探偵・調査 2026-10-16

別居してからの不倫に慰謝料は請求できるか ― 「婚姻関係の破綻」の前か後か。2026年6月の最高裁判決と、証拠の日付

夫婦の婚姻関係がすでに破綻したあとに始まった関係は、相手への慰謝料の対象になりません(1996年の最高裁判決)。2026年6月には、相手が「破綻している」と信じ、そう信じた相当の理由があれば過失はないとみる余地がある、という判断も出ました。探偵の調査が写せるのは「今」なので、別居後の写真だけでは足りないことがあります。別居8か月の夫の相談で、日付の古い証拠の探し方と、調査費用22万円と見込める慰謝料の関係を示します。

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「妻が家を出て8か月になります。最近、男の人と会っているらしい。調べて、相手から慰謝料を取りたいんです」。40代の男性からの電話でした。夫婦には小学生の子が一人。妻は子を連れて実家に戻り、婚姻費用の調停が進んでいるところでした。私は見積の話をする前に、一つだけ質問しました。「奥さんがその人と会い始めたのは、家を出る前ですか、後ですか」。

私は2002年から探偵業を営んでいて、今年で24年目になります。不貞の調査の相談で、いちばん先に確かめるのがこの「いつ」です。理由は最高裁の判例にあります。夫婦の一方と肉体関係を持った第三者は、そのとき夫婦の婚姻関係がすでに破綻していたなら、特別の事情がない限り、もう一方の配偶者に賠償の責任を負わない(最高裁1996年3月26日判決)。慰謝料で守られるのは「夫婦の共同生活の平和」なので、それが壊れたあとの関係は対象から外れる、という考え方です。

2026年6月5日、最高裁はこの考え方を一歩進めました。妻から、妻の欄を書き込んだ離婚届を見せられ、夫が「家計を別々にする」「互いのプライバシーに干渉しない」と提案したメールも見せられたうえで関係を持った男性について、「離婚したと信じた相当の理由」がなくても、「婚姻関係がすでに破綻していると信じ、そう信じたことに相当の理由」があれば、過失はないとみる余地がある、と判断しました。この夫婦は同居していましたが、会話はほとんどなく、用件はメールで伝え合っていました。事件は高松高裁に差し戻され、10月15日の報道では、高松高裁は最初の肉体関係が破綻の後だったとして、元夫の請求を退けています。

判決に付いた補足意見は、裁判所が確かめる順番を整理しています。まず、肉体関係があったか。次に、婚姻関係が破綻していたか、破綻していたならその時期と関係の始まりのどちらが先か。破綻の後なら、相手が何を知っていたかに関係なく、請求は認められません。破綻の前なら、相手が「破綻している」と信じ、それに相当の理由があったか。それもないときに、初めて慰謝料の額の話になります。

相手への慰謝料は、この順番で確かめられる(2026年6月の最高裁判決の補足意見から)
相手への慰謝料は、この順番で確かめられる(2026年6月の最高裁判決の補足意見から)一段目、肉体関係があったか。二段目、そのとき婚姻関係はすでに破綻していたか。破綻の後なら請求は認められない(1996年の最高裁判決)。三段目、破綻の前なら、相手が破綻していると信じ、そう信じた相当の理由があったか。理由があれば過失なしとして請求は認められない(2026年6月の最高裁判決)。理由がなければ、慰謝料の額の話になる。① 肉体関係があったか① 肉体関係があったか ② そのとき婚姻関係は破綻していたか② そのとき婚姻関係は破綻していたか 破綻の後破綻の後 請求できない請求できない 1996年判決1996年判決 破綻の前破綻の前 ③ 相手は「破綻している」と信じ、相当の理由があったか③ 相手は「破綻している」と信じ、相当の理由があったか 過失なし過失なし 2026年6月判決2026年6月判決 理由がない理由がない 慰謝料の額の話へ慰謝料の額の話へ

一段目、肉体関係があったか。二段目、そのとき婚姻関係はすでに破綻していたか。破綻の後なら請求は認められない(1996年の最高裁判決)。三段目、破綻の前なら、相手が破綻していると信じ、そう信じた相当の理由があったか。理由があれば過失なしとして請求は認められない(2026年6月の最高裁判決)。理由がなければ、慰謝料の額の話になる。

「破綻」に決まった年数はなく、別居の有無と期間、離婚の話の進み具合、会話や家計の状態を合わせて見ます(2026年10月時点)。

請求の中身にも区別があります。相手に請求できるのは、不貞そのものによる心の痛みへの慰謝料(不貞慰謝料)です。夫婦を離婚させたこと自体の慰謝料(離婚慰謝料)は、相手が夫婦を別れさせようとして不当に口出しをしたなどの特別な事情がない限り、相手には請求できない、というのが2019年2月19日の最高裁判決です。6月の判決の補足意見も、この二つを混ぜずに主張するよう求めています。配偶者本人に離婚の慰謝料を求めるのは、また別の話です。

何をもって「破綻」とするかに、決まった年数はありません。別居しているか、その期間、離婚の話がどこまで進んでいたか、夫婦の会話や家計がどうなっていたかを合わせて見ます。6月の判決の夫婦のように同居中でも破綻を信じる理由があったとみられる場合もあれば、別居して数か月でも、まだやり直しの話し合いが続いていた、とされる場合もあります。

調査の側から見ると、ここに落とし穴があります。探偵の調査が写せるのは「今」です。別居して8か月たった今、二人でホテルに入る写真を撮っても、それは別居後の関係の証拠です。相手から「付き合い始めたのは別居の後で、そのときにはもう離婚の話をしていると聞いていた」と言われれば、写真だけでは崩せません。必要なのは、関係が別居の前から始まっていたことを示すもの、つまり日付の古い証拠です。

日付の古い証拠は、探偵より依頼者の手元にあることが多いものです。別居前のクレジットカードの明細、同居中の家計簿、家族で使っていた端末に残った予定、二人で写った写真の撮影日。ただし、相手のスマートフォンを無断で開く、パスワードを使って相手のアカウントに入る、といった集め方は、不正アクセス禁止法違反などの違法な行為になりえます。手元に正当にあるものから、日付を拾います。

時効にも気をつけます。相手への慰謝料の請求権は、不貞の事実と相手が誰かを知った時から3年で時効になります(民法724条)。別居の前から関係に気づいていたのに何年も動かずにいると、日付の古い証拠をそろえても、請求そのものができなくなることがあります。気づいた日も、カレンダーに書いておいてください。

逆の立場の相談もあります。慰謝料を請求された側として「既婚だとは知っていたが、もう別居して離婚の話し合い中だと聞いていた」という人です。6月の判決のあとは、相手から見せられたもの(離婚届、別居先の住所、離婚の話し合いのメール)と、その日付がいっそう大事になりました。聞いた話は記録に残りません。残っているメッセージは消さずに保存しておいてください。

お金の話をします。不貞が原因で離婚に至る場合の慰謝料は、実務の目安で100〜300万円の帯です(不貞の慰謝料の記事)。ところが、関係の始まりが破綻の後なら、相手への請求は認められず、0円です。調査費用は、架空の見積で、調査員2名・1日5時間・2日間なら、調査料8,000円×2名×5時間×2日=16万円、車両費1日1万円×2日=2万円、報告書作成費2万円で、合計20万円(税別。税込22万円)。始まりが破綻の後なら、22万円を払って、請求できる額は0円という結果もありえます。

関係が始まった時期で、調査費用と見込める額の関係が変わる(この家の例)
始まりが破綻の前(別居前)始まりが破綻の後
相手への慰謝料(離婚に至る場合の目安)100〜300万円の帯0円
調査費用(税込)22万円22万円
差し引き78〜278万円マイナス22万円

この家では、こうなりました。男性に別居前の記録を探してもらうと、家族共用のタブレットに、妻の予定表が同期されたまま表示されていました。男性もふだん使っている端末です。別居の5か月前から、毎週木曜に同じ名前が入っていました。カードの明細には、同じ木曜の夜に同じ飲食店の支払いがありました。私たちは木曜の夜に絞って2日間の調査をし、二人が同じマンションに入り、翌朝まで出てこない様子を報告書にまとめました。別居前の予定表と明細、別居後の報告書。三つを並べると、関係が別居の前から続いていることが読み取れる形になりました。

男性はその後、弁護士に依頼して、相手の男性に請求しました。私たちの仕事は報告書を渡すところまでで、請求や交渉は弁護士の仕事です。不貞の調査を頼む前に、カレンダーを一枚用意してください。別居した日、離婚の話が出た日、相手の存在に気づいた日を書き込みます。調査は、その線のどちら側を写すのかを決めてから始めるほうが、費用も結果も無駄が少なくなります。

執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-16

この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。

参考(公式)

この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-16 確認)。

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