離婚・家族 2026-10-16
不倫した側から離婚を求められたら ― 有責配偶者の離婚請求が認められる三つの条件と、別居が続く間の婚姻費用
離婚の原因をつくった側(有責配偶者)からの離婚請求は、裁判ではすぐには認められません。1987年の最高裁大法廷判決は、相当の長期間の別居、未成熟の子がいないこと、相手が苛酷な状態に置かれないこと、の三つを示しました。応じるかどうかは、される側が決められます。夫が家を出て3年、子が高校生と中学生の家で、別居が続く間の婚姻費用(月14万円で3年504万円)と、条件付きで応じるときに書き出すことを示します。
この記事の位置: 別居前・離婚を考え始めたら → 離婚の中身を決める → 書面にする・届を出す → 離婚が成立したら → 離婚後の生活 → [状況別(当てはまる方だけ)]
「夫が家を出て、相手の女性と暮らしています。弁護士を通じて、離婚してほしいと言ってきました。私は応じなければいけないんですか」。40代の女性からの相談です。夫が出て行ったのは3年前。子どもは高校1年と中学1年の二人で、女性はパートで働きながら、毎月の婚姻費用(別居中の生活費)を受け取っていました。
答えから書きます。応じなければいけない、ということはありません。協議離婚は二人がそろって合意しなければできず、家庭裁判所の調停も話し合いなので、女性が応じなければ成立しません。夫が離婚を求め続けるなら、残る道は離婚の裁判です。裁判で離婚が認められるには、不貞や、婚姻を続けがたい重大な事由など、民法が決めた離婚の理由が要ります(770条)。ここで問題になるのが、離婚の原因を自分でつくった側、つまり「有責配偶者」からの請求です。
最高裁は1987年9月2日の大法廷判決で、有責配偶者からの離婚請求でも、次の三つがそろえば認められる余地がある、と判断しました。一つ、夫婦の年齢や同居していた期間と比べて、別居が相当の長期間に及んでいること。二つ、二人の間に未成熟の子(経済的に自立していない子)がいないこと。三つ、離婚によって相手が精神的・社会的・経済的にきわめて苛酷な状態に置かれるなど、離婚を認めることが著しく社会正義に反するといえる特別の事情がないこと。この事件では、別居は36年に及んでいました。
1987年の最高裁大法廷判決が示した三つの条件。一、相当の長期間の別居。この家は同居16年に対して別居3年で、まだ短い。二、未成熟の子がいない。この家は高校1年と中学1年の子がいる。三、相手が苛酷な状態に置かれない。この家では養育費や住まいの手当て次第。三つがそろわない間は、裁判で離婚が認められるのは難しい。
最高裁昭和62年9月2日大法廷判決。協議や調停なら、される側が合意すれば離婚できます(2026年10月時点)。
何年別居すれば「相当の長期間」かについて、法律にも判例にも決まった年数はありません。その後の裁判例には、36年よりずっと短い別居で認められたものもあれば、認められなかったものもあります。同居していた年数との比べ方、別居してからの夫の態度(婚姻費用をきちんと払ってきたか、子に会ってきたか)、離婚後の生活への手当て(財産分与や解決金の申し出)が、合わせて見られます。
この家に当てはめると、二つ目が大きな意味を持ちます。下の子は中学1年です。未成熟の子がいる間は、有責配偶者からの離婚請求は認められにくい、とされてきました(子の年齢だけで決まるわけではなく、自立しているかどうかで見ます)。同居は16年、別居は3年なので、一つ目も満たすとは言いにくい。夫の側から見れば、裁判で離婚を認めてもらうには、まだ何年もかかる計算です。
その間、お金はどうなるか。別居していても夫婦である限り、収入の多い側は、相手と子の生活費として婚姻費用を分担します(民法760条)。有責配偶者だから払わなくてよい、ということにはなりません。額は、裁判所が公表している算定表を目安に、二人の収入と子の人数・年齢から決めます。この家では、別居してすぐの調停で、月14万円と決まっていました。離婚すれば婚姻費用は終わり、子の養育費に切り替わります。調停委員の見込みでは、この家の養育費は月10万円前後で、差は月4万円、年48万円ほどです。夫が離婚を急ぐ理由の一つは、ここにあります。
立場が逆の場合も書いておきます。家を出て別の人と暮らしている側(有責配偶者)が、婚姻費用を求めることもあります。このとき、求める側の生活費の分は認められなかったり減らされたりして、子の生活費の分に限られることがある、というのが実務の扱いです。子に責任はないので、子の分は払われます。
婚姻費用を別居の年数で積み上げると、下のグラフのようになります。3年で504万円、5年で840万円、8年で1,344万円。応じないまま年数がたつと、女性はその間の生活費を受け取り続けますが、別居は長くなり、子も大きくなって、判例の三つの条件に近づいていきます。応じないことは、時間を味方にする選択であると同時に、いずれ条件がそろう日を待つ選択でもあります。
別居3年 504万円(14万円×12か月×3年)、別居5年 840万円、別居8年 1,344万円
月額が変わらない場合の単純な積み上げ。収入や子の年齢が変われば、婚姻費用の額も見直されます。
条件付きで応じる道もあります。有責配偶者の側は、早く離婚したいので、財産分与や慰謝料に解決金を上乗せしてくることがあります。応じる前に、決めることを紙に書き出します。財産分与(家、預金、退職金)、年金分割、不貞の慰謝料、養育費の額と終わる時期、親権(2026年4月からは、離婚後も父母の双方を親権者にすることもできます)、子との交流、住まい。とくに、夫名義の家に女性と子が住み続ける場合は、住宅ローンの支払いが止まったときにどうするかまで決めておかないと、家を失うおそれがあります(離婚と住宅ローンの記事)。
不貞の相手の女性に慰謝料を求めるかどうかも、ここで考えます。相手への請求権は、不貞の事実と相手が誰かを知った時から3年で時効になります(民法724条)。この女性が夫の不貞を知ったのは、夫が家を出る少し前でした。離婚の話し合いが長引いているうちに3年が近づいていたので、相手の女性への請求は、夫との条件とは別に、弁護士に相談して先に内容証明郵便を送りました(内容証明を送ると、時効の完成が6か月先に延びます)。
夫が裁判の前に、離婚の調停(夫婦関係調整調停)を申し立ててくることもあります。調停の費用は収入印紙1,200円と郵便切手で、申し立てられた側に費用はかかりません(2026年10月時点)。呼出状が届いたら、応じるつもりがなくても、期日には出席して「今は離婚に応じない」「応じるならこういう条件」と伝えるほうが、あとの裁判でも話が早くなります。欠席を続けると、調停は不成立で終わり、夫は裁判に進みやすくなります。
この家では、女性はすぐには返事をせず、三週間かけて条件を書き出しました。下の子が高校を卒業する年の3月まで、女性と子が今の家に住み、その間の住宅ローンは夫が払う。払いが3か月止まったら、家を売って残りを分ける。養育費は下の子が22歳になって最初の3月まで、月10万円。慰謝料と財産分与を合わせた解決金300万円。年金分割の割合は0.5。夫の弁護士はこの条件をほぼそのまま受け入れ、話し合いを始めてから8か月で、離婚の合意を公正証書にしました。
私が行政書士としてお手伝いしたのは、条件の整理と、離婚協議書の案文づくりまでです。相手方の弁護士との交渉や、調停・裁判の代理は弁護士の仕事です。不倫した側から離婚を求められても、すぐに判を押す必要はありません。まず、別居した日と、子の年齢と、毎月の婚姻費用を一枚に書き出してください。応じるか、待つか、条件を付けるかは、その紙を見てから決めても遅くありません。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-16
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。
参考(公式)
この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-16 確認)。
- 最高裁判所 昭和62年9月2日大法廷判決(昭和61(オ)260) ― 長期間の別居と有責配偶者からの離婚請求。相当の長期間の別居、未成熟子がいないこと、相手方が極めて苛酷な状態に置かれるなどの特段の事情がないこと
- e-Gov法令検索「民法」 ― 724条(不法行為の損害賠償請求権は損害と加害者を知った時から3年で時効)、760条(婚姻費用の分担)、770条(裁判上の離婚原因)
- 裁判所「夫婦関係調整調停(離婚)」 ― 離婚の調停。申立ての費用は収入印紙1,200円と連絡用の郵便切手
- 裁判所「婚姻費用の分担請求調停」 ― 別居中の生活費の分担を決める調停