土地・不動産 2026-09-28

権利証(登記識別情報)をなくしたら ― 売るとき・贈与のときの三つの代わりと、相続では要らない理由

家を売る段になって、権利証(登記済証・登記識別情報通知)が見つからない。権利証は再発行されませんが、売れなくなるわけではありません。法務局の事前通知、司法書士の本人確認情報、公証人の認証という三つの代わりの違い、売買でどれを選ぶか、費用、そして相続登記では亡くなった人の権利証が原則要らない理由を整理します。

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この記事の位置: まず読む:値段と書類の読み方 → 買う前に確認すること → 建てられるか・どれだけ建つか → 境界・隣地・道 → 災害と地盤 → 持っている間:税金と登記 → [売るとき] → 貸す・借りる・特殊な権利

「権利証がどこにもないんです。家を売る話は、これで終わりですか」。60代の男性が、不動産会社の担当者と一緒に相談に来ました。25年前に自分で買った土地と家で、買主はもう見つかっていて、代金は1,800万円。決済は六週間後。家じゅうを探しても、買ったときに受け取った登記済証(権利証)が出てきません。先に答えを書くと、売る話は終わりません。ただ、権利証の代わりになる手段を一つ選び、その費用を誰が持つかを決める必要がありました。この記事は、その選び方の話です。

権利証は、不動産の登記をしたときに名義人に渡される「この登記の本人である」という証拠です。以前は、登記の申請書に法務局が「登記済」の印を押して返した書面(登記済証)でした。法務局のオンライン化にあわせて2005年から順に切り替わり、今は12桁の英数字の符号(登記識別情報)が書かれた「登記識別情報通知」という紙で渡されます。符号の部分には目隠しのシールが貼ってあります。どちらも、呼び方は違っても役割は同じです。

権利証が要るのは、名義人が権利を「手放す側」になる登記です。売買で所有権を買主に移す、子に贈与する、離婚の財産分与で相手に渡す、住宅ローンの借り換えで新しい抵当権を設定する。登記は、権利を失う人(登記義務者)が本当に本人かどうかを、権利証と実印・印鑑証明書で確かめる仕組みになっているからです。逆に、相続登記では、亡くなった人の権利証は原則要りません。相続の登記は、権利を手放す人の申請ではなく、相続人が単独で申請する登記だからです(登記簿の住所と亡くなったときの住所が書類でつながらないときに、つながりを補う資料として権利証を添えることはあります)。離婚の財産分与で家を渡す側になる人は、話し合いの段階で権利証の場所を確かめておくと、登記の段取りが一つ減ります。

困るのは、権利証は再発行されないことです。登記識別情報は一つの登記につき一度だけ通知される符号で、なくしたからといって新しい符号は出ません。盗まれた、人に見られたおそれがある、というときは、法務局に「失効の申出」をしてその符号を使えなくできますが、これも新しい符号がもらえるわけではありません。では、どうやって売るのか。不動産登記法は、権利証を出せないときの道を三つ用意しています(23条)。

一つ目は、事前通知です。権利証なしで登記を申請すると、法務局が名義人に「こういう登記の申請がありました。間違いなければ2週間以内に申し出てください」という通知を、本人限定受取郵便で送ります。名義人が期間内に署名押印して返せば、登記が進みます。費用はほとんどかかりません。ただ、申請してから本人の申出があるまで、登記が確定しない空白ができます。売買では、買主は代金を払ったその日に名義が間違いなく移ることを求め、買主に融資する銀行も同じです。決済と同時に登記を申請する取引では、この方法は使いにくいのが普通で、代金のやりとりがない贈与や家族間の名義変更で使う道です。名義人が海外に住んでいるときは、申出の期間は4週間になります。また、所有権の登記で、申請の前3か月以内に住所の変更登記がされている場合は、前の住所にも通知が送られます。住所だけを移して他人になりすまし、売ろうとする手口を防ぐための仕組みです。

二つ目は、本人確認情報です。司法書士などの資格者代理人が、名義人と会って本人であることを確かめ、その内容を書いた「本人確認情報」を申請と一緒に出します。登記官がこれを相当と認めれば、事前通知なしで登記が進みます。決済の日にそのまま申請できるので、売買では実務上ほとんどこの方法になります。費用は、通常の登記の報酬とは別に司法書士の報酬としてかかり、数万円から10万円前後のことが多い印象ですが、事務所や物件によって違います。

三つ目は、公証人の認証です。名義人が公証役場に出向き、登記の委任状に署名押印したことについて公証人の認証を受けます。登記官がこれで本人確認ができたと認めれば、事前通知は省かれます。公証人の手数料は数千円で、本人確認情報より安く済むことが多い一方、名義人が公証役場に行く手間がかかり、代理を頼む司法書士がこの方法で進めるかどうかも事務所によります。

権利証がないときの三つの代わり ― 売買なら本人確認情報が標準
権利証がないときの三つの代わり ― 売買なら本人確認情報が標準権利証が見つからない名義人から三本の矢印が出ている。一つ目は事前通知で、法務局から本人限定受取郵便が届き2週間以内に申し出る。費用はほぼかからないが決済の日に登記が確定しないので、贈与や家族間の名義変更向き。二つ目は司法書士が面談して作る本人確認情報で、報酬はかかるが決済の日に申請でき、売買の標準。三つ目は公証人の認証で、本人が公証役場へ出向く。 名義人 権利証が見つからない ① 事前通知(法務局から本人限定郵便・2週間以内に申出)① 事前通知(法務局から本人限定郵便・2週間以内に申出) 費用ほぼ0円/決済の日に登記が確定しない → 贈与・家族間向き費用ほぼ0円/決済の日に登記が確定しない → 贈与・家族間向き ② 本人確認情報(司法書士が面談して書面を作る)② 本人確認情報(司法書士が面談して書面を作る) 報酬が別にかかる/決済の日に申請できる → 売買の標準報酬が別にかかる/決済の日に申請できる → 売買の標準 ③ 公証人の認証(委任状に公証人の認証を受ける)③ 公証人の認証(委任状に公証人の認証を受ける) 手数料は数千円/本人が公証役場へ出向く手数料は数千円/本人が公証役場へ出向く

権利証が見つからない名義人から三本の矢印が出ている。一つ目は事前通知で、法務局から本人限定受取郵便が届き2週間以内に申し出る。費用はほぼかからないが決済の日に登記が確定しないので、贈与や家族間の名義変更向き。二つ目は司法書士が面談して作る本人確認情報で、報酬はかかるが決済の日に申請でき、売買の標準。三つ目は公証人の認証で、本人が公証役場へ出向く。

相続登記では、亡くなった人の権利証は原則要りません。

男性の家では、決済日が決まった売買だったので、本人確認情報を選びました。数字を並べます。売買代金1,800万円。司法書士に払う売主側の費用は、予定していた売渡しの書類作成の報酬に加えて、本人確認情報の作成で8万円(この事務所の額です)。事前通知を選べば費用はほぼゼロでしたが、決済の日に登記が確定しない状態では、買主の銀行は融資を実行しません。8万円は、決済の日を動かさないための費用でした。売主側の負担として、仲介会社を通じて買主にも事情を伝え、決済日はそのまま据え置きになりました。

この家の売却(代金1,800万円)で、権利証の代わりを比べると
方法追加でかかったお金決済の日の登記この家での判断
① 事前通知ほぼ0円確定しない(買主の銀行が融資しない)使えない
② 本人確認情報8万円(この事務所の報酬)確定するこれを選んだ
③ 公証人の認証数千円+公証役場へ行く手間確定する(登記官が相当と認めれば)司法書士の段取りに合わず見送り
合計(選んだ方法)8万円決済日は据え置き

本人確認情報のための面談は、四十分ほどでした。司法書士は、男性の運転免許証とパスポートを確かめ、買ったときの経緯、そのときの仲介会社の名前、ローンの有無、固定資産税の納税通知書を順に聞いていきました。「25年前に契約した場所まで聞かれた」と男性は言っていました。本人確認情報は司法書士が自分の責任で書く書面なので、確認は細かくなります。事務所によっては、面談の場所を名義人の自宅にして、そこに住んでいる様子も確かめます。顔写真付きの身分証明書が一枚もない人は、それだけで時間がかかったり引き受けてもらえなかったりするので、売ると決めたら、権利証があるかどうかを最初に確かめてください。

探し方も書いておきます。権利証が見つからないという相談で、あとから出てきた場所は、買ったときの売買契約書と同じ封筒、登記をした司法書士の事務所名が入った封筒、仏壇の引き出し、貸金庫。登記識別情報通知は、A4の紙に目隠しシールが貼られた形で、表に「権利証」とは書いていないため、書類の束の中で見落とされがちです。シールがはがされているなら、12桁の符号を人に見られていないかも考えてください。男性の登記済証は、決済の二週間後に、古い固定資産税の納税通知書の束の下から出てきました。8万円は戻りませんでしたが、男性は「置き場所を家族に言っておけばよかった」と言っていました。

なお、ローンを完済した家では、銀行から返ってくる封筒に入っているのは抵当権の登記のときの銀行側の書類で、名義人の権利証ではありません。抵当権の抹消登記の記事で書いたとおり、あの封筒は抹消の登記に使うものです。取り違えて「権利証はある」と思い込んでいる例も、相談ではときどき見ます。

権利証は、なくすと売れなくなるものではなく、なくすと売るときに手間と費用が一つ増えるものです。売る予定がなくても、一度、権利証のある場所を確かめて、家族に伝えておく。不動産売却の流れと媒介契約の記事で書いた売却の準備は、この確認から始めるのが近道です。相続登記の準備をしている人は、亡くなった人の権利証を探し回る必要は原則ありません。相続登記ナビで、自分の相続に要る書類をまず絞ってください。

執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-09-28

この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。

参考(公式)

この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-09-28 確認)。

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