土地・不動産 2026-10-12
マンションの大規模修繕、見積が三社とも近いとき ― 2026年9月の談合への命令から読む、管理組合の確かめ方
2026年9月28日、公正取引委員会は、関東のマンション大規模修繕工事で、施工業者と設計コンサル業者が受注する会社を前もって決めていたとして、排除措置命令などを出しました。業者を見張るはずのコンサルが、管理組合の予算を業者に伝え、手数料を受け取っていたという内容です。見積を項目ごとに並べる、コンサルに手数料を受け取っていないことを書面で確かめる、無料の見積チェックを使う。60戸のマンションで一戸あたりの一時金が30万円から25万円になった架空の例で、理事が確かめることを書きます。
この記事の位置: まず読む:値段と書類の読み方 → 買う前に確認すること → 建てられるか・どれだけ建つか → 境界・隣地・道 → 災害と地盤 → [持っている間:税金と登記] → 売るとき → 貸す・借りる・特殊な権利
「設計コンサルが集めてきた三社の見積が、7,150万円、7,200万円、7,260万円でした。差が1パーセントちょっとしかありません。こういうものなんでしょうか」。築28年、60戸のマンションで、順番で理事を引き受けた男性の相談でした。私は宅地建物取引士として、相続したマンションを売るときに、長期修繕計画や総会の議事録を読む立場にいます。男性が相談に来たのは、ちょうどマンションの大規模修繕をめぐる談合のニュースが出たすぐあとでした。
まず、そのニュースの中身を、公正取引委員会の発表から書きます。2026年9月28日、公正取引委員会は、関東地区(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県・茨城県・栃木県・群馬県)のマンション大規模修繕工事について、施工業者と設計コンサル業者に、独占禁止法違反(不当な取引制限)で排除措置命令と課徴金納付命令を出しました。工事ごとに受注する会社(受注予定者)を前もって決め、ほかの会社は、連絡された見積価格をそのまま出すか、見積に参加しないことで協力していた、という内容です。そして設計コンサル業者は、管理組合の「設計予算」などの情報を受注予定者に伝え、受注した会社から、工事の契約金額の一定割合の手数料などを受け取っていました。同じ日に、国土交通省は管理組合に向けて、相談窓口を知らせる通知を出しています。
ここで出てくる「設計コンサル」は、管理組合が工事の前に頼む専門家です。建物の傷み具合を調べ、どんな工事をするか図面と仕様書にまとめ、施工業者を選ぶ手伝いをし、工事が図面どおりか見張ります(設計監理方式)。専門知識のない管理組合の代わりに、業者を見張る役です。今回の事案は、その見張り役が、業者の側についていたというものでした。だから、確かめる順番は、業者より先にコンサルです。
左は本来の形。管理組合が設計コンサルに調査・設計・業者選びの手伝い・工事の監理を頼み、コンサルは管理組合の側に立って施工業者の見積を比べる。右は2026年9月に公正取引委員会が命令を出した事案の形。コンサルが管理組合の設計予算などの情報を受注予定の業者に伝え、業者たちは受注する会社を前もって決めて見積を合わせ、受注した業者はコンサルに契約金額の一定割合の手数料を払っていた。
一つ目は、コンサルとの関係を書面で確かめることです。コンサルの報酬が、ほかのコンサルと比べて極端に安くないか。安すぎる報酬は、別のところから回収している可能性を考えます。そして「施工業者から、紹介料・手数料などの金銭を受け取っていない」ことを、確認書として出してもらいます。断られたら、それ自体が判断の材料になります。できれば、コンサルを選ぶときにも二、三社から提案と報酬の見積をもらい、なぜその会社にしたのかを理事会の議事録に残しておきます。次の理事が、同じことを一から調べずに済みます。
二つ目は、見積を総額だけで比べないことです。足場などの仮設工事、外壁の補修と塗装、屋上の防水、鉄部の塗装、現場の管理費といった項目ごとに、三社を横に並べた表を作ります。ある会社だけ極端に高い項目や、逆に不自然にそろいすぎた項目が見えてきます。見積に参加できる会社の条件(資本金や実績)を絞りすぎていないかも見ます。条件が厳しすぎると、参加できる会社が限られ、比べる意味が薄れます。
三つ目は、第三者に見てもらうことです。国土交通省の通知が案内している窓口は二つあります。一つは住宅リフォーム・紛争処理支援センターの「住まいるダイヤル」(03-3556-5147、平日10時〜17時)で、マンション管理士や建築士などが助言し、見積を無料で見てもらうサービスもあります。もう一つはマンション管理センター(03-3222-1519、平日9時30分〜17時)で、建物や設備の維持管理の相談を受けています(どちらも2026年10月時点)。自治体によっては、専門家を派遣する制度もあります。
決めるのは理事会ではなく、総会です。外壁や屋上の防水のように、建物の形や働きを大きく変えない大規模修繕は、区分所有法18条の「管理」にあたり、総会の決議(規約が定める多数)で決めます。形や働きを大きく変える工事は、17条のより重い決議になります。総会の資料に、項目ごとの見積の比較表と、コンサルの確認書を付けておくと、ほかの区分所有者が自分で判断できます。
宅建士として、売買の場面から見たことも書いておきます。大規模修繕の一時金が総会で決まったあとに部屋を売ると、まだ払っていない一時金は、買った人にも請求できます(区分所有法8条。管理費の滞納と同じ扱い)。だから、中古マンションの重要事項説明では、修繕積立金の額や滞納の有無とあわせて、大規模修繕の予定と一時金の決議があるかを確かめ、売主と買主の間でどちらが負担するかを決めます。総会の議事録に、見積の比べ方まで残っているマンションは、買う側から見ても安心できる材料になります。
談合が疑わしいと思ったときは、一人で抱えず、公正取引委員会に情報を寄せることができます。独占禁止法には、違反の疑いがあると考える人は誰でも、公正取引委員会に事実を知らせ、適当な措置を求めることができる、という決まりがあります(45条1項)。ただし、管理組合にとって先に大事なのは、疑いを証明することではなく、比べる材料を増やして、納得できる値段で契約することです。
お金は、修繕積立金との差で考えます。このマンションの積立金の残高は5,400万円でした。7,200万円の見積で契約すると、足りないのは1,800万円です。60戸で割ると、一戸あたり30万円の一時金になります。見積の総額が100万円変わるごとに、一戸あたりの負担はおよそ16,667円変わります。理事が見積を確かめる手間は、そのまま住人一人ひとりの負担に返ってきます。
この家の場合です。理事会は、総会への提案をひと月遅らせました。コンサルには確認書を求め、コンサルは「施工業者から金銭は受け取っていない」という確認書を出しました。三社の見積を項目ごとの表にして、住まいるダイヤルの見積チェックに出すと、「足場の単価が三社とも高めにそろっている」という指摘がありました。そこで理事会は、コンサルを通さずに、地元の2社にも同じ仕様書で見積を頼みました。最終的に、同じ工事内容で6,900万円の会社と契約しました。不足は1,500万円、一戸あたりの一時金は25万円です。最初の三社に談合があったかどうかは、分かりません。分かったのは、比べる相手を増やすと、値段が動くということでした。
| 最初の見積で契約 | 比べ直して契約 | |
|---|---|---|
| 工事の契約金額 | 7,200万円 | 6,900万円 |
| 修繕積立金の残高 | 5,400万円 | 5,400万円 |
| 足りない額 | 1,800万円 | 1,500万円 |
| 一戸あたりの一時金(60戸) | 30万円 | 25万円 |
大規模修繕は、十数年に一度の大きな買い物で、毎回理事が入れ替わります。だから、仕組みを知っている人が業者の側にだけいる、ということが起きやすいのです。この記事の図は、本来の見張りの形と、今回の事案の形を並べたものです。見積が近すぎると感じたら、それは確かめてよい合図です。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-12
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。
参考(公式)
この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-12 確認)。
- 公正取引委員会「関東地区に所在するマンションの大規模修繕工事の施工業者等に対する排除措置命令及び課徴金納付命令等について」(2026年9月28日) ― 関東地区(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県・茨城県・栃木県・群馬県)で、管理組合が設計コンサル業者に設計コンサル業務を委託したうえで発注する大規模修繕工事について、工事ごとに受注予定者を決め、他の施工業者は連絡された見積価格を出すか見積り合わせに参加しないなどで協力。設計コンサル業者は設計予算などの情報を受注予定者に提供し、受注した施工業者から契約金額の一定割合の手数料等を受け取っていた
- 国土交通省「マンション大規模修繕工事の発注等に関する相談窓口の周知等について」(2026年9月28日付け) ― 住まいるダイヤル(住宅リフォーム・紛争処理支援センター、03-3556-5147、平日10時〜17時、マンション管理士や建築士等の助言、見積の無料チェック)、マンション管理センター(03-3222-1519、平日9時30分〜17時、建物・設備の維持管理の相談)
- e-Gov法令検索「建物の区分所有等に関する法律」 ― 8条(特定承継人の責任。管理費や一時金の未払いは買主にも請求できる)、17条(共用部分の形状又は効用の著しい変更は特別の決議)、18条(それ以外の共用部分の管理は集会の決議)