離婚・家族 2026-09-12
事実婚(内縁)の解消 ― 婚姻届を出していなくても、財産分与と慰謝料は準用される
婚姻届を出さずに夫婦同然の生活を送る「事実婚(内縁)」も、解消のときには離婚に準じた扱いを受けます。財産分与、慰謝料、婚姻費用に相当する権利は認められますが、相続権と税の配偶者控除はありません。事実婚の証明の仕方、解消時の財産の分け方、子の認知と親権、同性パートナーシップ制度との違いを整理します。
この記事の位置: 別居前・離婚を考え始めたら → 離婚の中身を決める → 書面にする・届を出す → 離婚が成立したら → 離婚後の生活 → [状況別(当てはまる方だけ)]
「15年一緒に暮らしたのに、籍を入れていないと何ももらえないと言われました」。50代の女性が、相手が家を出て行って一か月後に相談に来ました。婚姻届は出していない。子はいない。家は相手の名義、預金の一部は共同名義。相手からは「結婚していないんだから、財産分与も何もない」と言われたそうです。半分違います、と答えました。もらえないものと、もらえるものが、はっきり分かれています。この記事は、その線引きの話です。
婚姻届を出さずに、夫婦同然に生活する関係を「事実婚」または「内縁」と呼びます。同居し、生計を共にし、周囲からも夫婦として扱われている実態があれば、法律上も一定の保護を受けます。この関係を解消するとき、何が離婚と同じで、何が違うかを書きます。
まず、認められるものです。内縁関係が正当な理由なく一方的に解消された場合、婚姻費用に相当する生活費の分担、そして財産分与に相当する財産の清算が、法律婚の離婚に準じて認められます。同居中に共同で築いた財産(自宅、預貯金など)は、財産分与の基本の記事で書いた2分の1の原則と同じ考え方で清算されます。悪意ある解消(不貞や暴力による一方的な破棄)があれば、不貞の慰謝料の記事で書いた考え方に準じて、慰謝料も認められることがあります。
一方、認められないものもあります。最も大きいのが相続権です。内縁の配偶者は、どれだけ長く連れ添っても、法律上の相続人にはなりません。相続させたいなら、遺言を書くか、養子縁組をする必要があります(相続分は遺留分の記事で書いたとおり、他の相続人の遺留分を侵さない範囲で)。税金では、配偶者控除、配偶者の税額軽減、贈与税の配偶者控除といった、法律婚の配偶者向けの優遇は使えません。健康保険の被扶養者にはなれる場合がありますが(内縁関係を証明する書類が要ります)、年金の第3号被保険者や遺族年金の受給資格は、事実婚の実態が認められれば対象になることもあり、個別の確認が必要です。
子がいる場合、母親との親子関係は出産で当然に生じますが、父親との親子関係は「認知」をしないと法律上生じません。認知していない場合、養育費を請求するには、まず認知調停・認知の訴えで父子関係を確定させる必要があります。認知された子の親権は、法律婚と違って、出生時点では母が単独で持ちます。2026年4月の改正で、認知したうえで父母の協議(まとまらなければ家庭裁判所の審判)により、父母の双方(共同親権)または父を親権者と定められるようになりました(民法819条4項・5項。協議で定めたときは市区町村への届出が要ります)。定めるまでは母の単独親権のままです。
| 項目 | 事実婚(内縁) | 法律婚 |
|---|---|---|
| 財産分与に相当する清算 | ○(準用される) | ○ |
| 婚姻費用に相当する分担 | ○(準用される) | ○ |
| 慰謝料(一方的な破棄) | ○(準用される) | ○ |
| 相続権 | ×(遺言・養子縁組がなければ無し) | ○ |
| 税の配偶者控除・配偶者の税額軽減 | × | ○ |
| 子の親権 | 出生時は母が単独。認知+父母の協議(または審判)で双方または父にできる(2026年4月〜) | 共同親権を選べる(2026年4月〜) |
証明の問題も書いておきます。法律婚は戸籍で証明できますが、事実婚は「実態」で判断されるので、解消時に「そもそも内縁関係だったのか」が争いになることがあります。住民票の続柄欄に「妻(未届)」「夫(未届)」と記載しておく、家計を共にしていた記録(家賃や公共料金の名義、共同名義の口座)、周囲への紹介の仕方、同居期間の長さ。これらが、実態を示す証拠になります。書面を作るなら、同棲を始めるときに「準婚姻契約」のような合意書を作り、財産の扱いや解消時の清算方法を決めておくと、解消時の争いを減らせます。
同性パートナーシップ制度との違いも一言書いておきます。多くの自治体が導入している「パートナーシップ制度」は、同性カップル(一部の自治体では異性の事実婚カップルも対象)を自治体が公的に認証する制度で、公営住宅への入居や病院での面会などで一定の便宜が図られますが、法律上の婚姻や内縁と同じ権利(相続権、税の優遇)を作るものではありません。事実婚と同様、財産分与に相当する清算は、解消時に協議で行うことになります。
現場で最初に確かめたのは、「内縁関係だったこと」を示せるかでした。住民票を取ると、続柄に「妻(未届)」と書かれていました。これが一枚目の証拠です。家賃はなく持ち家でしたが、光熱費の口座は共同名義、相手の勤務先の健康保険で女性が被扶養者になっていた(内縁の配偶者として認定されていた)。相手の親の葬儀で、女性が親族席に座った写真もありました。実態としての夫婦であることは、十分に示せる材料でした。
もらえるものを整理しました。財産分与に相当する清算です。同居中に二人で築いた財産が対象で、共同名義の預金約800万円、相手名義の車、そして相手名義の家のうち、同居後にローンを返した分に相当する価値。家は同居前に相手が買ったもので、その部分は相手の特有財産ですが、同居後15年分の返済(約1,400万円)は二人の収入から出ているので、その分は清算の対象になり得ます。一方的に出て行かれた事情は、慰謝料の材料にもなります。相手に内容証明を送り、協議を申し入れました。相手は最初「法律婚ではない」の一点張りでしたが、女性が弁護士に依頼したあと、家庭裁判所の内縁関係調整調停で、預金400万円と家の返済分の一部を含めて650万円で合意しました。
もらえないものも、同じ日に話しました。相続権です。もし相手が出て行く代わりに亡くなっていたら、この女性は相続人ではなく、15年一緒に暮らした家から出ることになっていました。相手に遺言がなければ、家も預金も相手の親や兄弟に行きます。「解消」なら財産分与に準じた清算があり、「死別」なら何もない。事実婚の一番大きな落とし穴は、別れるときより、死なれるときにあります。
解消の実務としては、離婚協議書に書くことの記事で書いた条項の考え方(財産の一覧、清算条項)を、事実婚の解消合意書として使うのが現実的です。行政書士に頼む場合の書類作成の範囲や費用感も、離婚協議書とほぼ同じです。争いになれば、家庭裁判所の内縁関係調整調停という制度もあり、離婚調停と同様に第三者を挟んで話し合えます。
合意のあと、女性が言ったのは「籍を入れない代わりに、何かしておくべきだったんですね」でした。事実婚を選ぶこと自体は、それぞれの事情で正当な選択です。ただ、法律婚が戸籍一枚で自動的に用意してくれるもの(財産の清算、相続、税の優遇)を、事実婚では自分たちで用意する必要があります。同居を始めるときに、財産の扱いと解消時の清算を書いた合意書を作ること。そして、互いに遺言を書くこと。この記事の表は、その「自分で用意するもの」の一覧です。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-09-30
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。
参考(公式)
この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-09-30 確認)。
- e-Gov法令検索「民法」 ― 819条4項(認知した子の親権。父母の協議で双方または父を親権者にできる)・5項(協議に代わる審判)