学び・資格 2026-10-06

船の「登記」と「登録」は別もの ― 総トン数20トン以上の船は法務局と運輸局の二段構え、船舶国籍証書が出るまで

総トン数20トン以上の船は、法務局で「登記」をしたあとに運輸局で「登録」をし、船舶国籍証書をもらって初めて日本の船として航行できます(船舶法5条・6条)。土地と違って窓口が二つあるので、相続や売買で船を引き継いだ人がまず戸惑うところです。海事代理士試験の船舶法でも毎年問われる順番を、父の48トンの貨物船を相続した例で、測度・登記・登録・国籍証書・検認の順に整理します。

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「法務局に行ったら、登記は終わったけど運輸局にも行ってくださいと言われました。同じことを二回やるんですか」。父が一人で動かしていた総トン数48トンの鋼製の貨物船を相続した40代の男性の相談です。同じことではなく、別のことです。土地なら法務局一か所で終わる名義替えが、船では二か所になる。この記事は、その理由と順番の話で、海事代理士とは何かの記事で触れた「海事代理士の仕事の芯」でもあります。

まず、どの船の話かを区切ります。船舶法は、総トン数(船の大きさの指標で、重さではありません)20トン以上の船に、登記と登録を求めています。20トン未満の船と、櫓や櫂で動かす小さな舟には、この決まりが適用されません(船舶法20条)。20トン未満の船は、小型船舶を相続したらの記事で書いたとおり、別の法律で日本小型船舶検査機構に登録します。つまり、ヨットや釣り船の多くは「登録だけ」、漁船以外の20トン以上の船は「登記と登録」です。

登記と登録の違いを一言で言うと、登記は「誰のものか」の記録、登録は「日本の船であること」の記録です。登記は、法務局が船舶登記簿に、所有者、抵当権(船を担保にした借入れ)などを記録するもので、土地や建物の登記と同じ仕組みです。登録は、船籍港(船の本籍地のような港)を管轄する運輸局などが船舶原簿に、船の名前、船籍港、総トン数、所有者などを記録するもので、記録が終わると船舶国籍証書が交付されます。船は、この証書をもらってからでないと、日本の国旗を掲げて航行できません(船舶法6条)。

順番は法律で決まっています。船舶法5条は「登記をした後、船籍港を管轄する管海官庁(運輸局など)の船舶原簿に登録する」と書いています。法務局が先、運輸局が後です。登録の申請には、登記が済んでいることを示す登記事項証明書を添えるので、逆の順番では受け付けてもらえません。さらにその前に、船籍港を決めて、運輸局に総トン数の測度(船の大きさを測って確定すること)を申請する、という段階があります(船舶法4条)。新しく船を造った場合は、測度、登記、登録、国籍証書、の四段です。

相続のときは、船がすでに登記・登録されているので、測度は要りません。やることは、法務局で相続による所有権移転登記をし、運輸局で所有者の変更登録と船舶国籍証書の書換えをする、の二つです。期限があります。登録した事項に変更があったときは、その事実を知った日から2週間以内に変更登録をしなければならず(船舶法10条)、所有者が変わった船は、国籍証書の書換えを申請した後でなければ航行させられません(同法6条の2)。父が亡くなった日から数えて2週間、と思うと間に合わないことが多いので、まず運輸局に電話して事情を伝え、進め方を相談してください。

20トン以上の船が動き出すまで ― 測度、登記(法務局)、登録(運輸局)、国籍証書、検認
20トン以上の船が動き出すまで ― 測度、登記(法務局)、登録(運輸局)、国籍証書、検認総トン数20トン以上の船は、運輸局で総トン数の測度を受け、法務局で所有者を登記し、そのあと運輸局の船舶原簿に登録して船舶国籍証書の交付を受ける。証書をもらってから日本の国旗を掲げて航行でき、その後は鋼製100トン以上で4年、100トン未満で2年、木製で1年ごとに検認を受ける。20トン未満の船は日本小型船舶検査機構への登録だけになる。① 測度① 測度 運輸局・総トン数を確定運輸局・総トン数を確定 ② 登記② 登記 法務局・誰のものか法務局・誰のものか ③ 登録③ 登録 運輸局・船舶原簿運輸局・船舶原簿 ④ 船舶国籍証書 交付後、国旗を掲げて航行できる交付後、国旗を掲げて航行できる ⑤ 検認(4年・2年・1年ごと)⑤ 検認(4年・2年・1年ごと) 証書を運輸局に出して確認証書を運輸局に出して確認 総トン数20トン未満の船:この流れの対象外。日本小型船舶検査機構に登録するだけ(小型船舶登録法)総トン数20トン未満の船:この流れの対象外。日本小型船舶検査機構に登録するだけ(小型船舶登録法)

総トン数20トン以上の船は、運輸局で総トン数の測度を受け、法務局で所有者を登記し、そのあと運輸局の船舶原簿に登録して船舶国籍証書の交付を受ける。証書をもらってから日本の国旗を掲げて航行でき、その後は鋼製100トン以上で4年、100トン未満で2年、木製で1年ごとに検認を受ける。20トン未満の船は日本小型船舶検査機構への登録だけになる。

相続や売買で引き継ぐ船は①が済んでいるので、②の移転登記と③の変更登録・④の書換えをします。

お金の話です。法務局の登記には登録免許税がかかり、相続による所有権移転登記は船舶の価額の1,000分の4、つまり0.4%です(登録免許税法別表第一、2026年10月時点)。売買なら1,000分の28(2.8%)で、相続の7倍です。船舶の価額は、土地の固定資産税評価額のような公的な評価がないので、法務局が示す基準で出します。男性の船は、法務局で確認した価額が1,200万円。登録免許税は1,200万円×0.4%で4万8,000円でした。運輸局の変更登録と国籍証書の書換えには、別に手数料がかかります(額は運輸局の案内で確認してください)。

この例でかかった登録免許税(船舶の価額1,200万円、2026年10月時点の税率)
手続き税率金額
相続による所有権移転登記(法務局)価額の0.4%1,200万円×0.4%=4万8,000円
(参考)売買で買った場合の移転登記価額の2.8%1,200万円×2.8%=33万6,000円
変更登録・国籍証書の書換え(運輸局)手数料運輸局の案内で確認

船籍港の話も書いておきます。船籍港は、船の本籍地のような港で、所有者が決めます。登録はこの港を管轄する運輸局などで行い、船体には国旗のほか、船名、船籍港、番号、総トン数、喫水の目盛りを法令の定めに従って表示しなければなりません(船舶法7条)。相続で引き継いだ船の船籍港を自分の住む地域に移したいときは、変更登録の一つとして手続きできますが、船体の表示も書き直すことになるので、移す必要があるかは先に考えてください。

もう一つ、船だけにある制度が「検認」です。船舶国籍証書は一度もらって終わりではなく、所有者は、国土交通大臣が定める期日までに証書を運輸局に出して、日本船舶の要件を満たしているか、船が改造されずに同じ船であるかの確認を受けなければなりません(船舶法5条の2)。間隔は、総トン数100トン以上の鋼製船で4年、100トン未満の鋼製船で2年、木製船で1年です。期日までに出さないと、国籍証書は効力を失い、運輸局が職権で登録を抹消します。男性の船は48トンの鋼製なので2年ごとで、父の代の検認がいつだったかを、証書の裏書きで確かめるところから始めました。

海事代理士試験との関係を書きます。船舶法は筆記18科目の一つで、「20トン」「登記をした後に登録」「国籍証書をもらってから航行」「変更登録は2週間以内」「検認は4年・2年・1年」は、毎年のように形を変えて出ます。覚え方は、船が生まれてから動き出すまでを一本の線にすること。測度(大きさを決める)、登記(持ち主を決める)、登録(日本の船だと決める)、国籍証書(旗を掲げる)、検認(ときどき確かめる)。この線が頭にあれば、条文の番号を忘れても答えは出ます。海事代理士試験の勉強法の記事に書いた、過去問を一肢ずつ○×にして確信度で回す方法が、この科目には特に効きます。

男性の手続きの経過です。父の死亡から、戸籍を集めて相続人を確定するのに3週間。相続人は男性と妹の二人で、遺産分割協議書に「船は長男が相続する」と書いて、法務局に相続による所有権移転登記を申請。登記完了まで10日。その登記事項証明書を持って運輸局で変更登録と国籍証書の書換えを申請し、新しい証書が出たのが申請から1週間後。父の死亡から新しい証書まで、約2か月でした。その間、船は係留したままで、運輸局には最初の週に事情を伝えてあります。

二つの窓口を一つの人に任せたいなら、海事代理士です。海事代理士法は、船舶の登記も、運輸局への登録も、海事代理士の業務と定めているので、法務局と運輸局の両方を一人に頼めます。登記だけなら司法書士にも頼めますが、運輸局の手続きは司法書士の業務ではありません。費用は代理士ごとに違うので、見積もりを取ってください。

「同じことを二回やるんですか」の答えは、違うことを二回やる、です。持ち主を決める登記と、日本の船だと決める登録。順番は登記が先。証書をもらうまで動かせない。この三行が、船を引き継いだ人が最初に知っておくことで、海事代理士試験の受験生が最初に覚えることでもあります。

執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-06

この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。

参考(公式)

この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-06 確認)。

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