相続・手続き 2026-09-26

相続した土地を売るときの取得費加算の特例 ― 払った相続税の一部を経費にできる、3年10か月の期限

相続税を納めた人が、相続した土地や株を一定の期限内に売ると、納めた相続税のうち売った財産に対応する分を「取得費」に足せます。期限は、亡くなってからおおむね3年10か月。計算式、空き家の3,000万円特別控除とどちらか一方しか使えないこと、確定申告の書類。父の土地を売る兄弟の実際の数字で、譲渡所得の税金がいくら変わるかを書きます。

目次を見る →

この記事の位置: 亡くなる前にできること → 亡くなってすぐ(3か月まで) → 相続人と財産を確定する → 分け方を決める → 名義を変える・税金(10か月〜3年) → [相続した財産をどうするか] → 状況別(当てはまる方だけ)

「相続税を払ったばかりなのに、売ったらまた税金なんですか」。50代の男性は、父の家の土地の査定書と、相続税の申告書の控えを並べて言いました。父が亡くなったのは2024年6月。相続人は男性と弟の二人で、相続税は兄弟あわせて1,160万円、男性の分は580万円でした。土地は男性が相続し、誰も住まないので売るつもりだと言います。相談は、父が亡くなって2年3か月がたった9月でした。私は、申告書の控えの一枚目を指さして、「この580万円の一部は、売るときの経費に足せるかもしれません」と言いました。

土地を売ったときの税金は、もうけ(譲渡所得)にかかります。譲渡所得は、売った値段から、その土地を手に入れたときの値段(取得費)と、売るためにかかった費用(譲渡費用)を引いた額です。相続した土地の取得費は、亡くなった人が買ったときの値段を引き継ぎます。昔のことで分からなければ、売った値段の5%を取得費にできます。持っていた期間も引き継ぐので、親が長く持っていた土地なら「長期」の扱いになり、税率は所得税と住民税あわせて20.315%です(復興特別所得税を含む、2026年9月時点)。この基本は、不動産を売ったときの税金の記事に書いています。

ここに一つ足せるのが、「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」、いわゆる取得費加算です。相続や遺贈で財産を取得して相続税を納めた人が、その財産を、相続開始の日の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売った場合、納めた相続税のうち、売った財産に対応する部分を取得費に足せます。相続税の申告期限は亡くなったことを知った日の翌日から10か月なので、期限はおおむね「亡くなってから3年10か月」です。土地や建物だけでなく、相続した株式を売るときにも使えます。

取得費加算の期限(この記事の家)

  1. 2024年6月 父が亡くなる(相続開始)
  2. 2025年4月 相続税の申告期限(亡くなったことを知った日の翌日から10か月)
  3. 2026年9月 相談の日(期限まで1年7か月)
  4. 2028年4月 取得費加算の期限(申告期限の翌日以後3年。この日までに売れば使える)

足せる額は、次の式で出します。その人が納めた相続税額 ×(売った財産の相続税評価額 ÷(その人の相続税の課税価格 + その人の債務控除額))。つまり、自分の相続税を、自分が相続した財産の中で売った財産が占める割合で分けるイメージです。ただし、足せる額は、この特例を使う前の譲渡益が上限で、特例を使って損を出すことはできません。2015年1月1日より前の相続では、土地を売ると相続した土地全部に対応する相続税を足せましたが、今は売った土地の分だけです。

使える人は、相続税を実際に納めた人だけです。相続税がかからなかった家、基礎控除の記事で書いた範囲に収まった家では、足すものがありません。また、同じ家の相続人でも、預金だけを相続した弟のように売る財産がない人には関係のない特例です。相続人ごとに、自分の申告書の数字で計算します。

判断の分かれ目は、空き家の特例との関係です。亡くなった人が一人で住んでいた家とその敷地を売るときは、1981年5月31日以前に建てられた家であることなどの条件を満たせば、譲渡所得から最高3,000万円を差し引ける「被相続人の居住用財産(空き家)の特例」があります(2024年1月1日以後の譲渡で、家と敷地を相続した人が3人以上なら1人2,000万円)。この特例と取得費加算は、どちらか一方しか選べません。空き家の特例が使えるなら、たいていそちらのほうが大きく効きます。男性の父の家は1986年の建築で、建てられた時期の条件に当たらず、取得費加算で考えることになりました。空き家の記事で書いた3,000万円の話が使えない家は、実は少なくありません。

手続きは、売った年の翌年の確定申告です。2月16日から3月15日までの間に、譲渡所得の申告書に「相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書」を付けて出します。明細書に書き写すのは、相続税の申告書に載っている、自分の課税価格、債務控除の額、納めた相続税額、そして売った土地の相続税評価額です。申告書の控えを失くしていると、ここで手が止まります。相続税を頼んだ税理士の事務所に控えが残っていることが多いので、先に確かめておきます。

期限の数え方で気をつけたいのが、売った「日」です。税金の上では、原則として土地を引き渡した日が売った日になり、契約の日を選ぶこともできます。期限の直前に契約して、引渡しが期限をまたぐような日程なら、どちらの日で申告するかで特例が使えるかどうかが変わります。日程が期限に近いときは、契約の前に税理士に確かめてください。

男性の家に当てはめます。遺産は、父の家の土地が相続税評価額で3,000万円、預金が9,000万円、合計1億2,000万円。建物は古く、評価額も売値もわずかなので、ここでは土地だけで数えます。男性は別に持ち家に住んでいたので、小規模宅地等の特例は使えませんでした。基礎控除は4,200万円(3,000万円+600万円×2人)で、相続税は総額1,160万円。男性は土地3,000万円と預金3,000万円の6,000万円を相続したので、その半分の580万円を納めています。債務や葬式費用の控除はありませんでした。

取得費に足せる額は、580万円×(3,000万円÷6,000万円)で290万円です。土地の売値は査定どおり3,600万円とします。父が土地を買ったのは50年近く前で、売買の書類が残っていないので、取得費は売値の5%の180万円。譲渡費用は、仲介手数料が税込125万4,000円、売買契約書の印紙が1万円で、126万4,000円です。特例を使わなければ、譲渡所得は3,293万6,000円、税金は約669万1,000円。取得費加算を使うと、譲渡所得は3,003万6,000円になり、税金は約610万2,000円。差は約58万9,000円です。

土地を3,600万円で売ったときの譲渡所得と税金(この記事の家)
項目特例を使わない取得費加算を使う
売った値段3,600万円3,600万円
取得費(売値の5%)180万円180万円
取得費に足す相続税―290万円(580万円×3,000÷6,000)
譲渡費用(仲介手数料・印紙)126万4,000円126万4,000円
譲渡所得3,293万6,000円3,003万6,000円
税金(20.315%)約669万1,000円約610万2,000円
差約58万9,000円少ない
譲渡所得にかかる税金の比較(この記事の家)
譲渡所得にかかる税金の比較(この記事の家)特例を使わない669.1万円取得費加算を使う610.2万円

特例を使わない 669.1万円、取得費加算を使う 610.2万円

差は約58万9,000円。長期譲渡所得の税率20.315%(所得税15.315%+住民税5%、2026年9月時点)で概算。実際の税額は所得税と住民税を別々に計算し、端数を切り捨てます。

期限も数えました。父が亡くなったのが2024年6月、相続税の申告期限は2025年4月、取得費加算の期限はその3年後の2028年4月です。相談の日から1年7か月あります。男性は、来年の春に引き渡す日程で売り出すことにしました。売った年の翌年、2028年の3月に確定申告をします。

私ができるのは、ここまでの当たりをつけるところまでです。取得費加算の計算は、代償金を払って土地を取った場合や、相続税の申告を後から修正した場合などに調整が要り、最後の数字は税理士が確かめるものです。男性には、相続税を頼んだ税理士に、売却の確定申告も相談するよう勧めました。持っていくものは、相続税の申告書の控え、売買契約書、仲介手数料の領収書の三つです。

帰り際、男性は申告書の控えをクリアファイルに戻しながら、「捨てなくてよかった」と言いました。相続税の申告書は、納めたら終わりの書類ではありません。3年10か月のあいだ、売るときの経費の証明になります。相続した土地や株を売るかもしれない人は、控えを、売り終わるまで手元に置いておいてください。

執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-09-26

この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。

参考(公式)

この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-09-26 確認)。

あわせてどうぞ

解説記事一覧