離婚・家族 2026-09-12

国際離婚の基本 ― どの国の法律で離婚するか、子の連れ去りとハーグ条約

夫婦のどちらかが外国籍、あるいは海外に住んでいる場合の離婚は、日本の協議離婚が使えるとは限りません。適用される法律(準拠法)の決め方、日本の協議離婚が海外で認められるかどうか(相手国の承認)、子を無断で日本に連れ帰った場合のハーグ条約(子の返還手続き)、在外公館でできる手続き、渉外離婚を扱う専門家の探し方を整理します。

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この記事の位置: 別居前・離婚を考え始めたら → 離婚の中身を決める → 書面にする・届を出す → 離婚が成立したら → 離婚後の生活 → [状況別(当てはまる方だけ)]

「夏休みに、子を連れて実家に帰りました。もう戻らないつもりです」。ドイツに住んでいた日本人の女性が、7歳の子と一緒に、日本の実家から相談に来ました。夫はドイツ人、離婚の話し合いは始まっていない。女性は「日本人の私が、日本の実家に子を連れて帰って、何が問題なんですか」。問題があります。ハーグ条約です。この記事は、その夏休みから、返還手続きが終わるまでの八か月の話です。

海外在住・外国籍の相続人の記事で、相続の場面の複雑さを書きましたが、離婚にも同じ種類の複雑さがあります。夫婦のどちらかが外国籍、あるいは日本人同士でも一方が海外に住んでいる。この記事は、その場合に何が変わるかです。

最初に決まるのが、どの国の法律で離婚するか(準拠法)です。日本の「法の適用に関する通則法」では、夫婦の本国法が同じならその法律、違えば夫婦の常居所地(普段住んでいる国)が同じならその法律、それもなければ夫婦に最も密接な関係がある地の法律、という順で決まります。夫婦の一方が日本に常居所のある日本人なら、日本法(協議離婚を含む)が適用されます(通則法27条のただし書き)。それ以外の組み合わせでは、相手国の法律が離婚を認めていない、あるいは裁判離婚しか認めていない場合、事情はもっと複雑になります。

日本人同士、または相手が日本に常居所を持つ場合は、通常どおり協議離婚が使えます。問題は、その日本の協議離婚が、相手の国で「離婚」として認められるかどうかです。多くの国は、日本の離婚届による協議離婚を承認しますが、国によっては裁判所の関与がない離婚を認めず、別に相手国での手続き(裁判所への届出や承認手続き)が必要になることがあります。相手が外国籍で、将来その国に関わる予定(再婚、相続、子の国籍)があるなら、日本の離婚届だけで終わらせず、相手国の大使館や専門家に確認してください。

準拠法(適用される国の法律)の決まり方
条件適用される法律
夫婦の本国法が同じその本国法
本国は違うが常居所地が同じ共通の常居所地法
どちらも一致しない夫婦に最も密接な関係がある地の法律

逆に、海外で成立した離婚(相手国の裁判離婚など)を日本の戸籍に反映させるには、離婚の効力を日本が認めること(日本の裁判所や法務局の判断)と、市区町村への届出(外国方式による離婚の届出)が要ります。必要書類は、離婚を証明する外国の裁判所の書類や登録証明書と、日本語訳です。

子がいる国際離婚で、最も重要な制度がハーグ条約(国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約)です。日本も締約国で、一方の親が、他方の親の同意なく子を元の居住国から連れ去った(または、一時帰国のまま元の国に戻さない)場合、残された親は、外務省を通じて子の返還を求める手続きができます。日本人の親が、海外に住む子を「実家に連れて帰る」つもりで日本に連れてきた場合でも、相手国から見れば「連れ去り」に当たり、ハーグ条約の返還手続きの対象になることがあります。国境をまたぐ別居や離婚を考えている場合、子を動かす前に、この条約の適用があるかを確認する必要があります。外務省がハーグ条約の相談窓口を持っています。

在外公館(大使館・領事館)でできることも書いておきます。日本人同士の協議離婚届は、海外に住んでいても在外公館に提出でき、日本の市区町村に送付されます。証人が日本にいる場合の署名は、海外在住・外国籍の相続人の記事で書いたサイン証明の仕組みと同様、在外公館で対応してもらえます。ただし、財産分与や親権の交渉、相手国での手続きは、在外公館の業務の範囲外です。

国際離婚で押さえること
場面確認すること
日本の協議離婚が使えるか夫婦の常居所地・本国法の組み合わせ
相手国で承認されるか相手国の離婚制度、承認手続きの要否
海外の離婚を日本の戸籍に反映離婚証明書+訳文、外国方式の離婚届
子を日本に連れて帰る前ハーグ条約の対象になっていないか、外務省窓口へ確認

順に書きます。まず、準拠法。夫婦の本国法は違う(日本とドイツ)、常居所地は同じ(ドイツ)、なので、離婚にはドイツ法が適用される可能性が高い。ドイツでは協議離婚がなく、裁判所の手続きが要る。日本の離婚届だけで離婚することは、この夫婦ではできません。次に、ハーグ条約。子の常居所はドイツで、夫の同意なく日本に連れてきた。夫が返還を申し立てれば、日本の裁判所(東京家庭裁判所か大阪家庭裁判所)で返還の可否が判断され、原則は「常居所地国に返す」。返さなくてよいのは、連れ去りから1年以上経って子が新しい環境に適応している、返還で子に重大な危険がある、といった限られた場合です。

夫は、二か月後に、ドイツの中央当局を通じて返還を申し立てました。女性は、渉外家事に詳しい弁護士に依頼し、返還を拒む事由として、夫の子に対する暴言の記録を提出しましたが、「重大な危険」とまでは認められず、東京家庭裁判所は返還を命じました。申立てから決定まで四か月。女性は子と一緒にドイツに戻り、ドイツの裁判所で離婚と親権(ドイツでは共同親権が原則)の手続きに入りました。日本にいた八か月のうち、後半四か月は、返還の手続きだけに使われました。

もし、夏休みの前に相談があれば、何ができたか。一つ、ドイツで先に別居と離婚の手続きを始め、子の居所についてドイツの裁判所の判断を得てから動く。二つ、夫の同意を書面で得て子を日本に連れてくる(同意があれば「連れ去り」ではない)。三つ、日本の外務省のハーグ条約室に、動く前に相談する。「子を動かす前に、この条約の適用があるかを確認する」と本文に書いたのは、この三つのどれも、夏休みの前でなければできなかったからです。

専門家について書きます。渉外離婚(国際離婚)は、準拠法の判断、相手国の制度、ハーグ条約の該当性など、通常の離婚より専門性が要る分野で、渉外家事事件を扱う弁護士の領域です。行政書士は、日本国内で完結する届出書類の作成はできますが、準拠法の判断や相手国とのやり取りの代理はできません。相手が外国籍、または海外に住んでいると分かった時点で、早めに渉外家事に詳しい弁護士に相談することを勧めます。

「日本人の私が、実家に子を連れて帰って、何が問題か」の答えは、返還命令でした。女性は八か月後にドイツに戻り、今はドイツで、共同親権の下、子と暮らしています。離婚は、翌年にドイツの裁判所で成立しました。「相手が外国籍、または海外に住んでいると分かった時点で、早めに渉外家事に詳しい弁護士に」と本文の最後に書きました。早めに、の意味は、子を動かす前に、です。

執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-06

この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。

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