探偵・調査 2026-10-24
海外の弁護士から「遺産を受け取ってほしい」という手紙が来たら ― 知らない親族の死亡と巨額の保険金、手数料を何度も振り込ませる手口、返事をする前に自分の戸籍で確かめる
カナダの弁護士を名乗る人から、同じ名字の人の保険金を「親族として受け取ってほしい」という国際郵便が届いた。遺産や保険金を名目にした国際的な詐欺の筋書き、認証料・送金手数料・弁護士費用と名目を変えて何度も振り込ませる仕組み、手紙の連絡先に返事をする前に自分の戸籍で親族を確かめる順番、海外の口座に送ってしまったときの難しさを、探偵業24年目の立場から書きます。
この記事の位置: [依頼する前に知っておくこと] → 所在を調べる → 証拠を集める
「カナダの弁護士から手紙が届きました。私と同じ名字の人が向こうで亡くなって、保険金を受け取る人がいない。親族として申請してくれれば、半分を私に渡す、と書いてあるんです。この弁護士が本物かどうか、調べてもらえますか」。相談に来たのは、地方で小さな会社を経営する60代の男性でした。封筒には外国の切手と消印があり、便箋には法律事務所の名前と住所、弁護士の署名、受け取れるという金額が並んでいました。男性には、海外で暮らす親族の心当たりがありません。
2026年10月には、カナダの弁護士を名乗る人物から、巨額の保険金の代理受け取りを持ちかける国際郵便が、都内の経営者のもとに相次いで届いている、という報道がありました。遺産や保険金を名目にした手紙の詐欺は、新しいものではありません。外務省は海外安全ホームページで、遺産相続を名目にした日本語の詐欺の手紙やメールに注意するよう、2018年から呼びかけています。
筋書きには型があります。外国で、日本人か、あなたと同じ名字の人が亡くなった。遺族が見つからず、調べたところ、あなたが近親者として指名されていた(または、同じ名字なので親族として申請できる)。期限までに手続きをしないと、お金は国や銀行のものになってしまう。だから急いで、誰にも言わずに。外務省の注意喚起では、実在する会社の社員の名前を、資産管理人として勝手に使った例も紹介されています。名前を検索すると実在の人が出てくるので、本物らしく見えるのです。
今回の報道の手紙は、遺産ではなく「保険金の代理受け取り」という形をとっています。けれども、生命保険金を受け取る人は、保険の契約で決まった受取人です。受取人でもない他人が「代わりに」受け取る仕組みは、本来ありません。受取人が先に亡くなっていれば、受取人の相続人が受け取ることになり、結局は、自分の戸籍で確かめられる親族関係の話に戻ります。
お金を取られるのは、そのあとです。最初の返事では、お金の話は出ません。何度かやり取りをして信用させてから、書類の認証料、送金の手数料、税金の前払い、手続きで起きた問題を片づける弁護士費用、と名目を変えて振り込ませます。外務省は、怪しまれない程度の額を何回にも分けて振り込ませるのが目的だと説明しています。一度払うと、「ここでやめたら、今まで払った分が無駄になる」という気持ちが働き、次の請求を断りにくくなります。
確かめる順番は、相手に連絡する前に決まっています。一つ、手紙に書かれた電話番号やメールアドレスには連絡しない。そこにかければ、相手につながるだけです。二つ、亡くなったという人が本当に親族かどうかは、自分の側の戸籍で確かめられます。日本の相続で相続人になるのは、配偶者と、子、親、兄弟姉妹(亡くなっていればその子)までで、同じ名字というだけで遺産を受け取れる仕組みはありません。三つ、法律事務所の名前をインターネットで調べて実在していても、それだけで本物とは言えません。実在の事務所や人の名前を使うのが、この手口だからです。
左に海外から届いた手紙と、それを読む経営者の男性。手紙の連絡先へ返事をする道は破線で、返事をすると認証料、送金手数料、税金の前払い、弁護士費用と、名目を変えた振込の請求が続く。もう一つの道は、自分の戸籍をたどって海外に移った親族がいるかを確かめる道で、親族がいなければ相手にしない。受け取る前に手数料を払ってほしいと言われた時点で止める。
外務省の注意喚起(2018年)と2026年10月の報道による。迷ったら警察相談専用電話 #9110。
もう一つの見分け方は、お金の向きです。本当に遺産や保険金を受け取る立場なら、受け取る人が先に手数料を振り込む場面は、ほとんどありません。手続きの費用は、受け取るお金から差し引く形がとられることが多いのです。「受け取る前に、手数料を送ってください」と言われた時点で、詐欺を疑う十分な理由になります。手紙に返事をしてしまっていても、振り込む前なら被害はありません。そこでやめれば済みます。
探偵の仕事との関わりを書きます。私は2002年から探偵業を営んでいて、今年で24年目です。冒頭の男性のように「この人が本当に亡くなったのか、この弁護士が本物か、調べてほしい」と頼まれることがあります。けれども、海外の人の生死や身元を、日本の探偵が現地まで行って調べるのは、費用がかかるうえに、確かめられる範囲も限られます。私が最初に勧めるのは調査ではなく、自分の戸籍をたどって、海外に移った親族がいるかどうかを確かめることです。やり方は、戸籍の集め方の記事に書きました。
この家の数字です。手紙に書かれていた受け取れる額は、日本円にすると数億円でした。男性は、まだ返事を出していませんでした。払った額は0円です。かかったのは、戸籍を取り寄せる費用だけでした。2024年から、本人や親の戸籍は、本籍地でない最寄りの役所の窓口でもまとめて請求できるようになっています(広域交付)。男性の請求は、戸籍謄本1通450円と、両親の除籍謄本と改製原戸籍謄本の2通で1,500円、合わせて1,950円。戸籍をたどっても、海外に移った親族は見当たりませんでした。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 相手への支払い | 0円(返事を出していない) |
| 戸籍謄本 1通 | 450円 |
| 両親の除籍謄本・改製原戸籍謄本 2通(1通750円) | 1,500円 |
| 合計 | 1,950円 |
もし海外の口座に送金してしまったら、すぐに送金した銀行と警察に連絡します。迷ったときの相談は、警察相談専用電話の #9110 です。ただ、相手の口座が海外の銀行にあると、国内の口座を止めて残高を分配する振り込め詐欺救済法の仕組みは使えません。送ったお金を取り戻すのは、国内の振込より、さらに難しくなります。だからこそ、送る前に止まることが大事なのです。
お金を払っていなくても、返事に書いて送ったものには注意が要ります。パスポートや運転免許証の写し、銀行口座の番号、会社の登記の写しなどを送っていたら、それが別の詐欺や、口座の悪用に使われることがあります。送ってしまったものは、メモに残して警察に相談し、口座を伝えていたなら銀行にも知らせておきます。個人情報が漏れたときの手の打ち方は、「個人情報が流出した可能性があります」というお知らせについて書いた記事にまとめています。
経営者に宛てて届くことが多いのも、この手口の特徴です。会社の住所と代表者の名前は登記で公開されているので、名簿を作りやすいのです。会社で一つ決めておくなら、「海外からお金の話の手紙が来たら、一人で返事をしない。まず誰か一人に見せる」。相談しにくいのは、受け取れるかもしれないお金の話だからです。
届いた手紙は、捨てずに封筒ごと取っておきます。消印、差出人の住所、書かれた口座や連絡先は、警察に相談するときの手がかりになります。返事を出していなくても、同じ手紙がほかの人にも届いていることが多いので、相談しておくと注意の呼びかけに役立ちます。
知らない親族の遺産や保険金の話が、海外から突然届いたら、返事をする前に自分の戸籍を見る。手紙の連絡先には連絡しない。受け取る前に払ってほしいと言われたら、そこで止める。確かめる物差しは、相手の書類の立派さではなく、自分の側の戸籍とお金の向きです。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-24
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。
参考(公式)
この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-24 確認)。
- 外務省 海外安全ホームページ「国際的詐欺事件に対する注意喚起」(2018年4月27日) ― 遺産相続を名目にした日本語の詐欺の手紙・メール。実在の人物の名を騙った例、手付け金・送金手数料・弁護士費用などの名目で何回にも分けて振り込ませる目的、心当たりがなければ相手にしないこと
- 警察庁「SOS47 特殊詐欺対策ページ」 ― 特殊詐欺の手口と対策。迷ったときの相談は警察相談専用電話 #9110