相続・手続き 2026-10-29
親から相続した金の延べ棒を売ったら ― 税金は売った人の所得になる、親の買値と買った日を引き継ぐ、200万円を超えると買取店から税務署へ書類が出る
亡くなった父の金庫から100グラムの金の延べ棒が2本出てきて、娘さんが買取店で440万円で売りました。相続税はかからない家でしたが、売ったときの利益には所得税がかかります。親の買値と買った日を引き継ぐ決まり、領収書がないときの5%の扱い、年50万円の特別控除と長期の2分の1、200万円を超えると買取店が税務署に出す書類を、この家の数字(課税される所得173万円)で書きます。
この記事の位置: 亡くなる前にできること → 亡くなってすぐ(3か月まで) → 相続人と財産を確定する → 分け方を決める → 名義を変える・税金(10か月〜3年) → [相続した財産をどうするか] → 状況別(当てはまる方だけ)
「相続税はかからないと言われたので、もう税金の話は終わったと思っていました」。50代の女性が、金の買取店の明細書を持って相談に来ました。去年亡くなった父の金庫に、100グラムの金の延べ棒が2本入っていたのです。遺産分割で女性が受け取り、2026年10月に買取店で売ると、手数料を引いて440万円になりました。店では、本人確認書類に加えて、マイナンバーの確認も求められたといいます。
相続税と、相続した物を売ったときの税金は、別の税金です。相続税は、亡くなった人の財産を受け取ったことにかかる税金で、この家は財産の合計が基礎控除の内に収まっていたので、かかりませんでした。一方、受け取った金を売って利益が出ると、その利益は売った人の所得として、所得税と住民税の対象になります。金の延べ棒(金地金)を売った所得は、原則として「譲渡所得」で、給与や年金と合わせて税額を計算する総合課税です。
利益は、売った金額から、買ったときの金額(取得費)と売るための費用を引いて出します。ここで相続ならではの決まりがあります。相続で受け取った物は、亡くなった人がそのまま持ち続けていたものとして計算します(所得税法60条1項)。つまり、取得費は父が買ったときの金額、持っていた期間も父が買った日から数えます。女性が受け取った日から数えるのではありません。
左に亡くなった父。2006年に金の延べ棒2本を44万円で買った。矢印で長女へ相続。長女は父の買値44万円と買った日を引き継ぐ。右の買取店に440万円で売る。買取店から税務署へ、200万円を超えるので支払調書。長女は翌年の確定申告で譲渡所得を申告する。
2026年10月時点の所得税法60条1項と国税庁の案内による。金の延べ棒を売った所得は、原則として総合課税の譲渡所得です。
持っていた期間が5年を超えると「長期」、5年以内なら「短期」です。長期なら、特別控除の50万円を引いたあとの金額の半分だけが、ほかの所得と合わされます。短期は全額です。特別控除は、その年の総合課税の譲渡益の合計に対して50万円までで、利益が50万円以下なら課税される所得はありません。
この家では、金庫に父の領収書が残っていました。2006年に、100グラムを2本、合わせて44万円で買ったものです。買った日から20年たっているので長期です。計算はこうなります。売った金額440万円から取得費44万円を引いて、利益は396万円。特別控除50万円を引いて346万円。長期なのでその半分の173万円が、女性のほかの所得に足されます。
領収書がなかったらどうなるか。取得費が分からないときは、売った金額の5%を取得費とする扱い(概算取得費)があります。この家なら440万円の5%で22万円です。利益は418万円、特別控除を引いて368万円、半分で184万円。領収書があるかないかで、課税される所得は11万円違いました。相続の片付けで古い書類を捨てる前に、金や美術品、株の買ったときの書類は、別にしておくことを勧めています。
申告が要るかどうかも確かめました。女性は会社員で、ふだんは年末調整で済ませています。会社員でも、給与のほかの所得が20万円を超えると確定申告が要ります。この家の173万円は20万円を大きく超えるので、申告が要ります。金の延べ棒だけでなく、金貨やプラチナの地金を売ったときも、同じように考えます。
税額は、ほかの所得と合わせて税率をかけるので、人によって違います。仮に、173万円を足しても所得税率10%の段に収まるとすると、所得税が約17万3,000円、住民税(10%)が約17万3,000円で、合わせて約34万6,000円です(復興特別所得税は別)。所得が増えると、翌年の国民健康保険料が上がることもあります。正確な税額は、税務署か税理士に確かめてください。
| 領収書あり | 領収書なし(5%) | |
|---|---|---|
| 売った金額(手数料を引いた額) | 440万円 | 440万円 |
| 取得費 | 44万円(父の買値) | 22万円(440万円×5%) |
| 利益(譲渡益) | 396万円 | 418万円 |
| 特別控除 | 50万円 | 50万円 |
| 長期なので半分が課税される所得 | 173万円 | 184万円 |
| 仮に所得税10%・住民税10%なら | 約34万6,000円 | 約36万8,000円 |
買取店がマイナンバーを確かめた理由も書いておきます。金の売買を仕事にしている店は、一度に200万円を超える代金を払うとき、売った人の住所・氏名・マイナンバー、金の種類や重さ、払った金額を書いた支払調書を税務署に出すことになっています。税務署は、誰がいくらで金を売ったかを知ることができる、ということです。同じ年のうちに2本を別の日に1本ずつ売っても、利益はその年の分を合わせて計算するので、申告が要ることは変わりません。
明細書の見方も話しました。この店の明細書では、売値から手数料を差し引いた額が支払額になっていました。売値を「売った金額」、手数料を「売るための費用」と分けて書いても、差し引いた額で書いても、利益は同じです。
この家は2本を同じ年に売ったので、特別控除は50万円を一回だけ使いました。年をまたいで1本ずつ売っていれば、それぞれの年で50万円まで引けたことになります。ただ、金の値段は年によって上がりも下がりもします。税金のためだけに売る時期を決めるのは、私は勧めていません。
申告は、売った年の翌年の確定申告で行います。女性の場合、2026年に売ったので、2027年2月16日から3月15日までです。申告書の譲渡所得の欄に、売った金額、父の領収書の金額、父が買った日を書き、買取店の明細書と父の領収書の写しを手元に残しておきます。
相続税がかかった家なら、もう一つ使える決まりがあります。相続税の申告期限から3年以内に売れば、払った相続税の一部を取得費に足せる特例です。相続した財産の取得費加算の記事に、計算の仕方を書いています。この家は相続税がかからなかったので、使えませんでした。
相続税がかかる家では、もう一つ順番があります。金庫の金は、亡くなった日の時価で相続財産に入れて相続税を計算し、そのうえで売ったときの利益に所得税がかかります。同じ金に二つの税金がかかるように見えますが、相続税は受け取ったこと、所得税は値上がりした分にかかるもので、対象が違います。金庫の中身は家族も知らないことが多く、相続の財産調べのときに、貸金庫も含めて一度開けて確かめておくことを勧めています。
もう一つ、気をつけたいのは、遺産分割の前に売る場合です。分ける前の金は相続人全員のものなので、売った利益も、相続分に応じて相続人それぞれの所得になります。この家では、遺産分割協議書に「金地金200グラムは長女が取得する」と書いてから売ったので、女性一人の所得になりました。
相談の終わりに、女性は、弟から「売ったお金を少し分けてほしい」と言われていると話しました。協議書で女性が受け取ると決めた金なので、売ったお金は女性のものです。それでも分けるなら、弟への贈与になり、弟が受け取る額が1年に110万円を超えると、弟に贈与税がかかります。分けるなら、売る前に協議書を作り直すかどうかも含めて考える必要があります。
「売ったお金で、相続の税金の心配はもうないと思っていました」。女性はそう言って、領収書の写しを封筒に戻しました。相続でもらった物を売るときは、親の買値と買った日を確かめる。そこから先の税額の計算は、税務署か税理士に確かめる。その順番で進めれば、翌年の春に慌てずに済みます。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-29
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。
参考(公式)
この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-29 確認)。
- 国税庁 No.3161 金地金の譲渡による所得 ― 金地金を売った所得は原則として総合課税の譲渡所得。譲渡益=譲渡価額−(取得費+譲渡費用)、特別控除は年50万円、所有期間5年超の長期は2分の1が課税
- 国税庁 F1-42 金地金等の譲渡の対価の支払調書 ― 金地金等の売買を業とする者が、200万円を超える対価を支払うときに税務署へ提出する
- e-Gov法令検索「所得税法」 ― 60条1項(相続で取得した資産は、亡くなった人が引き続き持っていたものとみなして譲渡所得を計算する)