探偵・調査 2026-10-12
マンションの駐車場で当て逃げされたら ― 防犯カメラの映像は見せてもらえるか、消える前に「残してもらう」順番
駐車場で車をぶつけられても、管理会社は防犯カメラの映像をなかなか見せてくれません。ふつうの防犯カメラの映像は、個人情報保護法の「個人データ」に当たらないことが多く、誰に見せるかは管理組合のルールと管理会社の判断で決まるからです。大事なのは、上書きで消える前に日時を絞って保存を頼むことと、警察に届けて、警察から照会してもらうことです。修理費の例と、探偵にできないことまで、2002年から探偵業を営んできた立場で書きます。
この記事の位置: 依頼する前に知っておくこと → 所在を調べる → [証拠を集める]
「三連休が明けたら、車の左後ろがへこんでいました。白い塗料が付いています。管理会社に電話したら、防犯カメラの映像はお見せできませんと言われました。探偵さんなら、映像を出させられますか」。マンションの駐車場に車を置いている、40代の男性からの電話でした。私は2002年から探偵業を営んでいて、今年で24年目です。答えは「探偵には、映像を出させる力はありません」でした。そのうえで、その日のうちにしてほしいことを、順番に伝えました。この記事は、その順番を書いたものです。
一番目は、映像を「見せて」ではなく「消さずに残して」と頼むことです。防犯カメラの録画機は、記録がいっぱいになると古い映像から上書きしていきます。私がこれまで見てきたマンションの機器では、1〜2週間ほどで消えるものが多くありました。頼むときは、日時の幅を自分で絞ります。最後に車が無事だったのを見た時刻と、へこみに気づいた時刻です。「〇月〇日18時から〇月〇日7時までの、駐車場と出入口のカメラの映像を保存してください」。電話のあとで、同じ内容をメールでも送り、返事を残しておきます。連休中で管理会社がつながらないときは、管理組合の理事長や管理人に伝え、連休明けの朝一番に管理会社へ連絡します。数日の遅れで、肝心の時間帯が上書きされることがあるからです。
二番目は、警察に届けることです。ぶつけられたのが車だけ(物損)でも届けます。マンションの駐車場が道路交通法の「道路」に当たるかどうかは、誰でも出入りできるかなどで変わりますが、どちらの場合でも、相手を探す手がかりを持っているのは警察と管理会社です。届けた日時、警察署と担当の警察官の名前は、メモしておきます。保険会社に連絡するときにも聞かれます。届けるときは、車の写真、へこみに気づいた時刻、最後に無事だった時刻、管理会社に保存を頼んだことを伝えます。管理会社に保存を頼んである、と分かれば、警察も映像を確かめる段取りが立てやすくなります。
では、なぜ管理会社は見せてくれないのでしょうか。個人情報保護委員会のQ&Aでは、誰だか分かる防犯カメラの映像は「個人情報」に当たるが、特定の人の映像を探し出せるように整理されていなければ(日時で探せるだけでは足りない)、「個人情報データベース等」には当たらない、とされています。データベースの一部でない映像は「個人データ」にもならないので、本人が自分のデータを出してもらう法律上の「開示請求」(個人情報保護法33条)は、ふつうの防犯カメラの映像には使いにくいのです。映像を誰に見せるかは、管理組合が決めた防犯カメラの使い方のルール(運用細則)と、管理会社の判断で決まります。多くの細則は、見せる相手を「警察から求められたとき」「理事長が認めたとき」などに限っています。映像には、ほかの住人や来客の出入りも映っているので、慎重になるのは自然なことです。
管理組合の理事の側から見ると、この細則があるかどうかで、こうした場面の対応が大きく変わります。細則に書いておくとよいのは、映像を残す期間、映像を見られる人、見せるときの手続き(申請書、理事長の承認、管理会社の立会い)、見せた記録の残し方です。細則がないマンションでは、管理会社がその都度判断することになり、「前の人には見せたのに」という揉めごとになりがちです。住人として困った経験があれば、総会で細則を作ることを提案できます。
警察が求めれば、話は変わります。刑事訴訟法197条2項は、捜査のために、会社や団体に照会して必要なことの報告を求められる、と定めています(捜査関係事項照会)。個人情報保護法でも、「法令に基づく場合」は本人の同意なしに提供できます(27条1項1号)。実際には、警察官が管理会社と日時を決めて映像を確かめ、必要な部分を持ち帰ります。届出を先にする理由は、ここにあります。
左に住人、右上に管理会社(管理組合の運用細則で映像を管理)、右下に警察署。住人は管理会社に、日時を絞って映像を消さずに保存するよう頼む(1)。住人は警察署に被害を届ける(2)。警察は管理会社に捜査関係事項照会(刑事訴訟法197条2項)をして映像を確かめる(3)。住人が自分で映像を見る道は、細則で閉じられていることが多い。ふつうの防犯カメラの映像は個人データに当たらないことが多く、開示請求は使いにくい。
探偵にできることは、ここではほとんどありません。探偵には、映像を出させる権限も、ナンバーから持ち主の名前を調べる権限もありません。駐車場で張り込んで同じ車が来るのを待つことはできますが、何日かかるか分からず、費用に見合いません。この相談では、私は調査の見積を出しませんでした。代わりに、自分でできることを伝えました。へこみの位置と高さ、付いた塗料の色を、日付が入る形で写真に撮る。塗料は拭き取らない。自分の車にドライブレコーダーの駐車中の録画機能があれば、そのデータを先に保存する。隣に停めている人に、何か見なかったか声をかける。
反対に、やってはいけないこともあります。管理人室に入って録画機を自分で操作する。見せてもらった画面をスマートフォンで撮って、SNSに「この車を探しています」とナンバー付きで載せる。相手がまだ分からない段階で、似た車の持ち主に詰め寄る。どれも、ぶつけた人ではない人を傷つけたり、自分が名誉やプライバシーの問題で責められる側になったりするおそれがあります。相手を探すのは、警察の照会に任せてください。
お金の話もしておきます。相手が分かれば、修理費は相手の自動車保険(対物賠償)から払われるのがふつうです。分からなければ、自分の車両保険を使うか、自分で払うことになります。車両保険を使うときは、自分で負担する額(免責金額)と、翌年からの保険料の上がり方を、保険会社に確かめてから決めます。この男性の修理見積は、部品48,000円、塗装52,000円、工賃20,000円で、小計120,000円、消費税12,000円、合計132,000円(税込)でした。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 部品(バンパー) | 48,000円 |
| 塗装 | 52,000円 |
| 工賃 | 20,000円 |
| 小計 | 120,000円 |
| 消費税(10パーセント) | 12,000円 |
| 合計(税込) | 132,000円 |
この家の場合です。男性はその日の昼に、管理会社へ電話とメールで保存を頼みました(土曜日18時から火曜日7時まで)。午後には警察署へ行き、写真を見せて届けました。翌週、警察官が管理会社で映像を確かめると、出入口のカメラに、日曜日の夜に駐車場を出ていく白い軽自動車の後ろ姿とナンバーが映っていました。住人を訪ねてきた人の車でした。警察から連絡を受けた相手が名乗り出て、相手の保険会社から修理費132,000円が全額支払われました。男性は、管理会社の映像を自分では一度も見ていません。それで足りました。
防犯カメラの映像は、「見せてもらう」ものではなく、「消える前に残してもらう」ものです。この記事の図は、住人・管理会社・警察の三者の間で、何がどの順番で動くかを一枚にしたものです。ぶつけられたと気づいたら、まず日時を絞って保存を頼み、その足で警察に届けてください。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-12
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。
参考(公式)
この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-12 確認)。
- 個人情報保護委員会「防犯カメラやビデオカメラなどで記録された映像情報は、特定の個人を識別することができる映像であれば、個人情報データベース等に該当しますか」(ガイドラインQ&A 1-41) ― 特定の個人が分かる映像は「個人情報」だが、特定の個人の映像を検索できるように体系的に構成されていなければ「個人情報データベース等」に当たらない(録画日時で検索できるだけでは足りない)。「個人データ」は個人情報データベース等を構成する個人情報のこと(法16条3項)
- e-Gov法令検索「個人情報の保護に関する法律」 ― 27条1項1号(個人データを本人の同意なく第三者に提供できる「法令に基づく場合」)、33条(本人による保有個人データの開示の請求)
- e-Gov法令検索「刑事訴訟法」 ― 197条2項(捜査のため、公務所や公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる)