土地・不動産 2026-09-09

抵当権の抹消登記 ― ローンを完済しても、登記の抵当権は自動では消えない

住宅ローンを払い終えると、銀行から抹消用の書類一式が届きます。ここで登記をしないと、抵当権は登記簿に残り続けます。売却や相続の場面で発覚して慌てるのが実務の定番です。必要書類、登録免許税(不動産1個につき1,000円)、自分でする場合と司法書士に頼む場合、銀行が合併・消滅していた場合、相続と抹消を一緒にする場合を整理します。

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この記事の位置: まず読む:値段と書類の読み方 → 買う前に確認すること → 建てられるか・どれだけ建つか → 境界・隣地・道 → 災害と地盤 → [持っている間:税金と登記] → 売るとき → 貸す・借りる・特殊な権利

実家を売る契約の三日前に、買主側の司法書士から電話が来ました。「乙区に抵当権が残っています。抹消の書類はお手元にありますか」。売主の男性は、父が22年前に完済したローンの抵当権だと分かりました。銀行から届いた封筒は、父の仏壇の引き出しにありました。ただ、その銀行は、15年前に別の銀行と合併して、もう名前がない。この記事は、その引き出しの封筒が、決済の日までに使えるようになるまでの話です。

住宅ローンを完済すると、銀行から「抵当権抹消に必要な書類」という封筒が届きます。中には、抵当権解除証書(または弁済証書)、登記識別情報(または登記済証)、銀行の委任状が入っていて、添え状に「お客様ご自身で法務局へ申請してください」と書いてあります。この封筒を、机の引き出しにしまったままにしている家が、驚くほど多い。登記簿の抵当権は、ローンを払い終えても自動では消えません。

抵当権が残っていても、日常生活には何の支障もありません。困るのは、売るとき、相続するとき、新しく借りるときです。売却では、買主は抵当権のない不動産を買うのが前提なので、決済までに抹消が必要になります。相続では、亡くなった親名義の不動産に、二十年前に完済したはずの抵当権が残っていて、その銀行はすでに合併してなくなっている、という状況がよく起きます。登記事項証明書の記事で書いた乙区を、一度見ておいてください。ローンを完済した不動産の乙区に抵当権が残っていれば、それがこの手続きの対象です。

抹消登記の申請は、所有者(登記義務者は銀行、登記権利者は所有者)が、不動産の所在地を管轄する法務局に行います。必要なのは、登記申請書、銀行から届いた解除証書と登記識別情報(登記済証)と委任状、それに銀行の会社法人等番号(資格証明書の代わりに申請書に記載します)です。登録免許税は不動産1個につき1,000円で、土地と建物なら2,000円、マンションで敷地の筆が複数あれば筆の数だけ増えます(20個以上は2万円で頭打ち)。窓口でも郵送でもオンラインでも申請できます。

自分でできるかというと、この登記は相続登記より格段に簡単で、法務局の申請書の様式に沿って書けば、初めての人でもできます。注意点は二つ。一つ、銀行の書類には有効期限があるものがあります。委任状に書かれた代表者が交代していると訂正が要り、会社法人等番号で足りる場合と資格証明書を取り直す場合があるので、届いたら早めに申請してください。二つ、登記識別情報(または登記済証)は原本を使うので、なくすと手続きが増えます。司法書士に頼む場合の報酬は、地域や事務所で幅がありますが、1〜2万円程度が目安で、売却の決済に合わせるなら、所有権移転登記と一緒に買主側の司法書士がまとめて処理するのが通常です。

抵当権抹消登記に必要なもの(2026年9月時点)
ものどこから備考
登記申請書自分で作成(法務局の様式)登記の目的「抵当権抹消」、原因「年月日弁済(解除)」
抵当権解除証書/弁済証書銀行登記原因証明情報。紛失時は再発行可
登記識別情報(または登記済証)銀行抵当権設定時のもの。再発行不可
銀行の委任状銀行代表者交代で訂正が要ることがある
銀行の会社法人等番号解除証書や銀行の案内に記載資格証明書の代わりに申請書へ記載
登録免許税収入印紙不動産1個につき1,000円(20個以上は2万円)

難しくなるのは、銀行の書類がない場合と、銀行がなくなっている場合です。書類を紛失した場合は、銀行に再発行を頼みます(解除証書と委任状は再発行できますが、登記識別情報は再発行されないので、事前通知や司法書士の本人確認情報で代える手続きになります)。銀行が合併している場合は、抹消の前に「合併による抵当権移転登記」を入れる必要があり、存続した銀行に頼めば対応してくれますが、書類の準備に時間がかかります。銀行が解散して承継者がいない、あるいは明治・大正時代の個人の抵当権が残っている、といった「休眠抵当権」は、供託を使う特例や裁判が必要になることがあり、ここは司法書士か弁護士の領域です。

相続とセットになる場面も多いです。亡くなった親名義の不動産に完済済みの抵当権が残っている場合、まず相続登記で名義を相続人に移し、そのうえで相続人が抹消登記を申請します。抹消の書類は、亡くなった親宛に銀行から届いたものがそのまま使えます(相続人が申請人になります)。相続登記と抹消登記は連件で同時に申請できるので、相続登記ナビで相続登記を準備する人には、乙区の確認と抹消書類の有無もセットで案内しています。

状況別の難易度
状況難易度進め方
銀行の書類が揃っている低自分で申請可。司法書士なら報酬1〜2万円程度が目安
書類を紛失中銀行に再発行を依頼。登記識別情報は事前通知などで代替
銀行が合併している中合併による抵当権移転登記を先に入れる(存続銀行が対応)
所有者が死亡している中相続登記→抹消登記を連件で申請
銀行が消滅、承継者不明、大正時代の抵当権高休眠抵当権の特例(供託)や裁判。司法書士・弁護士へ

順にやったことです。封筒の中身は、抵当権解除証書、登記済証(当時は登記識別情報ではなく登記済証)、そして合併前の銀行名の委任状。委任状の代表者は、当然、今の代表者ではありません。まず、存続した銀行の相続・登記の窓口に電話し、「合併による抵当権移転登記」と、新しい委任状の発行を依頼。銀行側の書類の準備に十日。決済までは三日しかなかったので、決済日を二週間延ばしてもらいました。買主は了承してくれましたが、これが「延ばせない」買主なら、契約の解除や違約金の話になるところです。

次に、登記の連件です。父はすでに亡くなっていて、家の名義は父のまま。この場合、相続登記で男性の名義にしてから、抵当権移転登記(合併)、抵当権抹消登記、と三件を連件で申請します。今回は買主側の司法書士がまとめて処理し、費用は、相続登記の登録免許税が評価額1,100万円×0.4%で4万4,000円、抵当権移転の登録免許税が債権額の1,000分の1(債権額2,000万円で2万円)、抹消が土地と建物で2,000円。司法書士の報酬が相続登記と抹消を合わせて約9万円。合計約16万円。22年前に父が封筒をその週のうちに法務局に持っていっていれば、抹消の2,000円と、申請書を書く一時間で終わっていた手続きです。

逆に、簡単に終わった例も書いておきます。別の相談で、完済直後の封筒を持って来た女性がいました。銀行の書類は全部揃っていて、銀行は存続している。法務局の申請書の様式に沿って一緒に書き、登録免許税2,000円分の印紙を貼って、窓口に出しました。補正なし、一週間で完了。かかったのは2,000円と、私の事務所での40分と、法務局への往復。本文で「相続登記より格段に簡単」と書いたのは、この40分のことです。

最後に一つ。完済後の封筒が届いたら、その週のうちに法務局へ。それだけで、十年後、二十年後の家族の手間が一つ消えます。抵当権抹消は、登記の中で最も簡単で、最も放置されている手続きです。

仏壇の引き出しの封筒は、二週間の決済延期と約16万円で、ようやく使えるようになりました。「完済後の封筒が届いたら、その週のうちに法務局へ」と本文の最後に書きました。22年後の息子が払ったのは、2,000円と一時間で済んだはずの手続きの、80倍の費用と二週間です。抵当権抹消は、その週にやれば最も簡単で、放置すれば、銀行の名前が変わるたびに難しくなる手続きです。

執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-09-16

この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。

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