相続・手続き 2026-09-09
数次相続と代襲相続の違い ― 祖父名義の土地を、今からどう動かすか
「祖父の名義のまま」の土地は、相続が二段になっています。子が親より先に亡くなっていた「代襲相続」と、親の相続手続きの途中で子も亡くなった「数次相続」は、似ているようで相続人も相続分も違います。二つの違い、数次相続で相続人が増える仕組み、登記のまとめ方、今から動かす手順を整理します。
この記事の位置: 亡くなる前にできること → 亡くなってすぐ(3か月まで) → [相続人と財産を確定する] → 分け方を決める → 名義を変える・税金(10か月〜3年) → 相続した財産をどうするか → 状況別(当てはまる方だけ)
祖父名義の土地を売りたい、と相談に来た男性は、家系図を持って来ました。祖父は32年前に死亡、相続人は祖母と子四人。祖母は20年前に、子のうち二人(男性の父と叔父)はその後に死亡。「相続人は、今、何人ですか」。数えました。祖父の子で存命の二人、亡くなった父の相続人として母と男性と弟、亡くなった叔父の相続人として叔母と従兄弟二人。合計八人。「父が祖父より先に死んでいたら、母は入らなかったんですよね」。入りませんでした。この記事は、亡くなった順番が、当事者の数を変える話です。
相続の相談で最も難しくなるのが「祖父の名義のまま」の土地です。祖父が亡くなり、その相続を済ませないうちに父も亡くなった。あるいは、父が祖父より先に亡くなっていた。どちらも相続が二段になりますが、法律上はまったく別の仕組みで、相続人も相続分も変わります。この二つを分けるところから始めます。
代襲相続は、相続人になるはずだった子が、被相続人より「先に」亡くなっていた場合です。祖父が亡くなった時点で父がすでにいなければ、父の子(祖父から見て孫)が父の代わりに相続人になります。相続分は、父が受け取るはずだった分を孫たちで分けます。ここで大事なのは、父の配偶者(孫から見て母)は相続人にならないことです。代襲するのは「子の子」だけで、子の配偶者は入りません。
数次相続は、被相続人が亡くなった「あとに」、遺産分割が終わらないうちに相続人が亡くなった場合です。祖父が亡くなり、父は相続人として祖父の遺産を受け取る立場にあった。その父が遺産分割を済ませないまま亡くなると、父の相続人(父の配偶者と子)が、父の立場を引き継いで祖父の遺産分割に参加します。この場合、父の配偶者も参加します。代襲相続と違って配偶者が入るので、当事者が一気に増えます。
| 代襲相続 | 数次相続 | |
|---|---|---|
| 起きる場面 | 子が被相続人より先に亡くなっていた | 被相続人の死後、遺産分割前に相続人が亡くなった |
| 代わりに入る人 | 亡くなった子の「子」(孫) | 亡くなった相続人の「相続人」(配偶者と子) |
| 配偶者 | 入らない | 入る |
| 相続分 | 亡くなった子の分を孫で等分 | 亡くなった相続人の分を、その相続人の法定相続分で分ける |
| 一覧図・戸籍 | 被相続人一人分 | 被相続人ごと(二人分) |
数字で比べます。祖父の遺産1,200万円、相続人は子Aと子Bの二人、Aには妻と子二人がいる、という家族で考えます。Aが祖父より先に亡くなっていた場合(代襲)、Bが600万円、Aの子二人が300万円ずつ。Aの妻は相続人ではありません。Aが祖父のあとに亡くなった場合(数次)、Bが600万円、Aの取り分600万円をAの相続人が分けるので、Aの妻が300万円、Aの子二人が150万円ずつです。同じ家族でも、亡くなった順番で、誰が当事者になり、いくら受け取るかが変わります。
| Aが先に死亡(代襲) | B 600万円 / Aの子 300万円 / Aの子 300万円 |
|---|---|
| Aが後に死亡(数次) | B 600万円 / Aの妻 300万円 / Aの子 150万円 / Aの子 150万円 |
数次相続ではAの妻が当事者に入り、遺産分割協議の署名も必要になる。
数次相続が厄介なのは、放置するほど当事者が増えることです。祖父の相続人が三人、その三人がそれぞれ亡くなって配偶者と子が承継し、さらにその子が……と二世代、三世代と重なると、遺産分割協議に署名と実印が必要な人が十人、二十人になります。相続登記の義務化の記事で書いた「相続人が二十人を超えて協議が事実上不可能」な土地は、こうしてできます。全員の合意が要る協議で、一人でも連絡が取れない、応じない人がいれば止まります。
手順としては、まず戸籍で全員を確定します。祖父の出生から死亡までの戸籍に加えて、亡くなった相続人(父)の出生から死亡までの戸籍も必要です。法定相続情報一覧図は被相続人一人につき一枚なので、祖父の分と父の分を別々に作ります。次に、遺産分割協議です。祖父の遺産について、現在の当事者全員で「誰が取得するか」を決めます。実務では、祖父から父へ、父から孫へと二段の分割を一枚の協議書にまとめる書き方をします。
登記は、中間の相続(祖父から父へ)の相続人が父一人だった場合など、一定の条件を満たせば、祖父から最終的な取得者へ直接名義を移す「中間省略」ができます。条件を満たさなければ、祖父から父へ、父から孫へと二回の登記が必要で、登録免許税も二回分かかります。どちらになるかは事案によるので、司法書士に判断してもらう領域です。
現場で整理した数字です。祖父の土地は評価額960万円。祖父の相続人は祖母(2分の1)と子四人(8分の1ずつ)。祖母が20年前に亡くなり、祖母の分480万円は子四人に均等で、子一人あたり合計240万円。男性の父は祖父のあとに亡くなったので数次相続で、父の240万円を母(2分の1で120万円)と男性と弟(4分の1ずつで60万円)が承継。叔父も同じで、叔母120万円、従兄弟60万円ずつ。存命の子二人は240万円ずつ。八人の取り分を一枚の紙に書き、全員に送りました。
もし、父が祖父より先に亡くなっていたら(代襲)、父の分240万円は男性と弟で120万円ずつ、母は相続人ではありません。数次と代襲で、母の120万円の有無が変わり、当事者が一人減る。この家では、母は協議に加わる立場でした。母は「自分は関係ないと思っていた」と言い、その一言で、相続人の数え方が「誰が、いつ亡くなったか」で決まることを、家族全員が理解しました。
協議は、男性が土地を取得し、他の七人に代償金を払う形で進めました。土地の査定は1,300万円で、七人の取り分の合計は評価額ではなく査定で計算し、母120万円分は母が辞退、残り六人に合計約1,140万円。男性は銀行から借りて払い、協議書に八人の実印が揃うまで五か月。登記は、祖父から父への中間の相続で相続人が複数(母・男性・弟)なので中間省略はできず、祖父から八人への法定相続分の登記を経ずに、協議書で直接男性へ、という形が司法書士の判断で通り、登記は一回で済みました。登録免許税は960万円×0.4%で3万8,400円。
今から動かすなら、順番は三つです。戸籍で当事者を確定する。連絡の取れない人がいれば、その人を探すか、家庭裁判所の手続き(不在者財産管理人など)を先に済ませる。全員が揃った時点で協議書を作り、登記へ進む。時間が経つほど三つ目が遠のくので、「祖父名義のまま」に気づいた時点が、いちばん動かしやすい時です。
家系図を持って来た男性の問いは「相続人は今、何人か」で、答えは八人でした。父が先に亡くなっていれば七人、叔父も先なら六人。「亡くなった順番で、誰が当事者になり、いくら受け取るかが変わる」と本文に書いたとおりで、この家では、母と叔母の二人が、順番のために当事者になりました。「祖父名義のままに気づいた時点が、いちばん動かしやすい時」と最後に書きました。この家は、八人で動かせました。九人目が生まれる前に。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-09-16
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。