相続・手続き 2026-10-14
実家のタンスから現金が出てきたら ― 数えて記録する、使わずに預ける、基礎控除を超えるか足し算する
亡くなった親の家から現金が出てきても、銀行に入れること自体に税金はかかりません。問題は、その現金が相続財産で、相続人みんなのものだということです。見つけた日に全員で数えて記録する、自分の口座に混ぜない、相続放棄を考えているなら手を付けない。そのうえで財産の合計と基礎控除を比べます。タンスの300万円で基礎控除を100万円超えた家の足し算と、相続税の概算(家族で約4万4,800円、特例を使う前)を、金額で示します。
この記事の位置: 亡くなる前にできること → 亡くなってすぐ(3か月まで) → [相続人と財産を確定する] → 分け方を決める → 名義を変える・税金(10か月〜3年) → 相続した財産をどうするか → 状況別(当てはまる方だけ)
「父の寝室のタンスの引き出しから、封筒が七つ出てきました。数えたら300万円ありました」。四十九日を終えた50代の男性からの電話でした。母と妹と三人で、遺品を片付けていた日のことです。男性が聞きたかったのは二つでした。「銀行に入れたら税金がかかりますか」「黙っていたら分かりませんか」。この記事は、その二つへの答えと、見つけたその日にしてほしいことを書きます。
先に一つ目の答えです。現金を銀行口座に入れること自体に、税金はかかりません。税金の話になるのは、その現金が「亡くなった人の財産」だからです。国税庁は、相続税がかかる財産を、現金、預貯金、有価証券、土地、家屋など「金銭に見積もることができる経済的価値のあるすべてのもの」と説明しています。タンスにあっても銀行にあっても、父の財産であることは変わりません。
二つ目の答えは、相続税の申告が要る家かどうかで変わります。申告が要るのは、財産の合計が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える家です。超えない家なら、300万円を足しても申告は要りません。超える家では、現金も申告書に書く財産の一つです。書かずにいて後から分かれば、本来の税金に加えて、過少申告加算税(申告が少なかったことへの上乗せの税)や延滞税がかかります。「分かるかどうか」より先に、「足すと基礎控除を超えるか」を確かめてください。
見つけた日にすることは三つです。一つ、相続人がそろっているところで数え、日付・場所・金額・封筒の数を紙に書いて、その場の全員が署名します。写真も撮ります。二つ、預かる人を一人決め、その人の生活費の口座には入れないこと。入れると自分のお金と混ざり、あとで「いくら残っているのか」が分からなくなります。分け方が決まるまでは封筒のまま保管するか、記録を残したうえで、預かり専用の口座を別にして管理します。三つ、封筒の表書きやメモも捨てずに残すこと。「孫の学費」と書いた封筒は、誰のためのお金だったかの手がかりになります。
現金は、分け方を決めるまで相続人みんなのものです。銀行の預金は2016年の最高裁の決定で遺産分割の対象になりましたが、現金はそれより前から、話し合い(遺産分割)で行き先を決める財産とされてきました。最高裁平成4年4月10日判決は、現金を預かっている相続人に対して、ほかの相続人が「自分の相続分を今すぐ渡せ」とは請求できないとしています。見つけた人が自分の取り分だけ先に持ち帰ることもできません。遺産分割協議書に「現金300万円は誰がいくら取得する」と一行書いて、行き先を決めます。書き方は遺産分割協議書の記事にまとめました。
相続放棄を考えている人は、もう一段注意が要ります。亡くなった人の借金が多く、放棄を考えているときに、見つけた現金を使うと、相続を認めた(単純承認した)とみなされるおそれがあります(民法921条1号)。そうなると、放棄ができなくなることがあります。この場合は、数えて記録し、手を付けずに保管するだけにして、相続放棄の期限と手順の記事を先に読んでください。
遺品整理を業者に頼む家も多いと思います。作業中に現金や通帳が見つかったら、作業を止めて連絡してもらうよう、見積の段階で頼んでおいてください。見つかった物の一覧を作業報告に入れてもらうと、あとで相続人の間で「本当はもっとあったのでは」という疑いが出にくくなります。
この家では、実際に足し算をしました。父の財産は、自宅の土地と建物(相続税の評価額で、特例を使う前)が2,000万円、銀行の預金が2,600万円。ここまでで4,600万円です。相続人は母・男性・妹の三人なので、基礎控除は3,000万円+600万円×3人=4,800万円。現金がなければ200万円下回り、申告は要らない家でした。タンスの300万円を足すと4,900万円になり、基礎控除を100万円超えます。七つの封筒が、この家を「申告が要る家」に変えたことになります。
財産の合計(現金なし) 4,600万円(自宅2,000万円+預金2,600万円)、基礎控除(相続人3人) 4,800万円(3,000万円+600万円×3人)、財産の合計(現金あり) 4,900万円(基礎控除を100万円超える)
自宅の評価は小規模宅地等の特例を使う前の額。特例を使えば合計は基礎控除を下回る見込みでしたが、特例を使うためにも申告が要ります。
税額の見当も付けておきます(特例を使わない場合の概算)。基礎控除を引いた残り100万円を法定相続分で分けると、母50万円、男性と妹が25万円ずつ。それぞれに税率10%を掛けると5万円、2万5,000円、2万5,000円で、相続税の総額は10万円です。これを、実際に受け取る割合で分けます。分け方は、母が自宅2,000万円・預金600万円・現金100万円で2,700万円、男性と妹が預金1,000万円・現金100万円で1,100万円ずつ(合計4,900万円)。母の分(約5万5,100円)は配偶者の税額軽減で0円、男性と妹は約2万2,400円ずつで、家族の納税額は合計約4万4,800円です。
| 母 | 男性 | 妹 | 合計 | |
|---|---|---|---|---|
| 自宅 | 2,000万円 | ― | ― | 2,000万円 |
| 預金 | 600万円 | 1,000万円 | 1,000万円 | 2,600万円 |
| タンスの現金 | 100万円 | 100万円 | 100万円 | 300万円 |
| 受け取る財産 | 2,700万円 | 1,100万円 | 1,100万円 | 4,900万円 |
| 相続税の総額10万円の割り振り | 約5万5,100円 | 約2万2,400円 | 約2万2,400円 | 約10万円 |
| 納める額 | 0円(配偶者の税額軽減) | 約2万2,400円 | 約2万2,400円 | 約4万4,800円 |
ここで大事なのは、金額より手続きです。配偶者の税額軽減も、自宅の土地の評価を下げる小規模宅地等の特例も、申告書を出すことが使う条件です。この家は特例を使えば評価が下がって基礎控除を下回り、納税は0円になる見込みでしたが、それでも「特例を使うための申告」は要ります。期限は、亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です。この家は、相続税申告の流れの記事に沿って税理士に相談し、申告書には現金300万円をそのまま載せました。計算と申告書の作成は税理士の仕事なので、私がしたのは、財産の一覧と、現金を数えた日の記録をそろえるところまでです。
「黙っていたら分からないか」についても、私の考えを書いておきます。相続税の調査では、亡くなった人の過去の預金の出入りが見られます。この家の父は、亡くなる前の5年間、年金が入るたびに毎月5万円ずつ引き出していました。5万円×60か月で300万円。通帳を見れば、引き出した合計と、どこかに残っているはずの現金の見当がつきます。タンスの現金は、通帳の側から見えてしまう財産です。家族名義の口座に移していた場合の扱いは、名義預金の記事に書きました。
男性は電話の最後に、「数えたときの紙は、まだ書いていません」と言いました。その週末、三人でもう一度封筒を開けて数え直し、紙に書いて三人で署名しました。300万円は、母と男性と妹が100万円ずつ受け取ることになり、協議書に一行が足されました。見つけた日に数えて書く。使わずに預ける。足し算をして基礎控除と比べる。タンスの現金で迷ったら、この三つの順番です。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-14
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。
参考(公式)
この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-14 確認)。
- 国税庁 No.4105「相続税がかかる財産」 ― 相続税がかかる財産は、現金、預貯金、有価証券、土地、家屋など金銭に見積もることができるすべてのもの
- 国税庁 No.4152「相続税の計算」 ― 基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)と、相続税の総額の計算の流れ
- e-Gov法令検索「民法」 ― 921条1号(相続財産の全部または一部を処分したときは、単純承認したものとみなす)