土地・不動産 2026-10-06
借地の上の家を売る・相続するときの地主の承諾 ― 相続は承諾不要、売却は承諾料、断られたら裁判所の許可
借りている土地の上に建つ実家を相続し、売ろうとしたとき、決まって出てくるのが地主の承諾です。相続で引き継ぐだけなら承諾は要りませんが、第三者に売るには地主の承諾が必要で、承諾料を払うのが慣行です。承諾してもらえないときは、借地借家法19条の「承諾に代わる裁判所の許可」(借地非訟)という道があります。承諾料の目安、地主が自分で買い取ると言い出せる仕組み、競売で買った人の2か月の期限を、更地価格3,000万円の借地の例で整理します。
この記事の位置: まず読む:値段と書類の読み方 → 買う前に確認すること → 建てられるか・どれだけ建つか → 境界・隣地・道 → 災害と地盤 → 持っている間:税金と登記 → 売るとき → [貸す・借りる・特殊な権利]
「地主さんに、売るなら300万円置いていけと言われました。払わないといけないんですか」。父から借地の上の実家を相続した50代の男性の相談です。男性は別の県に家があり、実家には誰も住まない。不動産会社に相談したら「借地権付き建物として売れます。ただし地主の承諾が要ります」と言われ、地主に話をしに行ったら、冒頭の返事だった、という経緯でした。払う必要があるのか、いくらが相場なのか、断られたらどうなるのか。順に書きます。
最初に、相続と売却を分けます。借地権(土地を借りて建物を持つ権利)は財産なので、相続の対象です。相続で引き継ぐのは「譲渡」ではないので、地主の承諾は要りません。地主に「父が亡くなり、私が相続しました」と知らせ、地代をこれまでどおり払えば、それで借地人の立場は引き継がれます。このとき地主から「名義書換料」を求められることがありますが、相続について法律上の支払い義務はありません。借地権の基本の記事で書いたとおり、承諾料は法律ではなく慣行の話で、相続には承諾そのものが要らないからです。
売却は違います。借地権を第三者に譲るには、地主の承諾が要ります(民法612条)。承諾なしに売ると、地主は契約を解除できる、つまり買主は土地を使えなくなる恐れがあるので、買主も金融機関も、地主の承諾書がない借地権付き建物は買いません。承諾の見返りに払うのが譲渡承諾料で、目安として借地権価格の10%前後と言われることが多い(2026年時点、地域と契約で幅があります)。借地権価格は、更地価格に借地権割合(路線価図の読み方の記事で書いたAからGの割合)を掛けたものです。
男性の実家の数字です。更地としての価格は、周辺の取引から3,000万円、借地権割合は60%。借地権価格は3,000万円×60%で1,800万円、承諾料の目安はその10%で180万円。地主の「300万円」は、目安の1.7倍でした。ただ、承諾料は契約でも法律でも決まっていないので、交渉です。不動産会社が間に入り、「建物は古く解体前提なので買主が付きにくい、承諾料は180万円で」と伝えて、最終的に200万円で承諾書をもらいました。
地主の側から見ると、承諾は「知らない人に土地を使わせる」判断です。地代をきちんと払うか、建て替えで揉めないか、を見極めたいので、買主が誰で、どう使うかを先に伝えると話が早い。承諾書には、譲り受ける人の氏名、譲渡後の地代、契約の残り期間、承諾料の額と支払い時期を書いてもらい、買主と金融機関に渡せる形にします。口頭の承諾だけでは、後で「承諾していない」と言われたときに買主が困ります。
借地人が借地上の家を買主に売るには地主の承諾が要り、承諾料(目安は借地権価格の10%前後)を払う。地主が承諾しないときは、借地人が裁判所に承諾に代わる許可を申し立てられる。裁判所は承諾料に当たる財産上の給付を条件に許可することが多く、地主は自分が買い取るという介入権を使うこともできる。相続で引き継ぐだけなら承諾は要らない。
承諾料は法律で決まった額ではなく、契約と地域の慣行で幅があります(2026年時点の目安)。
承諾してもらえないときの道を書きます。借地借家法19条は、借地人が建物を第三者に譲ろうとするとき、その第三者が借地権を引き継いでも地主に不利になる恐れがないのに地主が承諾しない場合、裁判所が地主の承諾に代わる許可を出せる、と定めています。借地非訟(しゃくちひしょう)と呼ばれる手続きで、地方裁判所に申し立てます。裁判所は、残りの契約期間、これまでの経過、譲渡が必要な事情などを見て、許可するかどうかを決め、許可するときは「財産上の給付」、つまり承諾料に当たるお金を地主に払うよう命じるのが普通です。許可の条件として命じられる額は、裁判例では借地権価格の10%前後になることが多いとされ、これが承諾料の目安の根拠にもなっています。
この手続きには、地主側の切り札もあります。同条3項の「介入権」で、借地人が許可を申し立てると、地主は裁判所が定める期間内に「それなら自分が建物と借地権を買い取る」と申し立てることができます。裁判所は鑑定委員会の意見を聞いて相当な対価を決め、地主に買い取らせます。第三者に売るつもりが、地主に売ることになる。価格は鑑定で決まるので安く買い叩かれるわけではありませんが、売り先を選べなくなる、という点は知っておいてください。
もう一つ、競売の話です。借地上の建物が競売で売られた場合、買った人は借地権も一緒に取得しますが、やはり地主の承諾が要ります。承諾してもらえないときは、同法20条で裁判所の許可を申し立てられますが、期限が短く、建物の代金を払った後2か月以内です。競売で借地権付き建物を買う人は、この2か月を落とすと土地を使う権利を失いかねないので、入札前に地主の意向を探るのが普通です。
買う側から見た注意も書きます。借地権付き建物は、同じ場所の所有権の家より安く買えますが、地代が毎月かかり、建て替えや増改築にも地主の承諾(と承諾料)が要ることが多い。住宅ローンは、土地に抵当権を付けられないので、取り扱う金融機関が限られ、地主の承諾書の提出を求められます。契約の残り期間と、更新料の定めがあるかも、重要事項説明で確認してください。中古住宅の重要事項説明の読み方の記事に、借地の欄の見方を書いています。
男性の最終的な数字です。借地権付き建物の売却価格は1,800万円(建物は築45年で価値ゼロと見て、借地権価格のとおり)。ここから、地主への承諾料200万円、不動産会社への仲介手数料(1,800万円×3%+6万円=60万円、消費税を足して66万円)、建物の解体は買主負担としたので売主側はなし。手取りは1,800万円−200万円−66万円で1,534万円でした。借地権の売却益には譲渡所得税がかかりますが、父の取得時期が古く取得費が分からないため、売却価格の5%を取得費とする計算になり、税額は別途、税理士に確認してもらいました。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 借地権付き建物の売却価格 | 1,800万円 |
| 地主への譲渡承諾料(交渉で決定) | −200万円 |
| 仲介手数料(1,800万円×3%+6万円=60万円、税込) | −66万円 |
| 建物の解体費(買主負担にした) | 0円 |
| 手取り(譲渡所得税は別途) | 1,534万円 |
反対の例を一つ。同じ年、別の相談者は、地主に承諾を求めたところ「承諾しない。出ていくなら建物を壊して更地で返せ」と言われました。借地権は旧借地法の契約で、残り期間も十分ある事案です。弁護士に依頼して借地非訟を申し立て、地主は介入権を使わず、裁判所は借地権価格の10%に当たる額の給付を条件に譲渡を許可しました。申立てから決定まで約8か月。承諾料を交渉で払って3か月で売るのと、裁判所の許可で8か月かけるのと、どちらが得かは、時間をどう見るかで変わります。
「300万円置いていけ」は、払う義務のある額ではなく、交渉の出発点でした。借地権価格を出し、その10%前後を目安に話し、まとまらなければ裁判所、という順番を知っていれば、言われた額をそのまま払わずに済みます。相続なら承諾は要らない、売るなら要る。この一行を、地主に会う前に頭に入れておいてください。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-06
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。
参考(公式)
この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-06 確認)。
- e-Gov 法令検索「借地借家法」 ― 19条(譲渡の承諾に代わる裁判所の許可、財産上の給付、3項の介入権、鑑定委員会)、20条(競売で取得した場合、代金支払い後2か月以内)
- e-Gov 法令検索「民法」 ― 612条(賃借権の譲渡・転貸には賃貸人の承諾が要る、無断なら解除できる)