離婚・家族 2026-09-29
離婚届の不受理申出 ― 勝手に出されないための一枚。出し方、効き目、取り下げ方
「離婚届に判を押した覚えはないのに、離婚が成立していた」を防ぐ制度が、不受理申出です。本人が市区町村の窓口で申出をしておくと、本人が自分で出向いて届け出ない限り、離婚届は受理されません。期限はなく、費用もかからず、取り下げもできます。別居中で相手が届を持っている、署名だけ先にしてしまった、という人が最初にやることを、窓口での流れと一緒に書きます。
この記事の位置: 別居前・離婚を考え始めたら → 離婚の中身を決める → [書面にする・届を出す] → 離婚が成立したら → 離婚後の生活 → 状況別(当てはまる方だけ)
別居して三か月の女性が、相談の最初に出したのは、離婚届の用紙でした。半年前、口論の勢いで自分の欄に署名し、押印までして、相手に渡してある。「今は、まだ離婚するつもりはない。でも、あの紙をいつ出されるか分からない」。この状態を止める方法は、一つだけあります。市区町村役場に「不受理申出」を出しておくことです。
協議離婚は、夫婦それぞれが署名した離婚届を、どちらか一方が役場に出せば成立します。窓口は、書式が整っていれば受理します。相手が本当に離婚に合意しているかを、その場で確かめる仕組みは、原則としてありません。だから、署名済みの届が相手の手元にあると、自分の知らない間に離婚が成立する、ということが起こり得ます。
不受理申出は、その穴をふさぐための制度です。戸籍法第27条の2に根拠があり、「私が自分で出向いて届け出ない限り、私を当事者とする離婚届を受理しないでください」と、あらかじめ役場に申し出ておくものです。申出があると、相手が届を持ってきても、窓口は受理しません。
出し方は簡単です。本籍地か、住んでいる市区町村の役場の戸籍の窓口に、本人が行きます。用紙は窓口にあり、名前・本籍・対象にする届の種類(離婚届)を書きます。運転免許証やマイナンバーカードなどで本人確認をします。費用はかかりません。その場で受け付けられ、その日から効きます。
左に本人、右に相手。本人が役場に不受理申出を出しておくと、相手が持ってきた署名済みの離婚届は窓口で受理されない。本人が自分で出向いて届け出た場合だけ受理される。
申出に期限はなく、費用もかかりません。離婚するときは、本人が窓口に出向けばその届は受理されます。
本人が行くことが原則です。代理人に頼んだり、郵送で送ったりはできません。窓口で本人であることを確かめることが、この制度の要だからです。病気や入院で出向けない事情がある場合は、事前に役場に相談してください。事情に応じた扱いが認められることがあります。
効き目に期限はありません。以前は六か月で切れる扱いでしたが、2008年の改正で、取り下げるまで続くようになりました。一度出せば、更新の手続きは要りません。逆に、離婚することに決めて自分で届を出すときは、申出をした本人が窓口に出向けば受理されます。取り下げの手続きを別にする必要はなく、本人が届を持って行けば、その届は受理されます。
対象は離婚届だけではありません。婚姻届、養子縁組届、養子離縁届、認知届にも、同じ申出ができます。相続の相談では、高齢の親が知らない間に養子縁組をされていた、という話に出会うことがあります。そういう場面でも、この制度が使えます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| どこで | 本籍地または住所地の市区町村役場(戸籍の窓口) |
| だれが | 本人(代理・郵送は原則不可。事情があれば事前に相談) |
| 費用 | 無料 |
| いつから | 受け付けたその日から |
| いつまで | 取り下げるまで(期限なし) |
| 対象にできる届 | 離婚・婚姻・養子縁組・養子離縁・認知 |
| 離婚したくなったら | 本人が届を持って窓口へ行けば受理される |
女性の場合に戻ります。相談の翌日、女性は住んでいる市の役場に行き、離婚届の不受理申出を出しました。窓口では十分ほどで終わり、控えを一枚受け取りました。これで、相手が持っている署名済みの届は、出されても受理されません。
そのうえで、次の相談に進みました。不受理申出は、離婚を止める制度ではなく、「自分の知らない間に」を止める制度です。離婚するかどうか、するなら条件をどうするかは、この後に落ち着いて決めることになります。財産分与、養育費、面会交流。決めることは多く、その一つ一つは、離婚の中身を決める記事に書いています。
もう一つ、確認しておいてほしいことがあります。申出をしたあとで住所を変えた場合、申出は本籍地の役場に記録されているので、引っ越し先の役場で届が出されても効きます。ただ、本籍を変える(転籍する)ときは、新しい本籍地に申出が引き継がれるか、役場で確かめてください。
よくある誤解を三つ書きます。一つ、不受理申出は離婚の話し合いを止めるものではありません。相手が離婚を望んでいれば、話し合いは続きますし、相手が家庭裁判所に離婚調停を申し立てることもできます。二つ、調停や裁判で離婚が成立した場合、その届は「報告」の届なので、不受理申出があっても受理されます。申出で止められるのは、協議離婚の届だけです。三つ、申出をしたことは、役場から相手に知らされません。相手が届を出しに来て、窓口で受理されないと言われたとき、初めて分かります。
もし、申出をする前に相手が届を出してしまっていたら。戸籍には離婚が記載されていて、窓口では取り消せません。この場合は、家庭裁判所に「協議離婚無効確認」の調停(まとまらなければ訴え)を起こし、離婚の合意がなかったことを認めてもらう必要があります。認められれば戸籍を訂正できますが、時間も費用もかかります。署名済みの届が相手の手元にあると気づいた時点で申出を出す方が、はるかに軽い。
窓口で受け取る控えは、保管してください。申出が受け付けられた日付と、対象の届の種類が書いてあります。あとで「申出をしていたはず」と確かめるときの唯一の証拠です。
申出を出したあと、条件を決めるまでの間にやることも書いておきます。別居中の生活費(婚姻費用)は、離婚が成立するまで請求できます。相手の年収が分かれば、養育費・婚姻費用 かんたん計算で月額の目安が出るので、まず数字を持ってください。次に、財産の一覧を作ること。預金・保険・不動産・ローンを、別居時点の残高で書き出します。財産分与の話は、この一覧がないと始まりません。不受理申出で「時間」を確保したあとは、その時間を数字を揃えることに使う。順番はそれで合っています。
署名済みの離婚届が相手の手元にある。それに気づいたときにやることは、一つです。役場に行き、不受理申出を出す。十分で終わります。そのあとで、離婚するかどうかを、自分の速さで決めてください。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-09-29
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。
参考(公式)
この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-09-29 確認)。
- e-Gov法令検索 戸籍法(第27条の2) ― 不受理申出の根拠条文。届出の本人確認と、申出があるときは受理しない旨