離婚・家族 2026-10-08

離婚と賃貸住宅 ― 夫名義の部屋に妻と子が住み続けるとき、名義・敷金・保証人をどうするか

借りている部屋の契約者は夫。離婚して夫が出ていき、妻と子がそのまま住みたい。このとき部屋の契約は自動では妻に移りません。名義を変えるには貸主の承諾が要ること、保証会社の審査、結婚中に払った敷金を財産分与でどう分けるか、連帯保証人の外し方、夫が家賃を止めたときの危うさを整理し、名義変更の費用9万7,000円と引っ越した場合の約40万円を金額で比べます。

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この記事の位置: 別居前・離婚を考え始めたら → [離婚の中身を決める] → 書面にする・届を出す → 離婚が成立したら → 離婚後の生活 → 状況別(当てはまる方だけ)

「子どもの学校を変えたくないので、今の部屋に住み続けたいんです。でも、契約は夫の名前です」。相談に来たのは、小学3年の娘がいる38歳の妻でした。住んでいるのは2LDKの賃貸マンションで、家賃は管理費込みで月9万8,000円。協議離婚の話はほぼまとまり、夫が先に家を出る予定です。夫は「部屋はそのまま使っていい」と言っています。それで大丈夫でしょうか、という相談でした。

口約束だけでは、大丈夫とは言えません。部屋の賃貸借契約は、夫と貸主(大家さん)の間の契約です。夫が出ていっても、離婚届を出しても、契約は夫の名義のまま続きます。家賃を払う義務も夫にあります。妻と娘は、法律上は「契約者の家族として住んでいる人」です。夫が気持ちを変えて家賃を払わなくなれば、滞納が続いた時点で契約を解除され、明け渡しを求められるおそれがあります。

名義を妻に移すには、貸主の承諾が要ります。借りる権利(賃借権)を他人に譲るには貸主の承諾が必要だと、民法612条が決めています。離婚で夫婦の間で移す場合も同じです。実際には、管理会社に「名義変更」を申し込み、新しい借主として妻の審査をする流れが多いです。妻の収入で、家賃を払い続けられるかを見られます。

部屋の契約は夫と貸主の間。妻に移すには貸主の承諾が要る
部屋の契約は夫と貸主の間。妻に移すには貸主の承諾が要る賃貸借契約は夫と貸主の間で結ばれている。妻と子は契約者の家族として住んでいる。名義を妻に移すには、貸主の承諾(民法612条)と保証会社の審査が要る。夫が家賃を止めると、契約を解除されるおそれがある。 貸主 (管理会社) 夫(契約者) 賃貸借契約 いまの部屋 家賃 月9万8,000円 妻 娘 名義を移す名義を移す 貸主の承諾(民法612条)+保証会社の審査貸主の承諾(民法612条)+保証会社の審査 承諾がなければ、契約は夫の名義のまま承諾がなければ、契約は夫の名義のまま

賃貸借契約は夫と貸主の間で結ばれている。妻と子は契約者の家族として住んでいる。名義を妻に移すには、貸主の承諾(民法612条)と保証会社の審査が要る。夫が家賃を止めると、契約を解除されるおそれがある。

離婚届を出しても、部屋の契約は自動では移りません。

今は多くの部屋で、家賃保証会社との契約が条件になっています。名義が変われば、保証会社の審査もやり直しで、初回の保証料がかかります。貸主によっては、名義変更ではなく「いったん解約して、妻と新しく契約する」形にすることもあります。どちらの形になるかで費用が変わるので、まず管理会社に、名義変更の可否と費用を書面で出してもらいます。

管理会社に行く前に、手元の賃貸借契約書で四つを確かめます。一つ目は契約期間と更新の時期で、更新が近いなら、更新のときに名義を変える形にしてもらえることがあります。二つ目は特約の欄で、名義変更や借主の変更について手数料や条件が書かれていないか。三つ目は保証会社の名前と、連帯保証人の欄。四つ目は入居のときに払った敷金・礼金の額です。この四つが分かっていれば、管理会社との話は「できるかどうか」から始まらず、「いつ、いくらで」から始められます。あわせて、妻の収入が分かる書類(給与明細や、児童扶養手当などの見込みが分かるもの)をそろえておくと、審査の書類で行ったり来たりせずに済みます。

敷金を忘れがちです。敷金は、部屋を明け渡すときに、未払いの家賃や借主の負担になる修繕費を差し引いて、借主に返されるお金です(民法622条の2)。返してもらう権利は、契約上の借主、つまり夫にあります。結婚している間に家計から払った敷金なら、夫婦で築いた財産の一つで、財産分与で分ける対象になります。名義を妻に移すとき、敷金をそのまま妻の契約に引き継ぐなら、妻が夫の取り分を別に払う、という調整をします。

連帯保証人も見直します。夫の父が連帯保証人になっていた、という家はよくあります。名義が妻に変われば、夫の父に保証を続けてもらう理由はありません。新しい契約では、保証会社だけにするか、妻の側で保証人を立てます。なお、2020年4月以降に結んだ個人の保証の契約は、保証する上限額(極度額)を書いていないと無効になります(民法465条の2)。古い契約書の保証欄も、念のため見ておきます。夫の父の保証を外すときは、管理会社から、保証の契約が終わったことが分かる書面をもらっておきます。何年か後に家賃の請求が父に届いたとき、それが確かな材料になります。

名義が変わるまでの家賃も決めておきます。夫が出ていったあとも夫名義の家賃を夫が払うなら、それは妻と子の住まいの費用を夫が負担していることになります。別居中の婚姻費用や、離婚後の養育費の話し合いでは、この家賃を差し引くかどうかの調整が問題になることが多いです。いつまで夫が払い、いつから妻が払うのかを、離婚協議書に日付で書きます。

貸主が名義変更に応じないこともあります。妻の収入では審査に通らない場合などです。そのときは、①保証人を立てて再審査を頼む、②夫名義のまま一定期間住み、その間の家賃の負担を協議書で決める、③公営住宅やひとり親向けの住まいを探す、という順で考えます。②は、夫が払わなくなったときに部屋を失う危うさが残るので、期間を区切るのが前提です。

この家では、管理会社に名義変更を申し込み、妻のパートと児童扶養手当の見込みで審査を受けて、通りました。かかったのは、管理会社の名義変更の事務手数料3万3,000円(税込)、保証会社の初回保証料4万9,000円(家賃の半月分。保証会社の案内どおりの額)、火災保険の入り直し1万5,000円(2年分)で、合計9万7,000円でした。もし近くに引っ越していたら、新しい部屋(家賃8万円の想定)の敷金8万円、礼金8万円、仲介手数料8万8,000円(税込)、保証料4万円、火災保険1万5,000円、引っ越し代10万円で、約40万3,000円かかる計算でした。差は約30万6,000円です。

敷金は、入居のときに家計から払った2か月分、19万6,000円でした。これを妻の契約にそのまま引き継ぎ、その半分の9万8,000円を、妻が夫に払う形で財産分与の中で精算しました。実際には、ほかの預金を分けるときに差し引いたので、お金のやり取りは一回で済んでいます。連帯保証人だった夫の父は外れ、名義変更の日から家賃は妻の口座からの引き落としになりました。それまでの2か月は夫が払うことを、協議書に書きました。

この家で名義を変えた費用と、引っ越していた場合の費用
項目名義変更(実際)引っ越し(家賃8万円の部屋の想定)
事務手数料・仲介手数料(税込)3万3,000円8万8,000円
敷金・礼金0円(敷金は引き継ぎ)16万円
保証会社の初回保証料4万9,000円4万円
火災保険(2年)1万5,000円1万5,000円
引っ越し代0円10万円
合計9万7,000円40万3,000円

退去するときの原状回復(借りたときの状態に戻すこと)も、名義を変える前に話しておきます。名義変更の日より前の傷や汚れを誰が負担するかで、何年か後にもめることがあります。国土交通省のガイドラインでは、普通に住んでいて生じる傷みや古くなることによる劣化は、原則として貸主の負担です。この家では、名義変更の日に管理会社と部屋の写真を撮り、日付入りで双方が保管しました。

私が手伝ったのは、管理会社に出す書類の確認と、協議書に書く項目の整理までです。名義を移すかどうかを決めるのは貸主で、家賃の調整や財産分与で争いになれば、弁護士や家庭裁判所の調停の領域です。娘は転校せずに済みました。妻は「夫がいいと言っているから大丈夫だと思っていた」と言いました。部屋を貸しているのは夫ではなく大家さんで、決めるのも大家さんだ、と分かったところから、話が進みました。

執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-08

この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。

参考(公式)

この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-08 確認)。

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