土地・不動産 2026-09-09
土砂災害警戒区域と土地 ― イエローゾーンとレッドゾーンで、何が変わるか
山や崖の近くの土地を相続した、買おうとしている。そのとき確認すべきなのが、土砂災害警戒区域(イエロー)と特別警戒区域(レッド)の指定です。指定の意味、レッドゾーンで受ける建築と開発の制限、重要事項説明での扱い、相続税評価の減額補正、固定資産税、売却への影響、そして調べ方(都道府県のハザードマップ)を整理します。
この記事の位置: まず読む:値段と書類の読み方 → 買う前に確認すること → 建てられるか・どれだけ建つか → 境界・隣地・道 → [災害と地盤] → 持っている間:税金と登記 → 売るとき → 貸す・借りる・特殊な権利
「眺めがいいんです。裏が山で、朝は鳥の声で目が覚める」。相続した実家を二世帯住宅に建て替えたい、という相談でした。図面を見せてもらう前に、私は県の土砂災害ポータルで住所を入れました。実家の敷地の奥半分が、赤く塗られていました。急傾斜地の崩壊の特別警戒区域、レッドゾーン。手前半分はイエロー。「建てられないんですか」。建てられます。ただ、建て方と費用が変わる。この記事は、その赤い半分の話です。
相続した実家が山裾にある。あるいは、眺めのいい土地を買おうとしている。そのとき、擁壁とがけ条例の記事で書いた「崖」の話と並んで確認するのが、土砂災害警戒区域の指定です。指定があるかないかで、建てられるものと、評価と、売りやすさが変わります。
土砂災害警戒区域は、2001年の土砂災害防止法(土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律)に基づいて、都道府県が指定する区域です。急傾斜地の崩壊、土石流、地滑りのおそれがある区域を、二段階で指定します。「警戒区域」(通称イエローゾーン)は、土砂災害のおそれがあり、住民への周知と警戒避難体制の整備が必要な区域。「特別警戒区域」(通称レッドゾーン)は、その中でも建築物に損壊が生じ、住民の生命や身体に著しい危害が生じるおそれがある区域です。指定は都道府県が基礎調査をして行い、全国で警戒区域は70万か所前後の規模で指定されています(2026年9月時点で公表されている概数です)。
イエローゾーンの指定そのものは、建築や開発を制限しません。市町村がハザードマップを作り、避難体制を整えることが中心で、土地の利用は原則として自由です。ただし、不動産取引では重要事項説明で「警戒区域内かどうか」を説明する義務があり、買主の判断材料になります。
レッドゾーンは制限があります。一つ、住宅を建てるための宅地分譲や、社会福祉施設・学校・医療施設の建築を目的とした「特定開発行為」は、都道府県知事の許可が要ります。二つ、居室のある建築物を建てるときは、土砂の力に耐える構造(想定される土石等の高さと力に応じた鉄筋コンクリートの壁など)が建築基準法で求められ、建築確認でチェックされます。つまり、建てられないわけではないが、構造に費用がかかる。三つ、都道府県知事は、著しい危険が切迫している場合に、建築物の移転などを勧告できます。移転には補助や融資の制度があります。
評価への影響も書いておきます。相続税の土地評価では、2019年から、特別警戒区域内にある宅地について、区域内の面積の割合に応じて評価額を減額する補正(0.7〜0.9の補正率)が設けられています。イエローゾーンだけの場合は補正はありません。固定資産税は、市町村によって減額や評価上の考慮があるところとないところがあり、納税通知書の評価額を見て、市町村に確認してください。実勢価格では、レッドゾーンの土地は買い手が限られ、四つの地価の記事で書いた公示地価や路線価から出した目安より、かなり下で取引されるのが実務の感覚です。
| 警戒区域(イエロー) | 特別警戒区域(レッド) | |
|---|---|---|
| 意味 | 土砂災害のおそれがある区域 | 建築物の損壊・生命への著しい危害のおそれがある区域 |
| 建築の制限 | なし | 居室のある建築物は土砂に耐える構造が必要(建築確認で審査) |
| 開発の制限 | なし | 住宅分譲・要配慮者施設などの特定開発行為は知事の許可 |
| 移転勧告 | なし | あり(補助・融資制度あり) |
| 重要事項説明 | 説明義務あり | 説明義務あり |
| 相続税評価 | 補正なし | 面積割合に応じて0.7〜0.9の減額補正 |
調べ方は簡単です。都道府県が「土砂災害警戒区域等マップ」「土砂災害ポータル」などの名称でWeb地図を公開していて、住所で検索すれば、イエローかレッドか、どの種類(急傾斜地・土石流・地滑り)かが分かります。国土交通省の「重ねるハザードマップ」でも確認できます。相続した土地なら、相続登記の前に一度見ておく。買う土地なら、重要事項説明の記事で書いた「説明を聞いてから気づく」のではなく、申込みの前に自分で見る。それだけで、あとの判断が変わります。
現場の数字です。敷地は約260平米で、レッドゾーンにかかっているのは奥の約110平米。建て替えの案は、レッドゾーンの部分に居室を置かない配置に変えることで、建築基準法の構造の要件を避けました。奥の110平米は駐車場と庭にし、建物は手前の150平米に寄せる。設計事務所の当初案では、奥まで建物を伸ばして延床130平米の二世帯でしたが、手前に寄せた案では延床112平米。18平米分、小さくなりました。レッドゾーンに居室を置く案も検討し、その場合は山側の壁を鉄筋コンクリートの擁壁状に作る必要があり、見積は約380万円の増額。18平米を取るか380万円を取るか、で、家族は手前に寄せる案を選びました。
相続税の評価も、その場で計算しました。この土地は路線価で約2,300万円。特別警戒区域内の面積の割合は110÷260で約42%。国税庁の補正率の表で、この割合なら0.8の補正で、評価額は約1,840万円。460万円の減額です。相続税の申告では、この補正を入れて計算し、税理士に県のポータルの図を証拠として渡しました。イエローの部分には補正がありません。
売る場合の話もしました。この家族は建て替えて住むので売りませんが、参考に不動産会社に聞くと、「レッドゾーンにかかっている土地は、買主が住宅ローンを組むときに金融機関が担保評価を下げることがあり、売値は路線価ベースの目安より二〜三割下が実感」とのことでした。2,300万円の土地が、売るなら1,600万円台から1,800万円台。住む分には建て方で対応できますが、売るときは値段に出る。相続してすぐに「建てるか売るか」を決めるとき、この差は判断の材料になります。
最後に、指定されていない土地が安全というわけではない、という点も書いておきます。基礎調査が終わっていない区域、調査中の区域があり、指定は追加されていきます。地形図で見て崖や谷の出口に近い土地は、指定の有無にかかわらず、その目で見ておくべきです。指定は「調べた結果ここは危ない」という情報で、「調べていない」と「安全」は違います。
鳥の声で目が覚める家は、手前に寄せた112平米の二世帯住宅として建ちました。赤い半分は駐車場と庭で、奥の山側には、県の補助で小さな擁壁が入っています。「指定は調べた結果ここは危ないという情報」と本文の最後に書きました。その情報を、図面を引く前に見る。この家族は、見たから、18平米を諦めて380万円を残せました。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-06
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。