土地・不動産 2026-09-09
盛土規制法 ― 2023年から、盛土のある土地は「持っている人」の責任になった
2021年7月の熱海市伊豆山の土石流を受けて、2023年5月26日に盛土規制法(宅地造成及び特定盛土等規制法)が施行されました。都道府県が指定する規制区域では、盛土や切土の工事に許可が要り、既存の盛土も含めて土地所有者に安全管理の責任があります。規制区域の指定状況、許可が要る工事の規模、既存盛土への是正命令、罰則、そして相続や購入で盛土のある土地を持つときに確認すべきことを整理します。
この記事の位置: まず読む:値段と書類の読み方 → 買う前に確認すること → 建てられるか・どれだけ建つか → 境界・隣地・道 → [災害と地盤] → 持っている間:税金と登記 → 売るとき → 貸す・借りる・特殊な権利
相続した土地の航空写真を、国土地理院のサイトで見ていたときのことです。1975年の写真では、その場所は谷でした。2000年の写真では、平らな造成地になっています。相談者は「父が昔、業者に頼んで埋めたと聞いたことがある」と言いました。埋めた土がどこから来て、どう締め固められたか、記録は何もありません。その土地は、2024年に県が指定した特定盛土等規制区域の中にありました。この記事は、その谷を埋めた土の話です。
擁壁とがけ条例の記事で「高低差のある土地」の話を、土砂災害警戒区域の記事で「崖と谷」の話を書きました。この記事は、その土地の高低差が「人が盛った土」でできている場合の話です。2021年7月3日、熱海市伊豆山の土石流で、静岡県の公表によると死者26人、災害関連死1人、行方不明者1人の被害が出ました。原因は、谷の上流に積まれた盛土でした。この災害を受けて、2023年5月26日に施行されたのが「宅地造成及び特定盛土等規制法」、通称、盛土規制法です。
それまでの法律(宅地造成等規制法)は、宅地を造るための盛土だけを、指定された区域でだけ規制していました。熱海の盛土は宅地目的ではなく、規制区域の外でした。盛土規制法は、この穴を塞ぎます。目的を問わず(宅地でも、農地でも、森林でも、残土の処分でも)、盛土と切土の工事を規制し、都道府県知事(政令市・中核市では市長)が指定する規制区域を、人家に被害が及ぶおそれのある場所に広く指定する仕組みになりました。
規制区域は二種類です。「宅地造成等工事規制区域」は、市街地や集落など、盛土の崩落で人家に被害が及ぶおそれのある区域。「特定盛土等規制区域」は、市街地から離れていても、崩落すれば下流の人家に被害が及ぶ区域(熱海の盛土のような場所)。指定は都道府県ごとに基礎調査を経て順次進められていて、2026年9月時点で多くの都道府県が指定を終え、または進めています。自分の土地が区域内かどうかは、都道府県のWebサイトの区域図で確認できます。
区域内で許可が要る工事は、規模で決まります。宅地造成等工事規制区域では、盛土で高さ1mを超える崖ができる、切土で高さ2mを超える崖ができる、盛土と切土を合わせて高さ2mを超える崖ができる、盛土で高さ2mを超える、盛土または切土の面積が500㎡を超える、のどれかに当たれば許可。特定盛土等規制区域では、届出で足りる規模と、許可が要る規模(宅地造成等工事規制区域の基準より大きい規模)に分かれます。許可には、擁壁や排水の技術基準への適合、工事中と完了時の検査があります。家を建てるための造成、駐車場を作るための盛土、農地の嵩上げ、どれも対象です。
| 宅地造成等工事規制区域 | 特定盛土等規制区域 | |
|---|---|---|
| 場所 | 市街地・集落など、盛土の崩落で人家に被害が及ぶおそれのある区域 | 市街地から離れていても、崩落で下流の人家に被害が及ぶ区域 |
| 許可が要る規模の例 | 盛土で崖1m超、切土で崖2m超、盛土2m超、面積500㎡超など | 届出の規模と、許可の規模(より大きい)に分かれる |
| 既存盛土 | 所有者等に維持管理の責任。是正命令の対象 | 同左 |
土地所有者にとって最も重要なのが、既存の盛土の扱いです。法律の施行前に造られた盛土も、規制区域内にあれば、土地の所有者、管理者、占有者に「安全な状態に維持する責任」があります。都道府県は既存盛土の調査を行い、危険なものには、所有者に対して是正の勧告や改善命令を出せます。盛土をした人が別にいても、今の所有者が対象になり得る。「前の所有者が盛った土」でも、「相続した土地にあった盛土」でも、責任は今の所有者にあります。
断面図の比較。1975年には谷だった場所が、2000年には盛土で平らな造成地になり、上に家が建っている。盛土規制法(2023年5月施行)では、規制区域の中にある盛土は、盛った人ではなく今の所有者に安全に保つ責任がある。
罰則は、大幅に強化されました。無許可で盛土をした場合や命令に違反した場合、個人は3年以下の拘禁刑または1,000万円以下の罰金、法人は3億円以下の罰金(国土交通省の資料では「最大で懲役3年以下・罰金1,000万円以下・法人重科3億円以下」。2025年6月に懲役は拘禁刑に改められました)。条例による罰則の上限より高い水準にそろえたもので、不法な残土処分を商売にすることを止めるための水準です。
相続や購入の場面では、こう見ます。一つ、土地が規制区域内か。都道府県の区域図で確認する。二つ、土地に盛土があるか。地形図や古い航空写真(国土地理院で見られます)で、以前の地形と比べる。造成地の場合、造成前の地形が谷や斜面なら、盛土の可能性が高い。三つ、盛土があるなら、造成のときの許可や検査済証(宅地造成の検査済証)があるか。旧法の時代の許可でも、記録があれば安全性の目安になります。四つ、擁壁と排水の状態。擁壁とがけ条例の記事で書いた見方と同じです。重要事項説明の記事で書いた説明書には、規制区域の指定が「法令に基づく制限」として記載されます。
現場の経過です。まず県の区域図で、土地が特定盛土等規制区域に入っていることを確かめました。次に、旧法(宅地造成等規制法)の時代の許可や検査済証があるかを市に照会しましたが、記録なし。父が埋めたのは宅地目的ではなく、規制区域の外だった頃の話で、届出も許可も要らなかった時代です。つまり、この盛土は「誰の責任でもなかった土」が、法改正で「今の所有者の責任の土」に変わったものでした。
| 確認すること | どこで |
|---|---|
| 規制区域内か | 都道府県のWebサイトの区域図 |
| 盛土があるか | 国土地理院の旧地形図・過去の航空写真、造成前の地形 |
| 造成時の許可・検査の記録 | 市町村・都道府県の担当課、売主の書類 |
| 擁壁と排水の状態 | 現地。がけ条例の見方と同じ |
| 重要事項説明の記載 | 「法令に基づく制限」の欄 |
県は既存盛土の調査を進めていて、この土地にも職員が来ました。見たのは、盛土の高さ(約3メートル)、法面の勾配、排水の状態、下流に人家があるか。結果は「直ちに危険ではないが、排水が不十分。法面の一部に水がしみ出している」。是正の命令ではなく、改善の勧告が出ました。相談者は土木の会社に見積もりを取り、法面の排水管の設置と、一部の勾配の直しで約80万円。売る予定の土地に80万円をかけるかどうかで迷いましたが、勧告が出た状態で売れば、買主にその負担が移り、価格はそれ以上に下がります。工事をして、県に完了を報告してから売却に出しました。
もう一つ、境目の話も現場で出ました。この土地の隣は、同じ谷を同じ時期に埋めた別の所有者の土地で、そちらは規制区域の線の外でした。同じ盛土なのに、片方は所有者に責任があり、片方はない。区域の指定は「崩れたときに人家に被害が及ぶか」で決まるので、下流に家がある側だけが区域に入る、ということが起きます。線の引き方は県の基礎調査に基づくもので、隣と比べて不公平に見えても、動かせません。
盛土規制法は、盛土を「造る人」の規制から、「持っている人」の責任へ、重心を移した法律です。相続で土地を受け取る人にとっては、「その土地に何が積まれているか」を知ることが、これまで以上に大事になりました。土地価格スキャンで規模感を出したあとの、役所で調べる制限の一つとして、この法律の区域図を加えてください。
相談者が最後に言ったのは、「父が埋めた土の責任を、五十年後に私が取るとは思わなかった」でした。盛土規制法は、まさにそういう法律です。「造った人」から「持っている人」へ。相続で土地を受け取るとき、登記と評価額のほかに、その土地が「もともと何だったか」を古い航空写真で一度見ておく。谷だった場所は、この記事の対象です。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-01
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。
参考(公式)
この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-01 確認)。
- 国土交通省「盛土規制法の概要」 ― 2022年5月27日公布・2023年5月26日施行。規制区域の指定、土地所有者等への是正命令、罰則の水準(最大で3年以下・1,000万円以下・法人重科3億円以下)
- 静岡県「熱海市伊豆山地区土砂災害関連情報について」 ― 2021年7月3日の土石流の被害と対応の総括資料(死者26人、災害関連死1人、行方不明者1人)