学び・資格 2026-10-05
小型船舶を相続したら ― 船の大きさで窓口が分かれる、移転登録は15日以内
相続の財産に釣り船やプレジャーボートが出てきたら、まず総トン数と使い道で窓口を確かめます。20トン未満の小型船舶は日本小型船舶検査機構(JCI)の登録で、所有者が変わったら15日以内に移転登録。登録とは別に検査があり、検査証書の書換も要ります。登録事項証明書での名義の確かめ方、遺産分割協議書への書き方、手数料の内訳を、実際の相続の例で整理します。
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父親を亡くした50代の男性が、相続の書類を整理しに来ました。預金、自宅、車。そして最後に「釣り用のボートがあるんです。港の係留場所に置いたままで」。財産の一覧に船が出てくる相続は多くありませんが、出てきたときに車と同じ感覚で後回しにすると困ります。名義が父のままだと、検査の案内も係留場所の連絡も父宛てに届き続けるからです。この記事は、船を相続したときの名義の替え方です。海事代理士の試験で学ぶ海事法令の中でも、ふつうの人の生活に一番近い場面だと思います。
最初に確かめるのは、その船が何で登録されているかです。日本の船は、大きさと使い道で窓口が三つに分かれます。総トン数(船の大きさを表す指標で、重さではありません)20トン以上の船は、船舶法にもとづいて法務局で登記をし、運輸局で登録をします。20トン未満の船は「小型船舶の登録等に関する法律」(小型船舶登録法)の対象で、日本小型船舶検査機構(JCI)が国に代わって登録をしています。ただし漁船は別で、漁船法の漁船登録(都道府県。手続きは所属の漁協を通じて)になります。ろかいで動かす舟などは、小型船舶の登録の対象外です。プレジャーボートや個人の釣り船のほとんどは、真ん中のJCIです。
相続した船から三つに分かれる図。総トン数20トン以上の船は法務局で登記、運輸局で登録(船舶法)。20トン未満の船は日本小型船舶検査機構(JCI)で登録(小型船舶登録法)、所有者が変わったら15日以内に移転登録。漁船は都道府県の漁船登録で、手続きは所属の漁協を通じて行う。プレジャーボートや個人の釣り船の多くは真ん中のJCI。
登録とは別に、船舶安全法の検査(一般の小型船舶は6年ごとの定期検査と、その中間の中間検査)があります。名義が替わったら検査証書の書換も申請します。
どれに当たるかは、船体と書類で分かります。JCIの登録を受けた船には船舶番号が付いて船体に表示され、検査に合格した船には船舶検査証書と船舶検査手帳が交付されています。所有者の名前は、JCIで「登録事項証明書」を取れば確かめられます。誰でも請求でき、手数料は一部事項証明書が1,500円、全部事項証明書が1,750円です(2026年10月時点)。相続では、まずこの証明書で、名義が本当に父一人か、ほかの人との共有で持分が書かれていないかを見ます。
登録には二つの力があります。一つは、登録を受けていない小型船舶は航行させてはいけないこと(小型船舶登録法3条)。もう一つは、所有権が移ったことは、登録をしないとほかの人に主張できないこと(同4条)。家や土地の登記と同じで、名義が父のままでは、売るときにも、事故で責任を問われる場面でも、話が父の名前で進んでしまいます。
名義を替える手続きが「移転登録」です。売買や相続で所有者が変わったときに、新しい所有者が、その事由があった日から15日以内にJCIへ申請します(同10条)。申請をしないと30万円以下の罰金の対象になります(同37条)。相続では、誰が船を継ぐかを相続人の話し合い(遺産分割協議)で決めないと申請書が書けないので、準備に時間がかかりがちです。だからこそ、船があると分かった時点で、遺産分割協議書に船を一行入れること、早めにJCIの支部に事情を伝えて必要な書類を確かめることが大切です。書類は、申請書、相続を証明する戸籍など、誰が継ぐかを示す書面、印鑑証明書、手数料の払込みの証明が基本で、細かい点は支部で確かめます。
登録とは別に、検査があります。小型船舶は船舶安全法で検査を受ける決まりで、これもJCIが行います。一般の小型船舶(旅客船でないもの)は6年ごとに定期検査があり、その中間の時期に中間検査があります。名義が替わったら、船舶検査証書の所有者の書換も申請します。検査の時期を過ぎていれば、書換だけでは足りず、検査を受け直さないと動かせません。父の船舶検査手帳の「検査の時期」の欄を見て、次の検査がいつかを先に確かめます。
継がずに手放す道もあります。誰かに売るなら、相続した人の名義に移す手順を含めて、まずJCIの支部に確かめます。売る側は、実印を押した譲渡証明書と印鑑証明書、船舶検査証書と検査手帳を買主に渡し、移転登録は買主が行います。JCIは、買主が手続きをしないまま、旧所有者のもとへ検査の案内が届き続ける例が多いと注意しています。売ったら、移転登録がされたかを確かめてください。解体して処分するなら、解体した日から15日以内に抹消登録です(同12条)。
名義のほかに、船について回るものが三つあります。一つは操縦の免許。船を相続しても、操縦できるようになるわけではありません。自分で動かすなら、小型船舶操縦免許が別に要ります。二つ目は係留場所。港やマリーナに置いているなら、その使用の許可や契約は、港を管理する役所やマリーナとの間のもので、JCIの登録とは別に名義の変更や解約の手続きがあります。三つ目は、相続財産としての値段です。船も遺産の一つとして財産の一覧に載せ、相続税の計算では、同じような船の売買の値段や、専門家の意見を参考に評価します。小さな釣り船でも、一覧から抜けていると、遺産分割協議のやり直しの原因になります。協議書を作る前に、財産の一覧に船と、船外機のような付属品を書き出しておきます。
この家の場合です。船は長さ6メートルほどの釣り船で、まず登録事項証明書(一部事項、1,500円)を取り、父の単独名義であることを確かめました。兄弟二人の遺産分割協議で船は長男が継ぐと決め、協議書には「小型船舶(船舶番号 〇〇〇)は長男が取得する」と、船舶番号で特定して一行入れました。船舶検査手帳を見ると、中間検査は前の年に受けていて、定期検査まで3年近く残っていました。そこで、移転登録(3,350円)と船舶検査証書の書換(4,350円)を、同じ日にまとめて申請しました。
JCIに払った手数料は、表のとおり合計9,200円で、どれも非課税(消費税がかからない)です。戸籍や印鑑証明書を役所で取る費用は、ほかの相続手続きと共通なので、ここには入れていません。長男からは「検査が切れていたらどうなったのか」と聞かれました。定期検査の手数料は、旅客定員12人以下で長さ5メートル以上10メートル未満の船なら2万7,800円で、登録の手数料とは別にかかります。船を陸に上げて点検する費用も、さらに別です。検査の期限を先に見ておくと、こうした出費の順番も読めます。
| 手続き | 金額 |
|---|---|
| 登録事項証明書(一部事項証明書) | 1,500円 |
| 移転登録 | 3,350円 |
| 船舶検査証書の書換 | 4,350円 |
| 合計 | 9,200円 |
| (参考)検査が切れていた場合の定期検査(長さ5〜10メートル、旅客定員12人以下) | 別に2万7,800円 |
船は、家や車ほど相続の話題に上りませんが、登録・検査・係留と、名義に結びついたものが多い財産です。総トン数で窓口を確かめ、登録事項証明書で名義を見て、協議書に船舶番号で一行入れ、移転登録と検査証書の書換を一緒に出す。この順番なら、JCIに払う手数料は1万円に収まりました。自動車や株の名義変更は車・株・年金の名義変更の記事に、海の法律の全体像は海事法令の地図の記事にまとめています。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-05
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。
参考(公式)
この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-05 確認)。
- e-Gov法令検索「小型船舶の登録等に関する法律」 ― 小型船舶は総トン数20トン未満で漁船などを除く(2条)、登録の効力(3条・4条)、移転登録・抹消登録は15日以内(10条・12条)、申請をしないときの罰金(37条)
- 日本小型船舶検査機構「登録の種類・事項」 ― 移転登録は売買や相続で所有者が変わったときの登録、登録事項証明書は誰でも請求できる
- 日本小型船舶検査機構「手数料」 ― 移転登録3,350円、船舶検査証書の書換4,350円、一部事項証明書1,500円、定期検査の手数料(いずれも非課税)