探偵・調査 2026-10-28
SNSで知り合った相手に投資名目で振り込んでしまったら ― 振り込め詐欺救済法で口座の残高から戻る仕組み、按分の計算、「返金できる」という探偵の広告
マッチングアプリで知り合った相手に勧められ、投資名目で3回、計300万円を二つの個人名義の口座に振り込んだ。銀行振込なら、振り込め詐欺救済法で振込先の口座を止め、残っていたお金を被害者で分ける手続きがある。60日・30日の公告の流れ、残高が足りないときの按分の計算、暗号資産や手渡しが対象外になる理由、「返金できます」とうたう業者に頼む前に考えることを書きます。
この記事の位置: [依頼する前に知っておくこと] → 所在を調べる → 証拠を集める
「探偵さんなら、相手を見つけてお金を取り返せますか」。相談に来たのは60代の女性でした。マッチングアプリで知り合った男性と毎日やりとりするうちに、「一緒に将来のための資産を作ろう」と投資のサイトを勧められ、3回に分けて、計300万円を振り込みました。画面の上では残高が増えていましたが、引き出そうとすると「税金と手数料を先に払ってください」と言われ、そこで初めておかしいと思ったそうです。机の上には、振込の控えが3枚と、相手とのやりとりを印刷した紙の束がありました。
私は2002年から探偵業を営んでいて、今年で24年目になります。最初にお伝えしたのは、探偵が相手を見つけてお金を取り返す、という順番は、ほとんどの場合うまくいかない、ということでした。相手の名前も写真も偽物のことが多く、やりとりの相手は海外にいることもあります。それより先に、法律で用意された手続きがあります。振込の控えを見ると、振込先は個人名義の口座が二つ。1回目の100万円がA銀行の口座、2回目の150万円と3回目の50万円がB信用金庫の口座でした。
使える手続きは、振り込め詐欺救済法(正式には「犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律」)です。名前は振り込め詐欺ですが、対象は、詐欺など人の財産を害する犯罪で、被害者からの振込みを使ったもの全般です。SNSで知り合った相手に勧められた投資名目の詐欺でも、銀行や信用金庫の口座に振り込んでいれば対象になり得ます。お金を取り返すのではなく、犯人の口座に残っていたお金を止めて、被害者に分ける仕組みです。
手続きの順番はこうです。まず警察に相談し、被害を届け出ます。同じ日に、振込先の銀行(A銀行とB信用金庫)と、自分が振り込んだ銀行に電話し、詐欺の被害に遭ったことと振込先の口座を伝えます。銀行は、警察からの情報などで犯罪に使われた疑いがあると判断すると、その口座の取引を止めます(3条・4条)。止まる前に引き出されたお金は戻りません。だから、おかしいと思った日に電話することが、何より結果を左右します。
口座が止まると、預金保険機構が公告を出します。最初の公告は、口座の名義人に「権利があるなら届け出てください」と知らせるもので、期間は公告の翌日から60日以上です(5条2項)。名義人から届出がなければ、口座のお金の権利は消えます。次の公告で、被害者からの支払いの申請を受け付けます。申請の期間は30日以上です(11条2項)。公告は預金保険機構のサイトで、口座の金融機関・支店・口座番号から探せます。この女性は、自分の振込先の口座が載るのを待ち、申請期間に入ったら、振込の控えとやりとりの記録を添えて銀行に申請します。
左から右へ五つの箱。1. 警察と銀行に連絡。2. 銀行が振込先の口座を止める(止まる前に引き出された分は戻らない)。3. 預金保険機構が1回目の公告:名義人の権利行使の届出期間60日以上。4. 2回目の公告:被害者の支払申請期間30日以上。5. 銀行が被害額を決め、残高を被害額の割合で分けて支払う。下に、対象外として暗号資産・現金の手渡し・電子マネーの番号。
期間は法律の最低限で、実際の期間は預金保険機構の公告で確かめる。2026年10月時点の条文。
ここで知っておきたいのが、戻る額の計算です。口座に残っていたお金を、申請した被害者の被害額の割合で分けます(16条2項)。被害額の合計が残高より大きければ、全額は戻りません。また、ほかから被害の補てんや賠償を受けていれば、その分は被害額から差し引かれます(12条)。分けるお金が1,000円未満なら、分配そのものが行われません(8条3項)。
この女性の場合を、仮の数字で計算します。A銀行の口座で止まったのが80万円、申請した被害者の被害額の合計が400万円(うち女性の分が100万円)なら、80万円×100万÷400万で20万円。B信用金庫の口座で止まったのが30万円、被害額の合計が500万円(うち女性の分が200万円)なら、30万円×200万÷500万で12万円。合わせて32万円で、振り込んだ300万円の1割ほどです。実際の残高は、公告を見るまで分かりません。
| 振込先 | 女性が振り込んだ額 | 止まった残高 | 申請した被害額の合計 | 女性に分けられる額 |
|---|---|---|---|---|
| A銀行の口座 | 100万円 | 80万円 | 400万円 | 80万×100万÷400万=20万円 |
| B信用金庫の口座 | 150万+50万=200万円 | 30万円 | 500万円 | 30万×200万÷500万=12万円 |
| 合計 | 300万円 | 32万円(振り込んだ額の約1割) |
対象にならない払い方もあります。この法律が対象にするのは、銀行・信用金庫・農協などの預貯金口座への振込みです(2条)。暗号資産で送った分、現金を手渡しした分、電子マネーのカードの番号を伝えた分は、この仕組みでは戻りません。相手が途中から「次は暗号資産で」と言い出すのは、口座が止められやすいことを知っているからだ、と私は見ています。
申請には、自分が被害者であることと、失った額を示す資料を付けます(12条)。振込の控えや通帳の写し、相手とのやりとりの記録、警察に相談したときの受理番号などです。被害に遭った本人が手続きの途中で亡くなっても、相続人が代わりに申請できます(8条2項)。公告から支払いまでは、二つの期間を足すだけで90日(約3か月)になり、実際にはもっとかかります。その間に「早く取り戻せる」という連絡が来たら、それ自体を疑ってください。
さて、最初の質問の「探偵なら取り返せるか」です。被害に遭った人を狙って「詐欺の被害金を取り戻します」とうたう広告は、ここ数年で目立つようになりました。探偵業法は、調査のために他の法律で禁じられたことができるようにする法律ではありません(6条)。お金を返せと相手と交渉することは、法律の事件を扱うことにあたり、報酬をもらってできるのは弁護士だけです(弁護士法72条)。調査料を先に払わせて、何も戻らない、という二度目の被害の相談も、私のところに来ています。
では、自分でできることは何か。振込の控え、相手のプロフィール画面、やりとりの記録、投資サイトの画面とアドレスを、日付が分かる形で保存します。消される前に、スクリーンショットと、可能ならPDFで残します。やりとりに使ったアプリのアカウントは、腹が立っても削除しません。相手のアカウントが消えても、自分の側の記録は残るからです。振込の控えを無くしていても、通帳や銀行のアプリの取引の履歴が代わりになります。これは警察への届出にも、救済法の申請にも、弁護士に相談するときにもそのまま使えます。相手の身元を調べる意味があるのは、相手が国内の実在の人物で、弁護士に頼んで訴えるなど、その先の手続きが見えている場合に限られます。
この女性は、その日のうちに警察署と二つの金融機関に電話をしました。A銀行の口座はすでに止まっていて、B信用金庫の口座はその日に止まりました。相手からは翌日、「税金を払わないと口座が凍結される」というメッセージが来ましたが、返信はしていません。戻るのは振り込んだ額の一部です。それでも、残っていたお金を他の被害者と分ける仕組みは、電話一本の早さで結果が変わります。おかしいと思ったら、探偵より先に、警察と銀行に電話してください。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-28
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。
参考(公式)
この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-28 確認)。
- e-Gov法令検索 犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律(振り込め詐欺救済法) ― 2条(対象は銀行・信用金庫・農協などの預貯金口座への振込みを使った詐欺など)、3条・4条(取引の停止と預金保険機構への公告の求め)、5条2項(権利行使の届出期間は公告の翌日から60日以上)、8条3項(1,000円未満は分配しない)、11条2項(支払申請期間は30日以上)、12条(申請書と疎明資料)、16条2項(被害額の合計が残高を超えるときは按分)
- 預金保険機構 振り込め詐欺救済法に基づく公告 ― 振込先の口座について手続きが進んでいるか、残高、申請期間を確かめられる公告のサイト
- e-Gov法令検索 探偵業の業務の適正化に関する法律 ― 6条(探偵業法の調査は、他の法令で禁止・制限されている行為ができるわけではない)