土地・不動産 2026-09-30

親の土地に子が家を建てたら ― 地代なしの「使用貸借」、贈与税はかからないが、相続で起きること

親の土地に子が家を建て、地代を払っていない。この形は民法の「使用貸借」で、贈与税はかかりません。ただ、相続のときは土地が更地と同じ評価で遺産に入り、小規模宅地等の特例が使えるかは「家計が一つだったか」で分かれます。土地を誰が取るかで、きょうだいの話し合いの形も変わります。遺産4,800万円・相続人二人の家を例に、相続税と代償金を計算します。

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「弟の家が、父の土地の上に建っています。この土地、半分は私のものですよね」。父を亡くした姉の方が、公図と登記事項証明書のコピーを持って来ました。土地は150平方メートルで、名義は父。その上に、弟が15年前に自分の名義で建てた家があります。弟は父に地代を払ったことがなく、父もそれを求めたことはありませんでした。相続人は姉と弟の二人です。

親の土地に子が家を建てるとき、地代も権利金も払わないのが普通です。このように、ただで物を借りる約束を、民法では「使用貸借」と呼びます(民法593条)。地代を払って借りる「賃貸借」、つまり借地とは別の契約で、書面がなくても成り立ちます。この姉弟の家にも契約書は一枚もありませんでしたが、父と弟の間には、土地をただで使う約束があったことになります。

父の土地に、弟の家。地代なしで借りるのが「使用貸借」
父の土地に、弟の家。地代なしで借りるのが「使用貸借」左に父名義の土地150平方メートルがあり、その上に弟名義の家が建っている。右では、亡くなった父から弟へ「ただで貸す(使用貸借)」の矢印。その下に、贈与税はかからない(使う権利の価額はゼロ)、相続税では自用地として満額で評価される、と書いてある。父名義の土地(150㎡)父名義の土地(150㎡) 弟名義の家 父 貸す側 弟 ただで貸すただで貸す 贈与税:かからない(使う権利はゼロ)贈与税:かからない(使う権利はゼロ) 相続税:更地と同じ評価(自用地)相続税:更地と同じ評価(自用地)

左に父名義の土地150平方メートルがあり、その上に弟名義の家が建っている。右では、亡くなった父から弟へ「ただで貸す(使用貸借)」の矢印。その下に、贈与税はかからない(使う権利の価額はゼロ)、相続税では自用地として満額で評価される、と書いてある。

地代を払っている、権利金を払ったなど、使用貸借でない場合は扱いが変わります。

まず贈与税です。国税庁は、使用貸借で土地を使う権利の価額はゼロとして扱う、としています。親の土地に子が家を建てても、子が借地権の分をもらったとして贈与税がかかることはありません。地代の代わりに、土地の固定資産税くらいの額を親に渡している程度なら、地代とは見ずに使用貸借として扱うのが、税務の考え方です。反対に、世間並みの地代を払っていたり、権利金をやり取りしていたりすると借地権の話になり、扱いが変わります。そういう家は、相続の前に税理士に確かめてください。

次に相続税です。使用貸借の土地は、相続のとき、人に貸している土地(貸宅地)としてではなく、自分で使っている土地(自用地)として評価されます。借地権がついた土地なら評価が下がりますが、使用貸借では下がりません。弟の家が建っていても、父の土地は、更地と同じ評価のまま遺産に入ります。

ここで分かれ目になるのが、小規模宅地等の特例です。亡くなった人と「生計を一にしていた親族」が住んでいた土地は、その親族が相続し、申告期限まで住み続けて持ち続けるなどの要件を満たせば、330平方メートルまで評価を8割減らせます。生計を一にするとは、ひとつの財布で暮らしていた、ということです。父と弟が別々の家計で暮らしていたなら、父の土地の上の弟の家は、この特例の対象になりません。同じ土地、同じ家でも、家計が一つだったかどうかで、土地の評価額は5倍違います。

使用貸借は、いつ終わるのか。民法は、借りている人が亡くなると使用貸借は終わる、と定めています(597条3項)。一方、貸している人が亡くなっても終わりません。父が亡くなった今、土地をただで貸している立場は、父の相続人に引き継がれます。遺産分割で姉が土地を取れば、姉が弟に土地をただで貸している状態になります。使用貸借は地代がないぶん借りる側の立場が弱く、登記もできません。土地が第三者に売られたら、弟は、その買主に対して「借りている」と言えません。

遺産分割の話し合いで、この土地をいくらと見るかも分かれ目です。弟の家が建っていて、ただで使わせている負担があるぶん少し低く見るか、更地と同じに見るか。法律で一つに決まっているわけではなく、相続人の話し合いで決めます。調停や審判になると、使っていた年数や事情によって扱いが分かれます。この姉弟は、話を長引かせないために、相続税の評価と同じ3,000万円で見ることにしました。

固定資産税の通知も、名義で分かれていました。父が生きている間、土地の固定資産税は父あてに、家の固定資産税は弟あてに届いていました。土地の税は父の預金から引き落とされていたので、弟は、自分が土地の税を一度も払っていないことを、相談の場で初めて知ったそうです。相続で弟が土地を取り、登記を済ませれば、その次の1月1日から、土地と家の通知が両方とも弟あてになります。

だから、この形の相続では、土地を誰が取るかが一番の問題になります。姉が取れば、弟は姉の土地に家を持つことになり、姉が土地を売りたくなったとき、あるいは姉が亡くなって姉の子が土地を相続したときに、話がこじれます。弟が取れば、土地と家の持ち主が一人にそろいます。その代わり、弟は姉に、代わりのお金(代償金)を払う必要が出てきます。二人の共有にする方法もありますが、共有の記事で書いたとおり、次の相続で関係者が増え、さらに動かしにくくなることが多い形です。

この家の数字です。土地は路線価で1平方メートルあたり20万円、150平方メートルで相続税評価額は3,000万円(自用地のまま)。ほかの財産は預金1,800万円で、遺産の合計は4,800万円です。相続人は二人なので、基礎控除は3,000万円+600万円×2人=4,200万円。父と弟は別々の家計だったので小規模宅地等の特例は使えず、遺産は基礎控除を600万円超えます。600万円を法定相続分で二人に分けると一人300万円、税率10%で30万円ずつ、相続税の総額は60万円です。

仮に、父と弟がひとつの家計で、弟がこの土地に住み続けて相続した場合も計算してみます。土地の評価は3,000万円の8割減で600万円。遺産の合計は2,400万円になり、基礎控除の4,200万円を下回るので、相続税はかかりません。ただし、特例を使うこと自体に申告が要ります。60万円と0円の差は、家計が一つだったかどうかだけです。生計を一にしていたかは仕送りや暮らしの実態で見られるので、この家のように別々だった家計を、後から一つだったことにはできません。

分け方は、弟が土地を相続することで決まりました。話し合いでは土地を3,000万円と見て、遺産4,800万円の半分、2,400万円ずつ。弟は土地3,000万円を取り、姉に600万円の代償金を払います。姉は預金1,800万円と代償金600万円で2,400万円です。相続税の60万円は、代償金を引いたり足したりしたあとの取り分で分けるので、二人とも2,400万円で、30万円ずつになります。土地の割合で分けると弟37万5,000円、姉22万5,000円になり、7万5,000円ずれるところでした。申告書の作成は税理士に頼み、弟は代償金の600万円を、自分の預金を取り崩して用意しました。

この家の分け方と相続税(遺産4,800万円・相続人二人)
弟姉合計
相続する財産土地 3,000万円預金 1,800万円4,800万円
代償金−600万円+600万円0円
取り分2,400万円2,400万円4,800万円
相続税(特例なし)30万円30万円60万円
仮にひとつの家計で特例ありなら0円0円0円(申告は必要)

最初に姉が言った「半分は私のもの」は、法定相続分の話としては正しかったのです。ただ、弟の家が建っている土地の半分を持っても、姉にはその土地を使う道がありません。土地は弟、お金は姉。使用貸借のまま親が亡くなった家では、この形が一番こじれにくい分け方でした。これから親の土地に家を建てる人は、建てる前に、その土地を将来だれが相続するのかを親と話し、遺言に一行書いてもらっておくと、きょうだいの話し合いが一つ短くなります。

執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-09-30

この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。

参考(公式)

この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-09-30 確認)。

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