土地・不動産 2026-10-27

家を買うとき、不動産会社が「お金の出どころ」まで聞くのはなぜか ― 犯罪収益移転防止法の取引時確認、売主も確認される、現金で買う人が用意しておく書類

相続で受け取ったお金で中古マンションを現金で買おうとした人が、仲介の会社に職業や取引の目的、資金の出どころまで聞かれて気を悪くしていました。宅建業者は犯罪収益移転防止法の「特定事業者」で、売買のたびに本人確認と記録の7年保存が義務になっています。何を確かめられるのか、なぜ理由を詳しく話してくれないのか、2,980万円の買い物で用意した書類と支払いの順番を書きます。

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この記事の位置: まず読む:値段と書類の読み方 → [買う前に確認すること] → 建てられるか・どれだけ建つか → 境界・隣地・道 → 災害と地盤 → 持っている間:税金と登記 → 売るとき → 貸す・借りる・特殊な権利

「本人確認は分かるんです。でも、職業や、何のために買うのか、お金をどこから出すのかまで聞かれて。疑われているみたいで」。60代の男性が、中古マンションの購入申込書の控えを持って相談に来ました。2年前に母親を亡くし、相続した預金で、駅に近い2,980万円の部屋を住宅ローンを使わずに買う予定でした。仲介の会社からは、運転免許証の写しに加えて、資金の出どころが分かる書類を出してほしい、と言われていました。

2026年10月には、宅建業者向けに、犯罪収益移転防止法の「リスク評価書」の作成や「疑わしい取引」の判断基準づくりを手伝うサービスが始まった、という発表がありました。不動産会社の側で、この法律への備えが進んでいるということです。窓口で聞かれることが増えたと感じるのは、気のせいではありません。

犯罪収益移転防止法(犯収法)は、犯罪で得たお金が、まっとうな財産に姿を変えて流れていくこと(マネー・ローンダリング)を防ぐための法律です。銀行や保険会社と並んで、宅地建物取引業者も「特定事業者」に入っています。宅建業者が義務を負うのは、宅地や建物の売買契約と、その代理・媒介(仲介)です。部屋を借りる賃貸の仲介は、この法律の確認の対象に入っていません。不動産は一度に大きなお金が動き、しかも現金で買えてしまうので、お金の洗い場所として狙われやすいのです。

確かめられることは、法律の4条1項に書いてあります。一つ目は本人特定事項で、個人なら氏名・住居・生年月日(会社なら名称と本店の所在地)。二つ目は取引の目的(自分で住む、貸す、など)。三つ目は職業(会社なら事業の内容)。四つ目は、会社が買う場合に、その会社を実際に支配している人です。男性が聞かれた「職業」と「目的」は、どの客にも聞くことになっている項目です。

「お金の出どころ」は、少し性質が違います。宅建業者は、取引のたびに、受け取るお金が犯罪の収益ではないか、疑わしい点がないかを判断し、疑いがあれば行政庁(免許を出した国土交通大臣や知事)に届け出なければなりません(8条)。資金の出どころを聞くのは、その判断の材料を集めるためです。なりすましの疑いがあるなど、特に注意の要る取引で一定額を超える場合には、資産と収入の状況まで確かめることになっています。

窓口の人が理由を詳しく話さないのには、わけがあります。8条は、届出をしようとしていること、したことを、客に漏らしてはならないと定めています。「あなたは大丈夫ですよ」とも「念のため届け出ます」とも言えない立場なのです。また、確かめた内容の記録と、取引の記録は、7年間保存されます(6条・7条)。客の側にも決まりがあり、確認のときに本人特定事項などを偽ってはいけません(4条6項。本人特定事項を隠す目的の偽りには罰則があります)。

宅建業者は売買のたびに買主も売主も確かめ、記録を7年残す。疑わしいときは行政庁へ届け、本人には言わない
宅建業者は売買のたびに買主も売主も確かめ、記録を7年残す。疑わしいときは行政庁へ届け、本人には言わない左に買主、右に売主。中央の不動産会社が、両方の本人特定事項(氏名・住居・生年月日)、取引の目的、職業を確かめる矢印。不動産会社の下に「確認記録・取引記録を7年保存」。不動産会社から右上の行政庁(国土交通大臣・知事)へ点線の矢印「疑わしいときは届出」。その横に「届出をすることは客に漏らしてはならない」。賃貸の仲介はこの確認の対象外。 買主 現金で購入 不動産会社 特定事業者 売主 この会社の客なら 本人・目的・職業本人・目的・職業 本人・目的・職業本人・目的・職業 確認記録・取引記録を7年保存確認記録・取引記録を7年保存 行政庁(国交大臣・知事)行政庁(国交大臣・知事) 疑わしいときは届出疑わしいときは届出 届出のことは客に漏らしてはならない(8条)届出のことは客に漏らしてはならない(8条) 賃貸の仲介は、この確認の対象外賃貸の仲介は、この確認の対象外

左に買主、右に売主。中央の不動産会社が、両方の本人特定事項(氏名・住居・生年月日)、取引の目的、職業を確かめる矢印。不動産会社の下に「確認記録・取引記録を7年保存」。不動産会社から右上の行政庁(国土交通大臣・知事)へ点線の矢印「疑わしいときは届出」。その横に「届出をすることは客に漏らしてはならない」。賃貸の仲介はこの確認の対象外。

2026年10月時点の犯罪収益移転防止法による。資産と収入の状況まで確かめるのは、特に注意の要る取引で一定額を超える場合です。

確認されるのは買主だけではありません。売主もその不動産会社の客なら、同じように確かめられます。相続した実家を売るときに、相続人が本人確認書類と、取引の目的を聞かれるのはそのためです。なお、私が行政書士として不動産の売買にかかわる手続きの代理を引き受けるときも、行政書士は特定事業者なので、同じ確認をします。

確認を断ったらどうなるか、も書いておきます。法律は、客が確認に応じないときは、応じるまでの間、不動産会社が取引の義務を果たすのを拒めると定めています(5条)。つまり、確認に応じないかぎり、契約や引渡しの手続きが先に進まないことがありえます。会社が「規則なので」としか言わないのは、こうした決まりの上に立っているからです。気になることがあれば、確認の書類を誰がどこに保管し、何年で処分するのかを聞いてみてください。保存期間の7年は、法律が決めた数字です。

会社の名義で買う場合は、もう一段あります。その会社を実際に支配している人(大株主など)が誰かを、会社の側から申告することになります(4条1項4号)。家族で作った資産管理の会社で買うときも同じです。登記事項証明書や株主名簿を前もって用意しておくと、慌てずに済みます。

この男性に用意してもらったのは、運転免許証、母親の相続で作った遺産分割協議書の写し、そして相続した預金が自分の口座に入った記録のある通帳の写しでした。どの書類を求めるかは会社によって違いますが、「どこから来たお金か」を一本の線で示せる書類があると、確認は短く済みます。退職金なら退職金の振込が載った通帳、自宅を売った代金なら売買の精算書、といった具合です。

本人確認の書類にも、つまずきやすい所があります。運転免許証の住所が引越し前のままだと、今の住所を示す別の書類を求められることがあります。申込みの前に、警察署で住所の変更を済ませておくと手間が省けます。マイナンバーカードを使うときは、裏面の個人番号は写しを取らない扱いが一般的で、表だけを出します。

支払いの方法も話しました。現金を紙袋に入れて持っていくより、自分の口座から売主の口座へ振り込むほうが、お金の流れが銀行の記録として残ります。一度に大きな額を下ろそうとすると、銀行でも使いみちを聞かれます。振込なら、その一回で済みます。

この家の数字です。売買代金は2,980万円。契約の日に手付金300万円、引渡しの日に残りの2,680万円を払いました。仲介手数料の上限は、(2,980万円×3%+6万円)×1.1で104万9,400円(税込)で、この会社の請求も同じ額でした。売主と仲介の会社に払った額は、合わせて3,084万9,400円です。登記の費用と税金は、これとは別にかかります。どの支払いも男性の口座からの振込で、通帳を見れば、母親の預金が入ってから部屋の代金として出ていくまでが一本の線でつながります。

この家の支払い(2,980万円の中古マンション・住宅ローンなし)
いつ何を金額
契約の日手付金(売主へ振込)300万円
引渡しの日残代金(売主へ振込)2,680万円
引渡しの日仲介手数料((2,980万円×3%+6万円)×1.1)104万9,400円(税込)
合計売主と仲介の会社に払った額3,084万9,400円

登記のときにも、本人の情報を出す場面があります。2026年10月5日からは、不動産を買って所有権の名義人になる人は、登記の申請のときに国籍も申し出ることになりました。日本人も「日本」と申し出ます(登記簿には載りません)。不動産登記の国籍の申出の記事に、その手順を書いています。

男性は最後に「聞かれる理由が分かれば、腹は立たない」と言いました。窓口の確認は、客を疑うためのものではなく、全員に同じ物差しを当てるための仕組みです。現金で買う、相続したお金を使う、という人ほど、お金の通り道を示す通帳や書類を、申込みの前に一式そろえておくと、話が早く進みます。

執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-27

この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。

参考(公式)

この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-27 確認)。

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