土地・不動産 2026-10-01
筆界特定制度 ― 隣と境界の話がつかないとき、法務局に「もともとの線」を調べてもらう
土地を売ろうとしたら、隣の人が境界の立会いに応じない、塀の位置で言い分が食い違う。そんなとき、裁判の前に使えるのが法務局の筆界特定制度です。隣の人が協力しなくても手続きは進み、手数料は数千円から。ただし測量費用は数十万円かかり、決まるのは「筆界」で所有権の範囲ではありません。売却を控えた相続した土地の数字で、費用と期間を整理します。
この記事の位置: まず読む:値段と書類の読み方 → 買う前に確認すること → 建てられるか・どれだけ建つか → [境界・隣地・道] → 災害と地盤 → 持っている間:税金と登記 → 売るとき → 貸す・借りる・特殊な権利
「隣の方が、立会いの日に出てきてくれないんです」。父から相続した土地を売ろうとしている男性が、土地家屋調査士の測量図の案と、昭和の終わりに作られた地積測量図の写しを持って来ました。買主の条件は、境界がはっきりしていること。調査士が隣の人に立会いを頼んだところ、「境界はブロック塀のこちら側の面だ」と言われ、話が止まっていました。男性は「塀の向こう側の面のはず」と考えています。
まず言葉を分けます。登記の上で土地と土地を分けている線を「筆界」といいます。土地が最初に登記されたときに決まった線で、隣どうしで合意しても動かせません。一方、どこまでが自分の土地として使えるかという「所有権の境界」は、売買や時効取得で筆界とずれることがあります。塀は所有権の境界の目印にはなりますが、筆界そのものとは限りません。越境の記事で書いた20年の話は、所有権の側の話です。
左に申請した男性の土地(120平方メートル)、右に隣の土地。間にブロック塀があり、隣の人は塀のこちら側の面、男性は塀の向こう側の面を境界だと主張している。筆界特定では、地積測量図と古い杭から、塀の厚さのほぼ真ん中が筆界と特定された。
筆界特定で決まるのは登記上の筆界で、塀の持ち主や所有権の範囲は決まりません。
筆界がはっきりしないとき、法務局の筆界特定登記官に、その筆界を調べて示してもらう制度が、2006年に始まった筆界特定制度です。新しく線を引くのではなく、もともとあった筆界がどこかを、資料と現地の調査で特定します。申請できるのは、土地の登記名義人やその相続人などで、共有の土地なら共有者の一人でも申請できます。申請先は、その土地を管轄する法務局です。
手続きの流れはこうです。申請すると、法務局が隣の人に通知し、土地家屋調査士や弁護士などから選ばれた筆界調査委員が、登記の記録、地積測量図、公図、境界標、昔の航空写真などを調べ、必要なら現地で測量します。双方が意見を言う期日も開かれます。そのうえで筆界特定登記官が、どこが筆界かを示した筆界特定書を作ります。東京法務局の案内では、標準的な処理期間はおおむね9か月です。
申請書には、対象の二つの土地の所在と地番、筆界だと考える線とその理由を書き、手数料の計算のために固定資産税の評価証明書を添えます。この男性のように、土地の名義がまだ亡くなった父のままでも、相続人として申請できます。その場合は、父の相続人であることが分かる戸籍を付けます。ただ、売るにはどのみち相続登記が要り、相続登記は2024年4月から義務になっているので、男性は筆界特定と並行して相続登記を済ませました。
大事なのは、隣の人が協力しなくても手続きが進むことです。調査士による確定測量は、隣の人が境界確認書に署名しないと終わりません。筆界特定は、隣の人が立会いに来なくても、資料と現地の調査で結論が出ます。その一方で、決まるのは筆界だけで、所有権の範囲は決まりません。結果に納得できない人は、裁判所に筆界の確定を求める訴えを起こせて、判決が確定すると、筆界特定はその判決と食い違う範囲で効力を失います。
似た手続きと比べると、違いがはっきりします。土地家屋調査士の確定測量は、隣の人の署名がもらえれば一番早く、筆界も所有権の範囲もそろって決まります。土地家屋調査士会の境界問題の相談窓口は、話し合いで所有権の範囲まで決められますが、相手が来なければ進みません。筆界特定は、相手が来なくても進みますが、決まるのは筆界だけです。裁判は、最後に筆界を確定させられますが、時間と費用がいちばんかかります。
お金は二つに分かれます。一つは申請の手数料で、収入印紙で納めます。申請する土地と隣の土地の固定資産税評価額を足して2で割り、その5%にあたる額を基礎に、表に当てはめて決まります。法務省の案内の例では、二つの土地の合計が4,000万円なら8,000円です。もう一つは測量などにかかる手続費用で、こちらは申請した人の負担になります。東京法務局の案内では、測量費用はおおむね50万円から80万円ほどとされています。隣の人も一緒に申請した場合は、双方で等分します。
申請書は自分で作ることもできますが、図面や資料をそろえる作業が多いので、土地家屋調査士や弁護士に代理を頼むことが多い手続きです。認定を受けた司法書士も、扱える額の範囲で代理できます。私は測量士補として測量の考え方はお伝えできますが、筆界特定の代理はできないので、申請は調査士に頼むよう勧めました。
意見を言う期日では、申請した側も隣の人も、筆界調査委員と筆界特定登記官の前で、どこが筆界だと考えるかと、その根拠を話せます。男性は、昭和の地積測量図の写し、父が残していた分筆のときの領収書、塀を作る前の古い写真を出しました。隣の人は期日に来ませんでしたが、書面で意見を出していました。来なかった側の言い分も、資料として扱われます。
この家の数字です。男性の土地は120平方メートルで固定資産税評価額1,200万円、隣の土地は1,600万円。合計2,800万円を2で割ると1,400万円、その5%で70万円。この額は10万円ごとに800円の区分に入るので、手数料は7×800円で5,600円です。測量費用は、法務局から予納を求められた額が60万円。隣の人は一緒に申請しなかったので、全額を男性が負担しました。合わせて60万5,600円で、調査士への代理の報酬は別です。
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 手数料の基礎 | (1,200万円+1,600万円)÷2×5% | 70万円 |
| 申請手数料(収入印紙) | 10万円ごとに800円×7 | 5,600円 |
| 測量などの手続費用(予納) | 申請人が負担(隣は申請せず) | 60万円 |
| 合計 | 60万5,600円 | |
| 参考: 争っていた部分 | 1.8㎡×1㎡あたり10万円 | 約18万円 |
二人の言い分の差は、塀の厚さぶんの幅10センチメートル、長さ18メートルで、面積にすると1.8平方メートル。男性の土地の評価額は1平方メートルあたり10万円なので、争っていた部分は評価額で18万円ほどです。手続きの費用のほうが、争っている土地より高くつきました。それでも男性が申請したのは、境界がはっきりしないままでは、土地そのものが売れなかったからです。
1月に申請して、筆界特定書が出たのは10月でした。筆界は、昭和の地積測量図と、塀の下から見つかった古いコンクリート杭の位置から、塀の厚さのほぼ真ん中と特定されました。どちらの言い分とも少しずつ違う線です。仲介会社と買主は、隣の人の署名した境界確認書の代わりに、この筆界特定書で取引することを受け入れ、売買は年明けに決まりました。買主によっては受け入れない場合もあるので、申請の前に仲介会社に確かめておくと安心です。
隣と境界の話がつかないとき、いきなり裁判を考える必要はありません。土地家屋調査士会の境界問題の相談窓口で話し合う道もあり、話し合いが難しければ筆界特定、それでも決着しなければ裁判、という順番で考えられます。最初の一歩は、法務局で地積測量図と公図を取り、自分の土地の筆界が、どんな資料で決まっているのかを見ることです。二枚の図面の見方は、公図の記事にまとめました。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-01
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。
参考(公式)
この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-01 確認)。
- 法務省「筆界特定制度」 ― 筆界と所有権の境界の違い、筆界特定登記官と筆界調査委員、手数料の例(二つの土地の合計4,000万円で8,000円)、測量費用は申請人の負担
- 東京法務局「筆界特定制度に関する“よくある質問”」 ― 標準処理期間はおおむね9か月、測量費用の目安、共有者一人での申請、隣の人が協力しなくても手続きは進むこと
- e-Gov 法令検索「不動産登記法」 ― 131条(申請)、146条(手続費用は申請人の負担、双方が申請すれば等分)、148条(筆界確定訴訟の判決との関係)