探偵・調査 2026-10-19
訴えた相手が住民票の住所に住んでいない ― 裁判所の書類が届かないとき、付郵便送達と公示送達の前に求められる現地の調査
裁判は、訴状が相手に届いてはじめて進みます。届かなかったとき、相手がそこに住んでいるのに受け取らないなら「付郵便送達」、住んでいないなら「公示送達」。どちらも、裁判所は原告に、相手の住所の現地を見た調査の報告を求めます。自分で調べるときにやってはいけないこと、探偵に頼む場面、公示送達で勝った判決のその先までを、不貞の相手に慰謝料200万円を求めた女性の数字(かかったお金の合計8万7,600円)で書きます。
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「訴状が届かなかったので、相手がそこに住んでいるかどうか調べてください、と裁判所から言われました」。30代の女性は、地方裁判所の書記官からの電話を書き取ったメモを持っていました。元夫の不貞の相手の女性に、慰謝料200万円を求める裁判を、弁護士に頼まずに自分で起こしていたのです。訴状に書いた住所は、2年前に相手から届いた謝罪の手紙にあったもので、1年前にその住所に送った内容証明郵便は、相手が受け取っていました。
裁判は、訴状が相手に届いて(送達されて)はじめて進みます。送達は、原則として郵便局の特別送達という方法で、本人か同居の家族などに手渡します。届かなかった理由が「留守で、郵便局の保管期間が過ぎた」なのか、「その住所に住んでいない」なのかで、次の手が変わります。
相手が住んでいるのに受け取らない場合は、まず休日や夜間にもう一度送る、勤め先に送る、といった方法を試します。それでも届かなければ「付郵便送達(書留郵便等に付する送達)」があります。裁判所が書留で発送した時点で、届いたものとみなす方法です(民事訴訟法107条)。相手が受け取らなくても、発送の時に送達があったことになります。
付郵便送達と公示送達のどちらになるかは、現地の調査で分かれます。電気のメーターが回っている、ベランダに洗濯物がある、郵便受けの郵便物が取り出されている、といった住んでいる様子があれば付郵便送達。表札が無く、郵便物がたまり、管理会社が退去を認めていれば公示送達、というのがおおまかな分かれ目です。勤め先が分かっているなら、先に勤め先へ送ることを裁判所から求められることもあります。
相手が住んでいなくて、どこにいるか分からない場合は「公示送達」です。裁判所が「書類をいつでも渡します」と掲示などで知らせ、それを始めた日から2週間たつと、届いたものとみなします(110条、112条)。
訴状を特別送達で送る。届かなかったとき、相手が住んでいるのに受け取らないなら付郵便送達で、書留で発送した時に届いたものとみなす。住んでいないなら、戸籍の附票で移った先を探し、分からなければ公示送達で、始めてから2週間で届いたものとみなす。どちらの道でも、裁判所は住所の現地を見た調査の報告書を求める。
民事訴訟法107条・110条・112条(2026年10月時点)。公示送達のときは、相手が欠席しても訴えの内容を認めたことにはならず、原告が証拠で立証します。
どちらの方法も、裁判所は、原告が相手の住所や居場所をきちんと調べたことを確かめてから使います。そのために求められるのが、住所の現地を見て書く調査の報告書です。裁判所ごとに「住居所調査報告書」などの書式があり、表札や郵便受けの名前、電気やガスのメーターが動いているか、洗濯物や自転車があるか、近所の人や管理会社の話、といった欄が並びます。一緒に、相手の住民票の写しや戸籍の附票(住所の移り変わりの記録)を出します。訴えを起こした人は、裁判に使うことを示せば、相手の住民票の写しなどを請求できます。附票で住所を追う方法は、相続人の住所を戸籍の附票で追う記事に書きました。
現地の調査は、自分ですることもできます。この女性も、最初は自分で行くつもりでした。気をつけるのは、やってはいけないことです。オートロックの内側や敷地の奥に入らない。郵便受けを開けて中を見ない、郵便物に触れない。近所の人に聞くときは「この部屋の方は今も住んでいますか」程度にとどめ、不貞や裁判の事情を話さない。住居侵入や名誉毀損になれば、裁判より大きな問題を抱えることになります。
探偵に頼むのは、相手と顔を合わせたくないとき、平日の朝や夜に何度も見に行けないとき、そして住んでいないと分かったあと、移った先まで探したいときです。探偵業者は、公安委員会への届出をし、契約の前に重要事項の書面を渡し、依頼者から「調査の結果を違法な目的に使わない」という書面を受け取ることが、探偵業法で決まっています。決まりの中身は、探偵業法の記事に書いています。
この女性は、私の会社に現地の確認を頼みました。私は2002年から探偵業を営んでいて、今年で24年目です。見積は、平日の朝と夜の2回の現地確認と、裁判所の書式に沿った報告書の作成で、税込6万6,000円でした。顔を合わせたくない、というのが頼んだ理由でした。
結果です。住所は3階建てのアパートの2階で、表札は無く、郵便受けはチラシであふれ、投入口がテープでふさがれていました。電気のメーターは2回とも止まっていて、管理会社は「その部屋は半年前に退去しています」と答えました。住民票と附票を取ると、住所はその部屋のまま動いていませんでした。転居届を出さずに引っ越したのです。移った先を探すには追加の調査が必要で、費用も期間も読めないため、女性はそこまではしないと決めました。
弁護士に頼んでいれば、こうした調査も弁護士が段取りをつけることが多いのですが、この女性のように本人で裁判をしていると、書記官の求めに自分で応えることになります。書記官は手続きの説明はしてくれますが、調査の代わりはしてくれません。報告書には、日時、見た場所、見たものを写真付きで書き、推測(「たぶん住んでいない」)ではなく事実(「メーターが止まっていた」)を並べます。
女性は、報告書と住民票、附票を付けて公示送達を申し立てました。公示送達が効力を生じたあとの期日に、相手は出てきませんでした。ふつう、相手が欠席すると、訴えの内容を認めたものと扱われることがありますが、公示送達のときはそうなりません。女性は、元夫と相手のメッセージのやり取りの記録を出して不貞を立証し、判決は200万円の支払いを命じました。
かかったお金は、次のとおりです。訴状に貼る収入印紙が、200万円の請求で1万5,000円。裁判所に納める郵便切手が6,000円(額は裁判所ごとに違います)。相手の住民票の写しと戸籍の附票が、この市ではそれぞれ300円で600円。現地の調査が6万6,000円。合計8万7,600円です。
| 項目 | 金額 | メモ |
|---|---|---|
| 収入印紙 | 1万5,000円 | 200万円の請求の場合 |
| 郵便切手(裁判所に納める) | 6,000円 | 額は裁判所ごとに違う |
| 住民票の写し・戸籍の附票 | 600円 | この市では各300円 |
| 現地の調査と報告書(探偵) | 6万6,000円 | 平日の朝と夜の2回 |
| 合計 | 8万7,600円 | 弁護士には頼まず本人で |
ただし、ここからが本当の問題です。公示送達で勝った判決は、相手の居場所が分からないままなので、給料や預金を差し押さえようにも、勤め先も口座も分かりません。判決で確定した権利は10年間使える(民法169条)ので、女性は判決の正本を大切に保管し、相手の勤め先や住所が分かったときに差押えを申し立てることにしました。不貞の証拠をいつ、どう集めるかは、婚姻関係が壊れたあとの不貞と証拠の時期の記事に書いています。
「届かないなら、裁判ができないと思っていました」。女性はそう言いました。公示送達は、相手が逃げても裁判を進められる仕組みですが、相手を見つける仕組みではありません。訴える前に、内容証明が届くかどうか、住所に今も住んでいるかどうかを確かめておくと、あとの段取りが読みやすくなります。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-19
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。
参考(公式)
この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-19 確認)。
- e-Gov法令検索「民事訴訟法」 ― 107条(書留郵便等に付する送達。発送の時に送達があったものとみなす)、110条(公示送達の要件:住所・居所などが知れない場合)、112条(公示送達は措置の開始から2週間で効力を生ずる)
- e-Gov法令検索「探偵業の業務の適正化に関する法律」 ― 公安委員会への届出、契約前の重要事項の書面、調査結果を違法な目的に使わない旨の書面
- e-Gov法令検索「民法」 ― 169条(確定判決で確定した権利の時効期間は10年)