相続・手続き 2026-10-24

亡くなった人の会社から出る死亡退職金と弔慰金 ― 受け取る人は会社の規程で決まる、相続税は「500万円×法定相続人の数」まで非課税、相続放棄しても受け取れる

父が在職中に亡くなり、会社から母に死亡退職金2,000万円が出ることになった。兄は「遺産だから3人で分けるべきだ」と言う。死亡退職金は、会社の退職金規程で受け取る人が決まり、遺産分割の対象にならないのが原則です。一方、相続税では遺産とみなされ、「500万円×法定相続人の数」までは非課税。弔慰金の非課税の範囲(給与の半年分か3年分)、相続放棄との関係、この家で相続税がかからなかった数字を書きます。

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この記事の位置: 亡くなる前にできること → 亡くなってすぐ(3か月まで) → 相続人と財産を確定する → 分け方を決める → [名義を変える・税金(10か月〜3年)] → 相続した財産をどうするか → 状況別(当てはまる方だけ)

「父が在職中に亡くなって、会社から、死亡退職金の2,000万円を母に払うと連絡がありました。兄は、遺産なんだから母と子ども2人の3人で分けるべきだと言います。それに、この2,000万円を足したら、相続税がかかるんじゃないかと心配で」。相談に来たのは50代の女性でした。お父さんは63歳で、会社員のまま亡くなりました。相続人は、お母さんと、相談者と、お兄さんの3人です。机の上には、会社からの「退職金支給のご案内」と、弔慰金150万円の通知がありました。

死亡退職金は、在職中に亡くなった人に払われるはずだった退職金を、会社が遺族に払うものです。誰が受け取るかは、会社の退職金規程で決まります。多くの規程は、受け取る順番を「配偶者、子、父母…」のように定めています。そして、規程で受け取る人が決まっている死亡退職金は、受け取る人自身の権利で、亡くなった人の遺産ではない、というのが最高裁の判例(1980年)の考え方です。遺産でなければ、遺産分割の話し合いで分ける対象にもなりません。まず確かめるのは、会社の退職金規程の「受給者の順位」の条文です(規程が無い会社では扱いが変わることがあるので、会社に確かめます)。

公務員の場合は、会社の規程の代わりに、法律や条例で遺族の範囲と順位が決まっています。いずれにしても、受け取る人を決めるのは、民法の相続分ではなく、退職金のルールのほうです。

ところが、税金では扱いが変わります。民法で遺産でなくても、相続税では「みなし相続財産」として、遺産と同じように課税の計算に入ります。対象は、亡くなったあと3年以内に支給額が決まった退職金です。生命保険金と同じ考え方で、亡くなったことで遺族の手に入るお金だからです。

亡くなってから3年を過ぎて支給額が決まった退職金は、相続税ではなく、受け取った人の一時所得として所得税の対象になります。会社の手続きが長引いているときは、支給が決まった日も控えておきます。相続税の申告書では、第10表「退職手当金などの明細書」で、誰がいくら受け取り、非課税がいくらかを計算します。

その代わり、非課税の枠があります。相続人が受け取った死亡退職金は、「500万円×法定相続人の数」までは相続税がかかりません。法定相続人の数は、相続放棄をした人がいても、放棄がなかったものとして数えます。養子は、実の子がいれば1人まで、いなければ2人まで数えます。ただし、この枠を使えるのは相続人が受け取った分だけで、相続を放棄した人や、相続人でない人が受け取った分には使えません。生命保険金の非課税(同じく500万円×法定相続人の数)とは別の枠なので、両方あれば両方使えます。

弔慰金は、ふつうは相続税の対象になりません。ただし、会社から弔慰金の名目で受け取ったお金でも、多すぎる部分は退職金として扱われます。目安は、仕事が原因ではない業務外の死亡なら、亡くなったときの普通給与(給料と扶養手当などの合計)の半年分。業務上の死亡なら3年分です。これを超える部分が、死亡退職金に足されます。範囲に収まるかを確かめるには、源泉徴収票や給与明細で、亡くなったときの月給を見ます。

相続放棄との関係も整理しておきます。死亡退職金は遺産ではないので、借金が多くて相続を放棄した人でも、規程で受取人になっていれば受け取れます。ただし放棄した人は、上の非課税の枠を使えません。この点は、相続放棄と生命保険の記事に書いた、保険金の扱いと同じです。放棄を考えている家では、受け取る前に、受取人の順番と放棄の時期をあわせて確かめておくと、あとで驚かずに済みます。

この家の数字です。死亡退職金2,000万円は、規程で配偶者が最初の順位なので、お母さんのものです。非課税の枠は500万円×3人で1,500万円。相続税の計算に入るのは、2,000万円−1,500万円の500万円です。弔慰金150万円は、業務外の死亡で、お父さんの普通給与は月45万円だったので、半年分270万円の範囲に収まり、相続税の計算には入りません。遺産は、自宅の土地と建物の評価が合わせて2,500万円、預貯金が1,400万円で3,900万円。これに500万円を足して4,400万円です。基礎控除は3,000万円+600万円×3人で4,800万円なので、下回ります。この家では、相続税はかからない見込みになりました。

この家の計算(2026年10月時点の制度)
項目計算金額
死亡退職金(受取人は母)2,000万円
退職金の非課税枠500万円×法定相続人3人−1,500万円
相続税の計算に入る退職金2,000万円−1,500万円500万円
弔慰金普通給与月45万円×6か月=270万円の範囲内0円(計算に入らない)
遺産(自宅2,500万円+預貯金1,400万円)3,900万円
相続税の計算に入る合計3,900万円+500万円4,400万円
基礎控除3,000万円+600万円×3人4,800万円

退職金の2,000万円をそのまま足していたら、3,900万円+2,000万円で5,900万円になり、基礎控除を1,100万円超えて見えたはずです。相談者が心配したのは、この数字でした。非課税の枠を知っているかどうかで、見え方がこれだけ変わります。ただ、申告が要るかどうかの最終的な判断と、土地の評価の確認は、税理士に頼んでください。基礎控除の考え方は基礎控除の記事に、申告の流れは相続税の申告の記事に書いています。

この家の相続税の計算に入る額と基礎控除(死亡退職金2,000万円・法定相続人3人)
この家の相続税の計算に入る額と基礎控除(死亡退職金2,000万円・法定相続人3人)退職金をそのまま足した場合5,900万円非課税1,500万円を引いた場合4,400万円基礎控除(3,000万+600万×3人)4,800万円

退職金をそのまま足した場合 5,900万円、非課税1,500万円を引いた場合 4,400万円、基礎控除(3,000万+600万×3人) 4,800万円

遺産3,900万円(自宅2,500万円・預貯金1,400万円)に、死亡退職金のうち課税される分を足した額。弔慰金150万円は普通給与の半年分270万円の範囲内なので入れていません。

お兄さんの「3人で分けるべきだ」という気持ちは、分からなくはありません。ただ、規程どおりならお母さんが受け取るお金で、遺産分割の対象ではありません。お母さんが自分の判断で子どもに渡すなら、それはお母さんからの贈与になり、1年に110万円を超えると贈与税の対象になり得ます。この家では、お母さんが、生活費と自宅の修繕に充てる分を残し、残りはお母さん自身の老後のために持っておく、と決めました。お兄さんには、規程の条文と、相続税がかからない計算を、紙に書いて見せました。

会社に出す書類は、会社によって違いますが、受取人であることを示す戸籍謄本と、振込先の口座、印鑑証明書を求められることが多いです。戸籍は、ほかの相続手続きと一緒に集めておくと二度手間になりません。退職金と別に、最後の月の給与や、使い残した有給休暇の扱い、会社の団体保険が出ることもあるので、人事の担当者に「遺族に払われるものを一覧でください」と頼んでおくと、漏れが減ります。会社員だった人なら、会社とは別に、年金事務所での遺族厚生年金の請求も並行して進めます。

死亡退職金は、受け取る人は会社の規程で、税金は「500万円×法定相続人の数」の枠で。弔慰金は給与の半年分か3年分まで。民法と税法で扱いが違うことを先に知っておくと、家族の話し合いも、相続税の心配も、落ち着いて進められます。

執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-24

この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。

参考(公式)

この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-24 確認)。

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