探偵・調査 2026-10-29

家賃を払わないまま入居者と連絡が取れない ― 大家が部屋に入ってはいけない理由、住民票と現地で居場所を確かめる、明渡しまでの順番と費用

アパートの一室の家賃が3か月止まり、入居者に電話もつながらない。鍵を替えて荷物を出してしまいたい、という大家さんの相談です。勝手に部屋に入ることがなぜ許されないのか、最高裁が「明渡しがあったとみなす」条項をどう見たか、住民票と戸籍の附票、現地の確認で居場所を探す順番、見つかったときと見つからないときの道を、この家の数字(滞納23万2,000円、かかった費用9万20円)で書きます。

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「もう3か月、家賃が入っていません。電話もつながらない。鍵を替えて、荷物を出してしまっていいですか」。60代の女性が、アパートの賃貸借契約書を持って相談に来ました。6部屋の小さなアパートの大家で、1階の一部屋を、家賃5万8,000円で40代の男性に貸していました。契約は2021年で、連帯保証人は男性の兄です。

最初にお伝えしたのは、鍵を替えることも、荷物を出すことも、してはいけないということです。家賃が止まっていても、契約が終わって部屋が明け渡されるまでは、部屋を使う権利は入居者にあります。大家が自分の手で追い出すこと(自力救済)は、法律の手続きを飛ばすものとして認められず、住居侵入や、荷物を捨てたことへの損害賠償を問われるおそれがあります。

この点について、最高裁の判断があります。ある家賃保証会社の契約に、家賃を2か月以上滞納し、連絡が取れず、部屋を長く使っていない様子があれば、明渡しがあったものとみなす、という条項がありました。最高裁は2022年12月12日、この条項は消費者契約法10条の条項(消費者の利益を一方的に害するもの)に当たると判断し、使うことの差止めを認めました。連絡が取れないことは、部屋を取り戻してよい理由にはならない、ということです。

では、何から始めるか。まず、入居者が部屋の中で倒れている心配がないかです。郵便受けに郵便物がたまり、においや虫が気になるなら、警察に相談して立ち会ってもらいます。この家では、電気のメーターが動いていて、郵便物も時々なくなっていました。部屋に出入りしている様子はあるのに、電話に出ないのです。

次に、連帯保証人と、申込書の緊急連絡先です。女性が兄に電話すると、兄も1年ほど弟と連絡を取っていないと言いました。2020年4月からの民法では、個人が連帯保証人になる賃貸の保証には、保証の上限額(極度額)を書く決まりがあり、この契約では100万円でした。兄には、滞納の額を書いた手紙で、支払いを求めました。

最近の契約では、連帯保証人の代わりに家賃保証会社が付いていることも多くあります。保証会社は滞納した家賃を立て替えて払ってくれますが、先ほどの最高裁の判断のとおり、保証会社が自分の判断で部屋を明け渡させることはできません。お金の面は保証会社が支えても、部屋を取り戻す手続きは、大家の側で進めることになります。

三つ目が、入居者の今の住所です。住民票の住所がこの部屋のままか、移っているか。大家は、家賃を請求するという自分の権利のために必要なことを示せば、入居者の住民票の写しを請求できます(住民基本台帳法12条の3)。契約書の写しを付けて市役所に出すと、住所はこの部屋のままでした。住所の移り変わりが分かる戸籍の附票も同じでした。

連絡が取れない入居者。部屋に手を出さず、居場所を確かめてから二つの道に分かれる
連絡が取れない入居者。部屋に手を出さず、居場所を確かめてから二つの道に分かれる左に大家。上に、鍵を替える・荷物を出すに大きなバツ(自力救済はできない)。大家から順に、安否の確認、連帯保証人と緊急連絡先、住民票と戸籍の附票、現地の確認へ進む。居場所が分かれば内容証明で解除を伝えて話し合い・合意書で明け渡し。分からなければ明渡しの裁判と公示送達、判決のあと強制執行。 大家 ×鍵を替える・荷物を出す×鍵を替える・荷物を出す 1 安否の確認(心配なら警察)1 安否の確認(心配なら警察) 2 連帯保証人・緊急連絡先2 連帯保証人・緊急連絡先 3 住民票と戸籍の附票3 住民票と戸籍の附票 4 現地の確認・所在の調査4 現地の確認・所在の調査 分かった分かった 分からない分からない 内容証明→話し合い→合意書で明け渡し内容証明→話し合い→合意書で明け渡し 明渡しの裁判・公示送達→強制執行明渡しの裁判・公示送達→強制執行 連絡が取れないことは、部屋を取り戻してよい理由にならない連絡が取れないことは、部屋を取り戻してよい理由にならない

左に大家。上に、鍵を替える・荷物を出すに大きなバツ(自力救済はできない)。大家から順に、安否の確認、連帯保証人と緊急連絡先、住民票と戸籍の附票、現地の確認へ進む。居場所が分かれば内容証明で解除を伝えて話し合い・合意書で明け渡し。分からなければ明渡しの裁判と公示送達、判決のあと強制執行。

最高裁令和4年12月12日判決(明渡しがあったとみなす条項は消費者契約法10条の条項に当たる)と、2026年10月時点の住民基本台帳法による。

住民票が動いていなくても、そこに住んでいるとは限りません。この家のように、部屋に時々寄るだけで、ふだんは別の所で暮らしている人もいます。ここからが、私たち探偵の出番になることがあります。私は2002年から探偵業を営んでいて、今年で24年目です。女性からの依頼で、申込書にあった勤め先の近くから調べ、男性が勤め先近くの別のアパートで、知人と暮らしていることが分かりました。探偵業者は、契約の前に重要事項の書面を渡し、依頼者から、調査の結果を違法な目的に使わないという書面を受け取ることが、探偵業法で決まっています。

調査でしたことと、しなかったことも書いておきます。したのは、勤め先の近くで3日間、出入りを確かめ、帰る先の建物と部屋を特定し、写真を付けた報告書にまとめることです。しなかったのは、携帯電話の番号や車のナンバーから住所を割り出すこと、役所や会社に身分を偽って問い合わせることです。これらは個人情報の扱いや法律に反するおそれがあり、私たちは引き受けません。

住所が分かれば、手紙が届きます。女性は、新しい住所に内容証明郵便で、滞納している家賃の額と、2週間以内に払わなければ契約を解除する、と書いて送りました。3か月の滞納は、借りる人と貸す人の信頼関係が壊れたと見られやすい長さです。手紙が届いた4日後、男性から電話がありました。仕事が減って払えなくなり、合わせる顔がなかった、と。話し合いで、その月の末で部屋を明け渡し、滞納分は月2万円ずつ払う、という合意書を作りました。

見つからなかった場合の道も書いておきます。住所の現地を調べても居場所が分からないときは、契約の解除と部屋の明渡しを求める裁判を起こし、裁判所の書類は「公示送達」で届いたものとして進めます。判決が出たら、強制執行で部屋を明け渡してもらいます。公示送達の前に裁判所が求める現地の調べ方は、訴えた相手が住民票の住所に住んでいない記事に書きました。この道は、半年以上かかることが珍しくありません。

お金だけを取り戻したい場合には、少額訴訟という方法もあります。60万円以下のお金の支払いを求める裁判で、原則として1回の期日で終わります。ただし、部屋の明渡しは少額訴訟では求められません。部屋を取り戻すのか、滞納分を払ってもらうのか。どちらを先にしたいかで、選ぶ手続きが変わります。

この家の数字です。明け渡しまでの家賃の滞納は、5万8,000円×4か月で23万2,000円。かかった費用は、所在の調査が8万8,000円(税込)、内容証明郵便が1枚で1,420円、住民票の写しと戸籍の附票が300円ずつで600円、合わせて9万20円でした。滞納分は、合意書のとおりに払われれば、約1年で払い終わります。

この家の滞納と、かかった費用
項目内訳金額
家賃の滞納(明け渡しまで)5万8,000円×4か月23万2,000円
所在の調査勤め先の近くからの調査と報告書(税込)8万8,000円
内容証明郵便1枚・書留・配達証明付き1,420円
住民票の写しと戸籍の附票300円×2通600円
かかった費用の合計滞納分は含まない9万20円

部屋に残った荷物は、明け渡しの日に、男性が友人と運び出しました。合意書には、明け渡しの日を過ぎて残った物は処分してよい、と男性の署名付きで書いてありました。荷物の処分に本人の同意を取っておくのは、後で「勝手に捨てられた」と言われないためです。入居者が亡くなっていた場合の荷物の扱いは、入居者が亡くなったときの賃貸借と遺品の記事に書いています。

女性は最後に「鍵を替えていたら、こちらが訴えられていたかもしれないんですね」と言いました。連絡が取れないときは、部屋に手を出す前に、まず居場所を確かめる。住所が分かれば、話し合いで終わることもあります。分からなければ、裁判の手続きで進める。どちらの道も、最初の一歩は同じです。

執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-29

この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。

参考(公式)

この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-29 確認)。

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