相続・手続き 2026-10-03

デジタル遺品と相続 ― 開かないスマホ、ネット銀行、サブスク、暗号資産をスマホの外からたどる

亡くなった人のスマホが開かない。携帯電話会社でも画面ロックは解除できないのが一般的です。それでも、郵便物、カードの明細、家族の端末、確定申告書の控えから、ネット銀行・サブスク・写真・暗号資産はたどれます。財産になるものと止めるべき契約の分け方、相続放棄を考えている場合の注意、カードを止めても契約は終わらない点、遺す側の準備を、実際の金額で書きます。

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この記事の位置: 亡くなる前にできること → 亡くなってすぐ(3か月まで) → [相続人と財産を確定する] → 分け方を決める → 名義を変える・税金(10か月〜3年) → 相続した財産をどうするか → 状況別(当てはまる方だけ)

「母のスマホが開かないんです」。母を亡くした50代の男性からの相談でした。通帳は地元の銀行の一冊だけ。ところが、母の郵便物の中に、聞いたことのないネット銀行からのハガキが一枚ありました。それに、母のクレジットカードの明細が届き続けていて、毎月、知らない名前の請求が並んでいる。「スマホを開ければ全部分かると思うんですが、携帯ショップでは開けられないと言われました」。この記事は、そのスマホを開けないまま、デジタル遺品をたどった話です。

デジタル遺品は、スマートフォンやパソコンの中、インターネット上に残された、亡くなった人のデータや契約のことです。財産として相続の対象になるもの(ネット銀行・ネット証券の口座、電子マネーやコード決済の残高、暗号資産)、財産ではないが止めないとお金が出ていくもの(サブスクリプションの契約)、思い出のデータ(写真やメッセージ)、の三つに分けて考えます。国民生活センターも2024年11月に、スマホの中の「見えない契約」で遺族が困る相談が寄せられているとして、注意を呼びかけています。

最初にぶつかるのが画面のロックです。携帯電話会社の店舗でも、端末の初期化はできても、画面ロックの解除はできないと案内されるのが一般的で、国民生活センターが公表した相談事例にも同じ話があります。暗証番号を何度も試すと、端末によってはデータが消える設定になっていることがあるので、手当たり次第に試すのはやめてください。スマホが開かなくても、たどる道はあります。

手がかりは、スマホの外にあります。一つ目は郵便物です。ネット銀行やネット証券も、口座開設の通知や、年に一度の取引報告書、税金の書類を郵送することがあります。二つ目はクレジットカードと銀行口座の明細で、サブスクの請求や、ネット銀行への振替がここに出ます。三つ目はパソコンのメールや、家族と共有していたタブレット。四つ目は確定申告書の控えで、株の配当や暗号資産の売買をしていれば、手がかりが書かれていることがあります。証券会社の口座の有無は、証券保管振替機構(ほふり)への開示請求でも確かめられます(費用は財産の調べ方の記事に書きました)。

スマホが開かなくても、外の手がかりからたどる
スマホが開かなくても、外の手がかりからたどる郵便物(ハガキ)からネット銀行の口座が、カードの明細からサブスクの契約が、家族のタブレットからクラウドの写真が、確定申告書の控えから暗号資産や証券の手がかりがたどれる。亡くなった人のスマホは開かないままでもよい。手がかり(スマホの外)手がかり(スマホの外) 見つかるもの見つかるもの 郵便物(ハガキ) カードの明細 家族のタブレット 確定申告書の控え ¥ ネット銀行 サブスク 写真(クラウド) 暗号資産・証券 スマホは開かないままスマホは開かないまま

郵便物(ハガキ)からネット銀行の口座が、カードの明細からサブスクの契約が、家族のタブレットからクラウドの写真が、確定申告書の控えから暗号資産や証券の手がかりがたどれる。亡くなった人のスマホは開かないままでもよい。

画面ロックを手当たり次第に試すと、設定によってはデータが消えることがある。

財産になるものは、ふつうの預金と同じく相続人に引き継がれます(民法896条)。ネット銀行も、相続の連絡をすると口座が止まり、所定の書類(戸籍一式か法定相続情報一覧図、遺産分割協議書、印鑑証明書など)で払い戻しや名義変更をします。窓口がないので手続きは郵送とウェブが中心で、店舗のある銀行より時間がかかることもあります。コード決済の残高にも事業者ごとの相続の手続きがあり、国民生活センターの事例には、手続きに1か月以上かかったものがあります。

暗号資産は、交換業者の口座にあるものなら、業者に相続の手続きを申し出ます。相続税の申告が必要な場合の評価の仕方は国税庁が考え方を示しているので、申告が要りそうなら税理士に確認してください。難しいのは、交換業者を通さず本人が自分で管理していたウォレットで、秘密鍵やパスワードが分からなければ、相続人であっても取り出せません。財産としては存在しても、手が届かない。生前の準備が一番効くのが、ここです。

サブスクは財産ではありませんが、止めないと毎月お金が出ていきます。注意したいのは、クレジットカードを止めても、契約そのものが終わるとは限らないことです。カードが止まって支払いができなくなると、事業者から未払いとして請求が来ることがあります。明細から事業者名を拾い、一つずつ、事業者の問い合わせ窓口に、亡くなったことと解約したいことを伝えます。IDとパスワードが分からなくても、死亡の分かる書類の写しで解約を受け付ける事業者もあります。

携帯電話の回線を解約する順番にも気をつけます。ネット銀行やコード決済の多くは、ログインや手続きのときに、登録された電話番号へのショートメッセージで本人確認をします。回線を先に解約すると、その番号に届く確認が受け取れず、手がかりが一つ減ります。回線の解約は、ネット上の口座と契約を一通り確かめてからにしてください。また、スマホ本体を分割払いで買っていた場合、残りの代金は亡くなった人の債務として相続の対象になります。

一つ気をつけることがあります。相続放棄を考えているなら、ネット銀行の払い戻しや暗号資産の売却は、財産の処分にあたって、放棄できなくなるおそれがあります(相続放棄の記事に書いた単純承認です)。借金がありそうなら、払い戻しの前に、放棄の期限(相続の開始を知った時から3か月)と、どこまでが処分にあたるかを確かめてください。余計な支払いを止めるだけのサブスクの解約とは、分けて考えます。

この家では、こう進めました。まず、カードの明細です。動画配信が月1,490円、音楽配信が月1,080円、写真のクラウド保存が月400円、スマホのセキュリティサービスが月550円で、合わせて月3,520円(いずれも税込)。母が亡くなってから4か月、明細が届き続けていたので、すでに1万4,080円が引き落とされていました。四つの事業者に連絡し、三つは死亡の分かる書類の写しで解約できました。セキュリティサービスだけは、契約していた携帯電話会社の窓口で、回線の解約と一緒に止めました。

この家のサブスク ― 亡くなってから4か月引き落とされていた額(税込)
契約月額4か月分止め方
動画配信1,490円5,960円事業者に連絡(死亡の分かる書類の写し)
音楽配信1,080円4,320円事業者に連絡(同上)
写真のクラウド保存400円1,600円写真を保存してから解約
スマホのセキュリティ550円2,200円携帯電話会社の窓口で回線と一緒に
合計3,520円1万4,080円

次に、ネット銀行です。ハガキの差出人に相続の連絡をすると、残高は約86万円でした。借金の心配がないことを確かめてから、郵送で書類を出し、払い戻しまで約5週間。最後に、写真です。スマホは開かないままでしたが、写真のクラウド保存は、家族で共有していたタブレットで同じアカウントにログインしたままになっていて、そこから写真を保存できました。解約を先に済ませていたら、写真も一緒に消えていたかもしれません。思い出のデータがあるサービスは、解約の前に中身を確かめる。これが、この家で一番の学びでした。

遺す側の準備は、国民生活センターの呼びかけと同じ四つです。スマホやパソコンのロック解除の方法を家族が分かるようにしておく。ネット上の資産と契約の、サービス名・ID・パスワードを整理しておく(パスワードを書く場所には気をつけてください)。エンディングノートを使う。そして、亡くなったときにアカウントへアクセスできる人を指定できるサービスがあれば、使う。エンディングノートと遺言の違いは別の記事に書きました。サービス名の一覧だけでも、遺族が探す時間は大きく変わります。

「スマホを開ければ全部分かる」は、半分だけ本当でした。スマホは最後まで開きませんでしたが、ハガキ一枚、明細一枚、家族のタブレット一台から、財産も契約も写真もたどれました。デジタル遺品は、スマホの中ではなく、スマホの外に残った紙と、家族の端末から探し始めます。

執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-03

この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。

参考(公式)

この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-03 確認)。

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