離婚・家族 2026-10-22

不倫の示談書に書くこと ― 慰謝料の額と払い方、求償権の放棄、接触禁止、清算条項。「払ったのに、あとでまた出ていく」を防ぐ順番

夫の不貞の相手から送られてきた示談書の下書きは、「150万円を支払う」「今後一切請求しない」の二行だけでした。離婚しない家では、求償権の放棄が書かれていないと、受け取った慰謝料の一部があとで夫から相手へ出ていきます。示談書に入れる条項の順番(額、払い方と期限の利益の喪失、求償権の放棄、接触禁止と違約金、口外禁止、清算条項)と、120万円を一括60万円と月5万円×12回にした家の数字を書きます。

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「相手の女性が、示談書の下書きを送ってきました。これにサインすればいいんでしょうか」。40代の女性は、夫の不貞が分かってから2か月後、A4一枚の紙を持って相談に来ました。書いてあったのは、慰謝料150万円を支払う、という一行と、今後お互いに一切請求しない、という一行だけ。夫とは離婚せず、やり直すと決めていました。この一枚には、この家にとって大事なことが二つ抜けていました。

示談書は、争いを話し合いで終わらせる約束を書いた紙です。不貞の慰謝料なら、払う人と受け取る人が、額・払い方・これからのことを決めて署名します。裁判所を通さない分、早く終わりますが、書いていないことは決まっていないのと同じです。2026年10月20日には、「不倫の示談金を払うために金を貸してほしい」とうそを言って現金をだまし取った疑いで女が逮捕された、という報道がありました。示談金という言葉が、それだけ「払わなければならないお金」として通じるということです。だからこそ、誰が誰にいくらを、どの口座へ払うのかを、紙に残しておくことが大事になります。

抜けていた一つ目は、求償権の放棄です。不貞は、夫と相手の二人が一緒にした不法行為(共同不法行為。民法719条)と考えられています。相手が妻に慰謝料を全額払うと、相手は夫に「あなたの負担分を返して」と請求できます。これが求償です。離婚しない家では、夫が返すお金は家計から出ていきます。受け取った慰謝料の一部が、あとで家から出ていく形になるのです。

そこで示談書には「乙(相手)は、丙(夫)に対する求償権を放棄する」と書きます。求償しない代わりに慰謝料の額を少し下げる、という話し合いになることが多く、この家でもそうなりました。負担の割合は事案ごとに違いますが、仮に半分ずつとすると、150万円を受け取って夫が75万円を返せば、家に残るのは75万円です。120万円で求償権を放棄してもらえば、120万円がそのまま残ります。

求償権を放棄してもらわないと、受け取った慰謝料の一部が家計から出ていく
求償権を放棄してもらわないと、受け取った慰謝料の一部が家計から出ていく左の枠の中に妻(甲)と夫(丙)がいて、同じ家計。右に不貞の相手(乙)。相手から妻へ慰謝料120万円の矢印。相手から夫へ点線の矢印で求償(示談書で放棄してもらう)。求償権を放棄しないと、夫の負担分が家計から相手へ出ていく。仮に負担を半分ずつとすると、150万円を受け取っても家に残るのは75万円。同じ家計同じ家計 妻(甲) 夫(丙) 相手(乙) 慰謝料 120万円慰謝料 120万円 求償(放棄してもらう)求償(放棄してもらう) 放棄が無いと、夫の負担分が家計から出ていく放棄が無いと、夫の負担分が家計から出ていく 例:150万円を受け取り、夫が75万円返す → 家に残るのは75万円例:150万円を受け取り、夫が75万円返す → 家に残るのは75万円

左の枠の中に妻(甲)と夫(丙)がいて、同じ家計。右に不貞の相手(乙)。相手から妻へ慰謝料120万円の矢印。相手から夫へ点線の矢印で求償(示談書で放棄してもらう)。求償権を放棄しないと、夫の負担分が家計から相手へ出ていく。仮に負担を半分ずつとすると、150万円を受け取っても家に残るのは75万円。

2026年10月時点。負担の割合は事案ごとに違います。図の75万円は、仮に半分ずつとした場合の例です。

抜けていた二つ目は、払い方です。下書きには「支払う」とあるだけで、期限も振込先もありませんでした。相手は一度に払えないと言い、話し合いの結果、示談書を作ってから1か月以内に60万円、残りの60万円は翌月から毎月末に5万円ずつ12回、と決めました。分割の約束には「支払いを2回分以上怠ったときは、残りを一度に払う」という条項(期限の利益の喪失)を付けます。これがないと、支払いが止まっても、期日が来た分ずつしか請求できません。

次に、接触しない約束です。「乙は今後、丙と、業務上やむを得ない場合を除き、面会・電話・メール・SNSでの連絡をしない」と書き、破ったときの違約金を決めることがあります。違約金は高すぎると、裁判で公序良俗(社会の常識に反する約束は無効という決まり)に反するとして減らされることがあるので、慰謝料の額とのつり合いを考えます。この家では1回50万円にしました。職場が同じ場合は、業務上の連絡まで禁じると守れない約束になるので、何を禁じるかを具体的に書きます。

口外しない約束(口外禁止条項)は、双方に掛けるのが一般的です。受け取る側が相手の職場や家族に知らせることも、名誉毀損やプライバシーの問題になりえるからです。最後に清算条項を置きます。「甲と乙の間には、本示談書に定めるもののほか、何らの債権債務もないことを確認する」。これで、同じ件で後からもう一度請求することは、原則としてできなくなります。冒頭の下書きの「一切請求しない」はこの清算条項にあたりますが、求償権の放棄が無いまま清算条項だけを置いても、乙から丙への求償は残ります。清算条項は、署名した甲と乙の二人の間の話だからです。

期限にも注意します。不貞の慰謝料は不法行為の損害賠償なので、損害と相手を知った時から3年、不貞の時から20年で時効にかかります(民法724条)。示談書で額と払い方を決めておけば、その約束をもとに請求できます。分割の支払いが止まったときに、裁判をせずに差し押さえまで進めたいなら、公証役場で公正証書にし、強制執行を受け入れる文言(強制執行認諾文言)を入れます。お金を払う約束の部分は、公正証書にすることができます。

誰が書くかも書いておきます。当事者どうしで内容に争いがなく、決まったことを書面にするだけなら、本人が書くことも、行政書士が書類の作成を手伝うこともできます。相手と額を交渉する、代理人として相手に請求する、という段階は弁護士の仕事です。相手に弁護士がついている場合や、不貞の事実そのものを相手が認めていない場合は、示談書の前に弁護士に相談します。

この家の数字です。慰謝料は120万円で、求償権の放棄あり。作成から1か月以内に60万円、翌月から月5万円を12回で60万円、合わせて120万円。違約金は接触1回につき50万円。示談書は同じものを2通作って両方に署名し、1通ずつ持ちました。分割の支払いが1年続くので、公正証書にもしました。

示談書の条項と、この家で決めたこと
条項この家で決めたこと
慰謝料の額120万円
支払い①作成から1か月以内に60万円
支払い②翌月から毎月末に5万円×12回=60万円
合計120万円
期限の利益の喪失2回分以上の滞納で、残りを一度に払う
求償権の放棄乙(相手)は丙(夫)に求償しない
接触禁止業務上やむを得ない場合を除く。違約金は1回50万円
口外禁止甲・乙の双方
清算条項本書に定めるほか、甲乙間に債権債務なし
形式2通作成・各自署名、公正証書(強制執行認諾文言つき)

署名の場面にも気をつけます。示談書は、相手の家に押しかけて、その場で書かせるものではありません。おどされて書いた約束はあとで取り消せることがあり(民法96条)、せっかくの示談書の効き目そのものが争いになります。下書きを郵送やメールで送り、相手が読んで考える時間をとってから、落ち着いた場所で署名する。この家でも、相手に下書きを送ってから署名まで10日あけました。相手の側が「家族に知られたくない」と言う場合は、郵送先も相談して決めます。

お金の受け取り方も決めておきます。現金の手渡しは、受け取った・受け取っていないの争いになりやすいので、振込にして、振込先の口座(妻の名義)を示談書に書きます。振込手数料をどちらが持つかも一行書いておくと、毎月5万円の分割で、金額の行き違いが起きません。誰かの名前を出して「示談金を立て替えて」と頼まれる話は、冒頭の報道のように、詐欺の入口にもなります。示談のお金は、当事者どうしで、書いた口座に振り込む。この形を崩さないことが、自分を守ることにもなります。

示談書は、怒りを書く紙ではなく、これから起きることを先に決めておく紙です。誰が誰に、いくらを、いつ、どの口座へ。誰に求償しないか。誰と会わないか。それ以外にはもう何もないこと。署名の前にこの順に読み直すと、抜けている行が見えてきます。慰謝料の相場や証拠になるものは、不貞の慰謝料の記事に書きました。

執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-22

この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。

参考(公式)

この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-22 確認)。

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