相続・手続き 2026-10-28
生命保険の受取人が先に亡くなっていたら ― 受け取るのは「受取人の相続人」全員、割合は頭割り、相続税は人によって扱いが分かれる
父の生命保険1,500万円の受取人が、3年前に亡くなった兄のままだった。保険法46条で受け取るのは兄の相続人(兄の妻と子二人)で、割合は最高裁の判決で頭割りの500万円ずつ。父の相続人ではない兄の妻だけ、非課税枠が使えず2割加算の対象になる理由、請求に要る戸籍、受取人を変える手続きを、この家の数字で書きます。
この記事の位置: 亡くなる前にできること → [亡くなってすぐ(3か月まで)] → 相続人と財産を確定する → 分け方を決める → 名義を変える・税金(10か月〜3年) → 相続した財産をどうするか → 状況別(当てはまる方だけ)
「父の生命保険の受取人が、3年前に亡くなった兄のままでした」。相談に来たのは50代の女性でした。父は今年の春に82歳で亡くなり、保険金は1,500万円。契約者(保険料を払う人)も被保険者(その人が亡くなると保険金が出る人)も父で、証券の受取人の欄には兄の名前がありました。兄は2023年に病気で亡くなっていて、兄の妻と、高校生と中学生の子が二人います。保険会社からは「受取人の相続人の方全員からご請求いただく形になります」と言われたそうです。誰がいくら受け取るのか、税金はどうなるのか、が相談でした。
受取人が先に亡くなり、変更しないままになっている保険は珍しくありません。受取人を変える手続きは、契約者が生きているあいだに、契約者がするものだからです。高齢になると、手続きを後回しにしているうちに亡くなる、ということが起きます。生命保険と相続の記事で一段落だけ触れた話を、ここでは数字で追います。
最初に見るのは保険の約款です。約款は、保険会社と契約者のあいだの細かい決まりを書いた冊子で、受取人が先に亡くなったときに誰が受け取るかを書いていることがあります。約款に定めがなければ、保険法46条が当てはまります。「保険金受取人が保険事故の発生前に死亡したときは、その相続人の全員が保険金受取人となる」。ここでいう相続人は、亡くなった父の相続人ではありません。先に亡くなった受取人、つまり兄の相続人です。
この家では、兄の相続人は兄の妻と子二人の三人です。父の相続人(母、相談の女性、兄の子二人)とは顔ぶれが違います。兄の妻は父の相続人ではありませんが、保険金は受け取ります。反対に、相談の女性と母は、父の相続人であっても、この保険金は受け取りません。受取人が決まっている保険金は遺産分割の対象ではなく、受け取る人の固有の財産だからです。
左に亡くなった父と保険証券1,500万円。矢印で、先に亡くなった受取人の兄へ。兄から三本の矢印で、兄の妻・兄の子A・兄の子Bへ、それぞれ500万円(頭割り)。右下に父の相続人である母と長女がいて、保険金は受け取らないと書いてある。兄の妻は父の相続人ではないので非課税枠なし・2割加算、子二人は代襲相続人なので非課税枠あり。
約款に別の定めがなければ保険法46条による。割合は1993年の最高裁判決で頭割り。実際の割合は約款で確かめる。
三人の取り分はどうなるか。兄の遺産を分けるときの法定相続分なら、妻が2分の1、子が4分の1ずつです。ところが最高裁の判決(1993年)は、受取人の相続人が保険金を受け取る場合、特別な定めがない限り割合は均等、つまり頭割りだとしています。1,500万円なら三人が500万円ずつ。法定相続分なら妻750万円、子は375万円ずつなので、同じ1,500万円でも配り方が変わります。実際の割合は約款に書かれていることが多いので、保険会社に確かめます。
請求では、兄の相続人が誰かを戸籍で示します。兄の出生から死亡までの戸籍、三人の今の戸籍、父の死亡が分かる書類、請求書、本人確認書類が基本で、細かいところは保険会社ごとに違います。子二人は未成年なので、親権者の兄の妻が代わりに手続きします。この家では、兄の相続のときに作った法定相続情報一覧図の写しが残っていて、戸籍の束の代わりに使えました。
次は相続税です。保険料を払っていたのは父なので、この保険金は父の相続税の対象(みなし相続財産)になります。ここで、受け取る人が父の相続人かどうかで扱いが分かれます。父の相続人が受け取る保険金には「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があります。相続人でない人が受け取る保険金には、この枠は使えません。さらに、亡くなった人の配偶者と一親等の血族(子や親)以外の人が財産を受け取ると、その人の相続税は2割増しになります(2割加算)。
この家の三人に当てはめます。兄の子二人は、兄の代わりに父の相続人になる代襲相続人です。だから非課税枠が使え、孫でも代襲相続人なので2割加算もかかりません。兄の妻は父の相続人ではないので、500万円の全額が課税の対象に入り、相続税がかかるならその税額は2割増しです。同じ500万円でも、三人のうち一人だけ扱いが違います。
では、実際に相続税はかかるのか。父の法定相続人は母、相談の女性、兄の子二人の四人で、基礎控除は3,000万円+600万円×4人で5,400万円、保険金の非課税枠は500万円×4人で2,000万円です。父の財産は、自宅の評価が2,000万円、預貯金が2,500万円でした。子二人の保険金1,000万円は非課税枠に収まるので課税の計算に入らず、兄の妻の500万円だけが入ります。合計は5,000万円で、基礎控除の5,400万円を下回るので、この家では相続税の申告は要りませんでした。財産がもう少し多ければ、兄の妻の分だけ非課税枠が使えず、2割加算もかかる、という差が表に出てきます。その計算は税理士に頼む領域です。
| 受け取る人 | 受け取る額 | 非課税枠 | 課税の計算に入る額 |
|---|---|---|---|
| 母(相続人) | 遺産から | ― | 遺産に含む |
| 長女(相続人) | 遺産から | ― | 遺産に含む |
| 兄の子A(代襲相続人) | 保険金500万円 | 使える | 0円 |
| 兄の子B(代襲相続人) | 保険金500万円 | 使える | 0円 |
| 兄の妻(相続人ではない) | 保険金500万円 | 使えない | 500万円 |
| 合計 | 自宅2,000万+預貯金2,500万+500万=5,000万円 | ||
| 基礎控除 | 3,000万+600万×4人=5,400万円(申告は不要) |
受取人が亡くなったまま契約者も亡くなると、保険金が誰に渡るかも、税金がどうなるかも、本人が考えていた形からずれます。この父は、兄が亡くなったあと、保険の話を家族にしていませんでした。母の話では、兄の家族に残したい気持ちはあったようで、結果は大きく外れていません。ただ、もし父が「母の老後のために」と考えていたなら、保険金は母に1円も行かない結果になっていました。
請求の期限にも気をつけます。保険金を請求する権利は、請求できる時から3年使わないと時効で消えます(保険法95条)。受取人が亡くなっている保険は、家族が証券の存在に気づくのが遅れがちです。この家でも、保険会社からの案内ではなく、父の通帳に毎月の保険料の引き落としが並んでいたことから証券を探し当てました。亡くなった人の通帳で、保険会社の名前の引き落としを一行ずつ確かめるのは、財産を調べる手順の中でも効き目のある作業です。受取人の相続人が何人もいて、遠くに住む人や連絡の取りにくい人がいると、全員の書類がそろうまでに時間がかかります。保険会社によっては代表の一人が請求できる取り扱いもあるので、最初の電話で聞いておきます。
受取人の変更は、保険事故(ここでは父の死亡)が起きるまでなら、契約者が保険会社に届け出ればできます(保険法43条)。遺言で変えることもできますが、亡くなったあとに相続人が保険会社へ知らせないと、保険会社に対しては主張できません(44条)。遺言で変えるなら、保険会社への通知まで段取りしておきます。
相談の三人は、それぞれ500万円を受け取り、請求から支払いまでは1か月ほどでした。兄の妻は「義父の相続で、私だけ税の扱いが違うとは思わなかった」と言いました。家族の誰かが亡くなったら、葬儀のあとの手続きの一つとして、自分の保険証券の受取人の欄を見てください。受取人の名前が亡くなった人のままなら、それを直すのは、契約者が生きているうちにしかできません。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-28
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。
参考(公式)
この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-28 確認)。
- e-Gov法令検索 保険法 ― 43条(保険事故が起きるまでは契約者が受取人を変更できる)、44条(遺言による受取人の変更と、保険会社への通知)、46条(受取人が保険事故の前に死亡したときは、その相続人の全員が受取人になる)
- 国税庁 タックスアンサー No.4114「相続税の課税対象になる死亡保険金」 ― 非課税限度額は500万円×法定相続人の数。相続人以外の人が取得した死亡保険金には非課税の適用はない(令和8年4月1日現在法令等)
- 国税庁 タックスアンサー No.4157「相続税額の2割加算」 ― 配偶者と一親等の血族以外が財産を取得したときの2割加算。代襲相続人の孫は対象外