土地・不動産 2026-10-14

不動産登記で「国籍」の申出が始まった(2026年10月5日〜) ― 日本人も対象、登記簿には載らない、海外に住んでいても要る

2026年10月5日から、不動産を買う・相続する・贈与でもらうなど、所有権の名義人になる人は、登記の申請のときに「国籍等」を申し出ることになりました。外国人だけの制度ではなく、日本人も「日本」と申し出ます。申し出た国籍は法務局の内部情報で、誰でも取れる登記事項証明書には載りません。書かずに出すと補正を求められます。何を添えるか、海外に住んでいる人はどうなるか、すでに名義人の人は何かしなければならないかを、法務省の通達を元に整理します。

「司法書士さんから、在留カードのコピーを送ってくださいと言われました。本人確認はもう済んでいるのに、何に使うんですか」。10月の第二週、中古マンションの売買で、買主の女性からそう聞かれました。中国籍で、日本に住んで十二年、永住者です。決済の三日前で、司法書士の事務所は登記の準備に入っていました。答えは短いものです。「登記のときに、国籍を申し出る決まりが、この10月5日から始まったからです」。この記事は、その決まりの中身を、法務省の通達を元に書きます。

先に結論を三つ。一つ、対象は外国人だけではなく、日本人も含めて、不動産の所有権の名義人になる人全員です。二つ、申し出た国籍は、誰でも取れる登記事項証明書には載りません。法務局の内部情報です。三つ、書かずに申請すると、法務局から「直してください」と連絡が来ます(補正)。申請が門前払いになるわけではありませんが、止まります。

制度の名前は「検索用情報の申出」に「国籍等」が加わった、というものです。検索用情報は、2025年4月21日に始まった仕組みで、不動産の所有権の名義人が、氏名、氏名の振り仮名(外国人はローマ字氏名)、住所、生年月日、メールアドレスをあらかじめ法務局に出しておくと、引っ越しや改姓のあと、法務局が住民票の情報を照会して、職権で住所変更の登記をしてくれるというものです(2026年4月から住所変更登記が義務になった話は、別の記事に書いています)。この五つに、六つ目として「国籍等」が足されました。根拠は、不動産登記規則の一部を改正する省令(令和8年法務省令第23号、2026年3月31日公布)で、施行日が2026年10月5日です。法務局への通達は、法務省民事局長の2026年9月4日付け、法務省民二第872号です。

「国籍等」の「等」は、国ではない地域を含むためです。通達は、出入国管理及び難民認定法施行令1条に規定する「台湾」と「ヨルダン川西岸地区及びガザ地区」を挙げています。国名は外務省のホームページの「国・地域」に載っている名前で書きます。

誰が、いつ申し出るのか。所有権の保存、移転、更正などの登記を申請する人のうち、自然人(個人)が、その申請のときに申し出ます(同時申出)。売買で買った人、相続で引き継いだ人、贈与でもらった人、新築して最初に名義を入れる人。全部です。法人は対象外です。通達は「国外に住所を有するときも、国籍等を含めた検索用情報を申請情報の内容として申し出る必要がある」と書いています。海外に住んだまま日本の不動産を買う人、海外から相続する人も、申し出が要ります。

何を添えるか。国籍を証明する書類の写しです。日本人なら、本籍地の載った住民票の写し、または戸籍の附票の写し。外国籍の人なら、国籍の載った住民票の写し、旅券(パスポート)の写し、在留カードの写し、特別永住者証明書の写しなどです。冒頭の女性が「在留カードのコピー」を求められたのは、これです。日本人で、住所の証明として住民票コードを出し、法務局が住基ネットで日本国籍を確認できたときは、国籍の書類は要りません。旅券の写しを出すときは、「原本と相違ない」と書いて出せばよく、原本の還付の手続きは不要です。ただし、有効期限が切れた旅券は使えません。

法務局はどう記録するのか。通達は四つの区分を決めています。日本国籍の人は「日本」。添付書類から日本国籍でないことは分かるが、どの国かが分からない人は「日本以外」。国籍が分からない人は「国籍不明」。無国籍の人は「無国籍」。二つ以上の国籍があると分かれば、全部を記録します。ここで一つ注意があります。「日本以外」と「国籍不明」は、法務局が記録のために使う便宜上の区分であって、申請する側が申請書に「日本以外」と書くことはできません。自分の国の名前を書きます。

書かずに出したらどうなるか。通達は「申請人又はその代理人に補正を求める」としています。申し出る意思がないと明言した場合も同じです。補正を求めても期間内に直されなかったときは、添付書類から分かる国籍を法務局が記録します。つまり、申請が却下されるのではなく、いったん止まって、連絡が来て、それでも出さなければ書類から判断される、という流れです。

国籍等の申出 ― 誰が、いつ、何を出し、どこまで見えるか(2026年10月5日〜)
これから名義人になる人(同時申出)すでに名義人の人(単独申出)
義務か任意か申請のときに申し出る(無いと補正)任意。帰化などで国籍が変わったときも申し出られる
日本人が添える書類本籍の載った住民票の写し、または戸籍の附票の写し同じ
外国籍の人が添える書類国籍の載った住民票の写し、旅券・在留カード・特別永住者証明書の写しなど同じ(旅券は写しと日本語訳)
海外に住んでいる人申し出が要る申し出られる(職権の住所変更の対象にはならない)
法人対象外対象外
登記事項証明書への記載載らない(法務局の内部情報)載らない
費用登録免許税などの上乗せなし無料

すでに名義人になっている人は、何かしなければならないのか。義務ではありません。検索用情報を登記の申請とは別に出す手続き(単独申出)があり、名義人は「申し出ることができる」とされています。今回の改正で、この単独申出で国籍を新たに記録することと、帰化や国籍離脱で国籍が変わったときに変更後の国籍を記録することが、できるようになりました。単独申出はオンラインか書面で、押印も電子署名も不要、登録免許税もかかりません。ただ、申し出た国籍を法務局が確認できないときは、却下されます。

申し出た国籍は、どこまで見えるのか。通達の文章をそのまま引きます。「検索用情報として記録された国籍等の情報は、内部情報として保有するものであり、不動産登記法に基づく公開の対象ではない」。誰でも手数料を払えば取れる登記事項証明書や登記情報には、載りません。一方で、通達は続けて、国籍を含めた登記の情報を「不動産ベース・レジストリ」という国のデータベースに提供し、行政機関のあいだの情報連携に使う見込みだとも書いています。隣の人や不動産会社には見えないが、国の中では使われる。そういう情報です。

なぜ始まったのか。通達が挙げる理由は二つです。一つは、外国人による不動産の保有の実態を把握するため。もう一つは、相続のためです。名義人が亡くなったとき、相続にどの国の法律を使うかは、法の適用に関する通則法36条で、亡くなった人の本国法と決まっています。日本の不動産でも、亡くなった人が中国籍なら原則として中国の法律で相続人と取り分が決まり、韓国籍なら韓国の法律です。2024年4月から相続登記が義務になりましたが、名義人の国籍が分からないと、法務局は誰が相続人かの審査の入口に立てません。国籍を最初から持っておけば、相続登記が止まりにくくなる。これが二つ目の理由です。

ここから先は、現場で見てきたことです。私が宅建士として立ち会う売買で、買主が外国籍の方である件は、十年前と比べて明らかに増えました。永住者や日本人の配偶者で、日本語で契約を読める方がほとんどです。それでも、登記の段階で「なぜ国籍が要るのか」と聞かれたとき、答える側が制度の趣旨を言えないと、不信感だけが残ります。冒頭の女性には、こう説明しました。「相続のときに、どの国の法律を使うかを、法務局があらかじめ知っておくための情報です。登記簿には載らないので、隣の人や次の買主に、あなたの国籍が知られることはありません」。女性は「それなら分かります」と言って、その日のうちに在留カードの写しを送っていました。

もう一つ、現場で起きるのは、相続のほうです。外国籍の方が日本の不動産を残して亡くなると、本国の相続法を調べ、本国の戸籍にあたる書類を取り寄せ、翻訳を付け、相続人の範囲を確定するところから始まります。中国籍の方の相続では、中国の公証処で出す親族関係の公証書を集めるのに数か月かかった例があります。国籍の申出は、この手続きを短くするものではありません。ただ、「亡くなった方の国籍が何だったか」を法務局が最初から持っていることで、申請の入口での往復は減ります。相続人になる側の方は、亡くなった方の本国の書類が要ること自体は変わらないと思っておいてください。

日本人の方が気にするのは、「自分も何か出すのか」という点でしょう。売買や相続で名義人になるときは、本籍の載った住民票の写しか戸籍の附票の写しを一通、添えるだけです。相続登記なら、戸籍の附票はもともと集めることが多いので、負担はほとんど増えません。すでに名義人で、これから動かす予定のない人は、何もしなくて構いません。

最後に、時期の話です。通達には、法務局の登記情報システムのうち、国籍を記録する部分の改修が「施行日以降に完了する見込み」とあり、それまでに出された国籍の扱いは別途連絡する、と書かれています。制度は10月5日に始まりましたが、法務局の内側の仕組みは、追いかけて整っている途中です。申請する側がすることは変わりません。国籍を書き、証明の写しを添える。それだけです。

冒頭の女性の決済は、予定どおりの日に終わりました。登記が完了したあと、彼女が取った登記事項証明書の甲区には、彼女の名前と住所と、ローマ字の氏名が載っています。国籍は、どこにも載っていません。「載っていないんですね」と、少し安心した声で言っていました。載らない、でも法務局は持っている。この制度は、その二つを同時に知っておくと、怖くなくなります。

執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-14

この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。

参考(公式)

この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-14 確認)。

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