相続・手続き 2026-10-06
相続人がいない人の財産はどうなるか ― 相続財産清算人、特別縁故者、最後は国庫という順番
子も親も兄弟もいない人が亡くなると、財産を受け取る相続人がいません。その財産は、家庭裁判所が選ぶ「相続財産清算人」が借金を払って整理し、生前に世話をした人などが「特別縁故者」として受け取れることがあり、残りは国のものになります。2023年4月の改正で短くなった手続きの流れ、申立ての費用、期限の数え方を、内縁の妻が相談に来た例で整理します。
この記事の位置: 亡くなる前にできること → 亡くなってすぐ(3か月まで) → 相続人と財産を確定する → 分け方を決める → 名義を変える・税金(10か月〜3年) → 相続した財産をどうするか → [状況別(当てはまる方だけ)]
「籍は入れていませんでした。でも、二十年いっしょに暮らしました」。70代の女性の相談です。同居していた男性が亡くなり、男性は一人っ子で、両親はすでに亡く、結婚歴も子もない。つまり、相続人が一人もいない。マンションは男性の名義、預金も男性の口座。女性は「私には何の権利もないと言われました。本当ですか」と聞きました。半分は本当で、半分は違います。この記事は、その「半分」の話です。
相続人がいない、という状態は珍しくありません。独身で一人っ子の人が亡くなった場合、相続人全員が相続放棄をした場合、戸籍を調べても相続人が見つからない場合。こうなると、相続人の範囲と法定相続分の記事で書いた順位の表には、誰も当てはまりません。財産は宙に浮きます。民法は、この財産を「相続財産法人」という一つのかたまりとして扱い、家庭裁判所が選んだ人に整理させる、と決めています(民法951条・952条)。整理する人を相続財産清算人といいます。2023年4月の改正前は「相続財産管理人」と呼ばれていた役目です。
手続きの順番を書きます。まず、利害関係人(お金を貸していた人、遺言で財産をもらう人、特別縁故者になりそうな人など)か検察官が、亡くなった人の最後の住所地の家庭裁判所に、清算人の選任を申し立てます。裁判所が清算人(弁護士や司法書士が選ばれることが多い)を選ぶと、同時に「相続人がいるなら名乗り出てください」という公告を官報に出します。この期間は6か月以上です。清算人は、その6か月の中で、お金を貸していた人などに「請求を申し出てください」という公告を2か月以上の期間で出し、申し出があった借金を財産から払います。6か月が過ぎても相続人が現れなければ、相続人はいないことが確定します。
ここで特別縁故者の出番です。民法958条の2は、亡くなった人と生計を同じくしていた人、療養看護に努めた人、その他特別の縁故があった人が請求すれば、家庭裁判所は、清算後に残った財産の全部または一部をその人に与えることができる、と定めています。内縁の妻や夫、長年世話をした親族でない人、身元引受人として面倒を見てきた人などが当たります。期限があり、相続人を捜す6か月の公告期間が終わった日から3か月以内に申し立てなければなりません。申し立てても、もらえると決まっているわけではなく、どのくらいの縁故があったかを裁判所が見て、全部か一部か、あるいは認めないかを決めます。
特別縁故者への分与が終わっても財産が残れば、それは国庫に帰属します(民法959条)。つまり、相続人がいない人の財産の行き先は、借金の返済、特別縁故者、国、の順番です。遺言があれば話は別で、遺言で財産をもらう人(受遺者)は、この手続きの中で清算人から財産を受け取ります。相続人がいない人こそ、遺言を書く意味が大きい。遺言の種類と選び方の記事で書いた公正証書遺言が一通あれば、この記事の手続きのほとんどは要りませんでした。
相続人がいない人の財産は、家庭裁判所が選んだ相続財産清算人がまとめて整理する。まず借金を払い、次に特別縁故者(内縁の妻や世話をした人)からの請求があれば家庭裁判所の審判で全部または一部を与え、それでも残った財産は国庫に入る。遺言があれば、受遺者はこの流れの中で清算人から受け取る。
①は清算人が2か月以上の公告を出して申し出を受け、②は家庭裁判所が縁故の深さを見て全部・一部・なしを決めます。
改正の話を一つ。2023年4月より前は、清算人選任の公告2か月、債権者への公告2か月、相続人捜索の公告6か月を順に進める必要があり、最短でも10か月かかりました。改正で、相続人捜索の公告(6か月以上)を最初に出し、その中で債権者への公告(2か月以上)を並行して進める形になり、期限が6か月に縮みました。それでも、申立てから特別縁故者の審判まで、1年前後を見ておく手続きです。
お金の話です。申立ての費用は、収入印紙800円、官報公告料5,582円、連絡用の郵便切手が数千円。これに加えて、予納金を求められることがあります。清算人の報酬や手続きの実費は、亡くなった人の財産から払うのが原則ですが、財産で足りない見込みのときは、申立人が前もって預けます。金額は裁判所が財産の内容を見て決めるので、申し立てる前に家庭裁判所に確認してください。財産が十分にある事案では、予納金なしか少額で済むことが多い一方、預金が少なく不動産だけ、という事案では、数十万円単位の予納金を求められることがあります(2026年10月時点の裁判所の案内と相談で見た範囲)。
女性の例に戻ります。男性の財産は、マンション(固定資産税評価額1,800万円)と預金600万円。借金は、最後の入院費の未払い40万円だけでした。女性は、入院費を立て替えた債権者であり、二十年同居した特別縁故者の候補でもあるので、利害関係人として清算人の選任を申し立てました。清算人が選ばれて公告が出たのが申立ての翌月、6か月の期間が終わったのがその半年後。その間に清算人は、入院費40万円を預金から払い、マンションの名義を相続財産法人に変える登記をし、管理費と固定資産税を払いました。
期間が終わった翌週、女性は特別縁故者としての分与を申し立てました。出したのは、二十年分の住民票の履歴(同じ住所であることを示すもの)、男性の通院に付き添った記録、病院の緊急連絡先が女性になっていた書類、二人の生活費が一つの口座から出ていたことの通帳。裁判所は、清算後に残った財産(預金から入院費、清算人の報酬約60万円、登記や管理の実費約20万円を引いた約480万円と、マンション)の全部を女性に与える審判を出しました。申立てから審判までは、ちょうど1年でした。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 預金 | 600万円 |
| 入院費の未払い(清算人が支払い) | −40万円 |
| 清算人の報酬(裁判所が決定) | −約60万円 |
| 登記・管理費・固定資産税などの実費 | −約20万円 |
| 残った預金 | 約480万円 |
| マンション(固定資産税評価額) | 1,800万円 |
| 特別縁故者が受け取った合計 | 約2,280万円 |
一つ注意を。マンションや土地が他の人との共有だった場合、共有者の一人が相続人なく死亡したときは、その持分は他の共有者のものになる、という条文があります(民法255条)。これと特別縁故者の分与がぶつかったとき、最高裁は1989年の判決で、特別縁故者への分与が先、分与されなかったときに共有者のものになる、と判断しています。実家が兄弟との共有、というケースでは、この順番が効いてきます。
税金も書いておきます。特別縁故者が受け取った財産は、相続税の対象になります。相続人ではないので、相続税の基礎控除と申告の要否の記事で書いた基礎控除は3,000万円だけで、税額は2割増しになります。この女性の例では、マンション1,800万円と預金約480万円で約2,280万円。基礎控除の範囲に収まり、申告は要りませんでした。収まらないときは、税理士に相談してください。
「私には何の権利もない」。そう言われた女性が受け取ったのは、マンションと約480万円でした。ただし、それは申立てから1年かかり、途中で相続人が現れていれば何も残らなかった道です。相続人がいない人と暮らしている、世話をしている、という人は、その人が元気なうちに遺言を一通書いてもらう。それが、この記事の手続きを丸ごと省く、いちばん短い道です。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-06
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。
参考(公式)
この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-06 確認)。
- 裁判所「相続財産清算人の選任」 ― 申立人、申立先、収入印紙800円・官報公告料5,582円、必要書類
- 裁判所「特別縁故者に対する相続財産分与」 ― 申し立てられる人、公告期間の満了後3か月以内という期限
- e-Gov 法令検索「民法」 ― 951条〜959条(相続財産法人、清算人、特別縁故者、国庫帰属)、255条(共有者の死亡)