相続・手続き 2026-09-10
遺産分割調停の流れ ― 話し合いがまとまらないとき、家庭裁判所で何が起きるか
相続人の間で協議がまとまらないとき、次の段階が家庭裁判所の遺産分割調停です。申立て先と費用、調停委員を挟んだ話し合いの進み方、月1回で半年から1年という時間、不成立なら審判へ自動的に移る仕組み、弁護士は必須ではないこと、調停で決まったことの効力。行政書士として「調停に行く前」に整理してほしいことも書きます。
この記事の位置: 亡くなる前にできること → 亡くなってすぐ(3か月まで) → 相続人と財産を確定する → [分け方を決める] → 名義を変える・税金(10か月〜3年) → 相続した財産をどうするか → 状況別(当てはまる方だけ)
三回目の話し合いで、次男が席を立ちました。「兄さんが母さんの通帳を全部持っているのに、何を話し合えというんだ」。長男は「隠していない、見せる必要がないだけだ」。母の遺産は自宅と預金で約4,000万円、相続人は兄弟三人。話し合いは、分け方ではなく、通帳を見せるかどうかで止まっていました。次男が家庭裁判所に調停を申し立てたのは、その二週間後です。この記事は、その調停の八か月と、実は調停に行かずに済んだかもしれない話です。
遺産分割協議は相続人全員の合意が要ります。一人でも反対すれば成立しません。話し合いを何度しても平行線、あるいは話し合いのテーブルにすら着かない相続人がいる。そのときの次の段階が、家庭裁判所の「遺産分割調停」です。裁判のように白黒をつける手続きではなく、裁判所の中で第三者を挟んで話し合う手続きです。
協議から調停・審判へ
- 協議 相続人全員で話し合い(行政書士が資料整理・協議書作成を支援できる範囲)
- 調停の申立て 相手方の住所地の家庭裁判所へ(印紙1,200円+切手。本人でも申立て可)
- 月1回・半年〜1年 調停委員を挟んだ話し合い(相続人の範囲→遺産の範囲→評価→特別受益・寄与分→分け方の順)
- 成立 調停調書(確定判決と同じ効力)(相続登記・解約に使える)
- 不成立 審判へ自動移行(裁判官が法定相続分を基本に決める)
申立ては、相続人の一人または複数が、他の相続人全員を相手方として行います。申立て先は、相手方のうち一人の住所地を管轄する家庭裁判所(または当事者が合意した家庭裁判所)です。申立書に、亡くなった人と相続人全員の戸籍(または法定相続情報一覧図)、遺産の資料(登記事項証明書、預貯金の残高証明、評価証明書など)を添え、収入印紙1,200円と連絡用の郵便切手を納めます。弁護士に頼まなくても本人で申し立てられます。
調停は、裁判官一人と調停委員二人(多くは弁護士や地域の有識者)で構成される調停委員会が進めます。当事者は同じ部屋で顔を合わせるのではなく、交互に調停室に入って調停委員と話すのが通常です。調停委員は双方の言い分と資料を整理し、法律上の考え方を示しながら、合意できる点を探ります。一回の期日は二時間程度、期日はおおむね月に一回で、成立まで半年から一年かかることが多いです。遠方の相続人は、電話会議で参加できます。2021年の末からは、ウェブ会議も順に広がっています。
調停で話し合う順番は決まっています。まず相続人の範囲と遺産の範囲を確定する。次に遺産の評価(不動産をいくらと見るか)。そして特別受益と寄与分があればその判断。最後に具体的な分け方です。この順番は協議でも同じで、調停に行く前に、相続人の範囲(戸籍)と遺産の一覧と評価の資料を揃えておくと、調停の回数が減ります。行政書士が手伝えるのはこの「調停の前」の整理までで、調停の場で一方を代理して交渉することは弁護士にしかできません。
全員が合意すれば、その内容を「調停調書」にまとめて成立です。調停調書は、裁判所の確定した審判と同じ効力を持ち、相続登記や預貯金の解約に、遺産分割協議書の代わりとして使えます。相手方が調書の内容を守らなければ、強制執行もできます。
合意に至らなければ調停は不成立となり、自動的に「審判」に移行します。審判では、裁判官が資料に基づいて分け方を決めます。調停と違って合意は要らず、裁判官の判断で結論が出ます。ただし審判は法定相続分を基本にした機械的な分け方になりやすく、「家は長男が住み続ける代わりに代償金を払う」といった家族の事情に合わせた分け方は、調停で合意したほうが実現しやすいのが実情です。調停の段階で、ある程度譲り合ったほうが結果として満足度が高い、という助言はここから来ています。
費用の目安を書いておきます。裁判所に納めるのは印紙1,200円と切手数千円で、これ自体は安いです。大きいのは弁護士に依頼した場合の報酬で、着手金と成功報酬を合わせて遺産の額に応じて数十万円から数百万円になります。弁護士を付けるかどうかは、相手方が弁護士を付けたか、争点が法律的に複雑か(特別受益・寄与分・遺言の有効性)で判断します。全員が本人で臨む調停も珍しくありません。
| 項目 | 額 | 備考 |
|---|---|---|
| 申立ての収入印紙 | 1,200円 | 被相続人一人につき |
| 郵便切手 | 数千円 | 裁判所ごとに額が決まっている |
| 不動産の鑑定(必要な場合) | 数十万円 | 評価で争いがあるときに裁判所が鑑定人を選ぶ |
| 弁護士報酬(依頼する場合) | 数十万〜数百万円 | 遺産額に応じた着手金+成功報酬 |
順に書きます。次男が申立人、長男と三男が相手方。申立書に、母の戸籍と相続人の戸籍、自宅の登記事項証明書と評価証明書、そして次男が把握している範囲の預金の情報。印紙1,200円と切手約3,000円。次男は弁護士を付けず、本人で申し立てました。第一回期日は申立てから六週間後。調停委員は、まず遺産の範囲の確定から入り、長男に「通帳の写しと残高証明を出してください」と求めました。長男は、調停委員に言われて初めて、母の預金三口座、合計1,850万円の資料を出しました。次男が席を立った原因は、第一回期日の二時間で解消しました。
そこからは、分け方の話です。自宅(評価額2,100万円)は長男が住んでいて、長男が取得して代償金を払う案。長男には代償金を払う資力がなく、預金1,850万円を次男と三男で分けても、自宅との差が出る。調停委員は「自宅の査定を取ってください」と言い、不動産会社の査定は2,600万円。評価額ではなく査定で計算すると、長男の取り分は法定相続分の約1,480万円を1,120万円超える。長男は、自宅を担保に銀行から1,100万円を借りて、次男と三男に550万円ずつ払う案で合意。第六回期日で調停成立、申立てから八か月。調停調書で、自宅の相続登記と預金の解約が進みました。
調停に行かずに済んだかもしれない、と冒頭に書いた理由です。次男が求めていたのは、通帳の開示だけでした。長男が三回目の話し合いで通帳を見せていれば、査定を取り、代償金を計算する、という流れは、協議の場で同じようにできた。八か月と、長男が調停の後半で付けた弁護士の費用約45万円は、「見せる必要がない」の一言の代金です。「揉めている原因が分け方ではなく情報の非対称であることがよくある」と本文の最後に書いたのは、この家のことです。
最後に、調停に至る前に確認してほしいことを一つ。揉めている原因が「分け方」ではなく「情報の非対称」であることがよくあります。長男だけが親の通帳を管理していて、他の相続人が遺産の全体像を知らない。この状態では、他の相続人は不信感から合意できません。遺産の一覧と資料を全員に開示する。それだけで調停に行かずに済む家は、実務で相当数あります。
次男が席を立った話し合いは、調停の第一回期日で、通帳の写し三枚で動き出しました。八か月後の調停調書は、協議書と同じ内容で、協議書より45万円高くつきました。「遺産の一覧と資料を全員に開示する。それだけで調停に行かずに済む家は相当数ある」と本文に書きました。この家は、その相当数の一つで、開示が二週間遅れたために、調停の側に入りました。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-05
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。