離婚・家族 2026-10-04

離婚の話し合いをADRで ― 家庭裁判所の調停の前に、民間の調停という選択肢

二人だけで話すと口論になるけれど、平日の昼に家庭裁判所へ何度も行けない。そういう夫婦には、法務大臣の認証を受けた民間の調停(認証ADR)があります。家庭裁判所の調停との違い(時間・費用・決まったことの力)、2024年4月からの特定和解で養育費の強制執行ができるようになった点、ADRが向かない場面、費用の内訳を、実際の夫婦の例で整理します。

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この記事の位置: [別居前・離婚を考え始めたら] → 離婚の中身を決める → 書面にする・届を出す → 離婚が成立したら → 離婚後の生活 → 状況別(当てはまる方だけ)

別居して3か月の30代の女性が来ました。小学2年の娘が一人。夫とは、電話で養育費の話を始めると10分で怒鳴り合いになる。「家庭裁判所の調停しかないですか。平日の昼に何度も仕事を休めないんです」。家庭裁判所の調停のほかに、法務大臣の認証を受けた民間の調停(認証ADR)があり、夜やオンラインで話し合える事業者もある、と伝えました。この夫婦は、ADRで3回話し、養育費と面会交流を決めました。この記事は、その選択肢の中身です。

ADRは裁判外紛争解決手続のことで、裁判所の外で、中立の第三者(手続実施者)が間に入って話し合いを進める仕組みです。民間の事業者が行うADRのうち、法律の基準に合うと法務大臣が認証したものを認証ADRと呼び、法務省は「かいけつサポート」という名前で一覧を公開しています。認証を受けた事業者は、手続きの内容や費用を、利用する前に説明することになっています。離婚、養育費、面会交流、財産分与といった家族の問題を扱う事業者もありますが、扱う分野は事業者ごとに違います。

家庭裁判所の夫婦関係調整調停と比べると、違いは三つです。一つ目は時間と場所。家庭裁判所の調停は平日の日中で、期日と期日の間が1か月前後空くことが多い手続きです。ADRは、事業者によって夜間や土日、オンラインで行い、次の期日までの間隔も当事者と相談して決められます。二つ目は費用。家庭裁判所の申立ては収入印紙1,200円と連絡用の郵便切手で済みますが、ADRは事業者の料金規程で決まり、家庭裁判所よりかかります。金額は事業者ごとに違うので、利用前の説明で確かめます。三つ目は、決まったことの力です。家庭裁判所の調停で離婚に合意すると調停調書が作られ、その時点で離婚が成立し、養育費の不払いには調書で強制執行ができます。ADRで合意しても、離婚そのものは成立しません。合意したうえで、協議離婚の届を出して成立します。

家庭裁判所の調停と認証ADR ― ADRの合意だけでは離婚は成立しない
家庭裁判所の調停と認証ADR ― ADRの合意だけでは離婚は成立しない上の段は家庭裁判所の調停。申立て(印紙1,200円)、平日昼の期日、調停成立で離婚も成立、調書で強制執行ができる。下の段は認証ADR。申込み(料金は事業者ごと)、夜やオンラインの期日、和解成立(離婚はまだ)、協議離婚の届を出して成立。ADRの和解で強制執行できるのは、特定和解にした養育費や婚姻費用に限られる。家庭裁判所の調停家庭裁判所の調停 申立て申立て 印紙1,200円+切手印紙1,200円+切手 期日期日 平日昼・1か月前後おき平日昼・1か月前後おき 調停成立調停成立 この時点で離婚成立この時点で離婚成立 調停調書調停調書 強制執行できる強制執行できる 認証ADR(民間の調停)認証ADR(民間の調停) 申込み申込み 料金は事業者ごと料金は事業者ごと 期日期日 夜・土日・オンラインも夜・土日・オンラインも 和解成立和解成立 離婚はまだ離婚はまだ 協議離婚の届協議離婚の届 出して離婚成立出して離婚成立 ADRの和解で強制執行できるのは、特定和解にした養育費・婚姻費用ADRの和解で強制執行できるのは、特定和解にした養育費・婚姻費用 (裁判所の執行決定が要る。財産分与・慰謝料は対象外)(裁判所の執行決定が要る。財産分与・慰謝料は対象外)

上の段は家庭裁判所の調停。申立て(印紙1,200円)、平日昼の期日、調停成立で離婚も成立、調書で強制執行ができる。下の段は認証ADR。申込み(料金は事業者ごと)、夜やオンラインの期日、和解成立(離婚はまだ)、協議離婚の届を出して成立。ADRの和解で強制執行できるのは、特定和解にした養育費や婚姻費用に限られる。

特定和解の執行は2024年4月からの仕組みです。DVや脅しがある場合はADRではなく、家庭裁判所や保護命令の手続きを使います。

決まったことの力については、2024年4月から変わった点があります。認証ADRで成立した和解のうち、「この和解に基づいて民事執行ができる」と当事者が合意したもの(特定和解)は、裁判所の執行決定を得れば強制執行ができるようになりました。家族の問題の和解は原則としてこの仕組みから外れていますが、養育費や婚姻費用のような、扶養の義務にもとづくお金の支払いは対象に含まれます。つまり、ADRで決めた養育費も、執行の合意をしておけば、払われなくなったときに裁判所の手続きを経て差押えに進めます。財産分与や離婚の慰謝料はこの例外に入らないので、そこを強制執行できる形にしたいなら、公正証書にするか、家庭裁判所の手続きを使います。

認証ADRには、もう一つ法律上の効果があります。話し合いがまとまる見込みがないとして手続きが終わっても、その通知を受けた日から1か月以内に同じ請求で裁判を起こせば、時効の完成猶予については、ADRで請求した時に裁判を起こしたものとみなされます。離婚の場面でいえば、相手の不貞行為の慰謝料のように、知った時から3年で時効になるお金の請求が近いときに意味があります。話し合っているうちに時効が来てしまう、という心配をせずに、ADRを先に試せるということです。

ADRが向かない場面も、はっきりあります。ADRは、相手が手続きに応じなければ始まらず、途中でやめることもできます。相手が話し合いの席に着かない、DVや脅しがあって同じ場に出ることが危ない(オンラインでも同じです)、財産の全体が分からず調べる必要がある、という場合は、家庭裁判所の調停や、DVとモラハラの保護命令の記事で書いた手続きが先です。また、ADRで話がまとまらずに終わった場合、離婚訴訟を起こすときの「先に家庭裁判所の調停を」という決まり(調停前置)は法律上は適用されませんが、裁判所が職権で調停に回すことがあります。ADRを「家庭裁判所を飛ばす近道」と考えるより、「話し合いの場を一つ増やす」と考えるほうが実態に合っています。

事業者の選び方です。かいけつサポートの一覧で家族の問題を扱う事業者を探し、手続実施者にどんな経歴の人がいるか、オンラインや夜間に対応しているか、料金の内訳(申込み、期日ごと、成立時)を見ます。お住まいの市区町村が、養育費の取り決めのためにADRや公正証書を使った費用を補助していることがあり、かいけつサポートのサイトに補助の有無を調べる案内があります。補助の条件(事前の申請が要るか、上限はいくらか)は自治体ごとに違うので、申し込む前に役所で確かめてください。

この夫婦の場合です。妻も夫も会社員で、娘は8歳。かいけつサポートの一覧から、家族の問題を扱い、オンラインと平日夜に対応する事業者を選びました。料金表は、申込み1万1,000円、期日1回ごとに1万1,000円、和解成立時に2万2,000円(いずれも税込)。費用は夫婦で折半すると、事前に二人で決めました。期日は3回、どれも平日の夜8時から1時間半、それぞれ自宅からのオンラインでした。1回目は手続実施者が二人の言い分を別々に聞き、2回目で養育費、3回目で面会交流を詰めました。

決まった中身はこうです。養育費は月4万円、娘が20歳になる月まで、毎月末に妻の口座へ。金額は、養育費と算定表の記事で書いた表で、二人の年収から幅を確かめて決めました。面会交流は月1回、日曜の日中、受け渡しは駅の改札。養育費の条項には、和解に基づいて民事執行ができる旨の合意を入れ、特定和解にしました。財産分与は、別居の時点で預金を半分ずつに分けて済ませていたので、和解には清算済みであることを書きました。そのうえで、二人で協議離婚の届を出しました。

費用を足すと、申込み1万1,000円、期日3回で3万3,000円、成立時2万2,000円で、合計6万6,000円(税込)。折半して一人3万3,000円です。家庭裁判所の調停なら印紙1,200円と切手で済みましたが、妻は「平日に3回休めば、有給が3日なくなる。それを考えると高くない」と言いました。ADRの3回の期日は、最初の期日から5週間で終わりました。期日の間が1か月前後空く家庭裁判所の調停なら、同じ3回でも3か月ほどかかるところでした。

この夫婦がADRに払った費用(税込)
内訳金額一人あたり(折半)
申込み1万1,000円5,500円
期日 3回(1回1万1,000円)3万3,000円1万6,500円
和解成立時2万2,000円1万1,000円
合計6万6,000円3万3,000円
(参考)家庭裁判所の調停印紙1,200円+郵便切手―

ADRは家庭裁判所の代わりではなく、話し合いの場を、自分たちの生活に合わせて選ぶ方法です。向くのは、二人とも話し合う気はあるのに、二人だけだと感情がぶつかる夫婦。向かないのは、相手が席に着かない、危険がある、財産を調べる必要がある場合です。決まったことは、養育費なら特定和解で強制執行の道を残せますが、財産分与は残せません。協議離婚の進め方の記事、離婚協議書に書くことの記事と合わせて、どこまでを自分たちで、どこから家庭裁判所に、を決めてください。

執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-04

この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。

参考(公式)

この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-04 確認)。

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