相続・手続き 2026-10-29
親の不動産を全国から一覧にする ― 所有不動産記録証明(2026年2月開始)の取り方、手数料、それでも漏れる不動産
亡くなった親の不動産は、これまで市区町村ごとの名寄帳でしか探せず、遠くの県の山林などが漏れていました。2026年2月2日に始まった所有不動産記録証明制度なら、法務局が全国の登記記録から一覧を出してくれます。請求できる人、必要な書類、検索条件ごとにかかる手数料(書面1,600円)、昔の住所を条件に入れる理由、それでも出てこない不動産と名寄帳との組み合わせ方を、計算例つきで書きます。
「父の土地は、家の分だけだと思っていました」。相続登記を済ませて半年たったころ、50代の男性が困った顔で相談に来ました。父の書類箱から、行ったこともない県の山林の売買契約書が出てきたのです。昭和の終わりに「いずれ値上がりする」と勧められて買ったものらしく、実家の市の固定資産税の通知書には載っていませんでした。(相談の例は、人物が分からないよう、いくつかの相談を組み合わせて書いています。)
亡くなった人の不動産を探す方法は、これまで市区町村ごとでした。固定資産税の通知書を見る。市区町村で「名寄帳」(その人がその市区町村の中に持っている不動産の一覧)を取る。どちらも分かるのは「その市区町村の中」だけです。遠くの県の土地は、どこの市区町村にあるか見当がつかなければ、探しようがありませんでした。
2026年2月2日、この穴をふさぐ制度が始まりました。「所有不動産記録証明制度」です(不動産登記法119条の2)。法務局が、全国の登記記録の中から、指定した人が所有者として登記されている不動産を探し、一覧にして証明書を出してくれます。一つも見つからなければ、「該当する不動産がない」ことを証明してくれます。
請求できるのは、所有者として登記されている本人と、その相続人です(会社などの法人も含みます)。相続人は、亡くなった人の分を請求できます。代理人に頼むこともでき、その場合は委任状が要ります。逆に言うと、親が元気なうちに、子が親の分を勝手に請求することはできません。親本人が請求するか、親に頼まれて代理人になります。
請求先は、全国どこの法務局・支局・出張所でもかまいません。方法は、窓口、郵送、オンラインの三つです。相続人が請求するときは、相続人であることを示す書類として、戸籍謄本か、法定相続情報一覧図の写しを出します。ほかに、請求する人の本人確認書類が要ります。
手数料は、検索の条件1件ごと、1通ごとにかかります。書面で請求すると1,600円(収入印紙で納めます)、オンラインで請求して郵送で受け取ると1,500円、オンラインで請求して窓口で受け取ると1,470円です(2026年10月時点)。見つかった不動産が1件でも20件でも、手数料は同じです。反対に、一つも見つからなくても、手数料は戻りません。
| 請求のしかた | 受け取り方 | 手数料 |
|---|---|---|
| 書面(窓口・郵送) | 窓口か郵送 | 1,600円(収入印紙) |
| オンライン | 郵送 | 1,500円 |
| オンライン | 窓口 | 1,470円 |
ここで一番大事なのが「検索の条件」です。法務局は、名前と住所で登記記録を探します。名前は前から一致すること、住所は市区町村まで一致するか、最後の5文字が一致することが条件です。つまり、不動産を買ったときの住所が亡くなったときの住所と違えば、亡くなったときの住所だけでは見つかりません。父が若いころに住んでいた住所で山林を買っていたなら、その住所も条件に入れる必要があります。
昔の住所は、戸籍の附票(その戸籍にいた間の住所の移り変わりの記録)で分かります。亡くなった人の附票は「除かれた戸籍の附票」として取れます。昔の住所や昔の名前(結婚で名字が変わった人など)を条件に入れるときは、それが同じ人のものだと示すために、この附票や除籍謄本を一緒に出します。附票の取り方は、相続人の住所を附票で調べる記事に書きました。
冒頭の男性の場合で計算してみます。父の住所は、亡くなったときの住所、その前の住所、山林を買ったころの住所の三つでした。検索の条件が3件なので、書面で請求すると1,600円×3件で4,800円です。結果は、実家の土地と建物、それに例の県の山林が2筆でした。山林は、買ったころの住所の条件でだけ見つかりました。登記の住所が、そのころのままだったからです。
| 検索の条件 | 住所の時期 | 見つかった不動産 | 手数料 |
|---|---|---|---|
| 条件1 | 亡くなったときの住所 | 実家の土地・建物 | 1,600円 |
| 条件2 | その前の住所 | なし | 1,600円 |
| 条件3 | 山林を買ったころの住所 | 山林2筆 | 1,600円 |
| 合計 | 4,800円 |
便利な制度ですが、出てこない不動産があることも知っておいてください。一つ目は、名前や住所が登記記録と違うもの。住所の変更登記をしていない、昔の字体の漢字で登記されている、といった場合です。二つ目は、所有権の登記がない不動産。建てたまま登記していない物置や離れは、そもそも探す元の記録がありません。三つ目は、登記簿がまだコンピュータに移されていない不動産や、請求した時点で登記の手続き中の不動産です。反対に、同じ名前の別の人の不動産が混じることもあります。
だから、名寄帳と組み合わせるのが確実です。証明書が得意なのは「全国の、登記された不動産」、名寄帳が得意なのは「その市区町村の、固定資産税の対象になっている不動産」で、範囲が違います。実家のある市区町村では名寄帳も取り、未登記の建物が載っていないかを見ます。証明書で見つかった遠くの土地は、その市区町村で名寄帳か固定資産評価証明書を取って、評価額を確かめます。
| 固定資産税の通知書 | 名寄帳 | 所有不動産記録証明書 | |
|---|---|---|---|
| 探せる範囲 | 通知を出した市区町村の中 | 取った市区町村の中 | 全国 |
| 未登記の建物 | 載る(課税されていれば) | 載る(課税されていれば) | 出てこない |
| 税金のかからない土地 | 載らないことがある | 市区町村による | 登記があれば出てくる |
| どこで取るか | 毎年届く | その市区町村の窓口 | 全国の法務局 |
| 手数料 | なし | 市区町村ごとに違う | 検索の条件1件ごとに1,470〜1,600円 |
2024年4月1日から、相続で不動産を取得したと知った日から3年以内の相続登記が義務になりました(不動産登記法76条の2)。正当な理由なく怠ると、10万円以下の過料の対象になります。見落としていた土地は、その土地のことを知った日から3年を数えます。冒頭の男性は、山林の分だけ追加で相続登記をしました。使い道のない山林を手放したいなら、相続土地国庫帰属制度という選択肢もあります(条件と負担金があります)。
自分のための使い方もあります。自分名義の不動産を一覧にして、遺言や財産の目録を作るときの確かめに使えます。2026年4月1日からは、住所や名前が変わったときの変更登記も義務になりました(76条の5)。住所の変更登記をきちんとしておくことは、いつか自分の相続人がこの証明書で探すときに、漏れを減らすことにもなります。
法務省は、制度が始まったばかりのころは混み合い、交付まで2週間ほどかかる場合があると案内しています。相続放棄を考えている人は、放棄できる期間(相続を知ってから3か月)に間に合うよう、早めに請求してください。まず亡くなった人の附票を取って、昔の住所を書き出す。そこから始めるのが一番の近道です。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-29
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。
参考(公式)
この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-29 確認)。
- 法務省「所有不動産記録証明制度について」 ― 請求できる人(登記名義人と相続人などの一般承継人、代理人も可)、全国の登記所で請求できること、手数料(書面1,600円、オンライン請求・郵送交付1,500円、オンライン請求・窓口交付1,470円。検索条件ごと)、検索の決まり(氏名の前方一致と、住所の市区町村までの一致か末尾5文字の一致)、抽出されない不動産、交付まで2週間程度かかる場合があること
- e-Gov法令検索「不動産登記法」 ― 119条の2(所有不動産記録証明書)、76条の2(相続登記の申請義務。知った日から3年)、76条の5(住所・氏名の変更登記の申請義務)、164条(過料)