学び・資格 2026-09-25
合格したあとの登録 ― 宅建士も行政書士も、合格しただけでは名乗れない
資格試験に合格しても、それだけでは宅建士や行政書士を名乗れません。宅建士は都道府県知事の登録と宅建士証、行政書士は連合会への登録と会への入会が要ります。実務経験がない人の登録実務講習、合格から1年を過ぎると要る法定講習、行政書士の入会金。合格した年に何をすれば一番安く済むかを、宅建士に合格した会社員の実際の費用で書きます。
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「名刺に『宅建士』と入れてもいいですか」。宅建士試験に合格した20代の男性が、合格証書のコピーを持って聞きに来ました。勤め先は不動産とは関係のないメーカーで、資格手当の規程を読むと「宅地建物取引士証の写しを提出すること」とある。「合格証書じゃだめなんですか」。私は、合格証書の一番上の行を指さしました。書いてあるのは「宅地建物取引士資格試験に合格したことを証する」。宅建士になった、とは書いていません。
宅建士になるには、三つの段階があります。一つ目が試験の合格。二つ目が、試験を受けた都道府県の知事への登録。三つ目が、宅地建物取引士証(宅建士証)の交付です。宅建士を名乗り、重要事項の説明をするのは、三つ目まで終えた人です。合格そのものに有効期限はないので、何年後に登録しても構いません。ただし、後回しにすると費用が増える仕組みがあります。
左から、試験の合格、都道府県知事への登録、宅建士証の交付の三段の階段。登録には実務経験2年または登録実務講習の修了が要る。合格から1年以内に宅建士証を受ければ法定講習は不要で、名乗れるのは三段目から。
名乗れるのは三段目から。合格の効力に期限はありませんが、1年を過ぎると宅建士証の前に法定講習が要ります(2026年9月時点)。
登録の条件の一つに、宅地建物取引業の実務経験2年以上があります。男性のように実務経験がない人は、国土交通大臣の登録を受けた機関が行う「登録実務講習」を修了すれば、2年の実務経験と同じ扱いになります。講習は、自宅で教材を学ぶ通信の部分と、2日間ほどの教室での講義と修了試験で、費用は実施機関によって違います。男性が申し込んだ講習は2万円ちょうどでした。修了したら、都道府県に登録を申請します。手数料は3万7,000円。住民票、市区町村の身分証明書、法務局の「登記されていないことの証明書」などを添えます。
登録が終わったら、宅建士証の交付を申請します。交付の手数料は4,500円。ここに、合格した年に動くかどうかの分かれ目があります。宅建士証の交付を受ける前には、都道府県知事が指定する「法定講習」を受けるのが原則ですが、試験に合格した日から1年以内に交付を受ける人は、この講習が要りません。1年を過ぎると、講習の受講料と一日の時間が余計にかかります。宅建士証の有効期間は5年で、更新のたびに法定講習を受けます。
登録の申請に、住民票のほかに「身分証明書」と「登記されていないことの証明書」を付けるのには理由があります。宅建士の登録には、破産して復権を得ていない人、一定の刑を受けてから5年を経ていない人などは登録を受けられない、という欠格事由があります。身分証明書は本籍地の市区町村が、破産の手続きで復権を得ていない者などに当たらないことを証明するもので、登記されていないことの証明書は、法務局が成年後見などの登記がないことを証明するものです。どちらも発行から3か月以内のものを求められることが多いので、登録申請の直前に取ります。本籍地が遠い人は郵送で取り寄せることになり、男性はここで一週間待ちました。
勤め先や転職先が求めるものも、確かめておきます。資格手当の規程が「宅建士証の写し」なのか「合格証書の写し」なのかで、登録まで進む必要があるかどうかが変わります。不動産会社への転職では、事務所ごとに置く宅建士として働いてもらう前提で、宅建士証を持っていることを条件にする会社もあります。名刺や履歴書に書くなら、登録前は「宅地建物取引士資格試験 合格」と書きます。「宅地建物取引士」とだけ書くのは、宅建士証を受けてからです。
行政書士は、仕組みが違います。合格したら、事務所を置く都道府県の行政書士会を通じて、日本行政書士会連合会の名簿に登録を申請し、登録と同時にその会の会員になります。行政書士法では、登録を受けていない人は行政書士を名乗れず、行政書士の業務もできません。費用は、登録手数料2万5,000円、登録免許税3万円に、会ごとに違う入会金と会費が加わります。入会金は会によって十数万円から20万円台で、毎月の会費もかかります。事務所を構えて業務をする人のための登録なので、開業する予定がなければ、合格のまま置いておく人も多い資格です。
海事代理士も、国土交通大臣の登録を受けて初めて業務ができます。三つの資格に共通するのは、「合格」と「名乗れる」の間に、書類と費用の段階が一つある、ということです。資格の選び方を考えるときに、合格後のこの段階まで数に入れておくと、試験を選ぶ目的がはっきりします。資格の選び方の記事で書いた「目的」の話は、ここにつながっています。
男性の場合を順に書きます。合格発表が11月の終わり。12月に登録実務講習を申し込み、1月に通信の教材、2月に2日間の講義と修了試験。3月の初めに修了証が届き、その週に都道府県の窓口で登録を申請しました。登録の通知が届いたのは4月の中旬で、すぐに宅建士証の交付を申請し、5月に宅建士証を受け取りました。合格日から約半年で、法定講習は要りませんでした。
かかったお金は、登録実務講習2万円、登録手数料3万7,000円、宅建士証の交付手数料4,500円、住民票・身分証明書・登記されていないことの証明書と写真で約2,000円。合計で6万3,500円です。勤め先の資格手当は月1万円だったので、半年ほどで取り戻せる計算でした。もし1年を過ぎてから交付を申請していたら、ここに法定講習の受講料と一日の休みが加わっていたことになります。
行政書士の登録を考えている人の相談も、同じ時期にありました。40代の女性で、合格は去年。会社勤めを続けながら、週末だけ相続の書類づくりを手伝いたい、と。登録手数料と登録免許税の5万5,000円に、その会の入会金20万円、会費は月6,000円で1年に7万2,000円。1年目だけで約33万円です。週末の仕事でこれを取り戻せるかを一緒に数え、女性は、仕事の当てが一件できるまで登録を待つことにしました。行政書士は、合格の効力もなくならないので、待つことに損はありません。
| 宅建士(会社員の男性) | 行政書士(検討した女性) | |
|---|---|---|
| 講習 | 登録実務講習 2万円 | ― |
| 登録の手数料 | 3万7,000円 | 2万5,000円 |
| 登録免許税 | ― | 3万円 |
| 証の交付・入会金 | 宅建士証 4,500円 | 入会金 20万円(会により違う) |
| 書類・写真 | 約2,000円 | (別途) |
| 会費(1年目) | ― | 7万2,000円(月6,000円) |
| 合計 | 6万3,500円 | 約33万2,000円 |
登録したあとにも、届出の義務があります。宅建士は、登録している住所や氏名、勤務先の宅建業者が変わったら、都道府県に変更の登録を申請します。行政書士も、事務所の移転などは会を通じて届け出ます。住所変更登記の記事で書いた不動産の登記と同じで、変わったら届ける、を忘れると、後でまとめて手間がかかります。
名刺の話に戻ります。男性は、宅建士証を受け取った翌週に、名刺を刷り直しました。「宅地建物取引士」の肩書きの下に、登録番号も入れて。合格は、資格の入口です。名乗るには、登録というもう一段がある。合格した年のうちに、その段を上がっておくのが、いちばん安い順番です。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-09-25
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。
参考(公式)
この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-09-25 確認)。
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」 ― 宅建士の登録(18条)、宅建士証の交付と法定講習(22条の2)
- e-Gov法令検索「行政書士法」 ― 行政書士の登録(6条)、行政書士会への入会
- 日本行政書士会連合会 ― 登録の手続き・費用の案内