離婚・家族 2026-09-25
養育費の増額・減額 ― 収入が変わった、再婚した、進学する。決めた額を見直す手順
一度決めた養育費も、事情が変われば見直せます。ただし「来月から減らす」と伝えただけでは変わりません。認められやすい事情と認められにくい事情、協議から調停・審判までの手順、いつから新しい額になるか。収入が下がった父と、子の私立進学で増額を求めた母の調停を、実際の金額で追います。
この記事の位置: 別居前・離婚を考え始めたら → 離婚の中身を決める → 書面にする・届を出す → 離婚が成立したら → [離婚後の生活] → 状況別(当てはまる方だけ)
「来月から5万円に減らすと、LINEで伝えました。これで大丈夫ですか」。離婚して5年目の40代の男性は、スマートフォンの画面を見せながら言いました。子は二人で、養育費は月8万円。離婚のときに公正証書で決めています。勤め先の業績が落ちて、年収が620万円から430万円に下がった。払えない額ではないが、苦しい。私は画面を見てから、「それは、まだ減っていません」と答えました。
養育費の額は、一度決めたあとでも、事情が変われば変えられます。民法には、扶養について協議や審判で決めたあとに事情が変わったときは、家庭裁判所がそれを変更できる、という定めがあります。裁判所の案内でも、再婚した場合や子が進学した場合が例に挙がっています。ただし、変えるには「相手との合意」か「家庭裁判所の調停・審判」が要ります。片方が「減らします」と伝えただけでは、額は変わりません。公正証書で決めている場合、差額を払わなければ未払いとして給料を差し押さえられることもあります。公正証書の記事で書いた強制執行の仕組みは、減らしたい側にも同じように効きます。
どんな変化なら「事情の変更」になるのか。目安は、決めたときに予想できなかった、ある程度大きな変化かどうかです。認められやすいのは、払う側の大きな減収(失業、病気、会社の倒産)や増収、受け取る側の収入の大きな変化、払う側の再婚と子の誕生で扶養する家族が増えたこと、受け取る側の再婚相手と子の養子縁組、子の私立学校や大学への進学。認められにくいのは、決めたときに分かっていた転職や定期昇給、自分から仕事を辞めて収入を減らした場合です。
手順は、まず協議です。変えたい理由と、それを示す資料(源泉徴収票、給与明細、学校の学費の案内など)を添えて、相手に書面で申し入れます。合意できたら、新しい額を書面にします。最初に公正証書で決めていたなら、変更も公正証書にしておくと、差し押さえの根拠が新しい額にそろいます。協議ができない、まとまらないときは、家庭裁判所に養育費の増額または減額の調停を申し立てます。申立先は相手の住所地の家庭裁判所か、二人が合意した家庭裁判所。費用は子1人につき収入印紙1,200円と連絡用の郵便切手(2026年9月時点)。子の戸籍謄本と、自分の収入の資料を添えます。調停で合意できなければ審判に移り、裁判官が決めます。
決めた額から、事情の変更をきっかけに、相手との協議か家庭裁判所の調停・審判を通して新しい額になる。一方的に通知するだけの道は行き止まりで、額は変わらない。
いつから新しい額になるのかも大事です。変更が認められても、さかのぼるのは原則として「請求した時」から、とする扱いが実務では多い。何年も前に収入が下がっていたのに黙って払い続けていたら、その分は戻ってきにくいということです。だから、変えたいと思ったら早めに申し入れ、申し入れた日付が分かる形(書面やメール)で残しておきます。
額を考える物差しは、裁判所が公表している算定表(2019年12月に公表された改定版)です。見直しのときに比べるのは「前に決めた額」ではなく、「今の二人の収入を算定表に当てはめ直すと、どの枠に入るか」です。養育費と算定表の記事に、表の引き方を書いています。なお、2026年4月の改正でできた法定養育費(子1人月2万円)は、取り決めがないときの暫定のもので、すでに額を決めている家の見直しには関係しません。
男性の話に戻ります。最初にしたのは、LINEの「来月から5万円」を取り消すことでした。そのうえで、減額の協議をお願いしたいと書面で申し入れ、源泉徴収票の写しを添えました。一週間後、元妻から返事が来ます。「上の子が来年、私立中学に入る。むしろ増やしてほしい」。減らしたい側と増やしたい側がぶつかりました。
協議はまとまらず、男性が減額の調停を、元妻が増額の調停を申し立て、家庭裁判所は二つを同じ期日で一緒に進めました。二人の今の収入を算定表に当てはめると、男性の収入が下がった分、枠は8万円を決めた頃より下がります。一方、私立中学の学費は算定表の想定を超える部分があり、進学を男性が離婚前から知っていて反対していなかったことも、話し合いで考慮されました。
調停は4回、申立てから7か月かかりました。合意は、月額を8万円から6万円に下げ、別に私立中学の学費の分担として年12万円(6月と12月に6万円ずつ)を払う、というものです。新しい月額は申立ての翌月分から。申立てから合意まで8万円を払い続けていたので、払いすぎた6か月分の差額12万円は、翌年の学費分担12万円と差し引きにしました。年額で比べると、下のグラフのとおりです。男性の最初の「5万円」とも、元妻の希望した10万円とも違う、84万円という数字に落ち着きました。
決めた時 96万円(月8万円)、男性の通知 60万円(月5万円・合意なしで効力なし)、元妻の希望 120万円、調停の合意 84万円(月6万円+学費年12万円)
元妻の希望は月10万円。調停の合意は、月6万円×12か月=72万円に、私立中学の学費分担12万円を足した額。
調停の場で男性が出した資料は、源泉徴収票の2年分(下がる前と下がった後)、勤め先の業績悪化を伝える社内の通知、住宅の家賃の契約書でした。元妻は、給与明細と、私立中学の入学金・授業料の案内を出しています。期日はおよそ1か月半おきで、調停委員が双方の収入を算定表に当てはめた幅を示し、そのうえで学費の上乗せをどこまで認めるかを話し合う、という進み方でした。資料を先に出した側の話が通りやすいのは、どの調停でも同じです。
払えないときに、いちばんやってはいけないのは、黙って減らすことや止めることです。公正証書や調停調書がある養育費は、未払いが続けば、相手は裁判所に申し立てて給料を差し押さえられます。差し押さえの通知は勤め先に届くので、会社に事情を知られることにもなります。収入が減ったなら、申し入れて調停を申し立て、決まるまでは払える範囲で払い続けながら記録を残す。失業して収入がゼロになった場合でも、働ける状態なら、これまでの収入や年齢から「働けば得られるはずの収入」を基に考えられることがあり、すぐにゼロになるとは限りません。
受け取る側が増額を求める場合も、手順は同じです。私立への進学については、払う側がその進学を承知していたか、双方の収入や学歴から見て無理のない選択かが見られやすい。塾代や習い事の費用も、同じ考え方で話し合います。行政書士としてお手伝いできるのは、協議がまとまったあとの合意書の作成までで、調停の代理は弁護士の業務です。
男性は最後に「伝えたら変わるものだと思っていました」と言いました。養育費は、伝えただけでは変わりません。変えるなら、協議か調停。そして、変えたいと思った日に申し入れる。それが、払う側にとっても受け取る側にとっても、いちばん損の少ない順番です。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-09-25
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。
参考(公式)
この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-09-25 確認)。
- 裁判所「養育費請求調停」 ― 事情が変わったときの変更の申立て、申立先、費用(子1人につき収入印紙1,200円)、必要書類
- 裁判所「養育費・婚姻費用の算定表」(平成30年度司法研究) ― 2019年12月公表の算定表
- e-Gov法令検索「民法」 ― 扶養に関する協議・審判の変更(880条)