探偵・調査 2026-10-23

「不倫相手を妊娠させた、お金が要る」と息子を名乗る電話が来たら ― 一度切ってかけ直す順番、振込と手渡しで変わる取り戻し方、探偵に「相手を調べて」と頼む前に

「弟の不倫相手のことを調べてほしい」という電話の正体は、弟を名乗る詐欺でした。家族を装って示談金や慰謝料を求める電話の手口、一度切って前から知っている番号にかけ直す確かめ方、振り込んだあとに口座を止めて分配金を受ける振り込め詐欺救済法の流れ、手渡しや宅配便で渡したお金はこの法律の対象外であること、探偵が調べる前に家族がすべきことを、探偵業24年目の立場から書きます。

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「弟が不倫相手の女性を妊娠させたらしいんです。相手の女性が本当にいるのか、調べてもらえますか」。電話の主は40代の女性で、70代の母親のことで慌てていました。一時間前、母親の家に「お母さん、俺だけど」と弟を名乗る電話があり、相手の女性と示談するのに今日中に200万円が要る、弁護士の先生が受け取りに行く、と言われた。母親は銀行に向かう途中で、念のため娘に電話をかけてきたのでした。私は、調べる前に一つだけお願いしました。弟さんの、前から知っている番号に、いまかけてください。弟は職場にいて、そんな電話はしていない、と言いました。

2026年10月には、愛媛県松山市の70代の女性が、息子を装った相手から「不倫相手を妊娠させたので金がいる」と言われ、受け取りに来た人に現金100万円を渡してだまし取られた、という報道がありました。家族を名乗る詐欺は、昔から「会社のお金をなくした」「事故を起こした」という筋書きを使ってきました。不倫や妊娠、示談金という筋書きは、聞いた家族が「人に相談しにくい」と感じる点で、詐欺をする側に都合がいいのです。

手口には型があります。「風邪で声が変わった」「携帯を落として番号が変わった」と、声と番号の違いを先に言い訳する。「誰にも言わないで」と口止めする。弁護士や上司、相手の家族を名乗る別の人が電話を代わる。そして、今日中という期限と、受け取りに人が来るという段取り。示談金や慰謝料は、本人どうしが決めて、決めた口座に振り込むのが普通です。見知らぬ人が現金を受け取りに来る示談は、それだけで疑う理由になります。

確かめ方は一つで、一度切って、前から知っている番号にかけ直すことです。電話で教えられた「新しい番号」にかけても、相手につながるだけです。本人が出なければ、本人の配偶者や職場にかけます。家族で「お金の話の電話は、一度切って本人にかけ直す」と決めておくと、慌てた場面でも順番を守りやすくなります。迷ったら、警察相談専用電話の #9110 に相談できます。受け取りに来ると言われているなら、110番です。

もし振り込んでしまったら、すぐに、振り込んだ先の銀行と警察に連絡します。振り込め詐欺救済法では、銀行は、詐欺に使われた疑いのある口座の取引を止めます。そのうえで預金保険機構が口座を公告し(名義人が権利を主張できる期間は60日以上)、その後、被害者からの申請を受け付けます(申請期間は30日以上)。返ってくるのは、口座を止めた時点の残高が上限です。被害者が何人もいて被害額の合計が残高を超えるときは、各人の被害額の割合で分けます。

お金の話の電話は、一度切って前から知っている番号へ。振込なら口座を止めて分配の道があり、手渡しには無い
お金の話の電話は、一度切って前から知っている番号へ。振込なら口座を止めて分配の道があり、手渡しには無い左に息子を名乗る電話を受けた母親。まず電話を切り、前から知っている本人の番号にかけ直す矢印。かけ直さずに渡してしまった場合は二つに分かれる。振込なら、銀行と警察にすぐ連絡して口座を止め、預金保険機構の公告を経て、止めた時点の残高を上限に分配金を受けられる。手渡しや宅配便の現金は、振り込め詐欺救済法の対象外で、取り戻すには犯人への賠償請求しかない。 母親 「俺だけど、示談金が…」「俺だけど、示談金が…」 一度切って、かけ直す一度切って、かけ直す 本人 「そんな電話してない」「そんな電話してない」 振込振込 ¥ 口座を止める 公告 → 申請 → 残高を上限に分配公告 → 申請 → 残高を上限に分配 手渡し・宅配便手渡し・宅配便 救済法の対象外(取り戻すのは難しい)救済法の対象外(取り戻すのは難しい)

左に息子を名乗る電話を受けた母親。まず電話を切り、前から知っている本人の番号にかけ直す矢印。かけ直さずに渡してしまった場合は二つに分かれる。振込なら、銀行と警察にすぐ連絡して口座を止め、預金保険機構の公告を経て、止めた時点の残高を上限に分配金を受けられる。手渡しや宅配便の現金は、振り込め詐欺救済法の対象外で、取り戻すには犯人への賠償請求しかない。

2026年10月時点。迷ったら警察相談専用電話 #9110、受け取りに来ると言われているなら110番。

大事な点は、この法律が「振込み」を使った犯罪のための仕組みだということです。手渡しした現金や、宅配便で送った現金は、口座に入っていないので、この分配の対象になりません。取り戻すには、犯人を見つけて賠償を求めるしかなく、実際には難しいことが多いのです。「受け取りに行く」「現金を箱に入れて送って」と言われた時点で、それは示談ではなく詐欺だと考えてください。

探偵の仕事との関わりを書きます。私は2002年から探偵業を営んでいて、今年で24年目です。冒頭のように、「相手の女性を調べて」と頼まれることがありますが、調査で女性の住所が分かっても、その示談金が本当に要るのかは分かりません。調べるべきなのは、まず電話の相手が本当に家族かどうかで、それは家族が自分の電話でかけ直せば数分で分かります。調査を勧めるのはその先、本当に家族の不倫が分かり、示談の相手を確かめる必要が出たときです。

この家の数字です。求められた額は200万円。母親は銀行の窓口で払い戻しの用紙を書きかけていましたが、娘からの電話で手を止め、払い戻した額は0円でした。かかったのは、娘が弟に電話した数分と、翌日、母親と一緒に警察署に相談に行った半日です。母親の電話には、知らない番号には出ず、留守番電話で相手を確かめる設定をしました。

もし渡していたら、の話も書いておきます。振り込んでいた場合で、口座を止めた時点の残高が50万円、同じ口座への被害者が母親を含めて2人、被害額の合計が400万円なら、母親の分は50万円×200万円÷400万円=25万円です。手渡ししていた場合、この仕組みでは0円です。

もし渡していたら(求められた200万円の場合)
渡し方取り戻しの道例で戻る額
振込(被害者2人・被害額合計400万円・止めた時点の残高50万円)銀行が口座を止め、預金保険機構の公告を経て分配50万円×200万円÷400万円=25万円
手渡し・宅配便振り込め詐欺救済法の対象外。犯人への賠償請求のみこの仕組みでは0円
この家(かけ直して止めた)―払い戻し0円・損失0円

本当に家族が不倫をしていて、示談が必要だった場合でも、親が現金を用意して見知らぬ人に渡す場面はありません。示談は当事者どうし(または弁護士)で額と払い方を決め、示談書を作って、書いた口座に振り込みます。示談書の中身は、不倫の示談書の記事に書きました。親が助けたいなら、本人と顔を合わせて話を聞き、本人に、本人が分かる形で渡します。

家族で前もって決めておけることもあります。一つ、合言葉。電話でお金の話が出たら、家族しか知らない質問を一つする(最初に飼った犬の名前など、SNSに書いていないこと)。二つ、固定電話を留守番電話にしておき、知っている声だと確かめてから出る。三つ、ATMで一日に下ろせる額や振り込める額の上限を、銀行で見直しておく。どれも親を疑うためではなく、慌てたときに止まる場所を、前もって作っておくためのものです。

被害が出なかったときも、警察に相談する意味はあります。かかってきた番号、名乗った名前、言われた金額、受け取りに来ると言われた日時をメモして伝えると、同じ手口への注意の呼びかけに使われます。この家でも、母親がメモしていた番号と「弁護士の先生」の名前を、そのまま警察に渡しました。

名前を正しく呼ばれたことも、本物の証拠にはなりません。個人情報流出の記事で書いたとおり、漏れた住所や電話番号は名簿になって出回ることがあり、家族の名前や続き柄まで知っている電話もあります。この家でも、相手は弟の名前を正しく名乗っていました。探偵が所在調査で名簿の出どころを確かめるのは、同じ名簿が詐欺をする側にも渡りうるからです。知っていることの多さではなく、前から知っている番号でつながるかどうか。確かめる物差しは、それだけにしておくのが安全です。

家族を名乗る電話で、お金の話が出たら、一度切る。前から知っている番号にかけ直す。現金を受け取りに来る、送ってほしい、と言われたら、そこで止める。相談しにくい話ほど、家族の誰か一人に話してから動くことが、一番の守りになります。

執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-23

この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。

参考(公式)

この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-23 確認)。

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