫想定区域 | 決壊時の水勢で家が壊れるおそれ | 上階避難ではなく区域外へ |
| 浸水継続時間 | 水が引くまでの時間 | 数日以上は孤立のおそれ |
確認の仕方は簡単です。市町村のWebサイトの水害ハザードマップか、国土交通省の「重ねるハザードマップ」で住所を検索する。重ねるハザードマップは、洪水・内水・高潮・土砂災害を一つの地図に重ねて見られます。売買の場面では、宅建士が重要事項説明で「この位置です」と示しますが、その前に自分で見ておけば、説明の場で「想定最大規模ですか、計画規模ですか」「家屋倒壊等氾濫想定区域に入っていますか」と聞けます。重要事項説明の記事で書いた「聞いて終わり」にしない一つの方法です。
保険料との関係も書いておきます。火災保険の水災補償の保険料は、2024年10月以降、市町村ごとの水災リスクに応じて5段階に分かれるようになりました(それまでは全国一律)。ハザードマップで浸水の深い地域は、水災の保険料率が高い区分になっている可能性があります。物件を買う前に、その地域の水災等地(保険料の区分)を保険会社で確認する。それが、ハザードマップの色を「お金」に換算する一つの方法です。
その場で確かめた数字を書きます。物件は、一級河川から約600メートルの住宅地。市の洪水ハザードマップで、想定最大規模(千年に一度級の雨、この川の流域で48時間に約600ミリ)では浸水深3〜5メートル。計画規模(百年に一度級、48時間に約400ミリ)では浸水深0.5〜1メートル。二つの地図で、2階の天井まで水が来るか、大人の膝から腰までかの違いです。家屋倒壊等氾濫想定区域には入っておらず、浸水継続時間は想定最大規模で「12〜24時間」。上階に避難すれば、一日で水が引く場所でした。
買主の夫婦は、この二枚を見て、買うことに決めました。決め手は三つ。一つ、計画規模で0.5〜1メートルなら、1階の床を道路から70センチ上げる(基礎を高くする)設計で、頻度の高い浸水には対応できる。工務店の見積で、基礎の嵩上げは約120万円。二つ、家屋倒壊等氾濫想定区域の外なので、想定最大規模でも「上階に避難」で足りる。三つ、水災補償の保険料。2024年10月からの5段階の区分で、この市は上から二番目の区分で、水災補償を付けた火災保険は、区分が一番低い地域と比べて年約1万5,000円高い。30年で45万円。これを「買う値段」に足して考えました。
逆に、やめた例も書きます。別の相談で、川の合流点の近くの土地を見に行った人がいました。想定最大規模で浸水深5〜10メートル、家屋倒壊等氾濫想定区域(氾濫流)に入っていて、浸水継続時間は「3日以上」。この三つが揃うと、上階への避難では足りず、区域の外へ逃げる前提で、水が引くまで三日、家が流される可能性もある。土地の値段は、周辺の相場より三割ほど安く、その人は「安い理由が地図に書いてあった」と言って、やめました。
相続した土地では、こう考えます。自分が住まず売るなら、ハザードマップの色は買主の判断材料になり、価格にも影響します。空き家の記事で書いた判断に、この要素を加える。住むなら、色の深さと家屋倒壊等氾濫想定区域の有無で、改修(基礎を上げる、1階を駐車場にする)や避難計画を考える。土地の値段には、この地図の色が、すでに一部織り込まれています。四つの地価の記事で書いた公示地価は、標準地の価格で、浸水リスクは個別の補正です。
「計画規模だと、どうなりますか」という二つ目の質問は、その日の宅建士が持っていない地図への質問でした。買主の夫は、事前に重ねるハザードマップで、二つの地図を見ていました。「説明を聞くから確かめるに変える」と本文の最初に書きました。確かめた結果、この夫婦は、基礎を70センチ上げて、その家を買っています。地図の色は、買わない理由にも、どう買うかの設計にもなります。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-09-16
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。