離婚・家族 2026-09-28
離婚届を出したあとで取り決めを書面にする ― 口約束の養育費を、合意書・公正証書・調停調書にする順番
養育費を口約束だけにして離婚届を出した。払われているうちはいいけれど、遅れ始めたらどうするか。届を出したあとでも、取り決めは書面にできます。二人で署名する合意書、公正証書、家庭裁判所の調停調書の三つを、差押えにつながる力と費用で比べ、2026年4月からの先取特権と法定養育費との関係、終期と未払い分の書き方を整理します。
この記事の位置: 別居前・離婚を考え始めたら → 離婚の中身を決める → [書面にする・届を出す] → 離婚が成立したら → 離婚後の生活 → 状況別(当てはまる方だけ)
「届はもう出しました。養育費は月4万円と、口で約束しています」。30代の女性の相談です。離婚したのは2026年5月。4歳の子を引き取り、元夫とはLINEで「毎月末に4万円」とやりとりしただけでした。最初の三か月は払われましたが、8月から遅れ始め、相談に来た9月の時点で二か月分、8万円が払われていません。「書面を作っておけばよかった。もう遅いですよね」。遅くはありません。離婚届を出したあとでも、取り決めは書面にできます。この記事は、その順番の話です。養育費は子の生活のためのお金なので、親の間の約束が口約束のままでも、書面にしたあとでも、その性質は変わりません。書面にするのは、約束を守らせるためというより、約束の中身を二人が同じ形で覚えておくためです。
先に、口約束の効力を確かめておきます。養育費の約束は、父と母の間の合意で、書面がなくても成立しています。困るのは二つです。一つは、約束の中身を後から証明しにくいこと。LINEの記録は証拠になりますが、月額と支払日は書いてあっても、「いつまで払うか」まで書いてあることはまれです。それでも記録は大事で、消える前に画面を保存し、日付の分かる形で印刷しておくと、あとのどの方法でも使えます。もう一つは、払われなくなったとき、口約束のままでは相手の給与や預金を差し押さえられないことです。
書面にする方法は三つあります。軽い順に、二人で署名押印する合意書(私文書)、公証役場で作る公正証書、家庭裁判所の調停で作られる調停調書。差押えにつながる力は、公正証書(強制執行認諾文言付き)と調停調書が強く、裁判を起こさずに差押えの申立てができます。合意書は、そのままでは差押えの根拠になりませんが、2026年4月からは意味が一つ増えました。
左に口約束(LINEだけ)の書類。そこから三本の道がある。一つ目は二人で署名押印する合意書で、費用はかからず、2026年4月からの先取特権の範囲で差押えの道ができる。二つ目は公正証書で、二人で公証役場に行く(一方は委任状で代理人でも可)必要があり、全額について差押えができる。三つ目は家庭裁判所の養育費請求調停で、相手が応じなくても進み、調停調書で差押えができる。
先取特権は2026年4月施行の改正によるものです。差押えの申立てには、取り決めを示す文書が要ります。
2026年4月に施行された民法の改正で、養育費の請求権に先取特権が付きました。公正証書や調停調書がなくても、法務省令で定める額(子1人あたりの月額)の範囲で、差押えの申立てができます。ただし申立てには、その養育費の取り決めがあることを示す文書が要ります。口約束のままでは使えず、二人が署名押印した合意書は、その文書になり得ます。なお、離婚のときに養育費をまったく決めていなかった場合は、2026年4月1日以降の離婚なら、子1人あたり月2万円の法定養育費を離婚の日から請求できます。取り決めまでの暫定のもので、算定表で決める額の代わりにはなりません。
元夫が協力するなら、いちばん確かなのは公正証書です。離婚後でも作れます。二人で公証役場に行き(一方は代理人でも可、委任状が要ります)、本人確認書類と、離婚の記載がある戸籍謄本、子の戸籍を出します。条項は、月額、支払日、振込先、終期、未払い分の扱い、そして強制執行認諾文言。手数料は養育費の総額で決まり、10年を超える分は10年分で数えるので、月4万円なら4万円×12か月×10年の480万円が基準になり、1万円台に収まります。離婚の公正証書と強制執行認諾の記事で書いた作り方が、離婚後でもそのまま使えます。終期は、進学した場合を書き分けるのが普通です。「成人するまで」とだけ書くと、成年年齢が18歳になった今は、18歳までと読まれるおそれがあります。
元夫が公証役場に来ない、連絡に応じない、というときは、家庭裁判所に養育費請求調停を申し立てます。申立先は相手の住所地の家庭裁判所か、二人で合意した家庭裁判所。費用は子1人につき収入印紙1,200円と、連絡用の郵便切手(額は裁判所ごとに違います)です。調停で合意できれば調停調書が作られ、公正証書と同じく差押えの根拠になります。まとまらなければ審判に移り、裁判官が収入などを踏まえて額を決めます。調停の期日はひと月に一度ほどのことが多く、まとまるまでに数か月かかることもあります。遅れが続いているなら、早めに申し立てるほうが、あとで取り戻す月の数が少なくて済みます。法定養育費が払われていない分も、調停で含めて決めることができます。
この家では、元夫が公正証書に応じました。数字を並べます。当サイトの計算機に、元夫の給与420万円、女性の給与180万円、子1人(0〜14歳)を入れると、月3万9,102円。口約束の4万円は、式の目安とほぼ同じ額でした。女性は額を変えずに4万円で書くことにし、終期は「子が20歳に達する日の属する月まで。大学などに進学した場合は、22歳に達した後の最初の3月まで」。未払いの8万円は、翌月から4か月、毎月2万円を上乗せして払う条項にしました。公証人の手数料は1万円台、正本・謄本の代金と元夫への送達の費用を足しても、2万円前後で収まりました。
打ち合わせで役に立ったのは、LINEの記録でした。女性は、4万円と月末払いを決めたやりとりを印刷して持って来ていて、公証人との打ち合わせでは、その文面をそのまま条項に置き換える形で進みました。元夫は最初「疑われているみたいで嫌だ」と言っていましたが、支払いが遅れた8月は転職の時期で、給与の振込日が変わっていたと話し、支払日を月末から翌月10日に動かす案を自分から出しました。書面にする話し合いは、遅れの理由を言える場にもなります。公証人は、LINEの文面になかった点、たとえばボーナスの月の扱いや、振込手数料をどちらが持つかも確かめてきました。この家では、ボーナス月の上乗せはなし、振込手数料は元夫の負担と決めました。
三つの方法を、この家の数字で比べると、口約束のままなら費用はかかりませんが差押えはできず、合意書なら費用はかからず先取特権の範囲で差押えの道ができ、公正証書なら2万円前後で全額について差押えができ、調停なら収入印紙1,200円と切手で、時間はかかっても相手が来なくても手続きが進みます。どれを選ぶかは、相手が応じるかどうかで決まります。合意書を作るなら、日付、二人の署名と押印、月額、支払日、振込先、終期の六つは最低限書いておきます。
| 方法 | かかるお金 | 差押え | 相手の協力 |
|---|---|---|---|
| 口約束のまま | 0円 | できない | ― |
| 合意書(私文書) | 0円 | 先取特権の範囲で申立ての道 | 署名押印が要る |
| 公正証書 | 約2万円(手数料1万円台+正本・謄本・送達) | 月4万円と未払い8万円の全額 | 公証役場に来てもらう |
| 養育費請求調停 | 収入印紙1,200円+郵便切手 | 調停調書で全額 | 来なくても進む(審判へ) |
届を出したあとの書面化は、遅れではありません。払われているうちに作るほうが、相手も落ち着いて応じられます。遅れが始まったら、まずは二人で合意書を、応じてもらえるなら公正証書を、応じてもらえないなら調停を。離婚協議書に書くことの記事で挙げた条項は、離婚後に作る書面でも同じです。養育費が払われないときの記事に、書面ができたあとの回収の順番をまとめています。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-09-28
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。
参考(公式)
この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-09-28 確認)。
- 裁判所「養育費請求調停」 ― 申立先、費用(子1人につき収入印紙1,200円)、法定養育費(2026年4月1日以降の離婚、子1人月2万円)
- e-Gov 法令検索「民法」 ― 766条(子の監護に関する事項の定め)、766条の3(法定養育費)、306条・308条の2(子の監護の費用の先取特権)
- 日本公証人連合会 ― 離婚給付等契約公正証書の作り方と手数料