土地・不動産 2026-10-28

マンションの総会の決め方が変わった ― 2026年4月の区分所有法改正、「出席者の4分の3」で数える決議と、所在不明の部屋を母数から外す裁判

築46年・50戸のマンションで、去年の総会のエレベーター設置案は賛成33戸で否決された。2026年4月1日に施行された改正区分所有法では、共用部分の変更や規約の変更は「出席者の4分の3」(エレベーターの設置のようなバリアフリーの工事は3分の2)で決まり、所在が分からない区分所有者は裁判で決議の母数から外せる。同じ33戸の賛成が今年はどうなるか、建替え決議の割合、総会の前に確かめることを数字で書きます。

目次を見る →

この記事の位置: まず読む:値段と書類の読み方 → 買う前に確認すること → 建てられるか・どれだけ建つか → 境界・隣地・道 → 災害と地盤 → [持っている間:税金と登記] → 売るとき → 貸す・借りる・特殊な権利

「去年の総会で、エレベーターを付ける案が否決されました。賛成は33戸もあったのに」。相談に来たのは、築46年のマンションの理事長を務める60代の男性でした。5階建て、50戸。各戸の広さはほぼ同じで、規約では1戸1票です。エレベーターはなく、5階の高齢の住民が階段を上れなくなってきた、というのが議案のきっかけでした。机の上には、去年の総会の議事録と、今年の総会の案内の下書きがありました。

否決の理由は、決め方にありました。エレベーターを新しく付けるような、建物の形や働きを大きく変える工事は「共用部分の変更」として、普通の議案より重い決議(特別決議)が要ります。2026年3月までの区分所有法は、これを「区分所有者と議決権の、それぞれ4分の3以上」で決めるとしていました。母数は、総会に来た人ではなく、全員です。50戸なら38戸の賛成が要ります。去年の総会の出席は、委任状と議決権行使書を含めて36戸。全員が賛成しても38戸には届かない総会でした。

この決め方が、2025年5月に公布された改正区分所有法で変わり、2026年4月1日から施行されています。共用部分の変更は、区分所有者と議決権のそれぞれ過半数が出席した総会で、出席者のそれぞれ4分の3以上で決まる形になりました(17条)。規約を変えるときも同じです(31条)。ただし、お年寄りや体の不自由な人の移動を楽にするための工事(エレベーターの設置など)と、傷んだ共用部分で人に被害が出るのを防ぐ工事は、出席者の3分の2以上に下がります(17条5項)。来ない人は、反対にも賛成にも数えない、ということです。

同じ数字を今年の総会に当てはめます。出席の条件は、50戸の過半数なので26戸以上。去年と同じ36戸が出席すれば条件を満たし、このエレベーターは階段を上れない住民のための工事なので3分の2が当てはまり、要る賛成は36戸の3分の2で24戸です。去年と同じ33戸が賛成すれば、可決されます。理事長は「去年の33戸は何だったんだ」と言いましたが、総会に来ない人を反対と同じに数えていた仕組みが変わった、ということです。

50戸のマンションで、賛成が何戸要るか(1戸1票の場合)
50戸のマンションで、賛成が何戸要るか(1戸1票の場合)共用部分の変更 改正前(全員の4分の3)38戸 50×3/4=37.5→38戸共用部分の変更 改正後・バリアフリーの工事(出席36戸の3分の2)24戸 36×2/3=24戸。出席は26戸以上が条件建替え 原則(全員の5分の4)40戸 50×4/5=40戸建替え 耐震性不足など(全員の4分の3)38戸 50×3/4=37.5→38戸建替え 耐震性不足など+所在不明2戸を除外36戸 48×3/4=36戸

共用部分の変更 改正前(全員の4分の3) 38戸(50×3/4=37.5→38戸)、共用部分の変更 改正後・バリアフリーの工事(出席36戸の3分の2) 24戸(36×2/3=24戸。出席は26戸以上が条件)、建替え 原則(全員の5分の4) 40戸(50×4/5=40戸)、建替え 耐震性不足など(全員の4分の3) 38戸(50×3/4=37.5→38戸)、建替え 耐震性不足など+所在不明2戸を除外 36戸(48×3/4=36戸)

去年の総会の賛成は33戸。改正前の38戸には届かず、改正後の24戸は超える(バリアフリーでない共用部分の変更なら出席者の4分の3で27戸)。議決権の割合は規約で決まり、専有面積の割合にしている管理組合もある。

注意したいのは、委任状と議決権行使書の扱いです。改正後も、書面や代理人で議決権を使った人は出席に数えます(39条2項)。総会の案内に、議決権行使書を付けて返送をお願いするのは今までどおり大事で、出席が26戸に届かなければ、決議そのものができません。

普通の議案(予算や役員の選任など)は、出席者の過半数で決まる形が法律に書かれました(39条)。もっとも、国交省の標準管理規約をひな形にした規約の多くは、もともと出席者で数える決め方にしていたので、ここは実感として大きく変わらない管理組合が多いはずです。大きく変わったのは、共用部分の変更や規約の変更のような、重い決議のほうです。

このマンションには、もう一つ問題がありました。50戸のうち2戸は、区分所有者の所在が分かりません。1戸は持ち主が亡くなったあと相続登記がされておらず、もう1戸は管理費の請求書が宛先不明で戻ってきます。改正法は、こうした区分所有者を、管理組合(区分所有者か管理者)の請求で、裁判所が決議の母数から外せるようにしました(38条の2)。申立ては建物のある地域の地方裁判所で、裁判所が1か月以上の公告をして、本人から異議の届出がないことを確かめてから決めます(86条)。

外すには、探したけれど見つからない、ということを示す必要があります。登記簿の住所に手紙を出す、住民票や戸籍の附票で今の住所を追う、といった手順を記録に残しておきます。相続登記がされていない部屋なら、相続人を探す手順になります。相続登記の義務化が始まった今も、手を付けられていない部屋はまだ多く、ここは理事会だけで抱えずに、弁護士や司法書士に相談する場面です。区分所有法には、所有者が分からない部屋や管理が行き届かない部屋を、裁判所が選んだ管理人に管理させる制度もあります(46条の2以下)。反対に、部屋を相続した人の側から見ると、名義を放っておけば、自分が「所在の分からない区分所有者」として母数から外される側になり得ます。相続したことと連絡先を管理組合に届け出ておくのは、相続人の側の仕事です。

重い決議の中でも一番重いのが、建替え決議です。原則は今も、区分所有者と議決権のそれぞれ5分の4以上で、母数は全員です。50戸なら40戸。改正後は、耐震性が足りない、火災への安全性が足りない、外壁がはがれて落ちるおそれがある、といった建物なら、4分の3以上に下がりました(62条)。50戸なら38戸です。さらに所在不明の2戸を裁判で外せば母数は48戸になり、5分の4なら39戸、4分の3なら36戸です。耐震性が足りるかどうかは、法務大臣が定める基準に照らして判断するので、耐震診断の結果が出発点になります。

改正の前と後の数え方(2026年4月1日施行)
決議2026年3月まで2026年4月から
普通決議(予算・役員など)区分所有者と議決権の各過半数(規約で別に定められる)出席者の各過半数
共用部分の変更・規約の変更全員の各4分の3以上各過半数が出席し、出席者の各4分の3以上(バリアフリーの工事・危険を除く工事は3分の2以上)
建替え決議全員の各5分の4以上原則は同じ。耐震性不足・火災安全性不足・外壁の剥落のおそれなどは各4分の3以上
所在が分からない区分所有者母数に入ったまま(実質は反対と同じ)裁判所の決定で母数から外せる

もう一つ、数え方の土台になるのが1票の重さです。区分所有法では、議決権は規約に別の定めがなければ、専有部分の床面積の割合によります(38条・14条)。このマンションは規約で1戸1票と決めていますが、床面積の割合のままの管理組合では、「戸数」と「議決権」の二つの数をそれぞれ数えます。広い部屋の持ち主が欠席すると、出席の条件が戸数では足りても議決権では足りない、ということが起こり得ます。議事録には、出席と賛成の数を、戸数と議決権の両方で書いておきます。規約か総会の決議があれば、書面の代わりにメールやウェブの画面で議決権を使う方法(電磁的方法)も使えます(39条3項)。遠くに住む区分所有者が多いマンションでは、出席の条件を満たす助けになります。

総会の前に確かめておきたいのは三つです。一つ目は、議案がどの決議に当たるか(普通決議か、共用部分の変更か、規約の変更か)。二つ目は、管理規約に、改正前の決め方の割合がそのまま書き写されていないか。規約の文言と改正法の関係で迷ったら、管理会社やマンション管理士に確かめ、必要なら規約を直す議案を先に出します。三つ目は、所在不明の部屋の有無と、探した記録です。

このマンションでは、6月の総会の前に、理事会がエレベーター案の説明会を2回開き、議決権行使書の返送を各戸に頼みました。出席は委任状と行使書を含めて41戸、賛成は35戸で、41戸の3分の2の28戸を超えて可決されました。所在不明の2戸については、建替えの話が出る前に、探した記録をまとめておくことにしました。法律の数え方が変わっても、総会に来てもらう、議決権行使書を返してもらう、という地道な仕事は変わりません。変わったのは、その努力が結果に届きやすくなった、ということです。

執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-28

この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。

参考(公式)

この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-28 確認)。

あわせてどうぞ

解説記事一覧