土地・不動産 2026-09-09
地役権 ― 他人の土地を通る権利、他人に通られる土地
自分の土地に出入りするために隣の土地を通る、送電線が上を通っている、隣の土地に排水管を通している。こうした「他人の土地を一定の目的で使う権利」が地役権です。通行地役権と囲繞地通行権の違い、登記の意味と未登記でも保護される場合、時効で成立する場合、送電線の地役権と補償、相続や売買でどう引き継がれるかを整理します。
この記事の位置: まず読む:値段と書類の読み方 → 買う前に確認すること → 建てられるか・どれだけ建つか → [境界・隣地・道] → 災害と地盤 → 持っている間:税金と登記 → 売るとき → 貸す・借りる・特殊な権利
相続した土地を見に行ったら、隣の家の人が当たり前のように敷地の端を歩いて道路に出ていきました。「うちの土地なのに、通っていいんですか」。相談者は、亡くなった父から何も聞いていませんでした。隣の人に聞くと「先代同士の約束で、四十年前から通っている」と言う。登記を見ると、乙区に地役権の登記はありません。約束の当事者は、両方とも亡くなっています。この記事は、その通路の話です。
登記事項証明書の乙区に「地役権設定」とある。あるいは、隣の土地の人が当たり前のように自分の敷地を通っていく。相続や購入の場面で、こうした「他人の土地との関係」に出会うことがあります。その多くは地役権か、それに似た権利です。整理します。
地役権は、自分の土地(要役地)の便益のために、他人の土地(承役地)を一定の目的で使う権利です。最も多いのが通行地役権で、道路に出るために隣の土地の一部を通る。次に多いのが、電力会社が送電線を通すために設定する地役権(送電線下の土地の建築制限)。ほかに、隣の土地に水道管や排水管を通す、隣の土地に建物を建てないことを約束させる(眺望や日照のため)、といった目的があります。土地に付いた権利なので、要役地を売れば買主が引き継ぎ、承役地を売れば買主が負担を引き継ぎます。
似た権利に、囲繞地通行権があります。私道の記事でも触れましたが、道路に接していない土地(袋地)の所有者が、周りの土地を通って道路に出る権利で、契約がなくても法律上当然に認められます。ただし、通れる場所は「周りの土地にとって損害が最も少ない場所」で、通る側は償金を払うのが原則です。地役権は契約(または時効)で成立し、場所も幅も合意で決められる。囲繞地通行権は法律で最低限が保障される。この違いです。実務では、袋地を買うときに囲繞地通行権だけに頼らず、通行地役権を設定して登記する、というのが安全側の進め方です。
| 通行地役権 | 囲繞地通行権 | |
|---|---|---|
| 根拠 | 契約(または時効) | 法律上当然(民法210条) |
| 対象 | どの土地でも設定できる | 袋地(道路に接しない土地)のみ |
| 場所・幅 | 合意で決める | 周囲の土地の損害が最も少ない場所・最小限の幅 |
| 対価 | 合意による(無償も可) | 償金を払うのが原則 |
| 登記 | できる(乙区)。登記が対抗要件 | 登記の対象外 |
| 引き継ぎ | 要役地・承役地の譲渡で引き継ぐ | 袋地である限り続く |
登記についても書いておきます。地役権は、承役地の登記事項証明書の乙区に登記されます。登記しておけば、承役地が誰の手に渡っても地役権を主張できます。逆に、登記していない通行地役権は、承役地の新しい所有者に対して主張できないのが原則です。ただし、最高裁の判例(平成10年)で、通路として継続的に使われていることが外から見て明らかで、新しい所有者がそれを知っていたか知ることができた場合には、登記がなくても主張できる、とされています。長年通路として使われてきた土地を買うときは、登記がなくても地役権を負担する可能性がある、と考えておくべきです。
時効で成立する地役権もあります。継続的に行使され、外から見て分かる地役権(通路を自分で作って通り続けているなど)は、越境の記事で書いた時効取得と同じ考え方で、10年または20年の使用で取得できます。隣の土地の人が「昔から通っている」という場合、それが単なる黙認なのか時効で成立した地役権なのかで、話が変わります。
送電線の地役権は、性格が少し違います。電力会社が送電線を通すために、線の下の土地に「建物の高さの制限」などの地役権を設定し、対価として一時金(線下補償)を払っています。登記されていることが多く、相続や売買でも引き継がれます。線下の土地は、建築の制限がある分、評価が下がり、相続税の評価でも減額されます。相続した土地の乙区に電力会社の地役権があれば、制限の内容を電力会社に確認してください。
現場で確かめたのは三つでした。一つ、隣の土地が袋地かどうか。公図と現地を見ると、隣の土地は道路に2メートル接していて、袋地ではありません。つまり囲繞地通行権(法律上当然の通行権)は成立せず、通行の根拠は先代同士の約束だけです。二つ、その約束が地役権として時効で成立していないか。隣の人は自分で砂利を敷いて通路を整え、四十年間、毎日通っていました。継続的で、外から見て分かる通行です。時効取得の要件は満たしている可能性が高く、争えば隣の側に地役権が認められる見込みでした。三つ、相談者がこの土地をどうしたいか。売る予定でした。
売るなら、通路の扱いを決めてからでないと、買主が困ります。登記のない通行地役権でも、通路として使われていることが明らかで、買主がそれを知っていれば、判例上、買主は地役権を負担します。「知らなかった」と言える状態で売れば、あとで買主と隣の人の争いになり、売主だった相談者にも話が戻ってきます。そこで、隣の人と協議し、通行地役権を正式に設定して登記することにしました。範囲は幅1.5メートル、長さ12メートル。対価は一時金で30万円、以後の使用料はなし。登記は承役地(相談者の土地)の乙区に「地役権設定」、登録免許税は承役地一筆につき1,500円。司法書士に頼み、費用は数万円でした。
隣の土地(要役地)から道路に出るために、相談者の土地(承役地)の端にある幅1.5メートル、長さ12メートルの通路を通る。通路の部分に地役権を設定して登記する。
図は縮尺どおりではありません。通路の範囲は、地役権図面で登記に添えます。
登記が入ったことで、相談者の土地は「通路の負担つき」であることが登記簿で分かる状態になり、その分だけ査定は下がりました。ただ、買主は「隣との関係が書面になっている土地」を安心して買え、隣の人は「先代の約束が消えない」ことを確かめられました。三者とも、口約束のままより良い位置に立てた形です。
協議のときに机に並べた書類は、五つでした。公図、承役地(相談者の土地)の登記事項証明書、隣の土地の登記事項証明書、通路の現況写真、通路の範囲を測った簡単な図面です。登記事項証明書は、乙区(所有権以外の権利が載る欄)に何も無いことを、双方の分で確かめました。通路は一筆の土地の一部なので、登記には「地役権図面」という、通路の範囲を示す図面を添えます。口約束のときには要らなかった手間です。
地役権設定契約書に書いた項目は、六つです。①通行の目的(歩行と自転車まで。車は通さない)②範囲(幅1.5メートル、長さ12メートル、図面を添付)③一時金30万円と支払日④通路に物を置かない、砂利などの補修は通行する側が負担する⑤どちらかが土地を売るときは、買主にこの契約を引き継がせる⑥登記の申請に両方が協力する。車を通さないと決めたのは、四十年の実態が歩行だったからです。範囲を実態より広げると承役地の価値が下がり、狭めると隣の人が納得しません。実際に通っていた幅を巻尺で測るところから、全部が始まりました。
お金の動きも整理します。一時金30万円は、承役地の所有者(相談者)が受け取ります。登録免許税は承役地一筆につき1,500円で、この件は一筆なので1,500円。通路の面積は1.5×12=18平方メートルです。仮に土地の値段を1平方メートル10万円とすると、通路にした分は18×10万円=180万円ぶんの土地で、一時金の30万円はその6分の1にあたります(10万円は説明のための仮の値段で、査定ではありません)。
相続や購入の実務では、こう見ます。要役地(通る側)を相続・購入するなら、地役権が登記されているか、されていなければ登記できるかを確認する。承役地(通られる側)なら、地役権の範囲と内容を確認し、その部分の利用が制限されることを前提に価値を見る。そして、隣との「昔からの約束」で成り立っている通行は、相続を機に書面と登記にしておく。公図の記事で書いたとおり、口約束は当事者がいなくなると消えます。
最初の日、相談者は「うちの土地なのに」と言いました。その通りです。同時に、隣の人にとっては「四十年通ってきた道」でした。どちらも正しく、正しさが二つあるまま当事者がいなくなると、残るのは争いです。この記事の最後に「相続を機に書面と登記に」と書いたのは、正しさが二つあるうちに、一枚の登記にまとめておく、という意味です。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-07
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。
参考(公式)
この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-07 確認)。
- e-Gov法令検索「民法」 ― 地役権(280条以下)と、袋地の所有者の通行権(210条)。