学び・資格 2026-10-03
海事法令の地図 ― 船舶法・船舶安全法・船員法・船舶職員法を「籍・検査・人・免許」に分ける
海事代理士の筆記試験で取り違えが多いのは、船舶国籍証書と船舶検査証書のような「似た書類」です。船舶法(籍)、船舶安全法(検査)、船員法(人)、船舶職員及び小型船舶操縦者法(免許)の四つを箱に分け、20トン・5トン・30トン・5年と6年・1年といった数字を、どの法律の線かと一緒に整理します。
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行政書士の仕事をしながら海事代理士の受験を考えている方から、過去問の答え合わせの相談を受けました。船舶法の問題で三問続けて落としていて、三問とも同じ取り違えでした。「船舶国籍証書」と「船舶検査証書」です。「どっちも船の証明書でしょう」と言われましたが、二枚は別の法律で、別の目的のために交付される書類です。この記事は、その二枚の証書から、海事法令の地図を描く話です。
海事代理士の筆記試験は18科目あり、その多くが船と海の法律です。一科目あたりの出題は少なく、条文を一つずつ覚えていくと、どの数字がどの法律のものだったかが分からなくなります。私が勧めているのは、条文を覚える前に、法律ごとに「何を決めている法律か」という住所を決めることです。主な四つの法律を、籍(船の身元)、検査(船の安全)、人(船で働く人)、免許(船を動かす資格)の四つの箱に入れます。
船舶法は籍の箱で、登録すると船舶国籍証書が交付される(20トン以上。20トン未満は小型船舶登録)。船舶安全法は検査の箱で、定期検査に合格すると船舶検査証書が交付され、有効期間は5年(一部6年)。船員法は人の箱で、船員は船員手帳を持ち、船長が乗船中保管する。船舶職員及び小型船舶操縦者法は免許の箱で、海技士の免許は試験合格から1年以内に申請する。
船舶国籍証書(籍)と船舶検査証書(検査)は、根拠の法律も取り直す時期も違う。
籍の箱は船舶法です。第1条で、どの船が日本船舶かを決めています。日本の官庁・公署の船、日本国民の船、日本の法令で設立され、代表者の全員と業務を執行する役員の3分の2以上が日本国民である会社の船、などです。第5条では、日本船舶の所有者は、登記をしたあと、船籍港を管轄する管海官庁の船舶原簿に登録し、登録すると船舶国籍証書が交付される、と定めています。登記は法務局、登録は運輸局です。船舶国籍証書は、その船が日本の船であることの身分証にあたります。
ただし、船舶法の登記・登録の規定(第4条から第19条)は、第20条で、総トン数20トン未満の船舶と、ろかいで動かす舟には適用しない、とされています。20トン未満の船は、小型船舶の登録等に関する法律で、小型船舶登録原簿に登録を受けないと航行に使えません(第3条)。所有権が移っても、登録をしないと第三者に対抗できません(第4条)。漁船は、この法律の「小型船舶」から外され、漁船法の登録に回ります。同じ籍の箱の中で、20トンと、漁船かどうかで窓口が分かれる、ということです。
検査の箱は船舶安全法です。船が安全に航行できるかを国の検査で確かめる法律で、第5条に検査の種類が並びます。初めて航行に使うときと有効期間が切れるときの精密な検査が定期検査、その間の決められた時期に受ける簡易な検査が中間検査、改造や修理のときの臨時検査、検査証書のない船を臨時に動かすときの臨時航行検査、国が特に必要と認めたときの特別検査です。合格すると船舶検査証書が交付され、第10条で、その有効期間は5年、旅客船を除いて平水区域だけを航行する船と省令で定める小型船舶は6年とされています。船舶検査証書は、その船が今、安全に動いてよいことの証明です。
冒頭の取り違えは、ここで解けます。船舶国籍証書は船舶法(籍)の書類で、登録のときに交付される身分証です(記載が変わったときの書換えや、検認という確認の手続きがあります)。船舶検査証書は船舶安全法(検査)の書類で、5年(または6年)ごとの定期検査で取り直す安全の証明です。過去問で二つの証書の手続きや期間を入れ替えた肢が出ても、箱を思い出せば、どちらの法律の話かで迷わなくなります。
人の箱は船員法です。第1条で「船員」を、日本船舶などに乗り組む船長・海員・予備船員と定め、総トン数5トン未満の船、湖・川・港のみを航行する船、政令で定める総トン数30トン未満の漁船、レジャー用の一定の小型船舶を除いています。第50条で、船員は国土交通大臣が交付する船員手帳を持たなければならず、船長は乗船中その手帳を保管する、とされています。船長の職務と権限、雇入契約、労働時間もこの法律です。第18条では、船長が船内に備え置く書類として、船舶国籍証書や海員名簿、航海日誌が挙がっていて、ここで籍の箱と人の箱がつながります。
免許の箱は船舶職員及び小型船舶操縦者法です。第4条で、船舶職員(船長や航海士、機関士など)になろうとする者は海技士の免許を受けなければならず、免許は海技士国家試験に合格し、登録された講習を修了した者に与えられ、申請は試験に合格した日から1年以内、とされています。プレジャーボートの小型船舶操縦免許も同じ法律で、違反があれば、免許の取消しや2年以内の業務停止があります(第23条の7)。人の箱は「船で働く人の労働と身分」、免許の箱は「船を動かす資格」と分けておくと、船員手帳と海技免状を取り違えなくなります。
四つの箱に分けたあと、数字だけを一枚にまとめておくと、混同がさらに減ります。20トン(船舶法の登記・登録の線、小型船舶の上限)、5トン(船員法の適用の線)、30トン(政令で定める漁船の線)、5年と6年(船舶検査証書の有効期間)、1年(海技免許の申請期限)。同じ「トン」でも、どの法律の線かを添えて覚えます。
| 数字 | 法律 | 意味 |
|---|---|---|
| 総トン数20トン | 船舶法第20条/小型船舶登録法第2条 | 未満は船舶法の登記・登録の対象外。小型船舶(漁船を除く)の登録へ |
| 総トン数5トン | 船員法第1条 | 未満の船に乗る人は、船員法の「船員」に含まれない |
| 総トン数30トン | 船員法第1条(政令) | 政令で定める30トン未満の漁船も船員法の対象外 |
| 5年(一部6年) | 船舶安全法第10条 | 船舶検査証書の有効期間。6年は旅客船を除く平水区域の船と省令で定める小型船舶 |
| 1年 | 船舶職員及び小型船舶操縦者法第4条 | 海技士国家試験に合格した日から、海技免許を申請できる期間 |
| 2年 | 同法第23条の7 | 小型船舶操縦士の業務停止の期間の上限(違反の種類により6か月以内。取消しの場合もある) |
相談者の三問は、箱で並べ直すと、三問とも「籍の書類を検査の箱に入れていた」ものでした。KuraLabの過去問ループには、船舶法が27問、船員法が31問、船舶安全法が3問入っています(2026年10月時点)。誤答を「どの箱の取り違えか」で分けると、苦手が科目の中ではなく、科目と科目の境目にあることが見えてきます。相談者には、間違えた肢の横に、籍・検査・人・免許のどれかを一文字書いてから解説を読む、というやり方を勧めました。
条文は、e-Gov法令検索で最新のものを確認してください。海事法令は省令への委任が多く、法律の条文だけでは数字が出てこないことがあります(小型船舶の検査証書が6年になる船の範囲などは省令で決まります)。法律で箱を決め、細かい数字は省令で確かめる、という順番にすると、読む量が増えても地図は崩れません。
この箱は、合格したあとの実務でもそのまま使えます。総トン数20トン以上の船を買った人の依頼なら、籍の箱で法務局の所有権移転の登記と運輸局の登録(船舶国籍証書の書換え)、検査の箱で船舶検査証書の記載の変更、と箱ごとに手続きが分かれます。20トン未満のプレジャーボートなら、籍の箱は小型船舶の登録、検査の箱は日本小型船舶検査機構の検査で、免許の箱では、乗る人に小型船舶操縦免許があるかを確かめます。漁船なら籍の箱が漁船法の登録に変わる。依頼を受けたときに四つの箱を順に開けていくと、手続きの抜けが出にくくなります。試験勉強の地図が、そのまま仕事の段取り表になる、というのが、この分け方を勧めるもう一つの理由です。
「どっちも船の証明書でしょう」の答えは、身分証と安全の証明、でした。二枚とも船に積んで航海しますが、根拠の法律も、交付する理由も、取り直す時期も違います。船舶法・船舶安全法・船員法・船舶職員法の四つを、籍・検査・人・免許の箱に入れておくと、18科目の地図の真ん中が埋まります。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-03
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。
参考(公式)
この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-03 確認)。
- e-Gov法令検索「船舶法」 ― 第1条(日本船舶)、第5条(登記・登録と船舶国籍証書)、第20条(総トン数20トン未満への適用除外)
- e-Gov法令検索「船舶安全法」 ― 第5条(定期・中間・臨時・臨時航行・特別検査)、第10条(船舶検査証書の有効期間5年・6年)
- e-Gov法令検索「船員法」 ― 第1条(船員の定義と除外される船舶)、第18条(船内に備え置く書類)、第50条(船員手帳)