探偵・調査 2026-10-27
差出人のない嫌がらせの手紙が続いたら ― 封筒と消印を残す順番、ストーカー規制法に当たるかの分かれ目、探偵に頼む前に自分の防犯カメラ
小さな店を営む女性の郵便受けに、3か月で7通、差出人のない中傷の手紙が届きました。手紙を捨てずに封筒ごと残す方法、届いた日と届き方の一覧の作り方、ストーカー規制法が使えるのは恋愛感情やその恨みが目的の場合に限られること、本人にだけ届く手紙は名誉毀損になりにくいこと、探偵の張り込みの見積もりと自分で付ける防犯カメラの費用の比べ方を、探偵業24年目の立場から書きます。
この記事の位置: 依頼する前に知っておくこと → 所在を調べる → [証拠を集める]
「最初の1通は、いたずらだと思って捨ててしまいました」。駅前で小さな洋菓子店を営む50代の女性が、クリアファイルに入れた6通の封筒を持って相談に来ました。3か月で7通。差出人の名前はなく、中身は便箋1枚で、店の評判や家族のことを悪く書いたものでした。切手が貼られて郵便で届いたものが3通、切手もなく自宅の郵便受けに直接入れられていたものが4通。「誰がやっているのか知りたい」というのが相談でした。
私は2002年から探偵業を営んでいて、今年で24年目になります。差出人のない手紙の相談は、昔からなくなりません。最初にお願いするのは、いつも同じです。もう捨てないこと、そして、これ以上触らないことです。差出人を知る手がかりは、文面よりも、封筒、切手、消印、届いた時刻といった「届き方」のほうに多く残っています。読んで腹が立った手紙ほど、破ったり丸めたりせず、そのままの形で取っておいてください。
残し方には順番があります。届いた手紙は、封筒ごと、開けた便箋も一緒に、一通ずつ別のビニール袋やクリアファイルに入れます。触る人を増やさないのは、警察が指紋などを調べる場合に備えるためです。そのうえで一覧を作ります。届いた日、気づいた時刻、郵便か直接の投函か、郵便なら消印の日付と郵便局名、封筒と便箋の種類、書き方(手書きか印字か)、中身の要点。消印は、手紙がどの地域で差し出されたかの手がかりになります。直接投函なら、差出人は家の前まで来ています。
次に、法律のどれに当たりうるかです。まず思い浮かぶのはストーカー規制法ですが、この法律が対象にしているのは、恋愛感情やその他の好意、またはそれが満たされなかった恨みを晴らす目的の行為です(2条1項)。拒まれたのに続けて手紙を送ること(5号)や、名誉を害することを告げること(7号)がこれに当たり、繰り返せばストーカー行為になります。当たれば、警察の警告(4条)や公安委員会の禁止命令(5条)という道があります。逆に、商売上の恨みや近所のもめごとが目的なら、この法律は使えません。
刑法の罪も考えます。「店に火をつける」のように、命や体、財産に害を加えると告げていれば脅迫罪(222条)が問題になります。悪口を書いた手紙は名誉毀損罪(230条)と思われがちですが、この罪は「公然と」、つまり不特定や多数の人に伝わる形が要件です。本人にだけ届く手紙は、それだけでは当たりにくいのです。同じ文面が近所や取引先にも配られていれば、話は変わります。
左に封筒の束と「封筒ごと袋に・日付と届き方と消印を一覧に」。右へ二つに分かれる。上は、恋愛感情やその恨みが目的なら、ストーカー規制法(拒まれたのに続けて文書を送る・名誉を害することを告げる)で、警察の警告や公安委員会の禁止命令。下は、それ以外の目的なら、害を加えると告げれば脅迫罪、不特定や多数に伝われば名誉毀損罪で、本人にだけ届く手紙は名誉毀損に当たりにくい。どちらも警察相談 #9110 に記録を残す。
2026年10月時点の法律による。どの罪に当たるかは、文面と届き方によって警察や弁護士が判断します。
女性の手紙には、恋愛の話も、害を加えるという言葉もありませんでした。それでも、警察に相談する意味はあります。警察相談専用電話の #9110 か、最寄りの警察署の生活安全課に、袋に入れた封筒と一覧を持っていきます。記録が残れば、文面が脅しに変わったときや、ほかの家にも届いていると分かったときに、すぐ動いてもらえます。
そのうえで、「誰か」を知る方法です。直接投函の4通は、見つけた時刻がどれも朝の6時台でした。投函は夜中から早朝のどこかです。こういうとき、探偵は家の前の見える場所で張り込み、投函の瞬間を撮ります。ただ、いつ来るか分からない相手を待つ張り込みは、日数がかかり、費用もかさみます。そこで先に勧めたのが、自分の家の郵便受けを映す防犯カメラでした。映すのは自分の敷地の中だけにして、隣の家や道を行く人を必要以上に映さない向きに付けます。
手書きの文字から書いた人を割り出す筆跡鑑定もありますが、比べる相手の文字が手元に無ければ使えませんし、鑑定する人によって結論が分かれることもあります。顔が映った映像のほうが、警察にも相手にも、ずっと話が早いのが実情です。
郵便で届いた3通については、郵便局に問い合わせても、差出人を調べて教えてもらうことはできません。郵便には秘密を守る決まりがあり、それは受け取った側に対しても同じです。調べる力があるのは、事件として扱う警察です。だからこそ、消印の日付と局名を一覧に残し、警察に渡せる形にしておきます。
カメラを付けるときの注意も書いておきます。映った映像は、警察と弁護士に渡すためのもので、SNSに上げたり、近所に見せて回ったりはしません。人違いだったときに、今度はこちらが相手の名誉を傷つける側になってしまうからです。映像は日付ごとに分けて保存し、上書きで消えないうちに、映った場面だけを別に残します。
この家の数字です。うちで出した張り込みの見積もりは、調査員2名で1日5時間、まず2日間で、1時間1名8,000円×2名×5時間×2日の16万円に、車両と機材の2万円を足して18万円、消費税を入れて19万8,000円(税込)でした。2日で現れなければ、延長になります。一方、郵便受けを映す防犯カメラは、本体と記録用のカードで1万2,800円(税込)。女性はカメラを選び、9日目の朝5時40分、封筒を入れる人物が映りました。顔を知っている人でした。
| 方法 | 内訳 | 金額(税込) |
|---|---|---|
| 探偵の張り込み(まず2日) | 8,000円×2名×5時間×2日=16万円+車両・機材2万円+消費税1万8,000円 | 19万8,000円(現れなければ延長) |
| 自分で付ける防犯カメラ | 本体と記録用カード | 1万2,800円 |
| この家の結果 | カメラで9日目の朝5時40分に人物が映る | 1万2,800円 |
映像と封筒と一覧を持って、女性は警察署に行きました。警察が相手に話を聞き、その後、手紙は止まっています。損害の賠償を求めるかどうかは、弁護士に相談する話になります。探偵の出番は、カメラを付けられない場所への投函や、相手が分かったあとで同じ人がほかの家にも配っているかを確かめる場面など、自分では届かない一歩先です。
相手が分かったときに、してはいけないこともあります。自分で相手の家に行って問い詰める、手紙を突き返す、店や近所で名前を出す。気持ちは分かりますが、言い合いがこじれると、こちらが訴えられる側に回ったり、嫌がらせが別の形に変わったりします。この女性も、映像を見た夜に相手の家へ行きかけて、思いとどまりました。話をするのは警察、お金の話をするのは弁護士、と役割を分けておくと、自分の身を守れます。
手紙が止まったあとも、袋に入れた封筒と一覧、映像は、少なくとも数年は手元に残しておきます。同じ人が何年かして再び始めたとき、前の記録があれば、警察は最初から説明を聞き直さずに済みます。
差出人のない手紙は、捨てたくなるものです。ですが、捨てた1通は二度と戻りません。封筒ごと袋に入れる。届き方を一覧にする。警察に記録を残す。それから、郵便受けを映す。この順番で進めれば、誰かを知るための費用は、思っているより小さく済むことがあります。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-27
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。
参考(公式)
この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-27 確認)。
- e-Gov法令検索「ストーカー行為等の規制等に関する法律」 ― 2条1項(恋愛感情またはそれが満たされない怨恨を目的とする「つきまとい等」。5号は拒まれたのに連続して文書を送ること、7号は名誉を害することを告げること)、2条4項(反復すればストーカー行為)、4条(警察の警告)、5条(公安委員会の禁止命令)
- e-Gov法令検索「刑法」 ― 222条(脅迫)、230条(名誉毀損。「公然と」が要件)、231条(侮辱)